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episode 32
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誰もが驚き爆音を奏でる軍用車へと振り向いた。
「え? まさかっ!」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだが、『ヒーローは遅れてやってくる! 洋一郎、軍用車ドリフト運転ぶちかましの巻!』かと思った。
しかし、そんな都合のいい話はない。
扉を開け、片足を地面につけた時点で、洋一郎ではないことが判明し、ガックリと項垂れた。
「おいおい。俺が生きてちゃぁ不満か?」
どこかで聞いた事のある、可愛げのないオッサン声。
まさかのまさか……?
顏を上げる前に、鶴岡さんが悪気はないのだが、ネタばらしをする。
「本郷さんっ! 生きていたんですか!」
弾けるような声で、再会の喜びを分け合う二人は、ガッチリと握手を交わしていた。
拗ねたように唇を尖らせ俺を見る本郷さん。
一旦拗ねると面倒くさい大人なのは、たった二日で充分理解している。
「本郷さん、生きていて良かったです。今までどこにいたんですか?」
一応、生きていてよかったアピールを先にしておきつつの、質問。
こうすれば、今までの武勇伝を話しているうちに、不機嫌になったのも忘れてしまうはず。
そう思って聞いたのだが、ここで本郷さんからのとんでもない発言は飛び出した。
「あ、そうだ。俺、島爆発スイッチ押しにいって来たんだった」
「えぇーーっ!」
「はぁーーっ!」
驚きの叫びを同時に上げる俺と鶴岡さんに対し、何故か鼻をほじりながら、「あ、俺。トイレいって来た」ぐらい、平然とした態度の本郷さん。
「ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!」
「おいおい。噛み過ぎだってばよ。おめぇ~。カッカッカッカッ」
掴みかからんばかりの勢いで、ことの真意を突き止めようとすれば、変な笑い声で上手く流される。
挙句に、「スイッチ押したら四十五分で爆破って。早くね?」などと、相変らずの超適当ぶり。
これもどれも、本当は仲間意識が強くて、正義感溢れる人なだけに、こうやってわざと明るく振る舞うことで、タカシさんと晴香さんの事を考えないようにしているっていうのは分かるんだが……
分かるだけに痛々しいっていうのにも気が付いて欲しい。
それよりも重要なことを、サラリと言ったよ、この人。
「四十五分っ?」
素っ頓狂な声で叫ぶ鶴岡さんも、やはり気が付いていた。
「そうそう。時間がないから、軍用車で暴走しちゃった」
テヘヘと笑うアラフォー男。
全くもって可愛くない。
けれど、彼がこれから俺に持って帰って来てくれた土産は最高のものだった。
「でさぁ、カツヤくん。君にniceな土産を拾って来てやったぞ」
「土産?」
「あぁ。暴走途中で道に大きな捨て犬が二匹いてな。可哀想で拾って来た。時間が無いっていうのに、優しいだろぉ? ボクチン」
おふざけ口調がいつまで続くのか分からないが、いつもであれば、うざくて仕方がない彼のチャラい話し方も、今は全く気にならない。
それよりも。
彼が拾って来た『犬二匹』に胸が高鳴る。
期待してはいけない。
期待して違っていたら、ショックがでかい。
それでも、大きな犬二匹といったら、アイツらしか考えられない。
「そんなに目を輝かすなよ。綺麗なワンコじゃないぞ? ズブ濡れ鼠といった方が当たっているかもしれん」
彼の言葉に確信する。
間違いない。
「そ、その二匹は今どこに?」
本郷さんに詰め寄れば、優しい目をして彼が乗って来た軍用車の後部ドアを開けた。
俺は今度こそ、期待に満ちた目で扉の奥から出てくる人物を見守った。
「え? まさかっ!」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだが、『ヒーローは遅れてやってくる! 洋一郎、軍用車ドリフト運転ぶちかましの巻!』かと思った。
しかし、そんな都合のいい話はない。
扉を開け、片足を地面につけた時点で、洋一郎ではないことが判明し、ガックリと項垂れた。
「おいおい。俺が生きてちゃぁ不満か?」
どこかで聞いた事のある、可愛げのないオッサン声。
まさかのまさか……?
顏を上げる前に、鶴岡さんが悪気はないのだが、ネタばらしをする。
「本郷さんっ! 生きていたんですか!」
弾けるような声で、再会の喜びを分け合う二人は、ガッチリと握手を交わしていた。
拗ねたように唇を尖らせ俺を見る本郷さん。
一旦拗ねると面倒くさい大人なのは、たった二日で充分理解している。
「本郷さん、生きていて良かったです。今までどこにいたんですか?」
一応、生きていてよかったアピールを先にしておきつつの、質問。
こうすれば、今までの武勇伝を話しているうちに、不機嫌になったのも忘れてしまうはず。
そう思って聞いたのだが、ここで本郷さんからのとんでもない発言は飛び出した。
「あ、そうだ。俺、島爆発スイッチ押しにいって来たんだった」
「えぇーーっ!」
「はぁーーっ!」
驚きの叫びを同時に上げる俺と鶴岡さんに対し、何故か鼻をほじりながら、「あ、俺。トイレいって来た」ぐらい、平然とした態度の本郷さん。
「ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!」
「おいおい。噛み過ぎだってばよ。おめぇ~。カッカッカッカッ」
掴みかからんばかりの勢いで、ことの真意を突き止めようとすれば、変な笑い声で上手く流される。
挙句に、「スイッチ押したら四十五分で爆破って。早くね?」などと、相変らずの超適当ぶり。
これもどれも、本当は仲間意識が強くて、正義感溢れる人なだけに、こうやってわざと明るく振る舞うことで、タカシさんと晴香さんの事を考えないようにしているっていうのは分かるんだが……
分かるだけに痛々しいっていうのにも気が付いて欲しい。
それよりも重要なことを、サラリと言ったよ、この人。
「四十五分っ?」
素っ頓狂な声で叫ぶ鶴岡さんも、やはり気が付いていた。
「そうそう。時間がないから、軍用車で暴走しちゃった」
テヘヘと笑うアラフォー男。
全くもって可愛くない。
けれど、彼がこれから俺に持って帰って来てくれた土産は最高のものだった。
「でさぁ、カツヤくん。君にniceな土産を拾って来てやったぞ」
「土産?」
「あぁ。暴走途中で道に大きな捨て犬が二匹いてな。可哀想で拾って来た。時間が無いっていうのに、優しいだろぉ? ボクチン」
おふざけ口調がいつまで続くのか分からないが、いつもであれば、うざくて仕方がない彼のチャラい話し方も、今は全く気にならない。
それよりも。
彼が拾って来た『犬二匹』に胸が高鳴る。
期待してはいけない。
期待して違っていたら、ショックがでかい。
それでも、大きな犬二匹といったら、アイツらしか考えられない。
「そんなに目を輝かすなよ。綺麗なワンコじゃないぞ? ズブ濡れ鼠といった方が当たっているかもしれん」
彼の言葉に確信する。
間違いない。
「そ、その二匹は今どこに?」
本郷さんに詰め寄れば、優しい目をして彼が乗って来た軍用車の後部ドアを開けた。
俺は今度こそ、期待に満ちた目で扉の奥から出てくる人物を見守った。
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