98 / 101
episode 32
4
しおりを挟む
誰もが驚き爆音を奏でる軍用車へと振り向いた。
「え? まさかっ!」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだが、『ヒーローは遅れてやってくる! 洋一郎、軍用車ドリフト運転ぶちかましの巻!』かと思った。
しかし、そんな都合のいい話はない。
扉を開け、片足を地面につけた時点で、洋一郎ではないことが判明し、ガックリと項垂れた。
「おいおい。俺が生きてちゃぁ不満か?」
どこかで聞いた事のある、可愛げのないオッサン声。
まさかのまさか……?
顏を上げる前に、鶴岡さんが悪気はないのだが、ネタばらしをする。
「本郷さんっ! 生きていたんですか!」
弾けるような声で、再会の喜びを分け合う二人は、ガッチリと握手を交わしていた。
拗ねたように唇を尖らせ俺を見る本郷さん。
一旦拗ねると面倒くさい大人なのは、たった二日で充分理解している。
「本郷さん、生きていて良かったです。今までどこにいたんですか?」
一応、生きていてよかったアピールを先にしておきつつの、質問。
こうすれば、今までの武勇伝を話しているうちに、不機嫌になったのも忘れてしまうはず。
そう思って聞いたのだが、ここで本郷さんからのとんでもない発言は飛び出した。
「あ、そうだ。俺、島爆発スイッチ押しにいって来たんだった」
「えぇーーっ!」
「はぁーーっ!」
驚きの叫びを同時に上げる俺と鶴岡さんに対し、何故か鼻をほじりながら、「あ、俺。トイレいって来た」ぐらい、平然とした態度の本郷さん。
「ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!」
「おいおい。噛み過ぎだってばよ。おめぇ~。カッカッカッカッ」
掴みかからんばかりの勢いで、ことの真意を突き止めようとすれば、変な笑い声で上手く流される。
挙句に、「スイッチ押したら四十五分で爆破って。早くね?」などと、相変らずの超適当ぶり。
これもどれも、本当は仲間意識が強くて、正義感溢れる人なだけに、こうやってわざと明るく振る舞うことで、タカシさんと晴香さんの事を考えないようにしているっていうのは分かるんだが……
分かるだけに痛々しいっていうのにも気が付いて欲しい。
それよりも重要なことを、サラリと言ったよ、この人。
「四十五分っ?」
素っ頓狂な声で叫ぶ鶴岡さんも、やはり気が付いていた。
「そうそう。時間がないから、軍用車で暴走しちゃった」
テヘヘと笑うアラフォー男。
全くもって可愛くない。
けれど、彼がこれから俺に持って帰って来てくれた土産は最高のものだった。
「でさぁ、カツヤくん。君にniceな土産を拾って来てやったぞ」
「土産?」
「あぁ。暴走途中で道に大きな捨て犬が二匹いてな。可哀想で拾って来た。時間が無いっていうのに、優しいだろぉ? ボクチン」
おふざけ口調がいつまで続くのか分からないが、いつもであれば、うざくて仕方がない彼のチャラい話し方も、今は全く気にならない。
それよりも。
彼が拾って来た『犬二匹』に胸が高鳴る。
期待してはいけない。
期待して違っていたら、ショックがでかい。
それでも、大きな犬二匹といったら、アイツらしか考えられない。
「そんなに目を輝かすなよ。綺麗なワンコじゃないぞ? ズブ濡れ鼠といった方が当たっているかもしれん」
彼の言葉に確信する。
間違いない。
「そ、その二匹は今どこに?」
本郷さんに詰め寄れば、優しい目をして彼が乗って来た軍用車の後部ドアを開けた。
俺は今度こそ、期待に満ちた目で扉の奥から出てくる人物を見守った。
「え? まさかっ!」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだが、『ヒーローは遅れてやってくる! 洋一郎、軍用車ドリフト運転ぶちかましの巻!』かと思った。
しかし、そんな都合のいい話はない。
扉を開け、片足を地面につけた時点で、洋一郎ではないことが判明し、ガックリと項垂れた。
「おいおい。俺が生きてちゃぁ不満か?」
どこかで聞いた事のある、可愛げのないオッサン声。
まさかのまさか……?
顏を上げる前に、鶴岡さんが悪気はないのだが、ネタばらしをする。
「本郷さんっ! 生きていたんですか!」
弾けるような声で、再会の喜びを分け合う二人は、ガッチリと握手を交わしていた。
拗ねたように唇を尖らせ俺を見る本郷さん。
一旦拗ねると面倒くさい大人なのは、たった二日で充分理解している。
「本郷さん、生きていて良かったです。今までどこにいたんですか?」
一応、生きていてよかったアピールを先にしておきつつの、質問。
こうすれば、今までの武勇伝を話しているうちに、不機嫌になったのも忘れてしまうはず。
そう思って聞いたのだが、ここで本郷さんからのとんでもない発言は飛び出した。
「あ、そうだ。俺、島爆発スイッチ押しにいって来たんだった」
「えぇーーっ!」
「はぁーーっ!」
驚きの叫びを同時に上げる俺と鶴岡さんに対し、何故か鼻をほじりながら、「あ、俺。トイレいって来た」ぐらい、平然とした態度の本郷さん。
「ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!」
「おいおい。噛み過ぎだってばよ。おめぇ~。カッカッカッカッ」
掴みかからんばかりの勢いで、ことの真意を突き止めようとすれば、変な笑い声で上手く流される。
挙句に、「スイッチ押したら四十五分で爆破って。早くね?」などと、相変らずの超適当ぶり。
これもどれも、本当は仲間意識が強くて、正義感溢れる人なだけに、こうやってわざと明るく振る舞うことで、タカシさんと晴香さんの事を考えないようにしているっていうのは分かるんだが……
分かるだけに痛々しいっていうのにも気が付いて欲しい。
それよりも重要なことを、サラリと言ったよ、この人。
「四十五分っ?」
素っ頓狂な声で叫ぶ鶴岡さんも、やはり気が付いていた。
「そうそう。時間がないから、軍用車で暴走しちゃった」
テヘヘと笑うアラフォー男。
全くもって可愛くない。
けれど、彼がこれから俺に持って帰って来てくれた土産は最高のものだった。
「でさぁ、カツヤくん。君にniceな土産を拾って来てやったぞ」
「土産?」
「あぁ。暴走途中で道に大きな捨て犬が二匹いてな。可哀想で拾って来た。時間が無いっていうのに、優しいだろぉ? ボクチン」
おふざけ口調がいつまで続くのか分からないが、いつもであれば、うざくて仕方がない彼のチャラい話し方も、今は全く気にならない。
それよりも。
彼が拾って来た『犬二匹』に胸が高鳴る。
期待してはいけない。
期待して違っていたら、ショックがでかい。
それでも、大きな犬二匹といったら、アイツらしか考えられない。
「そんなに目を輝かすなよ。綺麗なワンコじゃないぞ? ズブ濡れ鼠といった方が当たっているかもしれん」
彼の言葉に確信する。
間違いない。
「そ、その二匹は今どこに?」
本郷さんに詰め寄れば、優しい目をして彼が乗って来た軍用車の後部ドアを開けた。
俺は今度こそ、期待に満ちた目で扉の奥から出てくる人物を見守った。
0
あなたにおすすめの小説
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる