Parasite

壽帝旻 錦候

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episode 32

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 ドキドキと胸を高鳴らせ、息を呑んで待つこと数秒。
 期待どうり――いや、もう絶望的だと思っていた彼らの姿がこの目に入って来た。

「ただいま」

 照れ臭そうに頭を掻いて、車から降りて来たのはずぶ濡れになった大介。
 それに続いて、座席から飛び降りるボン。

「ウォウォンッ」

 こちらは、返り血を浴びたり、口を真っ赤に染めたりして、勇ましいを通り越し狂犬のようだったのが、川に落ちたお陰(?)で、綺麗に洗い流されていたものの、激しい戦いと川に落ちた時に足を打ったのか、後ろの右足をヒョコッヒョコッとあまり地面に着けないようにしている。

「ボン、大丈夫か?」

 足を触り、確認してみるが、どうやら骨折はしてなさそうだ。

「あの化け物に捕まったまま、川に転落した後、ボンがアイツの手を何度も何度も噛みついて、緩んだ隙に、オレの首根っこ咥えて、泳いで岸まで運んでくれたんだ」

 ボンの頭を撫でてやりながら、誇らしげにボンの武勇伝を語る大介。
 鶴岡さんは目に涙を浮かべ、本郷さんも、目を真っ赤にしてその光景を暖かく見守っていた。

「本当に無事でよかった」

 本郷さんの拾って来た『犬二匹』を抱きしめる。

「クチュンッ」
「クッション」

 大介とボン。
 一人と一匹がタイミングよく同時にクシャミをすれば、俺の両頬に唾と鼻水が飛んできた。

「おいおいおい。どんだけタイミングいいんだよ」

 手の甲で頬を拭えば、皆が笑う。
 諦めていただけに、感動も一入ひとしお
 和んだ空気になったところで、ヘリのチェックをしていた人達から声が掛かった。

「どのヘリも異常ありません。燃料も全て満タン。いつでも飛べます」
「この人数じゃ、どのみち三機じゃ無理だ。俺が一人で一機操縦する。他は二人一組で頼む。乗員は一機、操縦士を入れて七人から八人。どんどんヘリに誘導し、準備しろ。時間がない」
「了解しました」

 鶴岡さんの指示に従い、研究所から脱出したメンバーのもとへ走る。

「鶴岡、お前一人って?」

 本郷さんが不思議そうな顏をする。

「ええ。ヘリを操縦できるのが私を含めて七人しかいないんですよ。ですから――」
「俺も出来るぞ」
「え?」

 なんだこのコントのような会話。
 ポカンとした鶴岡さんの顏が、これまた絶妙。

「なんも問題ねぇ。機長はお前。副操縦士は俺。乗員は、タカシ、ワンコ、ワンコ、米澤、松山、ヨウ……そういえば、ヨウは?」

 悪気があって言っているわけではない。
 彼は洋一郎がどういう状況なのか知らないのだから。

「え? 俺、アジトを出る時、ある程度システム構築して自動でマザーコンピューターの自動回復システムにアタックを掛けられるように出来たら、すぐにここに来るよう打ち合わせしたぞ? ってか、隠しアイテムのヘリが地下格納庫から出てるってことは、ヨウが出したんだろ?」

 慌てふためく本郷さんを見て、「どういうこと?」という顔で俺を見上げる大介。
 しっかりと事実を教えるしかない。

「洋一郎は研究所を破壊してから、ここに来ると言って、ギリギリまで研究所に残っていたんです。それから研究所は破壊されましたが、俺達は洋一郎の指示に従って、先にこの場所に来ました」
「なんだって……」
「後から必ず来る。その言葉を信じて待っているんですが、彼一人でここまで来るには距離がありすぎる」

 どんどん暗くなっていく声のトーン。
 いっそ、誰かが俺を責めてくれればいいのに。

“なんで一人だけ置いて来たんだ!”
“お前一人助かる気か!”

 そう怒鳴られた方が、よっぽどか楽なのに。

 本郷さんは、俺の頭をポンポンッと叩き、「ヨウは頑固だ。言ったらきかない。お前も辛かったな」と、逆にあたたかな声を掛けてくれる。
 大介は大介で、「洋ちゃんだもんなぁ~……。なんか、考えがあるんだろうね」なんて、不安に仕方がないくせに、明るく俺を励ましてくれる。

 どいつもこいつも、優しすぎる。

 皆の優しさに触れ、自然と涙がこぼれ落ちる。

「島の爆発まで、あと二十五分。他の連中は準備が出来ているなら出発してもらえ」

 本郷さんの言葉を受け、鶴岡さんが手旗信号のように、サインを送る。
 そのサインを見た空軍軍人が、他の操縦士達に連絡をした。
 一機ずつ、順番に飛び立っていくヘリ。
 物凄い音と、風圧を感じながら、三機のヘリを見送った。

「あと十五分。もうそろそろ俺達も出発しないとヤバいな」

 腕時計を確認して俺達に声を掛ける本郷さんに続き、鶴岡さんも、「米澤さんと松山さんは既に乗っているから。上田君も佐々木君も。ボンちゃんを連れてヘリまで行きましょう」と言って、俺と大介の間に入り、俺達の肩を抱いてヘリへと誘導した。
 ヘリの中ではグッタリとしている米澤さんと、憔悴しきっている松山さんが既にシートベルトを着用していた。
 俺達に気が付いた松山さんは、「よっ」と、片手を上げて挨拶をしてくれたが、米澤さんは寝てしまっているのか、背もたれにもたれ掛かったまま動かない。
 胸が上下しているから息はしているなと、変なところで安心した。
 操縦席が離陸準備で騒めく。

「残り十二分。あと二分したら離陸する」

 運命の最終通告。
 あと二分。
 あと二分以内に洋一郎が姿を現さなかったら――――
 祈る思いで胸の前で両手を握る。

「あと一分」

 カウントダウンが始まった。

「六十、五十九、五十八、五十七、五十六――」

 頼む! 洋一郎!
 お前、絶対来るっていったじゃねーか!

「三十二、三十一、三十、二十九――」

 なぁおい。
 俺達の約束はどうなったんだよ!
 あの誓いは?
 絶対に守らなくちゃいけない俺達の誓いは?

「三、二、いーち……」
「よういちろぉぉぉぉっ!」

 俺の大きな叫び声も虚しく、ヘリは島を後にした。

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