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自然
第三話 【ご神木】
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うちの学校の片隅には、樹齢五百年年以上の大きな楠がある。
これがまた、いわくつきで、校舎を改装する時に、ついでに、校門の位置も変えようって事になって、この楠を切り倒そうとしたところ、その工事の関係者、五人が事故死、あるいは、狂い死にしたとか。
大昔、それこそ、戦国時代には、戦いに敗れた武士の首が、この楠に幾つもぶら下げられていたとか……
しかも、この楠。
秋でも冬でも青々と葉を繁らせ、春から初夏にかけて、葉を赤く染め、落葉するものが、普通の楠だというのに、落葉の季節も何もかも関係なく、一年中、真っ赤な葉を繁らせている。
その姿は、神々しくも不気味で。
まるで、人々の血を吸って成長してきたと言わんばかりである。
そんな、楠には、勿論、誰も近付く者はいなかった。
生徒は勿論の事、教師や来賓の方々も。
しかし……
「祟り」だの「呪い」だの。
そういった噂があれば、必ず“ヤンチャ”する奴も出てくるわけで。
うちのクラスの高橋が、まさにその“ヤンチャ”する奴。
体も態度も大きく、力も強いので、同じ学年の中では向かう所、敵無し。
しかも、親がPTA会長で、金持ちだから、先生すら、ビクつく始末。
お陰で、高橋は手が付けられない悪ガキになっていた。
そんな高橋ですら、あの楠には近付かなかったのだが……
ある日、高橋が同じクラスの吉田にイチャモンをつけていた。
周りは
「今度は吉田がターゲットか……」
と、助けたいものの、助ければ、今度は自分がターゲットになってしまうので、皆、見て見ぬフリをしていた。
しかし、高橋が吉田の胸倉を掴んで殴ろうとした瞬間、彼は、怯えるどころか鼻で笑った。
そんな吉田の様子が気に喰わない高橋は、勿論、殴ろうとした手を止め、眉間に皺を寄せた。
「何が可笑しい?」
低い声で言う。
「いやぁ。弱い者にしか、威張れないなんて……クックック……」
馬鹿にしたように笑うと、高橋の怒りは勿論、増す。
「てめぇ! どういう事だよ!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らす高橋に対し、吉田は更に嘲り笑った。
「クックック……だって……“高橋くん”も信じちゃってるんだろ?」
「何をだ?」
眉間に深い皺を寄せる高橋に向かって、彼はニヤリと口元を歪めた。
「……あの……『楠』……」
そう言うと、周りで囃し立てていた高橋のツレらだけでなく、クラスで見て見ぬフリをしていた奴らも、一斉にその動きを止めた。
一瞬でシーンと静まり返る教室。
廊下や周りの教室では、楽しい笑い声や、はしゃいでいる声が聞こえるのに、この教室だけが、まるで、別の空間になったかのように、空気が固まっていた。
その空気を破ったのは、やはり……吉田。
「……クック……なぁんだ。“あの高橋くん”も、結局……腰抜けか……」
挑発するように言うと、高橋もプチっとキレた。
「うっせぇぇ! オメェだってだろぉがぁ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ると、吉田はクックックと笑い、ポケットから何かを握りしめながら取り出した。
それを、高橋差し出した。
「なんだ……?」
訝し気な声を出し、顔を顰めて手を出すと、その手に置かれたものは……
「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」
「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」
それを見た瞬間、高橋よりも、周りが悲鳴を上げて反応した。
そう。
高橋の手に置かれた物とは……
あの……
『楠』の不気味な程真っ赤な葉。
震える手。
落ちる葉。
「お……オメェ……ま、さか……」
「うん。僕は呪いなんて信じないからね。」
ニヤニヤと話す吉田を見て、高橋はチッと舌うちをした。
「オメェはどこまでやった?」
「僕? 僕はただ、そこにある葉を木の枝から取ってきただけだよ?」
平然とした態度であるものの、その得意気な表情が高橋の癇に障り苛立ってるところを、更に煽りだす吉田。
「勿論……怖いもの無しの“高橋くん”なら、これ以上の事をしてくれるんでしょう?」
「あったりめえだ!」
「とかなんとか言って……違う楠の枝とか取ってきたりして……」
「うっせぇぇ! お前ら全員、今から俺について来い!」
授業が始まる寸前だった事もあり、一部の生徒以外は、皆、教室に残ったが、僕は、高橋や吉田達と共に、校庭の片隅に立つ、禍々しく、真っ赤に染めた葉をつける楠の元へと走った。
「いいか! オメェら! こんなクソみてぇな木、余裕だ!」
僕は一応“止めておきなよ”と忠告したが、一切、聞く耳を持たない。
それどころか、一気に楠を蹴った。
ドン!
強い衝撃が楠に伝わり、葉が舞い落ちる。
更に
ドン! ドン!
蹴りを入れる度に、葉が落ちる。
あか……この赤い葉……
まるで血が染み込んだような……
“高橋くん。もう止めなよ”
僕は再度、そう忠告したのに……
逆に吉田が挑発してしまった。
「何だよ……そんなの。僕は、“この手”で葉をむしり取ったのに」
そんな事を言うものだから、頭に血が昇っていた高橋は、「うるせぇぇぇぇぇぇ! なぁろぉ!」と言って、とうとう楠の枝を折ってしまった。
それを見て、周りは絶句。
吉田も、顔面蒼白になって、一点を見つめている。
その様子から、これは流石に“やばい”と思ったのだろう。
なぜなら、高橋が折った枝から、赤い汁が
ポトリ、ポトリ……
垂れていたのだから。
「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ」」」
僕達は一目散にその場から逃げた。
勿論、高橋も。
とっくに授業は始まっていたので、勿論、教室に走り逃げてきた僕らは、先生に怒られた。
しかし……
皆で一緒に逃げてきた筈なのに……
いや。
本当に逃げてきたのか?
高橋の姿だけが、どこにも無かった。
高橋の腰巾着共は、気まぐれな奴だからと、そんなにも気にしてはいなかったが、吉田と僕は、妙に気になっていた。
そして、案の定、高橋はその日から姿を消した。
最初の一日や二日は、高橋の両親も、特に慌てたりはしなかったが、三日目ともなると、流石に大事だと感じたのか、思いつく全ての人に連絡し、思いつく全ての場所を探したそうだが、見つからなかったらしく、全校集会が開かれる程の騒ぎになった。
警察にも、勿論通報したそうだが、普段の素行の悪さからか、一応、捜査はするものの、まだ、三日目である事から、そのうち、ひょっこり出て来るのではないか? という見方が強いらしく、あまり頼りになるような感じではなかったようだ。
そんな中、吉田は日に日に顔色が悪くなっていった。
高橋のツレ達もその様子に気が付いたらしく、「お前は、アレに触って、何にもないのに、なんで高橋が折った枝からは血が出たんだ?」「お前、何か知ってるんじゃねぇの?」と、問い詰めた。
僕は“止めなよ。吉田くんは何も知らないよ!”と、皆を止めようとしたが全然聞いてくれない。
すると、震える声で吉田が口を開いた。
「ち……ちが……違うんだ……」
「「「え?」」」
「ぼ……く……あの楠に……触ってないんだ……」
「「「は?」」」
「だ、から……僕は……あの葉は……落ちていた葉を拾って……それで……」
高橋のツレ達の顔色も徐々に青ざめ、そして、震え出す奴までいる。
「じゃ……あ……」
「もしかして……?」
その言葉に、吉田はコクリと小さく頷く。
「多分……いや……絶対……あの“楠”の祟り……」
吉田がそう言うや否や、「んなわけ、あるかよ!」と、怒声をあげる奴がいた。
自称・高橋の親友の川端だ。
教室中が、彼の方に注目するが、そんな事はお構いなしに、「何が“楠の呪い”だ! “祟り”だ! ふざけんな! そんな木、ぶった切ってやらぁ!」と言って教室を飛び出した。
周りのクラスメイト達は、驚きで目を見開き茫然と立ち尽くす者。
そして、ヒソヒソと川端が去って行った方を見ながら、噂する者。
色々いたが、、虚ろな目をして、俯きブツブツ何かを言い続けている吉田をそのままにし、僕も、そして、高橋のツレらも川端を追い掛けた。
「うわ……わぁぁぁぁぁぁぁ!」
学校中に響いたんじゃないかっていう程の悲鳴が聞こえる。
僕達は、急いでその叫び声の方……
そう。
“あの楠”の元まで駆け付けた。
そこには、楠の前で尻もちをつき、上を見上げたままの格好で、腰を抜かしている川端の姿があった。
ここからでは何も見えない。
けれど……
僕達は、その楠に近付く度に強くなる不快な臭い。
そして、不快な羽音に気が付いていた。
“近づくな!”
僕は確かに、その時、そう叫んだ筈だ。
しかし、なぜだろう?
見るな。見てはいけない。
頭では分かっているのに、どうしても人は“見てしまう”んだ。
「「「うわぁあぁぁ!」」」
大きな悲鳴が響き渡る。
最初の大きな悲鳴で近くまで来ていた、先生達が遠くからでも、“まさか!”といった驚愕した表情で、こちらを見て立ち尽くしているのが分かる。
そう。
実際に“コレ”を見なくても、彼らには、どんな事が起きているのか、簡単に想像できるのだろう……
楠の太い枝に、少し舌を出し、目玉が少し飛び出るくらいに目を見開き、有り得ないくらいに首が伸び切った高橋が、手足をダラリと下げて、ぶら下がっている姿を……
『首吊り自殺』
そう決めつけるには、あまりに不自然な、その姿。
彼は、楠の枝に、首を締め付けられているかのように、ぶら下がっていたのだ。
“川端達”は、全てを知っているかのような、先生方に引きずられるかのようにして、その場から連れ戻された。
その時、古くからこの学校に勤務している教頭の姿が目に入った。
そして、その呟きが聞こえてきた。
「……前回から五年か……ようやく、落ち着いてきたと思ったら……全く。悪ぶっているヤツやお調子者が、悪ふざけで手を出していい物では無いというのに……」
はぁ……と大きなため息をつくとポツリと呟いた。
「しかし……今回は目撃者が多すぎる。前回は、周りの協力で“いじめを苦にしての自殺”でなんとか揉み消したが……今回ばかりは……また……祟りだの呪いだの……」
ブツブツ独り言を呟く教頭の声が、途中から僕の耳には入ってこなくなった。
“五年前”
“お調子者”
“いじめによる自殺”
頭の中を、言葉がグルグルと支配していく。
ザザザァァァァァッ
大きく風は吹くと、楠はその葉を。
その枝を大きく揺らした。
そして、その振動で、ぶら下がっている高橋の体も、ブラリブラリと左右に揺れる……
そう……だ。
あの時の“僕”のよう……だ。
楠の葉は、さらに赤く色を染め、その葉が擦れの音は、久しぶりに捕まえた獲物を喜び、そして、愚かな人間を嘲笑っているかのようであった。
これがまた、いわくつきで、校舎を改装する時に、ついでに、校門の位置も変えようって事になって、この楠を切り倒そうとしたところ、その工事の関係者、五人が事故死、あるいは、狂い死にしたとか。
大昔、それこそ、戦国時代には、戦いに敗れた武士の首が、この楠に幾つもぶら下げられていたとか……
しかも、この楠。
秋でも冬でも青々と葉を繁らせ、春から初夏にかけて、葉を赤く染め、落葉するものが、普通の楠だというのに、落葉の季節も何もかも関係なく、一年中、真っ赤な葉を繁らせている。
その姿は、神々しくも不気味で。
まるで、人々の血を吸って成長してきたと言わんばかりである。
そんな、楠には、勿論、誰も近付く者はいなかった。
生徒は勿論の事、教師や来賓の方々も。
しかし……
「祟り」だの「呪い」だの。
そういった噂があれば、必ず“ヤンチャ”する奴も出てくるわけで。
うちのクラスの高橋が、まさにその“ヤンチャ”する奴。
体も態度も大きく、力も強いので、同じ学年の中では向かう所、敵無し。
しかも、親がPTA会長で、金持ちだから、先生すら、ビクつく始末。
お陰で、高橋は手が付けられない悪ガキになっていた。
そんな高橋ですら、あの楠には近付かなかったのだが……
ある日、高橋が同じクラスの吉田にイチャモンをつけていた。
周りは
「今度は吉田がターゲットか……」
と、助けたいものの、助ければ、今度は自分がターゲットになってしまうので、皆、見て見ぬフリをしていた。
しかし、高橋が吉田の胸倉を掴んで殴ろうとした瞬間、彼は、怯えるどころか鼻で笑った。
そんな吉田の様子が気に喰わない高橋は、勿論、殴ろうとした手を止め、眉間に皺を寄せた。
「何が可笑しい?」
低い声で言う。
「いやぁ。弱い者にしか、威張れないなんて……クックック……」
馬鹿にしたように笑うと、高橋の怒りは勿論、増す。
「てめぇ! どういう事だよ!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らす高橋に対し、吉田は更に嘲り笑った。
「クックック……だって……“高橋くん”も信じちゃってるんだろ?」
「何をだ?」
眉間に深い皺を寄せる高橋に向かって、彼はニヤリと口元を歪めた。
「……あの……『楠』……」
そう言うと、周りで囃し立てていた高橋のツレらだけでなく、クラスで見て見ぬフリをしていた奴らも、一斉にその動きを止めた。
一瞬でシーンと静まり返る教室。
廊下や周りの教室では、楽しい笑い声や、はしゃいでいる声が聞こえるのに、この教室だけが、まるで、別の空間になったかのように、空気が固まっていた。
その空気を破ったのは、やはり……吉田。
「……クック……なぁんだ。“あの高橋くん”も、結局……腰抜けか……」
挑発するように言うと、高橋もプチっとキレた。
「うっせぇぇ! オメェだってだろぉがぁ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ると、吉田はクックックと笑い、ポケットから何かを握りしめながら取り出した。
それを、高橋差し出した。
「なんだ……?」
訝し気な声を出し、顔を顰めて手を出すと、その手に置かれたものは……
「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」
「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」
それを見た瞬間、高橋よりも、周りが悲鳴を上げて反応した。
そう。
高橋の手に置かれた物とは……
あの……
『楠』の不気味な程真っ赤な葉。
震える手。
落ちる葉。
「お……オメェ……ま、さか……」
「うん。僕は呪いなんて信じないからね。」
ニヤニヤと話す吉田を見て、高橋はチッと舌うちをした。
「オメェはどこまでやった?」
「僕? 僕はただ、そこにある葉を木の枝から取ってきただけだよ?」
平然とした態度であるものの、その得意気な表情が高橋の癇に障り苛立ってるところを、更に煽りだす吉田。
「勿論……怖いもの無しの“高橋くん”なら、これ以上の事をしてくれるんでしょう?」
「あったりめえだ!」
「とかなんとか言って……違う楠の枝とか取ってきたりして……」
「うっせぇぇ! お前ら全員、今から俺について来い!」
授業が始まる寸前だった事もあり、一部の生徒以外は、皆、教室に残ったが、僕は、高橋や吉田達と共に、校庭の片隅に立つ、禍々しく、真っ赤に染めた葉をつける楠の元へと走った。
「いいか! オメェら! こんなクソみてぇな木、余裕だ!」
僕は一応“止めておきなよ”と忠告したが、一切、聞く耳を持たない。
それどころか、一気に楠を蹴った。
ドン!
強い衝撃が楠に伝わり、葉が舞い落ちる。
更に
ドン! ドン!
蹴りを入れる度に、葉が落ちる。
あか……この赤い葉……
まるで血が染み込んだような……
“高橋くん。もう止めなよ”
僕は再度、そう忠告したのに……
逆に吉田が挑発してしまった。
「何だよ……そんなの。僕は、“この手”で葉をむしり取ったのに」
そんな事を言うものだから、頭に血が昇っていた高橋は、「うるせぇぇぇぇぇぇ! なぁろぉ!」と言って、とうとう楠の枝を折ってしまった。
それを見て、周りは絶句。
吉田も、顔面蒼白になって、一点を見つめている。
その様子から、これは流石に“やばい”と思ったのだろう。
なぜなら、高橋が折った枝から、赤い汁が
ポトリ、ポトリ……
垂れていたのだから。
「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ」」」
僕達は一目散にその場から逃げた。
勿論、高橋も。
とっくに授業は始まっていたので、勿論、教室に走り逃げてきた僕らは、先生に怒られた。
しかし……
皆で一緒に逃げてきた筈なのに……
いや。
本当に逃げてきたのか?
高橋の姿だけが、どこにも無かった。
高橋の腰巾着共は、気まぐれな奴だからと、そんなにも気にしてはいなかったが、吉田と僕は、妙に気になっていた。
そして、案の定、高橋はその日から姿を消した。
最初の一日や二日は、高橋の両親も、特に慌てたりはしなかったが、三日目ともなると、流石に大事だと感じたのか、思いつく全ての人に連絡し、思いつく全ての場所を探したそうだが、見つからなかったらしく、全校集会が開かれる程の騒ぎになった。
警察にも、勿論通報したそうだが、普段の素行の悪さからか、一応、捜査はするものの、まだ、三日目である事から、そのうち、ひょっこり出て来るのではないか? という見方が強いらしく、あまり頼りになるような感じではなかったようだ。
そんな中、吉田は日に日に顔色が悪くなっていった。
高橋のツレ達もその様子に気が付いたらしく、「お前は、アレに触って、何にもないのに、なんで高橋が折った枝からは血が出たんだ?」「お前、何か知ってるんじゃねぇの?」と、問い詰めた。
僕は“止めなよ。吉田くんは何も知らないよ!”と、皆を止めようとしたが全然聞いてくれない。
すると、震える声で吉田が口を開いた。
「ち……ちが……違うんだ……」
「「「え?」」」
「ぼ……く……あの楠に……触ってないんだ……」
「「「は?」」」
「だ、から……僕は……あの葉は……落ちていた葉を拾って……それで……」
高橋のツレ達の顔色も徐々に青ざめ、そして、震え出す奴までいる。
「じゃ……あ……」
「もしかして……?」
その言葉に、吉田はコクリと小さく頷く。
「多分……いや……絶対……あの“楠”の祟り……」
吉田がそう言うや否や、「んなわけ、あるかよ!」と、怒声をあげる奴がいた。
自称・高橋の親友の川端だ。
教室中が、彼の方に注目するが、そんな事はお構いなしに、「何が“楠の呪い”だ! “祟り”だ! ふざけんな! そんな木、ぶった切ってやらぁ!」と言って教室を飛び出した。
周りのクラスメイト達は、驚きで目を見開き茫然と立ち尽くす者。
そして、ヒソヒソと川端が去って行った方を見ながら、噂する者。
色々いたが、、虚ろな目をして、俯きブツブツ何かを言い続けている吉田をそのままにし、僕も、そして、高橋のツレらも川端を追い掛けた。
「うわ……わぁぁぁぁぁぁぁ!」
学校中に響いたんじゃないかっていう程の悲鳴が聞こえる。
僕達は、急いでその叫び声の方……
そう。
“あの楠”の元まで駆け付けた。
そこには、楠の前で尻もちをつき、上を見上げたままの格好で、腰を抜かしている川端の姿があった。
ここからでは何も見えない。
けれど……
僕達は、その楠に近付く度に強くなる不快な臭い。
そして、不快な羽音に気が付いていた。
“近づくな!”
僕は確かに、その時、そう叫んだ筈だ。
しかし、なぜだろう?
見るな。見てはいけない。
頭では分かっているのに、どうしても人は“見てしまう”んだ。
「「「うわぁあぁぁ!」」」
大きな悲鳴が響き渡る。
最初の大きな悲鳴で近くまで来ていた、先生達が遠くからでも、“まさか!”といった驚愕した表情で、こちらを見て立ち尽くしているのが分かる。
そう。
実際に“コレ”を見なくても、彼らには、どんな事が起きているのか、簡単に想像できるのだろう……
楠の太い枝に、少し舌を出し、目玉が少し飛び出るくらいに目を見開き、有り得ないくらいに首が伸び切った高橋が、手足をダラリと下げて、ぶら下がっている姿を……
『首吊り自殺』
そう決めつけるには、あまりに不自然な、その姿。
彼は、楠の枝に、首を締め付けられているかのように、ぶら下がっていたのだ。
“川端達”は、全てを知っているかのような、先生方に引きずられるかのようにして、その場から連れ戻された。
その時、古くからこの学校に勤務している教頭の姿が目に入った。
そして、その呟きが聞こえてきた。
「……前回から五年か……ようやく、落ち着いてきたと思ったら……全く。悪ぶっているヤツやお調子者が、悪ふざけで手を出していい物では無いというのに……」
はぁ……と大きなため息をつくとポツリと呟いた。
「しかし……今回は目撃者が多すぎる。前回は、周りの協力で“いじめを苦にしての自殺”でなんとか揉み消したが……今回ばかりは……また……祟りだの呪いだの……」
ブツブツ独り言を呟く教頭の声が、途中から僕の耳には入ってこなくなった。
“五年前”
“お調子者”
“いじめによる自殺”
頭の中を、言葉がグルグルと支配していく。
ザザザァァァァァッ
大きく風は吹くと、楠はその葉を。
その枝を大きく揺らした。
そして、その振動で、ぶら下がっている高橋の体も、ブラリブラリと左右に揺れる……
そう……だ。
あの時の“僕”のよう……だ。
楠の葉は、さらに赤く色を染め、その葉が擦れの音は、久しぶりに捕まえた獲物を喜び、そして、愚かな人間を嘲笑っているかのようであった。
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