百談

自然

第七話 【アナタハワタシノエイヨウソ】

「薫！　夏樹くんが！」
「……死んだんでしょ？」
「あ、あんた……なんで、そんなに冷静なのよ！」
「え？　だって。もう、何人目？」

　その言葉に慌てて私の元に駆け付けて来た友人は、青ざめた顔をしたまま固まった。
　まるで、この真っ青な空の一部にでもなったかのように。
　私はその横を無表情で過ぎ去る。

“一年か……”

　そう。
　小さく呟きながら。


　私は正直言ってモテる。
　理由は分らない。

　美人かと言えば、別段そこまで美人でもない。
　スタイルがいいのかと聞かれれば、別にそこら辺にいる女の子達と五十歩百歩。
　なんら変わり映えもしない。
　性格だって可愛げがないし。
　頭だっていいわけでもない。
　そんな私でも男は欠かした事はない。

　こんな言い方したら、どんだけ嫌な女なんだと言われるかもしれないけれど、本当の事だから仕方がない。

　しかも。
　その全てが、相手から寄って来るんだもん。
　私の知ったこっちゃない。
　それで妬まれたり、僻まれたりする事も多いけれど、それでも男が引っ切り無しに私に近付いて来るんだから仕方がないのよ。

　ただね。
　その男達。

　皆、徐々に衰弱していって、一年足らずで死んでしまうんだけど。
　その代わりに、私がどんどん綺麗になってるっていう噂。
　色々な男との経験を重ね、色々な男に磨いてもらったお陰なのか、昔に比べて垢抜けたとは自分でも思うわ。

　でも。
　私は私。
　今も昔も変わらない。
　そう思っている。

「薫さん！」

　ほらきた。

「薫さん……夏樹が死んだって聞いて……」
「……」
「あぁ。そんな悲しげな顔をしないで。僕で良かったら……」

　ほらね。
　また馬鹿な男がやってきた。
　私は笑顔で彼にこう言うの。

「私ね。トマトが大好きなの。今すぐに買って来てくれる？」

　そう言うと、彼は一瞬ポカンといた顔をし、その後ホッとしたような顔をして駆けだした。
　トマトを買いに。

　そうそう。
　ねぇ。
　知ってる？

　私、昔から、トマトやキャベツ、じゃがいも。
　野菜が大好きなの。
　え？
　それがどうしたって？

　あのね。
　野菜って、意外と狡猾で獰猛なの。
　質の悪い荒れ果てた土壌でもきちんと育つようにと進化して、葉っぱや茎を虫に齧られたら、そこから毒性物質を出して、周辺の虫を根こそぎ殺戮して土壌の養分にし、自分の栄養にしてしまうんですって。

　要するに。
　私達が知らないだけで、植物って、意外と【肉食】なの。

　そんな肉食系な野菜ばっかり食べている私って、野菜の習性や性質までもが宿っちゃったんじゃないかなぁ……って感じるようになってさ。
　自分の【栄養】となるモノ（男）を寄せ付けて、根こそぎ、その栄養を頂いちゃっているのかも……そう……私自身が【食虫植物】と同じようになりつつあるんじゃないかって……

　なぁんちゃって。
　そんな訳ないか！

　でも、皆さんも気を付けて！
　ほら。
　あなたと付き合っている人。
　日に日にやせ細っていってない？
　そして。
　あなた、最近。







「綺麗になったね」って、言われてなぁい？