40 / 107
動物
第六話【消える鳥】
しおりを挟む
とある動物園。
ここのウリは、サファリパークのように肉食獣・草食獣……それらを分けて、広い敷地に放し飼いにし、その中を車ではなく人が通れるように、鉄格子と金網で囲った道が作られている。
生きた動物の中を、ハンターになったかのように周遊するのとは違い、逆に、野生動物から檻の中を覗かれているような。
こちらが観察されているような、そんな不思議な感覚が味わえる。
それでいて、活き活きとした野生動物の生態が観察できるので人気がある。
肉食獣はきちんと、ライオン・トラ・チーター・クマ・オオカミ……それぞれの種別毎にゾーン分けられている。
勿論、草食獣に関しても、危険なカバ・象の他、生態系が違う山岳草食動物と一般草食動物と、ゾーン分けしてあり、その中で、動物達は穏やかに生活している。
しかし。
異変はまさかの「一般草食動物ゾーン」で起こった。
そこには、羊、ヤギ、ラマ・シマウマ・キリン……多くの草食動物と、ダチョウ・クジャク・アヒル・オウムに鳩等。
鳥たちも一緒に生活していたのだが、最初の頃は特に問題は無かった。
しかし。
ある飼育員が、気が付いた。
「鳥がなんだか減っている。」
勿論、屋根のないゾーンなので、鳥だけに、いくら高くそびえ立つ塀や、電流が流されている柵があろうと、飛び立ち、逃げる事は可能であろう。
しかしだ。
羽根を切って、逃げる事の出来ないオウムも、いつの間にか姿を消した。
もしかして……こういった、野放しで飼っている動物園では、セキュリティをかいくぐって、動物を盗み、闇取引をする組織に狙われる事がある。
飼育員を含む園内のスタッフ達は、夜通し、交代制で巡回し、警備をする事にしたのだが、犯人は一向に捕まらず。
それなのに、高い木に巣を作ったコウノトリですら、その雛、その親鳥でさえ姿を消した。
“これは一体どういう事なのか?”
飼育員もスタッフも頭を捻るばかり。
ある日、とうとう飼育員は、夜中中ずっと「一般草食動物」のゾーンの中で一夜を過ごす事にした。
そして、現実を目の当たりにする。
バリッバリッバリッ……
グチャッバリッ……
奇妙な音が、どこからともなく聞こえて来る。
バリッ……グチャ……クチャクチャクチャ……
真っ白な月光の下、高くそびえる木の横に、高くスラリとしたシルエット。
なんとも神秘的で美しい光景。
しかし……その美しい姿をした影は、こちらをゆっくりと向いた。
「ひっ!」
飼育員は、声にならない悲鳴を喉から絞り出した。
クッチャクチャ……バリッ……
真っ黒なクリクリとした瞳。
長い睫毛。
穏やかな優しい表情で飼育員を見下ろす“キリン”
その口には……赤く染められた、羽根。
血で汚れた唇。
クッチャクッチャ……
何の色もない真っ黒な瞳で、飼育員を見つめながら、最後の一飲みを終えると、満足げな表情をし、寝床へと悠々と戻って行く。
“草食動物なんかであるものか!”
あのキリンの姿を見れば、誰もがそう思うであろう。
むしろ、いかにも、“肉食です!”といった、ライオンやクマの方が対処しがいがある。
飼育員は、あの穏やかな表情に隠れた“色のない目”の、薄ら寒さに脅えながら、翌日、鳥を含む、小動物を一般草食動物ゾーンから、ふれあい動物ゾーンへと移動させるよう、経営者に事情を話し、すぐさまそれを実行した。
そして、キリンが“タンパク質”を必要としている事を知り、飼料自体、タンパク質を大量に含んだ物へと変更をすると、園内は、落ちつきを取り戻した。
しかし……
飼育員は時折、キリンの視線が妙に気になっている。
金網と鉄格子で囲われた、お客が通る通路。
そこから、皆、野放しにされた動物を見て楽しみ、いつも賑わいを見せている。
草食動物も肉食動物も、腹が満ちているからこそ、穏やかな姿で金網越しとはいえ、すぐ傍まで来たり、横を通り過ぎたりする。
それが、この「ウォーキングサファリ」のいい所であり、この園の人気の秘密である。
しかし。
キリンだけは。
そう。
キリンだけは、小さな子供やベビーカーに乗っている赤ちゃんがいると、妙に近付き、そのゾーンから出て行くまで、ずっと一緒について回る。
そして、舌舐めずりをしながら、上から見下ろしているのだ。
あの“真っ黒な瞳”で見つめながら……
まるで
“餌”を見るかのように……。
ここのウリは、サファリパークのように肉食獣・草食獣……それらを分けて、広い敷地に放し飼いにし、その中を車ではなく人が通れるように、鉄格子と金網で囲った道が作られている。
生きた動物の中を、ハンターになったかのように周遊するのとは違い、逆に、野生動物から檻の中を覗かれているような。
こちらが観察されているような、そんな不思議な感覚が味わえる。
それでいて、活き活きとした野生動物の生態が観察できるので人気がある。
肉食獣はきちんと、ライオン・トラ・チーター・クマ・オオカミ……それぞれの種別毎にゾーン分けられている。
勿論、草食獣に関しても、危険なカバ・象の他、生態系が違う山岳草食動物と一般草食動物と、ゾーン分けしてあり、その中で、動物達は穏やかに生活している。
しかし。
異変はまさかの「一般草食動物ゾーン」で起こった。
そこには、羊、ヤギ、ラマ・シマウマ・キリン……多くの草食動物と、ダチョウ・クジャク・アヒル・オウムに鳩等。
鳥たちも一緒に生活していたのだが、最初の頃は特に問題は無かった。
しかし。
ある飼育員が、気が付いた。
「鳥がなんだか減っている。」
勿論、屋根のないゾーンなので、鳥だけに、いくら高くそびえ立つ塀や、電流が流されている柵があろうと、飛び立ち、逃げる事は可能であろう。
しかしだ。
羽根を切って、逃げる事の出来ないオウムも、いつの間にか姿を消した。
もしかして……こういった、野放しで飼っている動物園では、セキュリティをかいくぐって、動物を盗み、闇取引をする組織に狙われる事がある。
飼育員を含む園内のスタッフ達は、夜通し、交代制で巡回し、警備をする事にしたのだが、犯人は一向に捕まらず。
それなのに、高い木に巣を作ったコウノトリですら、その雛、その親鳥でさえ姿を消した。
“これは一体どういう事なのか?”
飼育員もスタッフも頭を捻るばかり。
ある日、とうとう飼育員は、夜中中ずっと「一般草食動物」のゾーンの中で一夜を過ごす事にした。
そして、現実を目の当たりにする。
バリッバリッバリッ……
グチャッバリッ……
奇妙な音が、どこからともなく聞こえて来る。
バリッ……グチャ……クチャクチャクチャ……
真っ白な月光の下、高くそびえる木の横に、高くスラリとしたシルエット。
なんとも神秘的で美しい光景。
しかし……その美しい姿をした影は、こちらをゆっくりと向いた。
「ひっ!」
飼育員は、声にならない悲鳴を喉から絞り出した。
クッチャクチャ……バリッ……
真っ黒なクリクリとした瞳。
長い睫毛。
穏やかな優しい表情で飼育員を見下ろす“キリン”
その口には……赤く染められた、羽根。
血で汚れた唇。
クッチャクッチャ……
何の色もない真っ黒な瞳で、飼育員を見つめながら、最後の一飲みを終えると、満足げな表情をし、寝床へと悠々と戻って行く。
“草食動物なんかであるものか!”
あのキリンの姿を見れば、誰もがそう思うであろう。
むしろ、いかにも、“肉食です!”といった、ライオンやクマの方が対処しがいがある。
飼育員は、あの穏やかな表情に隠れた“色のない目”の、薄ら寒さに脅えながら、翌日、鳥を含む、小動物を一般草食動物ゾーンから、ふれあい動物ゾーンへと移動させるよう、経営者に事情を話し、すぐさまそれを実行した。
そして、キリンが“タンパク質”を必要としている事を知り、飼料自体、タンパク質を大量に含んだ物へと変更をすると、園内は、落ちつきを取り戻した。
しかし……
飼育員は時折、キリンの視線が妙に気になっている。
金網と鉄格子で囲われた、お客が通る通路。
そこから、皆、野放しにされた動物を見て楽しみ、いつも賑わいを見せている。
草食動物も肉食動物も、腹が満ちているからこそ、穏やかな姿で金網越しとはいえ、すぐ傍まで来たり、横を通り過ぎたりする。
それが、この「ウォーキングサファリ」のいい所であり、この園の人気の秘密である。
しかし。
キリンだけは。
そう。
キリンだけは、小さな子供やベビーカーに乗っている赤ちゃんがいると、妙に近付き、そのゾーンから出て行くまで、ずっと一緒について回る。
そして、舌舐めずりをしながら、上から見下ろしているのだ。
あの“真っ黒な瞳”で見つめながら……
まるで
“餌”を見るかのように……。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる