百談

壽帝旻 錦候

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動物

第六話【消える鳥】

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 とある動物園。
 
 ここのウリは、サファリパークのように肉食獣・草食獣……それらを分けて、広い敷地に放し飼いにし、その中を車ではなく人が通れるように、鉄格子と金網で囲った道が作られている。
 生きた動物の中を、ハンターになったかのように周遊するのとは違い、逆に、野生動物から檻の中を覗かれているような。
 こちらが観察されているような、そんな不思議な感覚が味わえる。

 それでいて、活き活きとした野生動物の生態が観察できるので人気がある。

 肉食獣はきちんと、ライオン・トラ・チーター・クマ・オオカミ……それぞれの種別毎にゾーン分けられている。
 勿論、草食獣に関しても、危険なカバ・象の他、生態系が違う山岳草食動物と一般草食動物と、ゾーン分けしてあり、その中で、動物達は穏やかに生活している。

 しかし。

 異変はまさかの「一般草食動物ゾーン」で起こった。

 そこには、羊、ヤギ、ラマ・シマウマ・キリン……多くの草食動物と、ダチョウ・クジャク・アヒル・オウムに鳩等。
 鳥たちも一緒に生活していたのだが、最初の頃は特に問題は無かった。

 しかし。
 ある飼育員が、気が付いた。

「鳥がなんだか減っている。」

 勿論、屋根のないゾーンなので、鳥だけに、いくら高くそびえ立つ塀や、電流が流されている柵があろうと、飛び立ち、逃げる事は可能であろう。

 しかしだ。
 羽根を切って、逃げる事の出来ないオウムも、いつの間にか姿を消した。
 もしかして……こういった、野放しで飼っている動物園では、セキュリティをかいくぐって、動物を盗み、闇取引をする組織に狙われる事がある。

 飼育員を含む園内のスタッフ達は、夜通し、交代制で巡回し、警備をする事にしたのだが、犯人は一向に捕まらず。
 それなのに、高い木に巣を作ったコウノトリですら、その雛、その親鳥でさえ姿を消した。

“これは一体どういう事なのか?”

 飼育員もスタッフも頭を捻るばかり。
 ある日、とうとう飼育員は、夜中中ずっと「一般草食動物」のゾーンの中で一夜を過ごす事にした。
 そして、現実を目の当たりにする。

 バリッバリッバリッ……
 グチャッバリッ……

 奇妙な音が、どこからともなく聞こえて来る。

 バリッ……グチャ……クチャクチャクチャ……

 真っ白な月光の下、高くそびえる木の横に、高くスラリとしたシルエット。
 なんとも神秘的で美しい光景。
 しかし……その美しい姿をした影は、こちらをゆっくりと向いた。

「ひっ!」

 飼育員は、声にならない悲鳴を喉から絞り出した。

 クッチャクチャ……バリッ……

 真っ黒なクリクリとした瞳。
 長い睫毛。
 穏やかな優しい表情で飼育員を見下ろす“キリン”
 その口には……赤く染められた、羽根。
 血で汚れた唇。

 クッチャクッチャ……

 何の色もない真っ黒な瞳で、飼育員を見つめながら、最後の一飲みを終えると、満足げな表情をし、寝床へと悠々と戻って行く。

“草食動物なんかであるものか!”

 あのキリンの姿を見れば、誰もがそう思うであろう。
 むしろ、いかにも、“肉食です!”といった、ライオンやクマの方が対処しがいがある。

 飼育員は、あの穏やかな表情に隠れた“色のない目”の、薄ら寒さに脅えながら、翌日、鳥を含む、小動物を一般草食動物ゾーンから、ふれあい動物ゾーンへと移動させるよう、経営者に事情を話し、すぐさまそれを実行した。
 そして、キリンが“タンパク質”を必要としている事を知り、飼料自体、タンパク質を大量に含んだ物へと変更をすると、園内は、落ちつきを取り戻した。

 しかし……

 飼育員は時折、キリンの視線が妙に気になっている。
 金網と鉄格子で囲われた、お客が通る通路。
 そこから、皆、野放しにされた動物を見て楽しみ、いつも賑わいを見せている。
 草食動物も肉食動物も、腹が満ちているからこそ、穏やかな姿で金網越しとはいえ、すぐ傍まで来たり、横を通り過ぎたりする。
 それが、この「ウォーキングサファリ」のいい所であり、この園の人気の秘密である。

 しかし。
 キリンだけは。
 そう。
 キリンだけは、小さな子供やベビーカーに乗っている赤ちゃんがいると、妙に近付き、そのゾーンから出て行くまで、ずっと一緒について回る。
 そして、舌舐めずりをしながら、上から見下ろしているのだ。

 あの“真っ黒な瞳”で見つめながら……


 まるで



“餌”を見るかのように……。

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