百談

壽帝旻 錦候

文字の大きさ
43 / 107
動物

第九話【賢い進化】

しおりを挟む
 とある動物園に行くと、皆が皆、争いを好まない、穏やかな性格になるそうだ。
 たとえば、何かしらボランティアであったり、平和的な社会活動や動物愛護の活動をしたりする。

 そんな噂を聞き、取材に来たものの。
 別段、どこも変わった所はない。

 キリン、ライオン、トラ、シマウマ、ペンギン、クジャク、山羊に兎……

 動物達が普通に檻や囲いの中にいるだけで、他は、木々が植えてあり、どこの動物園とも何ら変わりがない。

 一体、何故、この動物園に来ると、皆、一様に穏やかな、優しい人間になるんだろうか?

 その噂の為、一度、囚人をここに連れてきたところ、皆、涙を流しながら許しを乞い、そして、深く反省し、全てが模範囚になったとか。


 一体、何故?


 そのまま、とある檻の前に立つ。

「可愛いな……」

 あまりの愛くるしさについ無意識に呟く。

 すると、檻の中の動物もこちらに気が付いたのか、ジッと見つめて来る。
 真っ黒に輝く、クリックリの瞳。
 思わず、魅入ってしまう。
 すると段々、意識が遠のく感じがしてきた。
 なんだろう……
 この目と、見ているだけで癒される動作。
 穏やかに笹をひたすら食べる姿を見ていると、なんだか……段々、意識が……遠の……い…… て……

****************************************

 動物学では「ベビーシェマ」という言葉がある。
 ベビーシェマとは、子どもの姿形のこと。
 人間の幼児やペット化された動物がそうである。

 クマの種類の中でも、幼児っぽい個体がパンダ化していったのだと思う。

 幼児の特性というのは、好奇心が強く、発想も柔軟性であり、だからこそ、知性を発達させることに長けている。
 元々、肉食であり、今もなお、パンダの腸内細菌は肉は分解できても、植物を分解する細菌が少ない。

 それなのに、笹を食べるようになった経緯を想像すると、非常に柔軟に環境に適応していったのだと思われる。
 周りの熊と争いながら、数少ない肉を奪い合うよりも、食べ物を肉から草に変え、住む場所まで変え、そして、見事に新しい環境に馴染んでいった。

 パンダは頭が良い。
 あらゆる環境の変化に対応し、自分を変えられたのである。
 そして、生き延びてきた。

 しかし、その白と黒のコントラストの綺麗な毛皮は、やがて人間に狙われ、その数を減らしたものの……

 今度は、その愛くるしい容姿を活かし、「保護」される立場を確立した。

『パンダ外交』
『見世物パンダ』

 そんな、言葉すら出来るほど彼らの人気は高く、その事を自らも知っているかのように、周囲に可愛さをアピールする。

 そう。
 パンダは常に周りの状況を把握し、そして争う事なく生き延びてきているのだ。
 こうやって、世界に借り出されるようになったパンダは、とある能力を身に着けているようだ。

 そう。
 無尽蔵に数を増やし、貧しい人々や動物達を押しのけ、生息域を増やしていく人間。
 既に、人間の「キャリイング・キャパシティー」(自然環境に対する限界生存)は、とっくに超えている。
 だからこそ、あちこちで戦争や様々な争いが激化し、数を強制的に制限するようになっていくのだが……。
 賢いパンダは人間の「心」を巧に利用し、絶滅するのを防ぐと共に、その愛くるしい姿やしぐさで、人の視線や心を惹きつけ油断したその隙間を狙う。

 そのつぶらな瞳から、とある思念を我々に植え付ける。

【マインドコントロール】

 パンダのマインドコントロールは、知恵のあるコントロール。
 パンダ自体、生殖能力が低い事も、ライフスタイルを変えていった事も、過酷な環境に適応していった事も、全てがこの「キャリイング・キャパシティー」を超えない為の進化。
 争いだけでなく、様々なスタイルを変える事が、人間にとっても動物にとっても、新たなる地平が広がり、限界を超えない事である。

 パンダは知っている。

 この狭い地球で生き残る術を。
 この狭い地球で、多くの種と上手に共存していく術を。

 それゆえに、世界各地今日もパンダは、そのつぶらな瞳から、人々の脳に訴えかけ、そして、コントロールしようとしているのかもしれない。



 パンダのマインドコントロールは、地球に優しいコントロールなのである。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...