百談

壽帝旻 錦候

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乗り物

第五話【パラレルワールド】

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皆さんは『パラレルワールド』を信じますか?

『この現実とは別に、もう一つの現実が存在する』

“別の世界”であるパラレルワールドを。




僕はね。
信じてるんですよ。

え?
そんな訳ないって?

いえいえ。
それでは、僕の話を聞いてくれますか?

今でこそ、海外旅行や国内旅行でも、飛行機に乗る人なんて、当たり前の世の中になった訳ですが……

僕が小さい頃……数十年前といったら、飛行機に乗って旅行するだなんて、お金持ちの証拠のようなものだったんですよ。

正直いいますとね。

僕の家は父が貿易会社の社長をしていたものですから、ある程度、裕福で。
しかも、父の仕事の関係上、海外旅行も当たり前だったんですよ。

ですからね。
そりゃぁ、もう。

小学校の時には結構、妬まれたりしましてね。
嫌な思いもしました。

「学校なんか、行きたくない!」と、駄々をこねたり。
「皆、皆……消えちまえ!」なんて思ったり。

そんな時の唯一の楽しみが、現実から離れられる……日本から離れられる、飛行機の中だったんですよ。

ま、勿論、海外旅行も楽しかったんですが、飛行機の……あの、皆が嫌がる気圧差での、耳鳴りや耳の痛みなんかも。
体にかかる圧迫感も。

なんとなく


“これから空に飛び出すんだ!”という、ワクワク感が。
“これから、違う世界へと飛び立つんだ!”という、現実逃避的な希望へと変わっていたのでしょうか。

そんな僕の願いを、飛行機はいつでも叶えてくれていたんですよ。

雲を抜け、青い空の中。
窓の外を見れば、僕の下に白い雲が。
なんとも言えない興奮と感動。

僕は、飛行機に乗る度に感じる訳なんですが、その日は違ったんですよ。

目の前に。
本当に、僕の目の前に……

そう。
窓の外一面に、真っ黒な煙……
いや……
雲が現れましてね。

「えぇぇぇ?」と思った瞬間


ガタガタガタガタ!と、機体が激しく揺れて。

しかも、いきなり窓の外は、夜のように真っ暗。
機内には電気が点灯される。

隣に座っている父も、後ろに座っていた母も……
そして、周りの乗客も、皆、驚く騒めいたものの機長のアナウンスで、雲の中に入ってしまった為の、激しい揺れだという事が分かると、すぐに落ち着きを取り戻したものの……

僕には、この暗雲の中を突き進む、この飛行機の行先が、どこか違う世界へ向かっていると言う事に気が付いていたんだ。

そして、帰国後。

学校に登校してみると、あれだけ、妬みや僻みで僕を虐めていた同級生が、何故か、親友だったり。
僕の事を勝手に敵対視していた子が、その存在すら消えていたり。


それだけじゃぁない!


虐めを見て見ぬフリをしていた先生が、僕の事を贔屓するようになっていたり。

学校での生活は僕にとって、とても気楽で。
とても、楽しいものになっていったんだ。

それからも、色々、僕に不都合な事や、嫌な想いをする事があっても。


飛行機に乗る度に、僕は、僕の望む“世界”に。

いや。

周りの人間や学校、仕事……それらは変わらなくても、全ては僕の思うように。
僕が幸せだと思うよう“動く”人達に囲まれて。
いらない人間、邪魔な人間はその存在すら、この世界から消え失せて。
僕は、何の苦労もなく過ごしているんだ。


でもね。
最近。
妻の様子がおかしいんだ。

やけに、僕に反抗的で。
それでいて。
他の男……


いや。
僕の部下と、何やら関係があるような……



だからね、近々、海外出張があるんだが……

また、僕の望み通りの世界に行けるよう。
飛び立てるように。
ワクワクしながら乗ろうと思っているんだ。


そう。
むしろ。


妻も部下も、いない世界へと飛び立てるように。

ね。


皆も願ってごらんよ。



飛行機は、世界各国どころか、あなたの望む世界へと、連れて行ってくれるかもしれませんよ?
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