63 / 107
衣類
第七話【旗信号】
しおりを挟む
これは、俺のじいちゃんに聞いた話なんだ。
じいちゃんは、田舎の漁師でさ。
どこでも漁業組合とか、規約とか。
面倒くさい法令とかある訳だけど、そういうものって、皆が皆、百%守ってるかっていうと、そうじゃないだろ?
けれど、じいちゃんの住んでいる地域の漁師皆が、百%守っている習わしがあってだなぁ。
それが【赤い漁師旗信号】なんだ。
え?
なんだそれって?
俺も、初めて聞いた時には、手旗信号か何かで、漁師同士の船の誘導だったり、何か危険を知らせたりするもんだと思っていたんだが、どうも、この漁師旗信号っていうのは、独特の風土文化だったみたいで。
じいちゃんの住んでいる田舎の灯台の下に、何故か一旒だけ。
真っ赤な大き目の漁師旗が取り付けられてたんだと。
それは、もう古くからずっとあるらしく、ボロボロになれば、新しい物に取り換え、大事にしてきたそうなんだけどな。
その旗が、まったく靡かない時は、波は穏やかでも全く釣れない。
優しく靡く時には大量。
大きく乱れる時にはシケ。
そして、絶対、漁に出ちゃぁいけないのが……
旗を誰かが両端を持って、引っ張って伸ばしたかのように、ピンっと張ったまま微動だにしない時。
その時は海に魔物が出て、海に入った人間は、戻って来れなくなるんだとか……
おい!
そんな、笑う事はないだろ!
冗談じゃねぇし!
今も伝統的に、その旗はしっかり残っているし、田舎の漁師はその習わしに従っているんだからな!
しかもなぁ……
実際、お前、昨年の事件、覚えているだろ?
全く荒れていない海で、ベテラン漁師が行方不明になったヤツ。
俺。
あの時、見ちまったんだよ。
え?
何をだって?
あの時、俺、田舎にいただろ?
本当に、あの日は穏やかな日だったんだ。
釣りだって、海水浴だって、絶好のレジャー日和だったんだぜ?
でも、街の人皆、誰も、海に近付こうとしないんだ。
観光客なんて、滅多にこない町だけど、民宿に泊まっている宿泊者ですら、住民に止められて、海には近付かなかったんだ。
その理由が、あの旗だ。
俺は、そこまで皆が信じる、その旗に興味があって。
灯台の下の赤い旗を、双眼鏡で覗いてみたんだ。
すると、誰もいないのに確かに旗が、ピンッと張ったままの状態で微動だにしないんだ。
“え?これって……この現象自体が怪奇現象じゃねぇの?”と思いながら、目を凝らして見ていると
レンズの隅に、微かに動くものを見つけたんだ。
双眼鏡をそっちの方に向けると、それは、その地域でもちょっとクセのある漁師で。
今までも、問題を起こしてきてはいたものの、この習わしだけはずっと守っていた漁師だったんだ。
それなのに、今回はまた何で……
後から聞いた話では、もともと、この習わしも、彼の両親や祖父母がキツく言い聞かしていたから、今までは守っていたものの、「これだけ穏やかな波の日に、事故なんて起こす訳がない!」「他の漁師がいないなら、魚が取り放題だ!」という勢いで、漁に出たらしいんだ。
ま、そんな事よりも俺は、内心。
“習わしを破ったらどうなるんだ?”と思って、ちょっとドキドキワクワクしてたんだよ。
で、双眼鏡をスッと、また、旗へと戻したら……
居たんだよ。
……その旗の所にさ。
真っ赤な着物を着た、真っ黒な長い髪をした、女の人が。
両手を伸ばして、旗をピンっと張って。
立っていたんだ。
そして、漁師の船が沖に出ると、旗を破ってスッと消えたんだ。
しかも、その時。
大きな風が吹くと共に、真っ黒な影が、漁師の船に向かって多数飛んで行ったんだよ。
あの瞬間。
俺は、漁師の命は無いなと確信したんだ。
あの漁師旗信号っていうのはさ。
全く靡かない時は釣れない。
優しく靡く時には大量。
大きく乱れる時にはシケ。
これらは、風の動きで海の動きを見る、まさに自然の信号だ。
でもよ。
最後の、ピンと張った旗信号。
あれってさ。
妖怪か魔物か。
はたまた幽霊か。
それが一体、何なのかは分らないけど、人間狩りをする合図なんじゃないのかって思うんだ。
あの体験依頼、俺はどうしても、旗が靡いていると、ついつい見ちまうんだ。
もしかしたら、いつか、ピンと張った旗に遭遇するんじゃないかって。
そん時は……
お前も、あまり出歩かない方がいいと思うぜ?
じいちゃんは、田舎の漁師でさ。
どこでも漁業組合とか、規約とか。
面倒くさい法令とかある訳だけど、そういうものって、皆が皆、百%守ってるかっていうと、そうじゃないだろ?
けれど、じいちゃんの住んでいる地域の漁師皆が、百%守っている習わしがあってだなぁ。
それが【赤い漁師旗信号】なんだ。
え?
なんだそれって?
俺も、初めて聞いた時には、手旗信号か何かで、漁師同士の船の誘導だったり、何か危険を知らせたりするもんだと思っていたんだが、どうも、この漁師旗信号っていうのは、独特の風土文化だったみたいで。
じいちゃんの住んでいる田舎の灯台の下に、何故か一旒だけ。
真っ赤な大き目の漁師旗が取り付けられてたんだと。
それは、もう古くからずっとあるらしく、ボロボロになれば、新しい物に取り換え、大事にしてきたそうなんだけどな。
その旗が、まったく靡かない時は、波は穏やかでも全く釣れない。
優しく靡く時には大量。
大きく乱れる時にはシケ。
そして、絶対、漁に出ちゃぁいけないのが……
旗を誰かが両端を持って、引っ張って伸ばしたかのように、ピンっと張ったまま微動だにしない時。
その時は海に魔物が出て、海に入った人間は、戻って来れなくなるんだとか……
おい!
そんな、笑う事はないだろ!
冗談じゃねぇし!
今も伝統的に、その旗はしっかり残っているし、田舎の漁師はその習わしに従っているんだからな!
しかもなぁ……
実際、お前、昨年の事件、覚えているだろ?
全く荒れていない海で、ベテラン漁師が行方不明になったヤツ。
俺。
あの時、見ちまったんだよ。
え?
何をだって?
あの時、俺、田舎にいただろ?
本当に、あの日は穏やかな日だったんだ。
釣りだって、海水浴だって、絶好のレジャー日和だったんだぜ?
でも、街の人皆、誰も、海に近付こうとしないんだ。
観光客なんて、滅多にこない町だけど、民宿に泊まっている宿泊者ですら、住民に止められて、海には近付かなかったんだ。
その理由が、あの旗だ。
俺は、そこまで皆が信じる、その旗に興味があって。
灯台の下の赤い旗を、双眼鏡で覗いてみたんだ。
すると、誰もいないのに確かに旗が、ピンッと張ったままの状態で微動だにしないんだ。
“え?これって……この現象自体が怪奇現象じゃねぇの?”と思いながら、目を凝らして見ていると
レンズの隅に、微かに動くものを見つけたんだ。
双眼鏡をそっちの方に向けると、それは、その地域でもちょっとクセのある漁師で。
今までも、問題を起こしてきてはいたものの、この習わしだけはずっと守っていた漁師だったんだ。
それなのに、今回はまた何で……
後から聞いた話では、もともと、この習わしも、彼の両親や祖父母がキツく言い聞かしていたから、今までは守っていたものの、「これだけ穏やかな波の日に、事故なんて起こす訳がない!」「他の漁師がいないなら、魚が取り放題だ!」という勢いで、漁に出たらしいんだ。
ま、そんな事よりも俺は、内心。
“習わしを破ったらどうなるんだ?”と思って、ちょっとドキドキワクワクしてたんだよ。
で、双眼鏡をスッと、また、旗へと戻したら……
居たんだよ。
……その旗の所にさ。
真っ赤な着物を着た、真っ黒な長い髪をした、女の人が。
両手を伸ばして、旗をピンっと張って。
立っていたんだ。
そして、漁師の船が沖に出ると、旗を破ってスッと消えたんだ。
しかも、その時。
大きな風が吹くと共に、真っ黒な影が、漁師の船に向かって多数飛んで行ったんだよ。
あの瞬間。
俺は、漁師の命は無いなと確信したんだ。
あの漁師旗信号っていうのはさ。
全く靡かない時は釣れない。
優しく靡く時には大量。
大きく乱れる時にはシケ。
これらは、風の動きで海の動きを見る、まさに自然の信号だ。
でもよ。
最後の、ピンと張った旗信号。
あれってさ。
妖怪か魔物か。
はたまた幽霊か。
それが一体、何なのかは分らないけど、人間狩りをする合図なんじゃないのかって思うんだ。
あの体験依頼、俺はどうしても、旗が靡いていると、ついつい見ちまうんだ。
もしかしたら、いつか、ピンと張った旗に遭遇するんじゃないかって。
そん時は……
お前も、あまり出歩かない方がいいと思うぜ?
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる