百談

壽帝旻 錦候

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衣類

第七話【旗信号】

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 これは、俺のじいちゃんに聞いた話なんだ。
 じいちゃんは、田舎の漁師でさ。
 どこでも漁業組合とか、規約とか。
 面倒くさい法令とかある訳だけど、そういうものって、皆が皆、百%守ってるかっていうと、そうじゃないだろ?

 けれど、じいちゃんの住んでいる地域の漁師皆が、百%守っている習わしがあってだなぁ。
 それが【赤い漁師旗信号】なんだ。

 え?
 なんだそれって?

 俺も、初めて聞いた時には、手旗信号か何かで、漁師同士の船の誘導だったり、何か危険を知らせたりするもんだと思っていたんだが、どうも、この漁師旗信号っていうのは、独特の風土文化だったみたいで。

 じいちゃんの住んでいる田舎の灯台の下に、何故か一旒だけ。
 真っ赤な大き目の漁師旗が取り付けられてたんだと。

 それは、もう古くからずっとあるらしく、ボロボロになれば、新しい物に取り換え、大事にしてきたそうなんだけどな。

 その旗が、まったく靡かない時は、波は穏やかでも全く釣れない。
 優しく靡く時には大量。
 大きく乱れる時にはシケ。
 そして、絶対、漁に出ちゃぁいけないのが……

 旗を誰かが両端を持って、引っ張って伸ばしたかのように、ピンっと張ったまま微動だにしない時。

その時は海に魔物が出て、海に入った人間は、戻って来れなくなるんだとか……

 おい!
 そんな、笑う事はないだろ!
 冗談じゃねぇし!
 今も伝統的に、その旗はしっかり残っているし、田舎の漁師はその習わしに従っているんだからな!

 しかもなぁ……

 実際、お前、昨年の事件、覚えているだろ?
 全く荒れていない海で、ベテラン漁師が行方不明になったヤツ。
 俺。
 あの時、見ちまったんだよ。

 え?
 何をだって?

 あの時、俺、田舎にいただろ?

 本当に、あの日は穏やかな日だったんだ。
 釣りだって、海水浴だって、絶好のレジャー日和だったんだぜ?
 でも、街の人皆、誰も、海に近付こうとしないんだ。
 観光客なんて、滅多にこない町だけど、民宿に泊まっている宿泊者ですら、住民に止められて、海には近付かなかったんだ。

 その理由が、あの旗だ。

 俺は、そこまで皆が信じる、その旗に興味があって。
 灯台の下の赤い旗を、双眼鏡で覗いてみたんだ。
すると、誰もいないのに確かに旗が、ピンッと張ったままの状態で微動だにしないんだ。

“え?これって……この現象自体が怪奇現象じゃねぇの?”と思いながら、目を凝らして見ていると
レンズの隅に、微かに動くものを見つけたんだ。
 双眼鏡をそっちの方に向けると、それは、その地域でもちょっとクセのある漁師で。
 今までも、問題を起こしてきてはいたものの、この習わしだけはずっと守っていた漁師だったんだ。

 それなのに、今回はまた何で……

 後から聞いた話では、もともと、この習わしも、彼の両親や祖父母がキツく言い聞かしていたから、今までは守っていたものの、「これだけ穏やかな波の日に、事故なんて起こす訳がない!」「他の漁師がいないなら、魚が取り放題だ!」という勢いで、漁に出たらしいんだ。

 ま、そんな事よりも俺は、内心。
“習わしを破ったらどうなるんだ?”と思って、ちょっとドキドキワクワクしてたんだよ。

 で、双眼鏡をスッと、また、旗へと戻したら……


 居たんだよ。



 ……その旗の所にさ。
 真っ赤な着物を着た、真っ黒な長い髪をした、女の人が。
 両手を伸ばして、旗をピンっと張って。
 立っていたんだ。
 そして、漁師の船が沖に出ると、旗を破ってスッと消えたんだ。

 しかも、その時。
 大きな風が吹くと共に、真っ黒な影が、漁師の船に向かって多数飛んで行ったんだよ。

 あの瞬間。
 俺は、漁師の命は無いなと確信したんだ。

 
 あの漁師旗信号っていうのはさ。
 全く靡かない時は釣れない。
 優しく靡く時には大量。
 大きく乱れる時にはシケ。
 これらは、風の動きで海の動きを見る、まさに自然の信号だ。

 でもよ。
 最後の、ピンと張った旗信号。
 あれってさ。
 妖怪か魔物か。
 はたまた幽霊か。
 それが一体、何なのかは分らないけど、人間狩りをする合図なんじゃないのかって思うんだ。

 あの体験依頼、俺はどうしても、旗が靡いていると、ついつい見ちまうんだ。
 もしかしたら、いつか、ピンと張った旗に遭遇するんじゃないかって。

 そん時は……



 お前も、あまり出歩かない方がいいと思うぜ?


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