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家具
第一話【空き巣】
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最近、僕の家に空き巣がよく入るらしい。
いや。
入るらしいという意味は、別に部屋が荒らされている訳でもなく、鍵がこじ開けられている訳でも、窓ガラスが割られている訳でもない。
ただ、ピンポイントに、箪笥に仕舞った高額な時計やブレスレット、カフス等が、時々、無くなっているんだ。
そりゃぁ、箪笥なんかに仕舞っていたら、「危機感ない!」「物騒だ!」と言われても仕方がないんだが、うちは、きちんと警備会社を入れているし、第一、知っている人物以外は……
いや……家族と彼女以外は、うちには入った形跡はないんだよ。
僕は、基本的に、『疑わしきは罰せず』の精神だから、怪しいと思ってはいても、確実なる証拠がなければ、それは僕の管理問題だと思っている。
でも、流石に、この状況は頂けない。
それで、僕は、実家に帰って、祖父から貰ったまま、実家に置きっぱなしにしている、あるモノを自分の部屋に持ってきた。
「あれ?遼くん、新しい家具にしたんだぁ~……」
「あぁ」
「すっごい! これ、椋(むく)じゃない! しかも、年代ものよね?」
「あぁ」
「アンティーク?シンプルで素敵よねぇ……相変わらず、遼くんちって、お金持ちだよね」
「別に。普通でしょ?」
実家から持ってきた箪笥に、今までの箪笥の中身を入れ替えた後、我が家にやってきた彼女は目を輝かせながら言ってきた。
彼女は、大学で知り合った、普通の子。
いや……普通というか……高校の時は結構ヤンチャしていた“ギャル”だったらしい。
「この間、失くした時計、見つかった? 新しいの買った?」とか言いながら、僕がどこに何を仕舞ったのかを探っているようだ。
僕は、普通に、「あぁ。多分、見つかる事はないだろうから、新しいの買ったよ」と、サラリと言うと、「やっぱ、遼くん、お金持ちなんじゃん! 見せて見せて~!」とはしゃぐ。
あぁ。
面倒くさい。
最初は可愛いと思っていたけれど、僕は、お金お金言うヤツは大嫌いなんだ。
でも、ここで、一方的にフレば、こいつは、仲間が多い……
僕が悪者に仕立てられるに決まっている。
僕は、笑顔で箪笥の一段目を開けると、濃紺のBOXを取り出した。
「ちょっとぉぉぉ! ブレゲじゃない!」
BOXを見た瞬間から飛び付いて来るが、僕は触れる前にかわす。
「え?」
戸惑ったような顔をする彼女。
「これは、この間の時計より高いし、普段使う物じゃないからね。」
「でも、見せてくれたって……」
「そのうち、見せるよ。でも、普段はコレがあるし。」
左手首に着けている、普段使いのROLEXのヨットマスターを見せると、頬を膨らませながらも
「ちぇ……。じゃぁ、今度、着けたときに見せてね!」
頬を膨らませたかと思うと、今度は可愛らしく小首を傾げておねだりする彼女。
僕はその気もない癖に笑顔で「あぁ」と言うと、「ちょっと、トイレに行ってくる」と言って、箪笥の一段目に、BOXを仕舞い、一旦、リビングから出た。
さぁて。
どう動くかなぁ……
あいつ、馬鹿だから、直ぐに行動に出そうだよな。
ま、今まで、僕が“気付かないフリ”をした馬鹿ボンを演じていたのだから、間違いなく、このチャンスを活かすだろう。
そう思って、少し、時間をおいてから、リビングへと足音を忍ばし、そっとドアを開けて覗いた。
「ちょっと……なんで無いのよ!」
「確かに一段目に入れてたのに……」
「どういう事なのよ?」
「早くしないと、あいつ、帰って来ちゃうじゃない!」
「ブレゲだったら、質屋に……オークションでも高くつくのに!」
「あぁもう! なんで無いのよ! この間のカルティエはきちんとあったのに!」
箪笥の一段目を勝手に開けて、ゴソゴソ探りながら独り言を言う彼女を、スマホのムービーで撮り続けた。
そして、彼女が諦めて箪笥を閉めた所で……
「何やってたの?」と、スマホ片手に登場!
「え? なに?」
慌てる彼女。
「いや。人んちの箪笥、何勝手に開けてんの?」
「は?」
「は? じゃなくて……。もしかして今までの……」
「疑ってるの?」
「……」
「だいたいさぁ……さっきの時計、今見たけど、この引き出しに無かったわよ? 遼くんの仕舞い方が悪いんじゃないの?」
「……」
「何よ! その目! 私が盗んだっていうの?」
「いいや。今回は違う。」
「今回はって……?」
「ほら」
彼女の目の前で、先程スマホで撮ったムービーを見せる。
音声もきちんと取れている。
徐々に顔を青ざめさせる彼女。
「……どういう事?」
形成逆転。
「……」
「黙ってちゃ分んないんだけど?」
「……」
「あの僕のカルティエの時計、質屋に入れたの?」
プルプル震えだす彼女。
顔を真っ赤にさせて、僕を睨みつける。
「キモイんだよ! 大体、お前みたいなキモイ男! 金が無かったら用無しに決まってんだろ? カルティエ? あぁ! 質屋に入れましたけど? それが? 証拠もないし? 今更? 何? 弁償なんてしないよ? 下手な事言ったら、大学生活ぶっ壊してやるから!」
一気に僕への罵声が始まった。
あぁ……
やっぱり、人間、顔で選ぶもんじゃない。
頭が痛くなりそうだ……
もう、十分だ。
ガチャン!
バタン!
彼女は、勢いよく、部屋から飛び出ていこうとした瞬間
「確保!」
外で待機していた、警察に捕まる。
「ちょ! どういう事よ! 離せ!」
「窃盗容疑で七月二十六日、午後十七時四十六分。容疑者確保!」
「どういう事よ! おい! 遼! てめぇ!」
「……残念。今日の様子はライブ中継で警察もそこのPCで見ていたんだよ」
そう。
親父に頼んで、知り合いの刑事に話をつけ、今日は、リビングに盗撮用のカメラを仕込み、そして、一部始終をリアルタイムで刑事のPCへと流していたんだ。
まさか……こんなにも上手くいくなんてな……
「ちょっと待てよ! 今日のブレゲはまじで盗ってねぇよ! 本当になかったんだよ!」
「うん。知ってる。」
必死に叫ぶ彼女に、笑顔で答えると、大きく目を見開いて、動きを止めた。
「でもさ。僕を金蔓どころか、僕の部屋から窃盗した罪は重いよ??」
そう言うと、刑事に、今まで盗られたであろう、金や貴金属、時計の明細を渡した。
多分、一部は質屋に入れられているだろうから、返ってくるだろう。
ただ、お金は……まぁ、人生勉強代として、諦めるか。
そう思い、とりあえず、後日、事情聴取の為、警察署に行く事を約束し、警察二人がかりで取り押さえられながら、五月蠅く喚き散らし去っていく彼女の後ろ姿を見送った後、リビングへと戻った。
「じぃちゃん……」
僕は祖父から貰った箪笥を撫でた。
この箪笥は“からくり箪笥”
いや……普通のからくり箪笥とは違うか……
からくり仕掛けの箪笥とは、一見すると伝統的な重厚さを持った箪笥。
引き出しを開け閉めすると中に入れた物がなくなったり、九十度反転や百八十度回転する引き出しなど、高度な「からくり仕掛け」が仕込まれ、重厚さの中に防犯を備えた、日本の伝統的なもの。
でも、この箪笥は更に不思議な箪笥。
一段目に入れた物は、その“持ち主”以外が開けても絶対に、見る事も中身を取り出す事も出来ない。
そう。
防犯にこれほど優れた物はない。
これは、職人のなせる業なのか、それとも、祖父に大事にされ続け、魂を持ち、主に忠誠を誓った物のなせる業なのか……
何にしろ、日本人はよく“付喪神”とはいったもので、この箪笥も、祖父……いや、その前からの、ご先祖様から大事にされ続けた結果、このように、我が家の大切な物を守ってくれているのであろう。
僕は、感謝の気持ちを込め、真新しい雑巾で丁寧にその箪笥を拭くと、気持ちよさそうに
クィークィー
パタン
キィーキィー
パタン
と音を立てながら、引き出しを小さく開けては閉じるを繰り返すこの箪笥を、愛おしく思った。
いや。
入るらしいという意味は、別に部屋が荒らされている訳でもなく、鍵がこじ開けられている訳でも、窓ガラスが割られている訳でもない。
ただ、ピンポイントに、箪笥に仕舞った高額な時計やブレスレット、カフス等が、時々、無くなっているんだ。
そりゃぁ、箪笥なんかに仕舞っていたら、「危機感ない!」「物騒だ!」と言われても仕方がないんだが、うちは、きちんと警備会社を入れているし、第一、知っている人物以外は……
いや……家族と彼女以外は、うちには入った形跡はないんだよ。
僕は、基本的に、『疑わしきは罰せず』の精神だから、怪しいと思ってはいても、確実なる証拠がなければ、それは僕の管理問題だと思っている。
でも、流石に、この状況は頂けない。
それで、僕は、実家に帰って、祖父から貰ったまま、実家に置きっぱなしにしている、あるモノを自分の部屋に持ってきた。
「あれ?遼くん、新しい家具にしたんだぁ~……」
「あぁ」
「すっごい! これ、椋(むく)じゃない! しかも、年代ものよね?」
「あぁ」
「アンティーク?シンプルで素敵よねぇ……相変わらず、遼くんちって、お金持ちだよね」
「別に。普通でしょ?」
実家から持ってきた箪笥に、今までの箪笥の中身を入れ替えた後、我が家にやってきた彼女は目を輝かせながら言ってきた。
彼女は、大学で知り合った、普通の子。
いや……普通というか……高校の時は結構ヤンチャしていた“ギャル”だったらしい。
「この間、失くした時計、見つかった? 新しいの買った?」とか言いながら、僕がどこに何を仕舞ったのかを探っているようだ。
僕は、普通に、「あぁ。多分、見つかる事はないだろうから、新しいの買ったよ」と、サラリと言うと、「やっぱ、遼くん、お金持ちなんじゃん! 見せて見せて~!」とはしゃぐ。
あぁ。
面倒くさい。
最初は可愛いと思っていたけれど、僕は、お金お金言うヤツは大嫌いなんだ。
でも、ここで、一方的にフレば、こいつは、仲間が多い……
僕が悪者に仕立てられるに決まっている。
僕は、笑顔で箪笥の一段目を開けると、濃紺のBOXを取り出した。
「ちょっとぉぉぉ! ブレゲじゃない!」
BOXを見た瞬間から飛び付いて来るが、僕は触れる前にかわす。
「え?」
戸惑ったような顔をする彼女。
「これは、この間の時計より高いし、普段使う物じゃないからね。」
「でも、見せてくれたって……」
「そのうち、見せるよ。でも、普段はコレがあるし。」
左手首に着けている、普段使いのROLEXのヨットマスターを見せると、頬を膨らませながらも
「ちぇ……。じゃぁ、今度、着けたときに見せてね!」
頬を膨らませたかと思うと、今度は可愛らしく小首を傾げておねだりする彼女。
僕はその気もない癖に笑顔で「あぁ」と言うと、「ちょっと、トイレに行ってくる」と言って、箪笥の一段目に、BOXを仕舞い、一旦、リビングから出た。
さぁて。
どう動くかなぁ……
あいつ、馬鹿だから、直ぐに行動に出そうだよな。
ま、今まで、僕が“気付かないフリ”をした馬鹿ボンを演じていたのだから、間違いなく、このチャンスを活かすだろう。
そう思って、少し、時間をおいてから、リビングへと足音を忍ばし、そっとドアを開けて覗いた。
「ちょっと……なんで無いのよ!」
「確かに一段目に入れてたのに……」
「どういう事なのよ?」
「早くしないと、あいつ、帰って来ちゃうじゃない!」
「ブレゲだったら、質屋に……オークションでも高くつくのに!」
「あぁもう! なんで無いのよ! この間のカルティエはきちんとあったのに!」
箪笥の一段目を勝手に開けて、ゴソゴソ探りながら独り言を言う彼女を、スマホのムービーで撮り続けた。
そして、彼女が諦めて箪笥を閉めた所で……
「何やってたの?」と、スマホ片手に登場!
「え? なに?」
慌てる彼女。
「いや。人んちの箪笥、何勝手に開けてんの?」
「は?」
「は? じゃなくて……。もしかして今までの……」
「疑ってるの?」
「……」
「だいたいさぁ……さっきの時計、今見たけど、この引き出しに無かったわよ? 遼くんの仕舞い方が悪いんじゃないの?」
「……」
「何よ! その目! 私が盗んだっていうの?」
「いいや。今回は違う。」
「今回はって……?」
「ほら」
彼女の目の前で、先程スマホで撮ったムービーを見せる。
音声もきちんと取れている。
徐々に顔を青ざめさせる彼女。
「……どういう事?」
形成逆転。
「……」
「黙ってちゃ分んないんだけど?」
「……」
「あの僕のカルティエの時計、質屋に入れたの?」
プルプル震えだす彼女。
顔を真っ赤にさせて、僕を睨みつける。
「キモイんだよ! 大体、お前みたいなキモイ男! 金が無かったら用無しに決まってんだろ? カルティエ? あぁ! 質屋に入れましたけど? それが? 証拠もないし? 今更? 何? 弁償なんてしないよ? 下手な事言ったら、大学生活ぶっ壊してやるから!」
一気に僕への罵声が始まった。
あぁ……
やっぱり、人間、顔で選ぶもんじゃない。
頭が痛くなりそうだ……
もう、十分だ。
ガチャン!
バタン!
彼女は、勢いよく、部屋から飛び出ていこうとした瞬間
「確保!」
外で待機していた、警察に捕まる。
「ちょ! どういう事よ! 離せ!」
「窃盗容疑で七月二十六日、午後十七時四十六分。容疑者確保!」
「どういう事よ! おい! 遼! てめぇ!」
「……残念。今日の様子はライブ中継で警察もそこのPCで見ていたんだよ」
そう。
親父に頼んで、知り合いの刑事に話をつけ、今日は、リビングに盗撮用のカメラを仕込み、そして、一部始終をリアルタイムで刑事のPCへと流していたんだ。
まさか……こんなにも上手くいくなんてな……
「ちょっと待てよ! 今日のブレゲはまじで盗ってねぇよ! 本当になかったんだよ!」
「うん。知ってる。」
必死に叫ぶ彼女に、笑顔で答えると、大きく目を見開いて、動きを止めた。
「でもさ。僕を金蔓どころか、僕の部屋から窃盗した罪は重いよ??」
そう言うと、刑事に、今まで盗られたであろう、金や貴金属、時計の明細を渡した。
多分、一部は質屋に入れられているだろうから、返ってくるだろう。
ただ、お金は……まぁ、人生勉強代として、諦めるか。
そう思い、とりあえず、後日、事情聴取の為、警察署に行く事を約束し、警察二人がかりで取り押さえられながら、五月蠅く喚き散らし去っていく彼女の後ろ姿を見送った後、リビングへと戻った。
「じぃちゃん……」
僕は祖父から貰った箪笥を撫でた。
この箪笥は“からくり箪笥”
いや……普通のからくり箪笥とは違うか……
からくり仕掛けの箪笥とは、一見すると伝統的な重厚さを持った箪笥。
引き出しを開け閉めすると中に入れた物がなくなったり、九十度反転や百八十度回転する引き出しなど、高度な「からくり仕掛け」が仕込まれ、重厚さの中に防犯を備えた、日本の伝統的なもの。
でも、この箪笥は更に不思議な箪笥。
一段目に入れた物は、その“持ち主”以外が開けても絶対に、見る事も中身を取り出す事も出来ない。
そう。
防犯にこれほど優れた物はない。
これは、職人のなせる業なのか、それとも、祖父に大事にされ続け、魂を持ち、主に忠誠を誓った物のなせる業なのか……
何にしろ、日本人はよく“付喪神”とはいったもので、この箪笥も、祖父……いや、その前からの、ご先祖様から大事にされ続けた結果、このように、我が家の大切な物を守ってくれているのであろう。
僕は、感謝の気持ちを込め、真新しい雑巾で丁寧にその箪笥を拭くと、気持ちよさそうに
クィークィー
パタン
キィーキィー
パタン
と音を立てながら、引き出しを小さく開けては閉じるを繰り返すこの箪笥を、愛おしく思った。
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