百談

壽帝旻 錦候

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建物

第六話【ホテル】

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俺は、全国各地を飛び回る営業マン。
自分の家にいる時間より、ビジネスホテルにいる時間の方が長い。

ぶっちゃけ、ビジネスホテルってとこには、色々とぶっ飛んだ「噂」がある所にはある。

俺だって、初めの頃は全くそんな「噂」信じていなかったけどよ。
実際、体験してみると、害はなくても気持ちのいいもんじゃぁねぇ。
だから、ま、ある意味《安眠》の為に、俺は、ホテルの部屋に入って、まずする事があるんだ。

それは何かって?

よく、言うだろ?
「出る」部屋には、飾ってある絵画の裏に【お札】が貼ってあるって……

だから、俺は、必ず部屋に飾ってある「絵」や「壺」の裏や下を確認するようにしている。

今夜泊まる「ココ」だってそうだ。
チェックインをし、部屋に入ると、まず、壁に掛けてある絵の裏を見た。
その時点でお札が貼ってあれば、部屋をチェンジしてもらう。
でも特にそんな物はなく、清潔感のある普通のビジネスホテル。
ここなら、まず安眠は確保出来たも同然だ。

しかも、今日は平日真っ只中。

フロントの話によれば、宿泊客もいつもより少なく、俺の両隣は空室らしい。
これなら、夜中や朝方、隣の部屋のシャワーの音やテレビの音、人が動く物音で起こされずに済む。

俺は、上機嫌で荷物を片付け、接待へと繰り出した。

夜中の0時を回る頃。

今夜は早めに接待を終え部屋に戻って来ると、なんだか妙な感じを覚えた。
辺りを見渡しても特に部屋を荒らされているような感じは無いのだが、何だかおかしい。
ふと壁際に設置された机を見ると、それが何の違和感なのかが分かった。

そう。
しっかり閉めてあった筈の机の引き出しが、少し、開いているのである。

「あれ?閉ってた筈なのに……」

そうは思っていても、実際には、自分の勘違いっていう事も多い。
始めっから開けっ放しだったんだろうと、自分を納得させ、引き出しを閉めると熱いシャワーを浴びた。

浴室から出ると、またもや引き出しが開いている。

これは、机自体の造りが悪いのか?

なんて思いながらも、翌朝、早くから得意先へプレゼンに行かなくてはいけないので、気にせず寝る事にした。

ビジネスホテルは空気が乾燥しやすいので、寝る時には浴槽に湯を張り、浴室の扉を開けて寝るのだが、その日はやたらと喉が乾燥し、咳こんで起きると、何故か大きく開いたままにしておいた筈の扉が、しっかり閉っているじゃないか!

咳こみながらも「どういう事だ??」と思い、浴室のドアに手をかけると、その瞬間、体がピクリとも動かなくなったんだ。

「え?」

一瞬で、俺の頭の中はパニックになった。

「一体、どういう事だ? 動けよ!」

体は一切、自分の意志に関係なく、全く動かないのにも関わらず、徐々に頭も神経も妙に冴えてくる。
そして、首を動かす事が出来ないので、確認出来ないのだが……

後ろに……

ベッドの方から、何者かの視線を感じた。


勿論、「気配」も。


ズル、ズルズル……
ズルズルズル……
「あがががががががががががががが……」

ベッドから這い出るような音と共に、喉から絞り出すようね奇妙な声。
それが、徐々に俺に近付いてくるのが、気配で分かるのに体は全く動かない。

“やめろ! くるな! こないでくれぇぇぇ!”

ズルリ……ズルズルズル……
ズルリ……
「あがががががががががががあががががががあが……」
ズルリズルズルズル……

ヒヤリとした感触が足に触れる。

“ひぃぃぃぃ!”

そして体にも、ペタリ……ペタリ……と、冷たいものが触る。

ソレは俺の体をよじ登って来ている。

“見るな!”

そうは思えど、目を瞑る事すら出来ない。

そして――――

「あがががががががががががあ……」

声は耳元まで近付き……
顔が目の前まで……

「うわぁぁぁぁぁぁあ!」

その瞬間、俺は大きな声を上げ、そこからの記憶がない。
朝、浴室の前で、倒れ込んだままの姿で目が覚めたんだが……

俺は、その位置でようやく、この部屋に“何かがある”事に気が付いた。

そう……ベッドの下に、何かが落ちていたのだ。

俺は、恐る恐るベッドに近付き、屈みこんで、中に手を突っ込むと、落ちていた物は、古びた「お札」

そして、ベッドの下を覗きこむと、そこには、びっしりとマットレスに貼られた何十枚……いや百枚以上はあるんじゃないかっていうくらいの「お札」の数々。

俺は、これからは絶対に、ホテルに入ったら、まずは隅々まで「安全確認」をしようと誓った。
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