百談

壽帝旻 錦候

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建物

第九話【吊るされるもの】

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いやぁ。

相変わらず、この冷蔵庫の中は……なんとも言えない光景ですよね。

え?

あぁ。
まぁ。
食肉センターの工場内の、と殺から、色々な処理をされて枝肉として、検査待ちの冷蔵庫に入るまでの方が見るのも臭いも堪えるけれど。

さぁ。
今日も、ちゃっちゃとBSE(牛海綿状脳症)検査や、その他の病原体や寄生虫の検査を終わらせましょう!

僕らはこちらから進めていくんで。
主任達はあちらから、お願いします。

ふぅ。
さっきまで生きていた牛が、こうやって、“肉”の塊となって、こんなにも吊るされていると……いくら仕事とはいえ、慣れないもんだよなぁ。

え?

ははは。
お前、意外と神経図太いんだな!
なんとも思わないなんて。

あぁ。
確かに、俺も牛肉好きだけどよぉ。
でも、多少はこう……情っていうか。
ま、そんな事言っていたら、魚だって何だって同じか。

そうだよな。
でも、同じ哺乳類だからかな。
臓器も何もかも取られた胴体だけとはいえ、今にもまた動き出しそうじゃないか。

あ?
え?
こうやって、俺みたいにヘタな同情心を持っていると、成仏出来ない牛の霊に憑りつかれるって?

はははっ!
お前も軽口叩くようになったもんだな。

でもよぉ。
お前がそんな怪談じみた冗談なんか言うもんだから、思い出しちまったじゃねぇか。

実はよ。
ここの工場で昔、ノッキングガン。
いわゆる、牛をと殺するのに、痛みを感じさせない為に気絶させる銃を扱っている奴が、1頭の牛に対して、うまく気絶させる事が出来ず、珍しく、苦しみの声を上げながら、と殺された牛がいたんだ。

“モォォォォッグォォォォォォッ”と、大きく低いうなり声のような鳴き声が響き渡り、絶命までの間。
なんとも不気味な声が工場中に木霊するもんだから、その後の牛たちは怯えて暴れ出し、処理をするのが大変だった事があったんだよ。

しかも、当時。
工場にいた作業員の話では、どの牛も悲しみの涙を流したような顔で。
頭部を切り落として焼却する担当者なんかは、罪悪感に苛まれたらしい。

しかし、もっと大きな罪悪感を背負ったのは、勿論、ノッキングの担当者。
失敗した牛の顔は、苦痛に歪み、この世の物とは思えない形相をしていたらしく。
それを、また。
運悪く、ノッキング担当者が見てしまったそうなんだ。

そのせいで、そいつ。
ノイローゼになっちまって。

この工場で。
この冷蔵庫で。
この……“肉”が吊るされている、吊り具に縄を引っ掛けて自殺しちまったらしい。

それ以来。
この検査用の牛に混じって、たまに、ソイツが吊ったまま現れるとか。



……なぁんてな。


おいおい。
そんな、真っ青な顔すんなよ!
さっきまでのふてぶてしい態度はどうした?

十年以上勤めているオレが、一度も遭遇していないんだから、そんなん、ある意味、この工場の七不思議的な話だろ。

は?
何言ってんだよ!
お前……

え?
てか。
検査は二人一組だろ?
なんで、オレの他に二人いるんだ?

お前ら、誰だよ?

いや。
お前ら、なんて顔しているんだよ!

そんな幽霊でも見たかのような……



いや……



それより。
なんで、お前ら。
オレを見上げているんだよ?



ソレヨリ、オレハ。



ナンデ、ココニ。




ツルサレテイルンダヨ?

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