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壽帝旻 錦候

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PSYCHIC 6

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 山の中とはいえ、廃村地区には日差しが照り付けているため日中はやはり暑い。
 Tシャツにチノパンやデニムといった格好のスタッフ達ですら、毛穴から汗が滲み出ているのだから、浄衣(じょうえ:着物(下着)、袴(もしくは指貫)、水干(すいかん)、立烏帽子で1セットとなる平安時代の公家の普段着である狩衣の中でも白色の無紋狩衣・無紋指貫のもの。神事の時に用いられる服装)を着用している賀茂の体感温度はかなり暑いはず。
 見ているだけで周りの人間は暑さが増すというのに、当の本人は汗ひとつかくことなく、涼しい顔をしてお経だか呪文だかを唱えては目を瞑り、霊気や念を感じ取っているのか、カメラは音声機器の設置場所を指示していく。

 心霊スポットとはいえ、今は真昼間。

 怪奇現象が起きるようなことは期待できないが、スタッフ達が賀茂の指示に従って様々な機材を設置しているこの場面も撮影しておく。
 どんな画でも、編集次第では面白くなる。
 特に、今回のような行き当たりばったりなロケの場合、多くの画が有るに越したことは無い。

 とはいえ、陰陽師の最大の見せ場である浄霊や交霊といった術を披露するでもなく、ダウジングで水源を探しているような地味な作業を続けている映像なんて本当に必要なのか?

 その答えは簡単なこと。

 ここから明日の朝にかけて、固定カメラや音声機器に不可思議な現象が収録された時、陰陽師・賀茂が示した場所で怪奇現象が起きたという裏付けがあるのと無いのとでは、番組の盛り上がり方が違う。
 それは偶然と必然との違いであり、必然というのはその名の通り。
 何度、そこに来ても必ず霊に遭遇するという恐怖を視聴者に植え付けるだけでなく、霊の姿をカメラが収めたとなれば、ピンスポットでその場所を示した賀茂の名を更に高めることにもなる。
そうなれば、いつハプニングが起きるかと皆が番組に期待を寄せるだろうし、賀茂の人気との相乗効果で視聴率はアップする。

 これは一回こっきりの特番ではない。
『あなたの見えない世界』がレギュラー番組として続けていけるのかどうかが懸かっている大事な宣伝にもなっているのだ。

 野々村や山岸、そして浅井は機材の設置及び設定に集中しているので、この場で手が空いているのは田口と神代だけ。
 撮影をまったくの素人に任せるわけにもいかないので、田口が行う。
 外部マイクロホンと角型フードを装備した小型のディレクターズカメラを片手にフィルムに収めていく。

「あっちの方はいいわけ?」

 順調に進んでいた作業中、荷物を肩に下げたまま、廃墟の奥へと続く道を顎で指し示す神代の言葉に、賀茂の読経が止まった。
 彼が示した道の奥には、自殺の名所と言われる絶壁がある。
 一般的に考えれば、死者が多い場所の方が霊の出現率が高い。
 その死因が自殺ならば、この世に未練や恨みを残している者が多いのだから、念の大きさだって強いだろう。
 神代に言われてみて、皆がハッとした表情となった。

「確かに。廃村内にばかり設置していても仕方がないよな。もっと色々な所に配置しておいた方が面白いものが撮れるかも」
「今夜ぁ~。テントを張るのも廃村内ですよねぇ~? だったらぁ一台くらいはアッチに設置するのもぉ~いいと思いますよぉ~。面白い音がとれればぁ~オイラも嬉しいですしねぇ~」
「うーん。でも俺達、一晩中モニターと睨めっこしてるだろ? 異変があった時にすぐに駆け付けて怨霊退治をカメラにおさめた方が迫力あるだろ?」

 浅井や山岸、野々村がそれぞれの意見を口にする。
 そこに賀茂が口を挟んだ。

「今回の目的は単なる心霊現象の撮影ではないのですよね? 自殺者の霊を呼び寄せたり、撮影するだけでしたら、このようなロケは必要なかったのではありませんか?」
「あ……そうだった」
「ネタは多けりゃいいってもんじゃねぇよな」

 彼の指摘に皆が反省する中、田口は、賀茂が本来の目的をしっかりと理解してくれていることに感服したのだが、すぐに、ふてぶてしい声に打ち消された。

「あれ? グラビア撮影中に消えた女性の霊と対峙して、真実を暴くんじゃなかったっけ? だったら、廃村内に機材を設置したって、関係のない霊魂しか映らないと思うんだけどな~」

 田口の知り合いとはいえ、サエない格好をしたバイト君の小馬鹿にしたような言い方に、カチンとくる者が殆どではあったが、その鋭い指摘に誰も反論が出来ない。
 機材の配置場所に関して、自分の意見を堂々とした発言をした賀茂の顔が僅かに引き攣ったが、それは田口も同じこと。
 賀茂に言われて『今回のロケは自殺者の霊を撮影するのが目的ではない』と納得しただけでなく、彼が企画をしっかり理解していると感心した時点で自分自身も企画の内容をしっかり把握していなかったこととなる。

 いいや。

 田口を含め、この場にいるスタッフ皆、企画をしっかりと把握していた。
 けれど、プロデューサーの早川から、廃村内でのロケについては賀茂を中心として動き、演出や効果といったものは一切無くし、出演者と怪奇現象とのガチンコ勝負と言われていた。

 オカルト番組にヤラセはつきもの。
 壁を揺らす装置をつけたり、埃をわざとたてて特殊な証明をあててオーブを作ったりなんてザラである。
 そういった小細工無しでロケをして、一つもオカルト的な画や音が撮れなかったらという不安や焦りが彼らの判断能力を低下させていたのは間違いない。
 早川が絶大なる信頼をおく賀茂が指示したことなら、きっと何かが起こる。
 もし、何も起きなかったとしても早川が別の案を出してくる。
 そういった甘えもどこか念頭にあったのかもしれない。
 だから、つい、賀茂の言葉に皆、一度は納得し、賛同したのだが、神代の言葉は田口を含むスタッフ全員の意識を本来の目的へと引き戻した。

「本当だ。お前、ムサっ苦しい頭してるけど、結構、頭いいじゃん」
「たぁしぃかぁにぃ~」

 浅井と山岸が田口よりも先に神代を褒める。
 先日、スタジオ内を険悪な雰囲気にした人物だとは気づかれていないようで、少々態度には問題があるものの、スタッフとの関係はうまくやっていけそうだと田口はホッと胸を撫で下ろした。

「よし。じゃあ、絶壁の方にも――――」
「ですから。ボクは断崖絶壁にカメラを設置する事が悪いとは一言も言っていませんよ? 今回の企画の主旨を理解しているからこそ、最期の撮影をしていた場所である廃村にも『念』が沢山残っているのです。それに、彼女が断崖から落ちたかどうかも分からない。でしたら、周りの雑木林の中も念が残っているか調べるべきだと言いたかったのです」

 田口の言葉を遮り、丁寧かつ強い口調で賀茂が割って入って来た。
 彼の話を要約すると、『自分の話を最後まで聞かずに勝手に話を進められた挙句、自分がまるでロケの主旨を理解していないと決めつけられては困る。こちらは最初からそのつもりだった』といったもの。
 どうやら自分の意見よりも、神代の意見を聞き入れただけでなく、褒めたのが良くなかったようだ。
 その証拠に、一瞬だけではあるが、自分の意見を言い終えた後、神代をギロリと睨みつけたのを田口は見逃さなかった。

《こわっ!》

 無駄に顔が整っているだけに、睨みにも迫力が増す。
 プライドの高い男の扱いには気を付けなくてはと胸の中で反省をしつつ、チラリと神代の顔を盗み見る。
 睨まれた本人の方は、もっさりとした前髪で表情は伺えないものの、全く気にしていない様子――――ではなかった。

 口角をニンマリと上げて、「あー。そーだったんですかー。さすがは陰陽師大先生! オレなんかが口を挟むもんじゃなかったですね」と、ボリボリと頭を掻く。
 完全に挑発だ。
 見えない火花が賀茂と神代の間に放たれているのが、田口だけには見えていた。
 まさに、一触即発モード。

「いいや、君の意見は良かったよ。ただ、少し詰めが甘かっただけでね」

 表面的には、余裕のある大人な対応のように感じるが、その中身といったら、最終的には上から陰陽師といったもの。
 神代の意見を褒めていると見せかけて、最終的には自分の方が優れているというのを付け加えることを忘れない。
 二人の間に流れる絶対零度に気が付かないスタッフ達は、「流石です!」「やっぱ、賀茂さんだな」と褒めたたえるので、賀茂も、自分の尊厳が保たれたことに満足した様子。
 穏やかな笑顔を取り戻し、「では、廃墟以外のスポットを探しましょう」と、率先して仕事に取り掛かった。

「ん? どうしたんだい?」

 賀茂の後をすぐに追う浅井と山岸とは違い、どこか暗い顔をしていた野々村に田口が声をかけた。
 ハッとして顔を上げた野々村は苦笑いをして、「暑くてボーッとしてたみたいッスね。すんません」と言って、慌てて彼らの後を追った。
 その後、数か所、廃墟以外にも映像や音声機器を設置させた。

「よおーっし。じゃぁ、これからロケ本番。一旦、ロケバスに戻って、それぞれ準備をして、直ぐに撮影開始でも構わないか?」

 田口の言葉に皆が頷く。
 行きに比べ、かなり身軽になった彼らは軽い足取りで来た道を戻る中、ただ一人、神代だけは、のっそりと歩いていた。
 彼の様子に気が付いた田口がすぐさま駆け寄る。
 他の連中は既に先に進んでいる。
 誰にも聞こえていない距離なのを確認すると、バイト君としての神代への態度ではなく、サブ霊能者としての神代への態度に切り替えた。

「どうしたんですか?」

 不安気に尋ねる田口を見下ろした彼はふいに後ろを振り返った。

「さぁね。ただ、テレビ業界っていうのは、胡散臭いヤツらばっかだなーと思っただけ」

 ポツリと呟いた後、キュッと口元を引き締めた彼の横顔は、表情こそ全く見えないが、どこか緊張しているような、怒っているような感じがした。

「あの……それはどういう……」

 おろおろとした田口に向かい、頬と口角だけでしか表情の読めない神代は、ニッと大袈裟なほど口端を上げると、自分より小さな目上の男の首に腕を巻き付け、彼の耳元に口を寄せた。

「だぁーいじょーぶ。たぐっちゃんは胡散臭い人間に含まれていないから」

 わざわざ耳の弱い田口に、息を吹きかけるようにして囁くと、「ふひぃぃっ! ちょっ! 神代くんっ! や、やめて! やめてくださいよねぇぇぇっ! ほら、サブイボ。サブイボたったぁぁぁ!」と、半泣きで飛び退いた。
 予想以上の反応に、クックッと喉を鳴らして笑う神代は再び後ろを振り向いた。

「あんた。泣いているだけじゃ、わかんねぇよ」

 何もないところを見つめて呟いた神代の言葉は、先を行くスタッフや賀茂は勿論のこと、ギャーギャー騒いでる田口にすら聞こえることはなかった。

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