愛とか恋とかのゲームは苦手です

朝顔

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本編

4、出会い

 ガタガタと馬車が上下に揺れて、キースはまたかと眉間にシワを寄せた。
 しばらく悪路が続くと言われたが、ここまで揺れると気持ちが悪くなってくる。
 先程も気を抜いていたら背中を打って、その痛みがまだしつこく残っていた。
 気分を紛らわすためにも、目の前の美少年に話を振りたいが、だいたい心臓に悪い答えが帰ってくるので、あまり関わりたくないのだ。

 無言で悶々とするキースのことなど知らずに、一緒に馬車に乗っているレナールは、優雅に微笑んだ。

「この世界はさぁ、基本は男女の恋愛が普通とされているけど、同性同士でも別に悪く言われることはないんだよね。子孫は家族の誰かが残せばいいみたいな考えで、王族もたくさんいるし。男も王妃になれる」

「へぇー、それは……、自由な世界なんだな……」

 二人の話し合いから程なくして、レナールは約束通り話を通してくれたらしく無事に学校への入学許可が下りた。
 母も兄も泣いて喜んでくれた。

 入学が決まってすぐ、学校へ向かうこととなった。そして、レナールと二人、もう半日も馬車に揺られている。
 一族の期待を背負って、キースはこの馬車に乗っているのだ。
 家のことは、セルジュに任せてきたので、なんとかなるだろう。
 レナールが言っていたコネクションを作るというのは、全く他の貴族と交流がなかった自分には厳しいかもしれない。しっかり勉学に励み、優秀な成績を残すことを目標として、上手くいけば騎士団を目指そうと思っていた。
 剣の腕については遊びで握ったこともないので、無謀すぎるとは思うのだが…。

「あー…、思い出すなぁ。これからゲームのオープニングだよ。僕とルーファス様の出会いのシーン。ちなみに桜が咲いているんだ。なんとも懐かしくてロマンティックだろう」

 レナールは誰もが見惚れてしまうような、美しい顔で微笑んだ。

「分かっていると思うけど、君は僕の協力者だからね。言われた通りに動いてくれよ」

「……あぁ。分かってるよ。お前の恋愛が成就するように、協力すりゃいいんだろ」

「ゲームのレナールと僕じゃ性格が違いすぎるのが難点だよね。一応猫かぶる予定だけど、もしルーファスが清廉潔白とかを求めるんだったら、僕の遊びがバレたらまずいだろう。とりあえず完璧に惚れさせたら、ビッチがバレてもしょうがないってなるだろうから、それまでフォローしてね」

 レナールから提示された協力者という条件は、まさにシンプルに彼の恋愛を応援する者という意味だ。
 レナールこと若菜はもともとルーファス推しで、気持ちは変わらずルーファスを攻略するつもりらしい。
 ゲームの中でもライバルが登場して恋愛を邪魔するらしいのと、貴族には手を出していないらしいが、遊びすぎたことを早めに暴露されるのは困るということで、その辺りをフォローするように協力者として動いて欲しいと言われている。

「ラムジール伯爵はどうして、こんなにうちのことを親切にしてくれるんだろう」

 ふと疑問が湧いて、キースは独り言のように呟いた。

「昔、好きだったんだって。初恋ってやつ、この年齢まで引っ張るんだから怖いよね」

「え!?父のことを?」

 まさか父と伯爵にそんな関係があったのかと驚いていると、ばか、お前の母親だとレナールに笑われた。

 もはや思考はそっちに寄ってしまい、キースはある意味悲しくなった。

「……キースはどう見てもネコだろうから、他の攻略者で良さそうなやつがいたら、ヤってみれば?」

 落ちこんでいるところに、レナールから重いパンチが飛んできて、後ろにのけぞった。

「ばっ……ばかな!そんなことしねーよ!ふざけんな!」

「えー…、もったいない。私とはタイプが違うけど、光るものあるし、絶対ハマると思うんだよね」

「やめてくれ!もう、俺は勉学に生きるんだ!変な道に引きずり込まないでくれ!」

 レナールと話していると胃痛がしてくるので、もう無視して窓の外を眺めることにした。
 すると、明らかに歩いている人が増えてきたのが分かった。
 いよいよ、王都に近づいたのだろう。

 グランデイル王国の王都シーニングの中心に、貴族の男子が通う王立学校がある。
 城下町にあるラムジール家のタウンハウスから、学校に通う予定になっている、

 まずは今日これから、ゲームのオープニングの大事なシーンらしい。レナールは意気込んでいるが、どんなことが起こるかなど、めんどくさがって細かい情報を教えてくれない。

 どうせ、校門辺りでぶつかって、お互い謝って一目惚れみたいなやつだろうと、キースは勝手に思いこんでいた。

 いよいよ、馬車が揺れて止まって、レナールが先に下りた。
 周囲がどよめいて、ザワザワとした声が上がっているのが聞こえた。

 それはそうだろう、誰もが見惚れてしまう完璧な美少年の登場だ。
 きっと太陽の光を浴びて、金髪は輝いて、瞳は透き通るように青く、その完璧な美しさを見せつけているだろう。目が合って微笑まれたら卒倒するやつもいそうだ。

 とりあえずこんな騒ぎの中、美少年と一緒に行動するなんて目立って絶対嫌なので、そのままキースは下りずに馬車は目立たないところまで移動してもらい、そこでこっそり下りる手はずで、御者に話は通していた。

 窓からそっと覗くと、少し離れたところで、早速ぞろぞろと人を引き連れて歩いているレナールの姿が見えた。心なしか、きょろきょろしている気がするが、緊張しているのだろうか。
 もしかしたら、あの引き連れている集団の中にルーファスが一緒にいるのかもしれない。

 校門から少し離れたところまで来てもらったので、キースはお礼を言って、やっと下りようとドアに手をかけた。

 すると、力を入れてもいないのに勝手にドアが開いて、外から人が強引に押し入ってきた。

「うぁぁぁ!なっ……!なんだよ!」

 その勢いに思わず狭い車内で後ろに飛んだキースは、またしたたかに背中を打って悶絶した。
 痛みで閉じていた目を開けて、抗議しようと押し入っていた人物を睨みつけた。

 まず見えたのは同じ制服、キースより明らかに筋肉がついていて、細身だがガタイの良い体。
 プラチナブロンドのシルクのような髪に、緑の目をした端正な顔立ちの男だった。キリッとした眉に、わずかに垂れた目が特徴的で、なんとも男の色気が漂うような人物だ。

 怒鳴って追い出してやろうとしたキースの前で、男は唇に指を立てて、目を細めて微笑んだ。その仕草が様になっていて、ドキッとしてしまった自分に、キースは心の中でばかばかと連呼した。

 すると、ドカドカと足音がして、外からこっちに行かれたとか、いやあちらだとか声が聞こえた。

 男は何かから逃げているらしく、どうやらそれで馬車に隠れようと入ってきたのだと分かった。

「……悪かったね。助かったよ。どうも変なのに急に襲われて追いかけられていたんだ」
  
「はあ……そうですか」

 色男はモテて大変なのだろう。男子校でもこんなに苦労するなんて、この世界のイケメンは過酷だと同情の目で男を見た。

「見た目は好みだったのに、なぜだか嫌悪感が止まらなくてね。俺もこんなことは初めてだから驚いている」

 男は困ったという顔をして、頭に手を当てている。悩みの分野が違いすぎて、キースには付いていけない。

「そしたら、あの?いいですか?そろそろ行かないと遅れそうなんですけど……」

 このわけの分からない色男と一緒の空間にいたくなかったので、さっさと出ようとしたら、軽くドアを押さえられて止められた。

「まだ、近くにいるかもしれないからね、念のため。それに、入学式はまだ間に合うよ。君も新入生でしょう?」

「そうですけど……」

 じゃ一緒だから問題ないねと、色男は微笑んでキースの逃げ道をおさえてしまった。

 こんな狭いところで、見ず知らずの人間と何を話せばいいのだろうと、キースは自分の人見知りを思い出して、急に緊張してきてしまった。

 瑠也の時から変わらない。慣れればやっと話せるやつと言われるくらい、初対面のときは無愛想な印象を与えてしまう自分がキースは嫌いだった。
 しかも、家の人間以外の人とほとんど関わって来なかったので、何を話していいのか、気のきいた日常会話がさっぱり思い浮かばない。

「どうしたの?なにか緊張している?」

 男はこちらの感情を読み取ったかのように、優しく微笑んできた。

「いっ……いえ、その、家族以外の人と、ほとんど会話することがなくて、こういう時、なにを話していいのか思いつかなくて……」

 迷ったが、取り繕ってもボロが出るので、キースは素直に白旗を上げることにした。

「そうなんだ。友人はいないの?」

 レナールの姿が思い浮かんだが、友人というには違う気がした。

「昔からの知り合いみたいなのはいますけど…」

「そう。なら家族やその人と話すみたいでいいよ。そんなに、固くならないで、せっかく学校へ入ったのなら友人ができた方が楽しいと思うよ」

「そっ…そうですね」

 家族と接するようにと言われて、まじまじと男の顔を見た。
 せめてそっちから話題を振ってくれればいいのに、男はそのつもりがないのか、ただにこにこと微笑んでいる。もしかしたら、身分の高い人物で、いつも相手から気を使われる立場なのかもしれない。
 キースは自分の中の精一杯を絞り出した。

「……ご入学おめでとうございます」

「ありがとう、君もね」

「今日は良いお天気ですね」

「そうだね、昨日も晴れてたけど」

「明日も晴れますかね」

「んー、天気の話題はもういいかな」

 いよいよ追い詰められて、キースは絶望的な気持ちになった。
 こんな調子では、有力子息のコネクションどころか、ぼっちの学校生活が決定である。

 キースが滝のような汗を流して、パニックになっていると、それを見て色男は噴き出して大笑いしだした。

「はははっ、ごめん。おかしすぎてツボに入っちゃって!くっ……はっはははは」

 爆笑しても色男の顔は崩れないのがさすがである。キースは、どうやら笑われているらしいが、ぼんやりと見入ってしまった。

「いいね、君、面白いな。名前は?何て言うの?」

「え……?キース……、キース・ハルミングです」

「キース、今日から俺たちは友人だ。よろしく」

 ごく自然に差し出された手を見て、キースは感動した。自分の何を気に入ってくれたか分からないが、この世界で初めて友人が出来たのだ。

 ちょっと照れて赤くなりながら、キースはその手を握った。
 そういえば、なんて、呼べばいいのだろうと、ちらりと男の方を見上げると、切れ長の新緑の瞳が細められた。

「俺はルーファス・グランデイル。ルーファスと呼んでくれ」

「ルーファス……」

 友情の始まりに照れながら名前を呼んでみたら、なにか大事なことを忘れているような気がした。

 そろそろいいかと言いながら、ルーファスはキースの手を繋いだまま馬車を下りた。

「ん?」

 ここで、微妙に感じた違和感が、鮮やかな色までついて頭に広がっていく。

 ¨ルーファス・グランデイル¨

 この国の王子であって、レナールの攻略する相手であり、ゲームでの一番人気のヒーローその人である。

 レナールと仲良く恋愛イベントを進めているはずのルーファスがなぜ、こんなところで自分と手を繋いでいるのか。キースは何一つ理解できずに、ただルーファスの背中を呆然と見つめていたのだった。




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