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本編
①ここは異世界
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お姫様が大好き。
ピンクのフリフリドレスや、キラキラの宝石。白亜のお城に、白い馬に跨がった王子様。
小さい頃から、そういう世界に憧れて、大人になったら、お姫様になりたいなんて本気で思っていた。
私の恋という名前は、母が、素敵な恋が出来るようにと付けてくれた。
三姉妹の末っ子。小さい頃は、年の離れた姉達のきせかえ人形で、可愛い可愛いとチヤホヤされて育った。
母はシングルだけど、会社経営者で、いつも忙しくしながらも、娘達の教育にはお金を惜しまなかった。
幼稚園から私立で、小中と女子校。
家に男の人はいないし、学校でも、ずっと女性の担任で、男の先生と話すことも、ほとんどなかった。
唯一話す男の人といえば、祖父くらいで、私にとって男子は、よく分からない。ましてや、年上の男性なんて宇宙人だ。
だけど、恋への憧れは年々強まった。恋がしたい、彼氏が欲しいと言って、勉強を頑張るからと約束してやっと共学へ進めたのだ。
高校生になったら、初恋をして、告白して、彼氏が出来て、初デート。
キラキラの青春いっぱいの生活を夢見ていた。
夢見ていたのに。
高校の入学式に行く途中、私は車に轢かれてしまったのだ。
□□□
顔に光が当たっているのだろう。眩しく感じるが、瞼は重く、なかなか開けられない。
うんうんと、唸っていたら、人の声のようなものが聞こえた。
だれの声だろう。母か、姉か……。私は確か、車に轢かれたはずだ。体に痛みがはしって、世界は、あっという間に真っ暗になった。
こんなところで死にたくないと、頭のどこかで思ったけれど、それは長くは続かなかった。
後はひたすら、闇が続いていて、遠くに光が見えて、水面に向かって泳ぐみたいにもがいて、光の方へ浮上した。
そして、眩しさに耐えきれずに、結局目を開けた。
真っ赤な天井が見えた。
そのまま、辺りを見渡すと、西洋風の絵本の世界に出てくる、お姫様のお部屋みたいな空間が見えた。
「悪い夢でもご覧になっていたのですか?うなされていらっしゃいましたよ」
突然横から、見たこともない女性に話しかけられた。
車に轢かれて、道に転がっていたから、誰か近所の人が家に運んでくれたのだろうか。
なぜ救急車じゃないのかは、分からないけど。
「あの……こんにちは」
いつも、ちゃんと挨拶だけはしっかりしろと、母や姉には厳しく言われていた。
特に、助けてくれたなら、命の恩人だ。ひどい態度を取ったなら、母に激怒されてしまう。
ところが、その女の人は、ひどく怪訝な顔をした。私の顔を、食い入るように見ている。
そして、次に発せられた言葉に、私は驚愕する。
「いかがされましたか?奥様?」
(え?何言ってんの、この人?誰かと間違えてるの?……こんな状況で?)
「あ…私、車に轢かれて…その、あなたが助けてくれたんですよね?」
さっきの発言は聞かなかった事にして、とにかく私の求める答えを言って欲しくて質問した。
「何を仰っているのですか?奥様」
(あっ!また言ったー!違う違う!その後ろの違うってば!)
「…今日はご冗談を仰って、遊ばれるおつもりですか?私、仕事がありますので失礼します」
女性はため息をついて、嫌そうな顔をして、部屋から出ていってしまった。
(なんなの?あれ!嫌な感じ!冷たっ!)
母や姉達から、いっぱい愛情を受けて育ったので、あまり冷たくされる事に慣れていない。
ふと、怪我を確認したくて、体に触れると、むにっとする感覚があった。それは、私が今まで感じたことがなく、これからも多分ないであろうと思われた感覚。
「え?これ……胸?」
うちの家系は、洗濯板と呼ばれ、母も姉達も自分も、自慢じゃないが、ぺったんこの胸で、こればっかりは努力しても無理よと言われてきた。
同世代の子が、ブラを付け始めても、全く必要性を感じず、見かねた母にスポーツブラを無理矢理付けさせられた。
それも、本当、必要ないくらいの、貧乳が……。
「何これ?柔らか…というか、重っ……」
それに、今着ている服は、学校の制服ではなく、キャミソールのセクシーランジェリーみたいなやつで、ますます、どういう事か、これが自分の体だと思えない。
とりあえず、ベッドから起き上がり、床に下りてみた。ふかふかの絨毯を裸足で歩いた。
途中で大きな姿見があり、何も考えずその前に来たら、そこに映った姿に衝撃を受けた。
「え……、誰?この人?」
いつも元気に日焼けしていて、姉達から、ちっこくて目がくりくりの子猿とからかわれた、ピチピチの可愛い女子高校生はいない。
色白で長い黒髪、ちょっとキツめな青い瞳に、結ばれた唇はほんのり赤い。華奢というのがぴったり当てはまるような、繊細な色気が漂う大人の女性が、セクシーランジェリー姿で立っていた。
子猿と言うより、猫みたいなんて、ぼんやり思っていたら、ハッと正気に戻った。
「え?本当に誰?このおばさん…」
いや、綺麗なお姉さんなのだろうけど、ピチピチ16歳から見たら、はるか上の人に見えた。
「……寒っ、とりあえず何か着よう」
現状が理解できないし、現実逃避するにも、こんなランジェリー姿じゃ気力が湧かない。
手近にあったお風呂上がりに着る、ガウンみたいなやつを羽織った。
これで、何とか少し落ち着いて考えられるようになった。
まずは、窓から外の様子を覗いた。
よく見えづらいガラスだったので、試行錯誤して開けてみると、ここは二階で、すぐ下は庭園。庭園の向こうは大きな塀になっていて、様子が分からない。しかし、ビルのような高い建物は一切見えず、電線や電柱も見えない。
(ここまでて、考えられるのは、私が別人になってしまったこと。そして、日本というより、ヨーロッパ風の部屋に庭園があること。外国人になってしまったのが正解かもしれない)
「ってか、私、何考えてんの。だってこれ、夢だよね」
その時、コンコンとノックの音がした。
「グレイス、入るぞ」
低くて、胸に響くような声が聞こえて、ドアが開き、男の人が入ってきた。
キラキラとした金髪に、綺麗に整った顔、神秘的な緑の目が印象的な、まるで絵本から出てきた王子様みたいな男性だ。
「メリルから聞いたぞ、また変な事を言って、からかって、馬鹿にしようとしているらしいな。使用人を何人辞めさせたら気がすむんだ。いい加減にしろ!」
何か怒られているみたいなのだか、私の目はもう王子様に釘付けだった。
胸はドキドキしてきて、顔が熱くなってきた。
「聞いているのか!グレイス!君はまた!何か言ったらどうなんだ!」
そんな風に言われたら、何か言わないといけない。しかし、口をついて出たのは、素直な感想だった。
「すごい素敵……、カッコいい……」
王子様は、虚をつかれた顔をして、目を見開いた後、しばらく考えて、何も言わずに出ていってしまった。
バタンと扉が閉まって、ハッと気がついた。
(えー!私!初対面の男の人になんて事を言っちゃったの!?いや、でも、向こうはこっちを知っていたね。グレイスとか呼んでいた)
「あなたの名前は、グレイスなの?」
鏡の中の女性に向かって問いかけたが、当然、答は返って来なかった。
(さて、どうしよう。とりあえず状況が分かるまで、余計な事を話すのはよそう。どうやら、信頼されている感じはしないから、おかしくなったと言われて、どこかに入院させられても困る)
「まず確認するのは、グレイスが誰か、どういう人物かと、さっきの王子様、最初の女性は多分、メリルね。あー、難しいー!お姉ちゃん達がいたら、いい、アドバイスをくれるのに!」
コンコンと再びノックの音がして、失礼しますと、最初にいた女性が入ってきた。
「メリル?」
「はい、なんでしょう?」
一か八か聞いてみたら、合っていたみたいだ。
「なんでもない。あの、何?」
「は?」
「何の用かなぁーと……」
もうこのやり取りで、すでに逃げ出したい。メリルの冷たい表情に、完全に心が折れた。
「お着替えです。それとも、またベッドに入られるおつもりですか?」
「あー、着替えね。はいはいどうぞ」
あくまで自然に知っていました風な演技をして、メリルの動きを観察した。
手早くドレスを選び、グレイスを脱がせて、ドレスを着せて、無駄のない動きであっという間に、着替えが完了した。
髪の毛も長い髪を手早くまとめて、ゆるめに結んだ。
「いかがでしょうか」
感想を聞かれたので考えた。
身支度をやってくれる事から考えて、グレイスは上司的な立場とみた。いつもどう言っているのか知らないが、せっかくやってもらったのに、失礼なことは言えない。
「あー…、とても素敵だね。よく出来ている!メリル、君はプロだね!今後もそのようにやって欲しい。期待している」
ニカっと笑顔を見せて伝えた。
ちょっとおじさん上司の口調になってしまったが、いい線いっているのではないか。
メリルを見ると、とっても嫌そうな顔かつ、ぽかんと口を開けた、なんとも言えない表情をしていた。
そのまま、後ろにズルズルと後退しながら、失礼しましたと出ていってしまった。
「えー?違ったの?…まっ、いっか」
それより、今はドレスだ。なんたってお姫様の世界大好きだから、ドレスを着れるなんて心が踊るのだ。夢に見た、ピンクのリボンたっぷりのフリフリドレスではないけれど。
若草色のシンプルで上品なドレスだ。グレイスにはとても合っていた。
「可愛いー!グレイスさん、よく似合うじゃん、胸があるって大事ね」
さて次は、足で情報収集だ。
どうもヨーロッパの国といわれても、時代の感じが古すぎる。
もしかしたら、タイムスリップでもしてしまったのか、いや、やっぱり長い夢なのか。
それを確かめるために、部屋を出てみることにした。
□□□
ピンクのフリフリドレスや、キラキラの宝石。白亜のお城に、白い馬に跨がった王子様。
小さい頃から、そういう世界に憧れて、大人になったら、お姫様になりたいなんて本気で思っていた。
私の恋という名前は、母が、素敵な恋が出来るようにと付けてくれた。
三姉妹の末っ子。小さい頃は、年の離れた姉達のきせかえ人形で、可愛い可愛いとチヤホヤされて育った。
母はシングルだけど、会社経営者で、いつも忙しくしながらも、娘達の教育にはお金を惜しまなかった。
幼稚園から私立で、小中と女子校。
家に男の人はいないし、学校でも、ずっと女性の担任で、男の先生と話すことも、ほとんどなかった。
唯一話す男の人といえば、祖父くらいで、私にとって男子は、よく分からない。ましてや、年上の男性なんて宇宙人だ。
だけど、恋への憧れは年々強まった。恋がしたい、彼氏が欲しいと言って、勉強を頑張るからと約束してやっと共学へ進めたのだ。
高校生になったら、初恋をして、告白して、彼氏が出来て、初デート。
キラキラの青春いっぱいの生活を夢見ていた。
夢見ていたのに。
高校の入学式に行く途中、私は車に轢かれてしまったのだ。
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顔に光が当たっているのだろう。眩しく感じるが、瞼は重く、なかなか開けられない。
うんうんと、唸っていたら、人の声のようなものが聞こえた。
だれの声だろう。母か、姉か……。私は確か、車に轢かれたはずだ。体に痛みがはしって、世界は、あっという間に真っ暗になった。
こんなところで死にたくないと、頭のどこかで思ったけれど、それは長くは続かなかった。
後はひたすら、闇が続いていて、遠くに光が見えて、水面に向かって泳ぐみたいにもがいて、光の方へ浮上した。
そして、眩しさに耐えきれずに、結局目を開けた。
真っ赤な天井が見えた。
そのまま、辺りを見渡すと、西洋風の絵本の世界に出てくる、お姫様のお部屋みたいな空間が見えた。
「悪い夢でもご覧になっていたのですか?うなされていらっしゃいましたよ」
突然横から、見たこともない女性に話しかけられた。
車に轢かれて、道に転がっていたから、誰か近所の人が家に運んでくれたのだろうか。
なぜ救急車じゃないのかは、分からないけど。
「あの……こんにちは」
いつも、ちゃんと挨拶だけはしっかりしろと、母や姉には厳しく言われていた。
特に、助けてくれたなら、命の恩人だ。ひどい態度を取ったなら、母に激怒されてしまう。
ところが、その女の人は、ひどく怪訝な顔をした。私の顔を、食い入るように見ている。
そして、次に発せられた言葉に、私は驚愕する。
「いかがされましたか?奥様?」
(え?何言ってんの、この人?誰かと間違えてるの?……こんな状況で?)
「あ…私、車に轢かれて…その、あなたが助けてくれたんですよね?」
さっきの発言は聞かなかった事にして、とにかく私の求める答えを言って欲しくて質問した。
「何を仰っているのですか?奥様」
(あっ!また言ったー!違う違う!その後ろの違うってば!)
「…今日はご冗談を仰って、遊ばれるおつもりですか?私、仕事がありますので失礼します」
女性はため息をついて、嫌そうな顔をして、部屋から出ていってしまった。
(なんなの?あれ!嫌な感じ!冷たっ!)
母や姉達から、いっぱい愛情を受けて育ったので、あまり冷たくされる事に慣れていない。
ふと、怪我を確認したくて、体に触れると、むにっとする感覚があった。それは、私が今まで感じたことがなく、これからも多分ないであろうと思われた感覚。
「え?これ……胸?」
うちの家系は、洗濯板と呼ばれ、母も姉達も自分も、自慢じゃないが、ぺったんこの胸で、こればっかりは努力しても無理よと言われてきた。
同世代の子が、ブラを付け始めても、全く必要性を感じず、見かねた母にスポーツブラを無理矢理付けさせられた。
それも、本当、必要ないくらいの、貧乳が……。
「何これ?柔らか…というか、重っ……」
それに、今着ている服は、学校の制服ではなく、キャミソールのセクシーランジェリーみたいなやつで、ますます、どういう事か、これが自分の体だと思えない。
とりあえず、ベッドから起き上がり、床に下りてみた。ふかふかの絨毯を裸足で歩いた。
途中で大きな姿見があり、何も考えずその前に来たら、そこに映った姿に衝撃を受けた。
「え……、誰?この人?」
いつも元気に日焼けしていて、姉達から、ちっこくて目がくりくりの子猿とからかわれた、ピチピチの可愛い女子高校生はいない。
色白で長い黒髪、ちょっとキツめな青い瞳に、結ばれた唇はほんのり赤い。華奢というのがぴったり当てはまるような、繊細な色気が漂う大人の女性が、セクシーランジェリー姿で立っていた。
子猿と言うより、猫みたいなんて、ぼんやり思っていたら、ハッと正気に戻った。
「え?本当に誰?このおばさん…」
いや、綺麗なお姉さんなのだろうけど、ピチピチ16歳から見たら、はるか上の人に見えた。
「……寒っ、とりあえず何か着よう」
現状が理解できないし、現実逃避するにも、こんなランジェリー姿じゃ気力が湧かない。
手近にあったお風呂上がりに着る、ガウンみたいなやつを羽織った。
これで、何とか少し落ち着いて考えられるようになった。
まずは、窓から外の様子を覗いた。
よく見えづらいガラスだったので、試行錯誤して開けてみると、ここは二階で、すぐ下は庭園。庭園の向こうは大きな塀になっていて、様子が分からない。しかし、ビルのような高い建物は一切見えず、電線や電柱も見えない。
(ここまでて、考えられるのは、私が別人になってしまったこと。そして、日本というより、ヨーロッパ風の部屋に庭園があること。外国人になってしまったのが正解かもしれない)
「ってか、私、何考えてんの。だってこれ、夢だよね」
その時、コンコンとノックの音がした。
「グレイス、入るぞ」
低くて、胸に響くような声が聞こえて、ドアが開き、男の人が入ってきた。
キラキラとした金髪に、綺麗に整った顔、神秘的な緑の目が印象的な、まるで絵本から出てきた王子様みたいな男性だ。
「メリルから聞いたぞ、また変な事を言って、からかって、馬鹿にしようとしているらしいな。使用人を何人辞めさせたら気がすむんだ。いい加減にしろ!」
何か怒られているみたいなのだか、私の目はもう王子様に釘付けだった。
胸はドキドキしてきて、顔が熱くなってきた。
「聞いているのか!グレイス!君はまた!何か言ったらどうなんだ!」
そんな風に言われたら、何か言わないといけない。しかし、口をついて出たのは、素直な感想だった。
「すごい素敵……、カッコいい……」
王子様は、虚をつかれた顔をして、目を見開いた後、しばらく考えて、何も言わずに出ていってしまった。
バタンと扉が閉まって、ハッと気がついた。
(えー!私!初対面の男の人になんて事を言っちゃったの!?いや、でも、向こうはこっちを知っていたね。グレイスとか呼んでいた)
「あなたの名前は、グレイスなの?」
鏡の中の女性に向かって問いかけたが、当然、答は返って来なかった。
(さて、どうしよう。とりあえず状況が分かるまで、余計な事を話すのはよそう。どうやら、信頼されている感じはしないから、おかしくなったと言われて、どこかに入院させられても困る)
「まず確認するのは、グレイスが誰か、どういう人物かと、さっきの王子様、最初の女性は多分、メリルね。あー、難しいー!お姉ちゃん達がいたら、いい、アドバイスをくれるのに!」
コンコンと再びノックの音がして、失礼しますと、最初にいた女性が入ってきた。
「メリル?」
「はい、なんでしょう?」
一か八か聞いてみたら、合っていたみたいだ。
「なんでもない。あの、何?」
「は?」
「何の用かなぁーと……」
もうこのやり取りで、すでに逃げ出したい。メリルの冷たい表情に、完全に心が折れた。
「お着替えです。それとも、またベッドに入られるおつもりですか?」
「あー、着替えね。はいはいどうぞ」
あくまで自然に知っていました風な演技をして、メリルの動きを観察した。
手早くドレスを選び、グレイスを脱がせて、ドレスを着せて、無駄のない動きであっという間に、着替えが完了した。
髪の毛も長い髪を手早くまとめて、ゆるめに結んだ。
「いかがでしょうか」
感想を聞かれたので考えた。
身支度をやってくれる事から考えて、グレイスは上司的な立場とみた。いつもどう言っているのか知らないが、せっかくやってもらったのに、失礼なことは言えない。
「あー…、とても素敵だね。よく出来ている!メリル、君はプロだね!今後もそのようにやって欲しい。期待している」
ニカっと笑顔を見せて伝えた。
ちょっとおじさん上司の口調になってしまったが、いい線いっているのではないか。
メリルを見ると、とっても嫌そうな顔かつ、ぽかんと口を開けた、なんとも言えない表情をしていた。
そのまま、後ろにズルズルと後退しながら、失礼しましたと出ていってしまった。
「えー?違ったの?…まっ、いっか」
それより、今はドレスだ。なんたってお姫様の世界大好きだから、ドレスを着れるなんて心が踊るのだ。夢に見た、ピンクのリボンたっぷりのフリフリドレスではないけれど。
若草色のシンプルで上品なドレスだ。グレイスにはとても合っていた。
「可愛いー!グレイスさん、よく似合うじゃん、胸があるって大事ね」
さて次は、足で情報収集だ。
どうもヨーロッパの国といわれても、時代の感じが古すぎる。
もしかしたら、タイムスリップでもしてしまったのか、いや、やっぱり長い夢なのか。
それを確かめるために、部屋を出てみることにした。
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