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18禁!BL番外編

注意18禁!BL★五人目の恋人(マルク×クロード)

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「なんだか思った方と違いました。お仕事ができる方と紹介されましたけど…、もう少し女性の扱い方を勉強された方がいいのでは…」

 あまりの言い方に自分だって女性と付き合った経験くらいあるという目をしたマルクに、彼女はクスリと笑った。

「はっきり言いましょうか…。キスが下手くそ過ぎて、その先まで知れてしまいました。残念でしたわ」

 頭の上に雷が落ちてきたような衝撃を受けて、マルクは倒れこみそうになったが、残された小さなプライドだけで体をなんとか支えた。

 女性にフラれてしまった。
 しかも初めてではない。

 これで四度目だ。



「俺だって…俺だって、頑張ったのに!なんで…、なんでいつもフラれるんだ……」

 街の大衆酒屋で、事務所の同僚であるフレイに絡みながら、マルクはもう何杯目が分からない酒を呷った。

「だから、気負いすぎだって。女はそういうの敏感なんだよ。シラケるんだよ、こいつ慣れてなさすぎるって」

「……だって、しょうがないだろう。頑張ることしか知らないんだ。女性とまともに付き合えないなんて…、この先、俺はずっと一人だよ…誰も俺のことなんか…」

 将来を悲観したマルクの青い瞳からは大粒の涙が溢れた。
 それを見たフレイはゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだが、頭を振って邪な気持ちをふるい落した。まだ若いし命は惜しいのである。

 そんなフレイの葛藤など知らずに、マルクはため息をついてグラスに入った安くて不味いエールを眺めた。
 こんなもので酔ったら、明日は頭痛に悩まされるだろう。それでも、この重苦しい気持ちを少しでも忘れたかったのだ。

 マルク・ファンデルが爵位を継いで子爵になってから二年が経った。
 二十歳そこそこで、貴族相手に汚い商売をやっていた父親が投獄され、その時の縁で今の上司であるクロード・サイモン公爵の元で働くことになった。

 すでに独り立ち出来るくらいは仕事は覚えたのだが、助けてもらった恩もあって、そのまま彼の元でずっと仕事を続けている。

 元々、父親に虐げられていて、心が壊れた状態であったが、周りの人間に助けられてやっとまともな生活が送れるようになったのだ。

 ただ、マルクにはどうしても解決できない悩みがあった。

 それが女性との関係だ。

 上司や友人の紹介で今までお付き合いできた女性は四人。だが、今日その四人目にフラれてしまった。
 彼女だけじゃない。今まで、付き合った女性全員にフラれてしまったのだ。

 確かにマルクは、話上手でもないし、女性を上手くリードできるタイプではない。
 それでも、自分なりに話を盛り上げたり、プレゼントを贈ったりと頑張ったはずだった。ひどいときは一週間、長くても一ヶ月はもたない。
 いつも、つまらないとか、やっぱり違うと言われてフラれてしまう。

 マルクはエールに浮かんだ自分の顔を見た。

 黒髪に青い目、ちょっとつり上がった目は幼い頃猫に似ていると言っていじめられた。
 自分で見ても姉によく似ている思う。ということは、女顔なのだ。肌も白くて筋肉もつかないので手足も細い。
 隣で肉にかぶりついているフレイの浅黒くて筋肉のついた体が羨ましい。きっと女性は彼のような逞しい男を求めているのだろう。

「あーあ、もう女性と付き合うのは無理なのかな…」

 マルクは彼女にフラれたときの衝撃の言葉を思い出した。
 キスが下手くそ、という悲しい言葉だ。

 正直技術的なものには全く自信がない。
 どうやってみんな腕を磨いていくのか教えて欲しいくらいだ。
 そういう場面になると、完全に上がってしまい上手く体が動かない。どこをどう触れば良いのか分からないのだ。

 そして、マルク自身も気づいていた。

 きっと自分は人を愛せないのだと。

 フラれたことの悲しみはあっても、彼女を失うという悲しみはあまりない。
 唇を合わせた時も、喜んでもらいたいとか、気持ちが良いという顔が見たいとか、そういう欲求が浮かんでこなかった。

 どこか冷めていて、ちっとも熱くなれない。フラれたことの最大の理由はそれだということが、マルクには十分すぎるほど分かっていた。


「だいぶ飲んでいるな…。まったく、こんな安い酒を飲んで……」

 耳に聞き慣れた声が入ってきた。最初の頃はその強烈な存在に慣れなくて怯えたものだが、今はその声を聞くと心地良い気持ちになり気を許してしまう。

「クロード様!あっ…じゃ俺はこれで…、マルク、あまり落ち込むなよ」

 フレイは素早く席を立ってマルクに声をかけてから店から出ていってしまった。
 マルクの隣の空いた席に、当然のように、上司であるクロードがドカリと座った。

「あれ?フレイ?じゃない、ふふふっ、クロード様だ……」

 見慣れた赤毛とハシバミ色の切れ長の瞳、高い鼻梁に精悍な顔つきの色男。マルクはその姿を見ると、今まで張りつめていた糸が切れるように、安心して酔いが回ってしまった。

「マリーにフラれたんだってな」

「……そうですよ。クロード様の耳にも入っているんですね。なんともお恥ずかしい……」

「ほら、帰るぞ。こんな所で悪酔いしても、気持ちは晴れないからな」

 足はふらついていて、クロードの肩を借りてやっと立ち上がった。
 自分はもう何回この肩を借りたのだろうとマルクは思った。
 いつもフラれて最悪のタイミングにクロードは来てくれる。なぜだか悲しみよりも、安心感が勝っていた。もしかしたら、どこかで彼の登場を期待していたのかもしれない。

 このクロードという男は、表向きは公爵として様々な事業を手掛けて成功しているが、実は裏では、王家の依頼を受けて貴族間の揉め事などを秘密裏に処理するようなこともやっている。
 いつ寝ているかも不明なほど精力的に動き、夜は女性を何人もベットに連れ込んで狂乱に耽り、翌朝また普通に仕事に行くという化け物のような男なのだ。

 勤め始めた頃はよく、早朝、私室に呼ばれて、裸の女性が寝ている中で書類を渡すように強要されたこともあり、マルクが真っ赤になって転がっているのを見て楽しんでいたような男だ。

 だが、仕事はきっちりやって、抜け目なく成功しているし、事業の右も左も分からなかったマルクにとって、クロードの元で働くのは最高の環境ではあった。

「クロードさま…、俺は欠けているんですよ。人を…、ちゃんと愛せないです……。だからぁ、フラれるんです」

「そんなことはない。お前はちゃんと人を愛せるよ。俺が教えてやろうか」

 今までのマルクなら、何を言っているんですかと、次の女の子に行きますと強気で言っていた。だが、度重なる連敗で心は壊れつつあり、もう自信のかけらも残されていなかった。

「…教えてください。俺、もうどうしていいか…」

 クロードはなにも答えてくれなかったが、マルクの腰を持つ手がわずかに震えた。沈黙に不安を感じたマルクがクロードをぼんやり見上げると、クロードの口許が微かに上がっている気がした。
 真剣な話をしているのに、まさか笑っているのかと目を擦ってまた見上げると、クロードは表情のない顔で前を見ていた。マルクは酔っていて見間違えたのかとそれ以上気には留めなかった。

 酔っていたので今日はクロードの屋敷に泊まることになった。もともと、マルクは屋敷の一部屋を仕事用に借りているので、いつものようにそこで適当に寝ようとしたが、なぜかクロードの部屋まで連れていかれた。

「……ん?あれ?クロード様の部屋?書類でも残っていました?」

「酔っているお前に仕事を頼むわけないだろう。さっき言っていただろう。俺に教えてもらうんだろう」

 そう言ってクロードは、マルクをベッドへ投げ飛ばした。

「うわあっ…なにをっ…」

 乱暴に投げ飛ばされて抗議する間もなく、クロードはマルクの上に覆い被さってきた。

「文句を言わずに愛されろ、最高に気持ちよくしてやるから」

「なっ…なっ…ってんんんっーーー!」

 考えるような時間などなく、噛みつくような勢いでクロードは唇に食らいついてきた。

 息をする暇などない、口内をぐるぐると舐め尽くされて、マルクの舌もずぼずぼと吸われた。歯肉も頬の奥も、舌の根元さえも荒々しく刺激される。まるで嵐のようなキスをされた。

 下手くそなキスとフラれた自分が、遠くから唖然とした顔で見ているような気がした。

 口内からは溢れた唾液と涙と鼻水で、マルクの顔は、文字通りぐしゃぐしゃになった。

「はぁはぁはぁ……、クロードさ…ま、どうして……こ…んな……」

「人が愛せないって悩んでいるんだろう。だから、愛がどういうものか、お前に教えてやるんだよ」

「嘘……、だって……、俺は男で……」

「ああ、俺にはそんなの関係ない」

 言葉を喋る時間ももどかしいかのように、クロードはマルクのシャツを一気に引き裂いた。
 先月の給与で買ったちょっと良いものだったが、それが一瞬で破れた布になり、飛んでいったボタンが虚しく床に転がっていくのが見えてマルクは呆然とそれを目で追ってしまった。

「よそ見するとはいい度胸だなマルク」

「……え?……んっ、あああ!ちょっ……いた!」

 クロードは、はだけた胸元に噛みついてきた。いきなり歯をあてられて、切れてはいないと願うが、がぶがふと噛まれて乳首に鋭い痛みがはしった。

「あっあああ……、痛い……クロードさま…やだ…やだぁ…、ああっ……」

「痛いだけじゃないだろう…。ほら、蕾が赤くなってきたじゃないか、こっちもいい色にしてやろう」

 クロードの言う通りだった。痛みで始まったが、乳首を噛られて引っ張られ、吸い付かれて唾を垂らして捏ね回された。
 そうなると、だんだん痛みはどこかへ行って、むずむずとする感覚がマルクを支配してきた。それは、苦しさよりも快楽に近く、まさか自分からこんな声がという甘い声が出てしまった。

「ほら、両方とも美味そうな色になったぞ。思ったより感度も良いじゃないか」

 そう言ってクロードが、がしがしと爪で乳首を引っ掻いたので、マルクは仰け反って体にはしった快感にあられもない声を上げた。

「あぁぁぁんんん!やっあああ!」

「ああ、マルクが良い声で鳴くから、腰にきたじゃないか…、触らないで俺をギンギンに勃たせられるのはお前ぐらいだよマルク……」

「……なに、それ…。しらな……」

 ニヤリと笑ったクロードは、マルクの手を握って自分の股間を触らせた。

「え……すごい……」

 その大きさと硬さにマルクが驚きの声を漏らすと、人のことに驚いていられないだろうと、クロードはマルクのズボンを下着を一気に引き下ろした。
 ぼろりんと、自分のモノが披露されてしまってマルクは恥ずかしくなったが、クロードのことを言っていられないくらい、マルクのそこも大きくなっていた。

「男に乳首を弄られて、こんだけデカくしてたら、もう立派にこっちもイケるってことだ」

 クロードは形をなぞるように直に触ってきて、そのもどかしさにマルクの腰は揺れてしまう。

「ああっ、いやうぅ……、うそぉ……」

「だいたい、女を抱いた時はちゃんと勃起したのか?」

 蕩けそうな頭に冷水をかけられたような質問をされたので、追い詰められていたマルクは思わず泣けてしまった。

 深海のような瞳に大粒の涙を乗せて、うるうるとしているマルクを見てクロードは驚いて思わず手を止めた。

「……マルク、もしかして……」

「……そこまでいかなかったんですよ!あぁ、どうせ俺は童貞ですよ。ほら、もう興が醒めたでしょう!離してください!」

 遊び慣れたクロードのことだから、面倒だと放り出すかと思って顔を上げたマルクは信じられないような光景を見てしまった。

 いつも仮面のようにろくに表情が変わらず作ったような笑顔しかしない男が、獰猛な肉食獸のような顔をして口の端を持ち上げて笑っていたのだ。
 目があっただけで焦げてしまうような強さに、ゾクゾクしたものが全身に駆け巡りマルクの体は震えた。

「そうか……それは嬉しい」

「ひぃぃ!…く…クロードさま?」

 いつも、颯爽と仕事をこなす顔しか見てこなかったマルクが初めて見る、クロードの本当の顔のように思えた。

 クロードは興奮した様子でベットサイドに置かれた小瓶を取って蓋を飛ばすように開けると、それをマルクの下半身にぶちまけた。
 独特のぬるつきからボディーオイルかと思われたが聞く暇もない。

「うわぁっっ!!ぬるぬるする…!つっ冷たい!!」

「悪いな…、全く余裕がない。早くマルクの中に入ってガンガン突きたくてたまらないんだ」

「なっ……!!えええ!!」

 クロードはマルクの足を開いて間に入り込んで、片手でマルクのぺニスを擦りながら、片手で後孔に指を入れた。

「だっ!えっ!うううそっっ、ひぃぃ!」

 突然の性急過ぎる行為に、マルクのモノは萎えかけたが、クロードの巧みな手淫であっという間に形を取り戻し、張りつめるように硬くなった。そして、後ろは突然入り込んできた異物に抵抗をみせたが、オイルの滑りはそれを簡単に突破した。

「はぁはぁんんっ、んぁ……くっっ…ううっ……だめ…ああ……いっ…」

 どんどんと指を増やされて、いつの間にか三本入れられていた。

「んっっあああ!なっ…なんか…そこ、へんっ…、だめ…だめ…、擦らないでぇ…まっしろに…なっちゃうよぉぉ」

「ようやく見つけたぞ。ここか……俺のぺニスで可愛がってやろう」

 我慢できないのか、いつも冷静なクロードが、荒い息をして汗を流していた。その姿を見るとマルクの興奮も高まっていく、体の中で暴れだした熱をどうにかして欲しかった。

 そこでようやくクロードは下着をくつろげて、自分のモノを取り出した。
 赤黒く光るそれは反り返るほど張りつめていて、長くてかなりの大きさだった。

 マルクは目の前に巨大な凶器みたいなのをぶら下げられて、声にならない悲鳴を上げた。

「大丈夫だ。中にもたっぷり香油を入れたから、苦しいのは最初だけだ。すぐに良くなる」

 マルクの返事など少しも待たずに、クロードはその怒張を後孔にあてがってきた。
 そして当然のように、メリメリと中に押し入ってきた。

「あああーーー!!!くっっ…いた……い、くっ…くるし……ううっ…クロードさ…まぁ…」

「くっ…、少し力を抜け…、その方が楽になる」

 そう言われても苦しくてたまらないマルクはクロードの腕を引っ掻きながら暴れた。

 どのくらい経っただろう。やっと力が抜けてきて、クロードのぺニスはゆっくりと押し広げながら入っていった。

「はぁ…、全部入ったぞ…、このじゃじゃ馬め。めちゃくちゃに引っ掻いたな」

「んっふぅ……、クロードさま……おしり……熱い」

「ああ、もっと熱くトロけさせてやる」

 クロードは待ち望んだ瞬間にニヤリと笑ってゆっくりと抜き差しをはじめた。



 □□


「あっあっあっ……、はぁんっっ、だめぇ……、またぁ…またキちゃうぅぅ!!」

 クロードの部屋には明け方近くになってもベッドが軋む音とマルクの矯声が響いていた。
 マルクは口の端からだらだらと涎を垂らしながらもう何度目か分からない絶頂に震えた。もう出し尽くしてしまったマルクのぺニスからは、水滴のようなものがたらりと溢れただけだった。
 すでにマルクはマトモに頭が働かないようで、繰り返し訪れる快感の虜になり、ただ喘ぐだけの人形のようだった。
 目蓋がゆるりと閉じてしまい、また意識を失ったらしい。

「…はぁ…マルク…、またイったのか…、俺はまだまだ足りない…」

 クロードがまた腰を動かし出すと、繋がった間からこぽりと中に放ったものが溢れてきて、じゅばじゅばと音を立てる。
 それがたまらなく気持ちよくて、クロードは止まらない欲望に自分が恐ろしく感じて声を出して笑ってしまった。

 マルクのことが自分の頭を占めるようになったのはいつからだろうとクロードは考えた。

 はっきりとは思い出せない。

 部下として面倒をみるようになってから、しばらくは、からかって遊べる玩具のような存在だった。
 それがいつからか、目で追うようになり、手に入れたい、誰にも渡したくないという独占欲が出てきた。

 しかし彼は男女両方愛せるような器用な男ではなかった。
 年頃の青年らしく女性に興味を持っていて、無理やり自分のものにすれば心まで手に入らないだろうと思った。

 それならば、女性がだめだと思い込ませるのが一番効果的だと思った。

 言うことをきく女はいくらでもいた。

 紹介するといって、予め仕込んだ女を用意した。マルクの友人を利用して紹介させたこともある。

 彼女達に適当に付き合ってもらい、暫くしたら冷たくフッてもらった。
 そして、フラれて傷ついたところにはいつも自分が現れて、マルクの慰め役になった。
 そうやってジワジワと自分の存在をマルクの中に練り込んでいった。

 一人二人ではまだマルクは自信を保っていた。しかし三人目でだいぶ心が暗くなっていて、四人目で完全に折れたのが判った。

 今しかないチャンスにクロードは最後の賭けに出た。ここまで女性に罵倒されて、プライドはズタズタのはずだ。ここで自分が仕掛けて、本気で拒まれたならば、もう望みはないということだった。

 マルクは多少の抵抗は見せたものの、最終的にはクロードを受け入れてくれた。
 何度目かの絶頂では、クロードの背中に爪を立てて、もっともっとやめないでと叫んでいた。

 嬉しい誤算もあった。それは、マルクがまだ誰にも手を出していなかったことだ。
 てっきり年頃の男らしく、何人かは経験したとばかり思っていた。それくらいは許容範囲だと余裕でいたつもりだったが、まだ童貞だったと知ったとき、俺は久々にキレてしまった。
 怒りではなく、鉄壁に保っている理性の方だ。

 正直なところ、興奮しすぎて、かなり乱暴にしてしまった。これが令嬢相手なら平手打ちものだろう。
 そういう意味でもマルクが男であって本当に良かったと思う。

 後は心の方を手に入れれば完全に自分のものだとクロードは笑った。今はそれが時間の問題であることを願うだけだ。

「可哀想に…マルク。俺なんかに好かれて…、可哀想に、女に酷くされて…。聞いているか?愛しているのは俺だけだ。頭の先から足の先まで俺のモノだ…全部愛してやるから…くっ…」

 意識のないマルクを攻め立てて、クロードはまたマルクの奥にたっぷりと注ぎ込んだ。

 意識のない中でも、奥に燃えるような熱を感じたのか、マルクは小さく声を上げて切なげな息を漏らした。

 そんなマルクに口づけて、クロードはまた止まらない快感を体の奥に感じたのだった。



 □□



 朝の爽やかな光、ではなく、すでに正午を迎えた頃、自分のお腹が鳴る音でマルクはやっと目覚めた。

「やっと起きたのか、寝坊助」

 昨夜自分の全てを食らいつくした男は、涼しい顔をしてベッド横の机で書類を書いていた。

「あっ……あの。俺……昨日、クロード様と…」

 素っ裸で寝ていたので、まさか夢だったとは思えないが、ところどころ記憶が曖昧なところがあり、自分がいつ寝たのかもよく覚えていない。

「なんだ、まだヤリ足りないのか?」

「そっ…そんな!もう、十分です!」

 確か傷ついた自分を慰めるためだったのか、愛することを教えるとかそんな理由で押し倒されたのだったかとマルクは必死に頭を整理していた。

「……十分か……それは困るな。これからたくさん愛するつもりでいるに」

 マルクはクロードが何を言っているのか理解できなかった。遊び慣れたこの男は、気まぐれに手を出して、それで終わりではないのだろうかと。

「まさか、俺が遊びでお前に手を出したと思っているのか?心外だな……、俺はこんなにマルクのことを思っているのに……」

「おっ……俺を好き……なのですか?」

「ああ、そうだ」

 まさかそんな風に思われているなんて、マルクは欠片も気づかなかった。いったいいつからなのか、どこがいいのか何もかもが疑問だった。

「……そっ……そんな、だって、最近まで、この部屋に女性をはべらせていたじゃないですか!?」

「ああ、それは溜まればヤりたくなるだろう。それだけの相手だ…。しかし最近はマルクと同じ黒髪じゃないとイケなくて集めるのに苦労したぞ」

「なっ…なっ…」

 驚きで固まるマルクを見て、クロードは書類を書く手を止めて、ベッドに上がってきた。

「本気で口説いているんだが、俺では不満なのか?」

「まっまさか、そんな……でも……」

 動揺で目を泳がせるマルクの頬にクロードは優しく触れてきた。昨日と同じ男だとはとても思えない繊細な触り方だった。

「だって…、俺、男ですよ…。本気なんですか?こっ子供も産めないし…跡取りとか……」

「問題ない、弟はすでに子だくさんだ。お前のところも、姉と妹は子だくさんじゃないか。合わせたら何人いるんだ」

「でっでも…だって…」

「なんだ、マルクはやっぱり女がいいのか?」

 そう言われてマルクは戸惑った。そもそも、男子に生まれたら女性と付き合うものだと思っていたし、それ以外考えていなかった。でも、これだけこっぴどくフラれて続けて、女性への憧れはボロボロに崩れてしまった。
 今はむしろ恐ろしいとさえ思ってしまい、もはや男女の付き合いは恐くてできないと感じる。

「俺にこうやって触れられるのは嫌か?キスもセックスも嫌だったか?」

 マルクは改めてクロードを眺めてみた。少しごつごつした手は女の子の柔らかいものとは全然違う。けれど、自分を癒して快感へと導いてくれたのはこの手だった。
 他の男はと考えたら、絶対に嫌だと思う。だが、クロードの手は拒むことが出来ない。
 温かくて気持ちいいその手に、もっと触れてもらいたいとさえ思ってしまったし、セックスは最高に気持ちが良かった。もう、あれを知ってしまったら、自分がする方はとてもでないができないと思う。

「お前が嫌ならもう触らない。ただの上司と部下に戻ろう。昨日のことは…俺は忘れられないが……、気持ちがないお前なら忘れられるだろう」

 クロードが悲しげな顔で微笑んだ。昨日からずいぶんと初めて見る顔ばかりするので、マルクは戸惑ってしまう。だが、誰にも見せないクロードを自分だけが独占できると思うと、体の奥からどくどくと血が沸き上がってくるように、喜びの熱で何も考えられなくなってきた。
 と同時に、もし、上司と部下に戻るなら、自分以外の女性を抱くクロードを想像してすでに傷ついていた心にもっと痛みがはしった。

「……忘れられないです。ただの上司と部下になんて…戻れません。クロード様、俺を…俺を捨てないでください…。他の女性を抱くクロード様なんて……、おっ俺……、嫌です」

 怖くなったマルクは、クロードにすがるように飛び付いた。そんなマルクをクロードは優しく受け止めてくれた。

「マルク、俺はお前を愛しているのに、捨てるわけないだろう。もう他の女を抱くわけない。全部マルクの代わりだったのだから。愛しいマルクがいるなら、俺は他になにもいらない」

「本当?クロード様は俺をフッたりしないですか?他の女性の時はそこまで思わなかったけど、もしクロード様にフラれたらって考えたら苦しくて……心が痛いです……」

「……可哀想なマルク。女はひどい生き物だな。大丈夫、俺はお前がもう苦しいと思うくらい、愛で包んであげるから。フッたりなんてしない。そんなことを考えられなくなるくらい、毎日愛を注ぎ込んであげよう」

 その天使のような魅力的な誘いにマルクの体は喜びで震えた。まだ愛の形は分からないが、クロードに愛されたいと思うし、自分もクロードを喜ばせることがしたいと思う。
 こんな気持ちを他人に抱いたのは初めてだった。これを愛と呼ぶのかは分からないが、今のマルクには十分に甘い気持ちに思えた。



「クロード様はまるで俺の天使ですね。俺にこんな幸せをくれるなんて……」

 そう言って微笑んだマルクは、クロードの胸に顔をうずめた。
 その柔らかな感触にクロードもまた、沸き上がってくる喜びを隠すので必死だった。

 ついに心まで手に入った。まだ本人は愛か尊敬かで揺れているところだろうが、そんなものは錯覚したままこっちに引っ張り込んでしまえばいい。

 宣言通り、髪の毛一本まで愛しい。どれも自分のものであり、誰にも渡したくない。
 今でさえ、すぐに押し倒して突っ込みたいところを我慢しているのだ。
 限界まで追い詰めて愛の言葉を言うように教えたら、マルクはどんな風になるだろう。想像するだけで達しそうになって、まるで覚えたてのガキだとおかしくなった。

 自分のことを天使だと言ったマルクの言葉はもっとおかしかった。
 そんなものどうだってよかったが、マルクがそう思うなら、しばらく夢を見てもらうのもいいだろうと思った。
 それで離れられなくなった頃に、じっくりさらけ出すのも面白い。

 そんなことを考えながら、マルクを抱き締めたクロードは悪魔のような顔で笑ったのだった。





 □完□
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