運命は、もうほらすぐ近くに

朝顔

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7、抜け出せない

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「十二時に…時計が十二時になる前に、私は帰らないといけないのです」

「そんなっ…せめて、お名前を……!」

 パタパタとシンデレラが階段を駆け下りて舞台から消える。
 追いかけてきた王子は階段に残されたガラスの靴を発見して、それを手に取って空を見上げる。
 そこで暗転。

「はいはーい、今日はここまで。残りたいやつは残って、自由解散ね」

 週が明けて、劇の通常練習は再開した。
 俺は結局日曜日の自主練には参加せずに荷物だけ受け取って帰った。
 親から鬼のように連絡が来ていて、友達の家に忘れたと言ったら散々怒られた。

 完全に道に迷った俺とは違って、劇の方はみんなのやる気でどんどん完璧に仕上がっていた。
 特に先ほど披露された龍崎と比奈川のダンスは息がぴったりで誰もが見入ってしまい、感嘆のため息を漏らした。
 忙しい生徒会活動の傍ら、あんなに完璧にダンスを踊れるように練習していたなんて、考えられなくて言葉が出てこなかった。

「倉橋くん、どうだった?」

 解散が伝えられたら、龍崎は真っ直ぐ俺の方へ歩いてきた。
 役に入り込む必要のない王子様スマイルが眩しすぎて目が眩みそうになった。

「すごいよ……。すごい、完璧だったよ」

「文句のつけようがないな。委員会をサボって練習しただけはある」

 俺の隣で一緒に座って見ていた和幸も皮肉を交えながら称えていた。

「衣装を着たらまた動きが変わるから、転んでも笑わないでね」

 龍崎の後から比奈川も歩いてきて、にこにこと可愛らしく笑っていた。
 その笑顔を見るとツキンと心が痛んだ。

「倉橋くん、ここ、赤くなってる」

「んっ…、ああ、さっきほら、ハンカチを噛んでいたから」

 龍崎がごく自然に俺の唇の端に触れてきた。心臓が揺れたが、驚いて飛び上がったらおかしいので、なんとか平静を保って動かずに耐えた。

 義姉のドリゼラは、パーティ会場の場面で家にいるはずのシンデレラが王子と楽しそうに踊る場面を見て、ハンカチを噛んで大げさに悔しさを表現する。
 ついオーバーにやりすぎて口の端が擦れて赤くなってしまったようだ。と言っても、痛くはないので切れてはいないはずだ。

「……ハンカチはちょっと危険だな。後で監督に言って変えてもらおう」

「は? きっ危険?」

「そうだよ。こんなに赤くなって…痕になったら大変だよ」

 俺の感覚が間違ってなければ、龍崎の言っていることはおかしい。和幸と比奈川もポカンと口を開けて驚いていた。

「倉橋くん…俺疲れちゃった。頑張って踊ったからご褒美ちょうだい……」

「え……っっ、うわぁっっ!」

 龍崎はおかしな言動で周りを固まらせたと思ったら、今度は俺の肩に頭を乗せてきた。
 おまけにスンスンと鼻を鳴らして俺の匂いを嗅いでいる。
 俺は突き飛ばしていいものか、手を上げたが、中途半端な位置で固まってぷるぷると震えていた。

 比奈川の目の前だ。
 何をバカなことをしているのか、頭が真っ白になって言葉が全然出てこない。

 肩口の匂いを嗅いでいると思ったら、龍崎は俺の首筋に唇を寄せてちゅっと吸いついた。

「っっ……」

 龍崎は比奈川達に背を向けているので、何をしているのか見えないかもしれない。
 それでもこんなのは………

「倉橋くん…勃っちゃった」

「…………!!」

 耳元で囁いた龍崎が、ペロリと俺の耳を舐めた。
 嘘だろうと目線を下に向けたら、本当にそこは盛り上がっていて、俺の腰に押し付けられていた。

「おい、翔吾。そろそろ離してやれよ」

 真っ赤になって息を吸い込んだ俺を見て、やっと和幸が入ってきてくれた。
 しかし龍崎が振り向いたら、明らかに主張しているソコがすぐに目に入ってしまう。
 慌てた俺は龍崎の肩を掴んだ。

「りゅ…龍崎、調子悪いみたいなんだ。保健室に連れて行くから……」

「……あ…ああ、分かった」

 和幸は不思議そうな顔をしていたし、比奈川の方なんて怖くて見れなかった。

「俺達、残って作業があるから、何かあったら連絡してくれ」

 俺は龍崎に肩を貸すような格好になり、手を上げて和幸に返事をして二人でその場を離れた。





「おっ……お前、マジで何なの!? んな…あんなところで…二人の前で……」

「言ったでしょ。倉橋くんの匂い嗅ぐとすぐこうなるって。あー、でもその前からキテたな。すごい情熱的な目で見つめられたから……」

「……は?」

「俺がダンスを踊っている時、すごいフェロモン出てた。あんな目で見られたら、興奮するよ」

 すぐに離れたらおかしいので、講堂を出てから肩を支えるようにして歩いていたが、びくっと体が揺れてしまった。

 確かに龍崎が踊る姿に見惚れてしまい、食い入るように見つめてしまった。
 周りは比奈川が可愛いと騒いでいたが、俺は龍崎しか目に入っていなかった。

 悔しがる義姉の演技をしながら、お似合いの二人を見て俺は本当に……

「困ったな。これ…収まらないんだけど……。この時間、保健室の先生…もういないって知ってた?」

 恐る恐る見上げると、龍崎の目が怪しく光っていた。
 どくどくと揺れ続ける心臓。
 いつの間にか手を繋がれて、俺は導かれるように龍崎の後について歩いた。

 これは意味のない行為だ。
 自分にそう言い聞かせながら、すでに繋がれた手が熱くなっていくのを感じていた。







「ほら、ここで見張っててやるから。ベッドのところで一人でヌケよ」

 龍崎が言った通り、保健医は帰宅していて、保健室のドアの前には用のある者は職員室にと書かれた紙が貼ってあった。
 龍崎は慣れた様子でポケットから鍵を取り出してドアを開けてしまった。
 先生から鍵を預かっていて、たまに疲れた時は仮眠させてもらっていると言うから、さすがの特別待遇だと驚いた。

 薄暗い保健室に入って鍵を閉めた。
 後は一人でどうにかしてくれと期待を込めて声をかけた。

「誰も入って来れないから見張りはいらないでしょう。……倉橋くん、来てよ」

「お…俺は………ぁっ、…ちょっ……」

 ドアの辺りでもじもじしていたら、手を引かれてベッドまで連れて来られてしまった。
 カーテンを引かれて、本当に二人きりの狭い空間になってしまい、心臓が騒ぎすぎて壊れてしまいそうだった。

 ぼけっと突っ立っていたら、カチャカチャと音がしてハッとして見ると、龍崎は躊躇いもなくズボンから硬くなったモノを取り出していた。

「お…おまっ…いきなり……!」

「倉橋くん…もう、限界……触って」

 龍崎は興奮に顔を染めて熱い息を吐いていた。切なく細められた目を見て俺はごくりと喉を鳴らした。
 だめだだめだという気持ちが追いやられて熱に支配されていく。

「俺が…ささ…さわるの?」

「うん……触って」

 ベッドに座った龍崎の前に立った俺は、龍崎の大きくなったものにゆっくり手を這わせた。
 その瞬間、龍崎が小さく息を漏らしたのを感じて、俺の腹の奥もぐっと熱くなった。

 龍崎のソレは俺のより一回りくらい大きくて、触れたらどくどくと血が沸き立つような熱さを感じた。
 薄暗い時間帯でよかった。
 明るいところなんかで見たら心臓が壊れてしまうかもしれない。
 膨張した男のモノになど触れたことはなかった。
 どんな気持ちになるかと考えていたが、嫌な気持ちは湧いてこなかった。
 むしろどくどくと興奮が高まってきて止められなくなってきた。
 握ってくれと言われたので、恐る恐る握って擦ってみると、龍崎のモノはびくびくと揺れた。

「すげ……どんどん…硬く……」

「当たり前……倉橋くんの匂い嗅ぎながら…触ってもらえるなんて…も…イキそうな……の我慢してるんだから」

 前回のだってマズイけど、いくらなんでもこれはアウトだろう。
 保健室に連れて行くと言った時、比奈川はどんな顔をしていたのか。
 もうだって、あんなに甘えてきて、こんな距離が近いのなんて怪しいにもほどがある。

 一番悪いのは匂いが好きだからとサカってくる龍崎だが、結果としてそれを受け入れている俺も同罪だ。
 こんなことはだめだと思いながら、感じている龍崎の顔を見たら、身体中熱くてたまらなくなってきた。

「ごめっ……我慢してたけど、も…出そう」

 自分のを触るみたいに龍崎の握って擦っていたら、龍崎の息が荒くなってきたのを感じた。
 そこで我慢していたのか、ぶわっと龍崎フェロモンが溢れてきた。

「ううっぁ……」

 まともにくらった俺はのけぞって鼻と口を押さえた。

「倉橋くんっ…やばっ…出ちゃったかな。そっちも我慢していたんだけど……」

「だ…大丈夫……、発情期はまだ先…だから。本格的なのは……来ないけど……軽いのは……来そう」

 こんなのは言い訳にすぎない。
 頭の中でじゅうぶんにそれを分かっていた。

 はぁはぁと息を漏らしながら、熱のこもった目で龍崎を見つめた。

 手放したのはフェロモンに誘発されたから。
 そう考えれば簡単に鎖を切ることができる。

 頭の端で冷静な自分がクスリと笑った。
 嘘つけ。
 ここに入った時からもう、欲しくてたまらなかったくせに。

「り…りゅ…ざき、あ…熱いよ……」

 甘ったるい喋り方なんて俺に全然似合わない。
 だけどこうなったら止められない。
 どこを触られても舌足らずな言葉と、甘い声が出てしまう。
 俺ははち切れそうなソコを龍崎の足に擦り付けてねだった。

「どうしたいの? 倉橋くん」

「お…れ……俺の…触って……一緒に……」

 これは事故みたいなもの。
 熱に支配された頭の端で俺はまだそんなことを考えて自分を保とうとしていた。

 そんな残されたまともな意識が消える寸前、ぼんやりと見えた視界で、龍崎が笑っていたような気がした。








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