悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

文字の大きさ
5 / 44
第一章

⑤悪い虫に気をつけて

しおりを挟む
「どういうことだ」

 屋敷の執務室でロロルコット伯爵は頭を抱えていた。

「どういうことなんでしょうね」

 さーね知るかよと思いながら、リリアンヌも同じく頭を抱えた。

「そんなぁ、二人とも暗くならないで。喜ばしい事ですわよ。ねぇ、ユージーン」

 一人のんきに明るいのは継母のファニール。

「あぁ僕のせいだ・・・」

 ユージーンにいたっては、頭痛を覚えて眉間に皺を寄せている。

 夏も終わりに近づいたころ。本来であれば、楽しい午後のティータイムだったはず。
 突然の知らせで、ロロルコット家の面々は、執務室に集められた。

「確かに大変名誉な事だが。こういうものは順番があってでな・・・。うちは何分、歴史の浅い伯爵家。それも公爵家のご令嬢の方々を差し置いて、うちがというのは、かなりの反感があってな・・・まずいんだよ色々と・・・」

「嫌だわ、アナタ。そんな事どうともなるじゃない。愛のちからよ!」

 歳を重ねても、ますます小動物っぷりに磨きがかかるファニールが、頬をぷくっと膨らませた。

「ファニールさま、愛と言われましても、いっこうにそんな覚えが・・・」

「リリアンヌちゃんは、箱入り娘ですからねー。その辺の事は、疎いでしょ。だから教えてあげる!ズバリ!一目惚れってやつよ」

「げっ!」

 ファニールの放った矢が、リリアンヌにクリーンヒットして、思わず素が出てしまった。

「あーー!えーと!結局どうすればいいのかな!ねー、姉様。それが知りたいですよね」

 聞き間違いかと目をぱちくりする両親を尻目に、ユージーンが助け船を出した。

「どうしようもないよ。婚約の申し込みがあった以上、うちに選ぶ権利はないよ。行くも地獄行かざるも地獄。リリアンヌは、王太子殿下と婚約することになる」

 約一人をのぞいて、重苦しい空気が流れる中、リリアンヌはある結論にいたった。



(フェルナンド殿下のやつ、巨乳好きだったのか)




 □□□



「あっーーーはははははっっっ!!」

 甲高いボイスで大口開けて爆笑しているのは、ローリエ公爵令嬢。
 王都で開催されたパーティーの後、早速連絡が来て、リリアンヌの家に遊びに来ていた。

「笑い事じゃないよ!それしか考えられないでしょ」

 ローリエなら目尻の涙をハンカチで拭くさまも、優雅で美しく絵になる。

「まさか結論がそれなんて、それ聞いたらあの鉄仮面がどう崩れるかしら。うふっふふふふふっっ」

 ローリエは笑いが止まらなくて、お腹を押さえている。

「なによその、鉄仮面って・・・」

「フェルナンド殿下の事よ。幼少期から人心掌握術に優れていてとても優秀な方よ。いつも微笑んでいらっしゃるけど、一切感情が読めないし、ちょっとの事では動じないから、影では鉄仮面と呼ばれているのよ」

(確かに、なんだか胡散臭い笑顔しているし、ローリエとの会話も聞いていなかったようで、ちゃっかり聞いてたみたいだし)

 これは、もしや腹黒キャラなのではと考えた。
 アルフレッド王子がオレ様キャラで、蘭のタイプであるのに対して、蘭は腹黒キャラを好まない。
 ネチネチしてて気持ち悪いのよと言っていた。
 蘭がフェルナンドルートに積極的でなかったのは、そのせいかもしれない。
 と言っても、そんな事が分かったとして何の意味があるのか。
 いや、何か弱点でも聞いておけば良かったのかもしれない。

「それでー、どうなのよ」

「何が?」

「殿下の事よ!一緒に踊ったんでしょ!どうだったの?」

 ローリエは、持っていたカップを置いて身を乗り出してきた。

 リリアンヌは殿下とのダンスを思い出してみた。優雅なリード、聞こえてくる息づかい、深いグレーの瞳が優しげに細められて、薄い唇が耳元に触れて・・・・・・。

「だぁーーーーーーー!!!!全然何でもない!何も感じない!」

 リリアンヌは真っ赤になって、足をバタつかせた。

「何よそのお子様みたいな反応は・・・、というか、精神的には完全にお子様ね」

「そういうローリエは大丈夫なの?その、殿下の事・・・好きだったんじゃないの?」

「私が!?まさか!確かに、他の公爵家の令嬢方は争奪戦よ。ただ・・・私の場合は別よ」

 そう言うと、ローリエは遠い所を見るみたいに目を細めた。ゲラゲラ笑っていたかと思えば、急に大人びた女性の顔をしていた。

「まぁ・・・、その、言いたくないなら、聞かないよ」

「いいわよ。それじゃフェアじゃないでしょ。私がお慕いしているのは、マクディー男爵のご子息、レイモンド様よ」

「男爵!?そりゃまた、身分違いな・・・」

「そう。幼い頃、お兄様の遊び相手兼世話係りとしてうちに来て、もう一人の兄のように思っていたけど、恋をしていることに気づいてしまったの」

「うんうん」

「なんどもアタックして、なんども振られているけど、諦めきれないのよ」

 奥手な公爵令嬢に見えたローリエだが、ずいぶんと情熱的な人だ。

「まっ、お父様が許してくださる可能性は低いけど、最後まで足掻くわ。私すごくしつこいの」

 ローリエの眩しさと強さに、リリアンヌの中の何かが、ポタリと溶けていくような気がした。


 □□□


 フェルナンド殿下から手紙が来た。

 まず、突然の婚約の申し込みの非礼を詫びていた。リリアンヌが社交界デビュー前に話をまとめておきたかったので、急いでしまったこと。
 当面は殿下もこれから入学する予定のリリアンヌも学園生活があるので、正式な婚姻はまだ先になること。
 お互いの事をもっと知り合いたいと思うので、手紙のやりとりをしたい。
 入学を心待ちにしている。
 とかナンとか、そんな内容だった。

(要するに、悪い虫がつかないようにコトを急いだという事か…)

 殿下の婚約発表は、瞬く間に社交界を駆け巡った。
 あのパーティーに出ていない人は、リリアンヌ?誰それ?状態だし。
 お父様は格上の公爵家の面々から、嫌み嫉みの攻撃に耐える日々。

 リリアンヌも引きこもっているわけにいかなくなり、お茶会やパーティーに引っ張り出される。
 当然女性陣からの妬みの攻撃に合うが、ローリエが公爵令嬢のパワーを使い防いでくれるので、何とか耐えることが出来ている。

 初めはいやいや出していた手紙も、嫌みを練り込んでストレス発散に使わせてもらっている。

「というわけで、今週は2つもパーティーに出席させられてシャンパンをかけられそうになり、機敏に避けましたが持っていたジュースをブルグ子爵のお顔にかけてしまい、大変怒られました。どうか私の平穏な生活をお返しください」

 読み上げながら手紙を書いていると、後ろで聞いていたユージーンがお茶を噴き出してむせた。

「がっゴホッゴホッ…、姉様、そんな手紙を本当に出すんじゃないよね?」

「え?毎回こんな感じよ」

 それを聞いてユージーンは、さーっと青ざめる。

「嘘…殿下はなんて返されるの?」

「苦労をかけてすまないとか、お詫びに大切にするとか、全然返答になってないわよねー」

「…殿下、こんな姉のどこがよかったのか…、美女なら周りにたくさんいらっしゃるのに」

「そうだ!ユージーンからも殿下に連絡してよ。別の人の方が合ってますよって」

「出来るわけないでしょ!!」

 真っ赤な鬼みたいな顔のユージーンに怒られた。みんなストレス溜まっているのね。


 そうこうしているうちに、ユージーンは本国の学園初等部を卒業した。リリアンヌとともに、サファイア王国から入学の案内状が届いた。
 ちなみに、ローリエも同じ年なので、一緒の入学だ。

 サファイア王国の学園なので、基本的に寮生活になる。
 寮と言っても、大きな部屋を与えられて、使用人も連れていくことになる。
 何人連れていっても構わないが、リリアンヌはアニーだけを連れていくことにした。

 自分の家に帰れるのは、学園が休みの時で、特に夏は三ヶ月ほどの長い休みになる。
 男子は三年通う必要があるが、女子は主に社交を学ぶことが目的なので特別な事情がない限り、一年で卒業となる。

 学園内では、授業時間内は制服、終了後はドレスを着られる。
 女子の制服は、紺を基調としたワンピースで、ドレスほどは、広がりがなく、足首の上くらいの長さだ。
 シックで高級感のある作りになっている。
 男子は同じ紺を基調として、シャツにタイ、ブレザーとスラックスというシンプルなもの。

 リリアンヌは制服ワンピースの試着だけで、胸のボタンが何個も弾けとんだ。アニーはボタンの替えが、たくさん必要だと言って焦っていた。

(長かったな……もう少しで、ゲームの舞台になる学園に入学だ)

 学園では、主人公に出会う事になるが、必要以上に近寄らない事を心に誓う。
 しかし、フェルナンド殿下の婚約者として、明らかに目立つであろう立場になってしまい、どう立ち回ろうか考えあぐねていた。

(半年手紙のやりとりをしたが、殿下の気持ちはちっとも変わらない。まぁ、学園には可愛い女子もたくさんいるし、エンジョイしていれば気持ちもきっと変わる。一縷の望みにかけるしかないな)

 リリアンヌとしては、ゲーム内で死亡フラグもないので、焦って何かしなければいけない事もない。

(とにかく穏便に、それだけを考えよう)

 短い冬も終わり、いよいよ入学の時がやってくるのであった。



□□□
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...