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⑦ 触れる喜び
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ダーレンが邸を抜け出したというのに、ホルヴェイン家別邸に戻ると、意外にも邸内は落ち着いていた。
ロランは、護衛の騎士達が大慌てで走っているとか、使用人達が髪を振り乱して声を張り上げているところを想像していた。
しかし、迎えに出てきたルーラーに、すんなりお帰りなさいませと声をかけられたので、拍子抜けしてしまった。
それでもすぐに部屋に連れて行かれたダーレンは、きっとルーラーから厳しく注意されるものだと思うが、ロランの方は、お休みなさいと声をかけられてしまったので、大人しく離れの部屋に戻るしかなかった。
もっとどこへ行っていたのかと、質問攻めになると思っていたのに、考えた古い友人と飲んでいたという言い訳の出番はなくなってしまった。
自分の部屋に戻ったロランは、すっかり暗くなってしまったので、そのままベッドに転がって寝ることにした。
ルーラーの落ち着き方を見ると、ダーレンがこっそり邸を抜け出すのは、初めてではないのかもしれない。
ゴロリとベッドの上で寝返りを打ったロランは、相手は子供のような男だが、久々に誰かに抱きしめられた感覚を思い出していた。
慰める立場だったが、ダーレンの大きな背中は、悪くはなかった。
疲れているはずなのに、眠気が襲ってこない。
頭に浮かんでくるのは、ダーレンのことだった。
バロックからの情報によると、ダーレンを産んだ母親は、ダーレンが四歳の時に病気で亡くなった。
すぐに父親は再婚して、後妻であるベロニカがホルヴェイン家にやってきた。
翌年、夫婦の間に弟になるブライアンが誕生する、その四年後には、妹のリアンナが生まれた。
その頃にダーレンは別邸に移されて、それからずっとここで暮らしてきたそうだ。
貴族の令息として、基本的な教育は受けているが、貴族学校には入学していない。
本宅にいるブライアンは、今年貴族学校を卒業して、リアンナは在学中らしい。
聞かされた内容から見えてきたのは、公爵家の長男に生まれながら、成長が遅いために、家族から離れて、閉じ込められるように暮らしてきた、ダーレンの不遇の日々だった。
健康ではあったが、十歳までまともに歩くことができなかったそうだ。
そんな状態で母を亡くして、頼りになるはずの父親は、近くにいない。
ロランは自分のことのように胸が痛んでしまった。
「バカなことを考えるな。同情してどうなる……。俺は自分の仕事をやるだけだ」
不思議とあれだけ生きても死んでもいいと思っていたのに、今は生き延びるために必死だった。
崖の上に立ってから足掻いているなんて 皮肉だなと思ってしまった。
やることは最低だし、一歩間違えれば崖から真っ逆さまだ。
一日も早くと言われていたが、どう考えてもいい方法が思いつかなくて、ロランは途方に暮れていた。
コツコツとロランの足音が響く。
静かな部屋の中で、円を描くようにロランは歩き回っていた。
部屋の中央では、キャンバスに向かいながら、ダーレンが難しい顔をしていた。
ダーレンの頭の上には、ミカエルが乗っていて、なんとも言えない組み合わせに、気を抜くと笑ってしまいそうになる。
ロランは面白く見ていたが、ダーレンの方は真剣な顔で、手が止まってからしばらく時間が経っていた。
ダーレンのお出かけ騒動から一週間。
授業は変わりなく続いていた。
護衛が張り付くとか、ルーラーの監視の目が強くなると思っていたが、むしろその逆だった。
ロランは部屋の入り口に置かれた水差しを見て、どういうことなのかと首を傾げてしまった。
レッスン中でも、定期的にルーラーが水を運んできていたが、ルーラーはあれから、初めに水差しとコップを載せたワゴン運んできて、入り口に置いて行ってしまうのだ。
そのまま自分で注いで飲むという方式で、ダーレンは慣れた様子で勝手に水を飲んでいる。
忙しいのか分からないが、授業が終わってもルーラーの姿を見ることがない。
仕事をやりやすい環境であり、ロランにとってはまさに好都合なのだが、こんなゆるい状態で大丈夫なのかと心配になっていた。
今日の課題は石膏デッサンだった。
ルーラーに初心者でも描きやすそうな、首から上の石膏像を用意してもらい、それを使ってデッサンをしていた。
ロランから見ると、なかなか良く全体を捉えて描けているが、ダーレンのでは止まり、唸ってばかりいた。
「どうしました? 何か問題がありますか?」
ロランが声をかけると、ダーレンは口をへの字にしたまま顔を上げた。
「……体って頭から下もあるでしょう? これじゃおかしいよ」
「全身の像が描きたいのですか? さすがにここに持ち込むには大きいかと……」
ルーラーに頼めば何とかなりそうだが、簡単に運んで来られるものではない。
どこかから借りるにしても、少なくとも二、三日はかかるだろうなと思っていたら、ダーレンはニコッと笑ってロランのことを指差してきた。
「ロランがいるじゃないか」
「え……わ、私ですか?」
腕を組んで考えていたら、まさかのことを言われて、ロランは目を開いて驚いてしまった。
「私をモデルにしたい、ということですか? ダーレン様、石膏デッサンと生身のモデルとでは、学ぶところも違いますし……」
「人を描きたいんだよ。それなら、ロランがいい。モデルをやったことはないの? ロランにやってもらいたい」
「そ……それは……」
ロランの頭にかつての記憶が蘇ってきた。
師であるガッシュへの尊敬が愛に変わった頃、ロランはよくガッシュの頼みでモデルを引き受けた。
ガッシュのためなら、何だってやった。
裸になれと言われたらその場で脱ぎ、机の上に乗ってポーズをとった。
尊敬するガッシュに自分が描かれていると思うと、ロランの嬉しさと興奮は抑えきれなかった。
ガッシュの手が止まったことが合図になって、どちらともなく動き出して、二人だけのアトリエで獣のように交わった。
そのことを思い出して、気まずくなったロランは、ダーレンから視線を逸らした。
「構いませんが……」
「なら決まり。そこに立って、お願いね」
ただの思いつきに付き合うなんて、勘弁してほしいと思ったが、人について興味を持つのは、いいことではないかと思い始めた。
絵に描くために、触れて感じるという手法を使って、ダーレンの性的な成熟度を調べることができる。
ここは攻めるしかないと考えたロランは、着ていたシャツを脱いで上半身裸になり、ダーレンの前に立った。
「え……お洋服、脱ぐの?」
「人の体を描くなら、人体の構造を知らなければいけません。そのためにはヌードデッサンは必要な過程なのですよ」
そうやってもっともらしく言えば、素直なダーレンは、頷いて分かったと言った。
さすがにズボンを脱ぐのは躊躇われたので、まずは上だけ脱ぐにとどめた。
軽く机の上に手を添えて、ポーズをとったロランのことを、ダーレンは真剣に描き始めた。
しばらくそのまま、ロランはモデルとして身動きせずにいる時間が続いた。
「よし、描けたよ。今日はここまでにする」
ダーレンが満足そうに手を止めたので、ロランは出来具合を確認に行った。
ダーレンの後ろから覗き込むと、まだ輪郭がはっきりしていないが、ロランの全身をきちんと捉えた状態で、しっかりと描かれていた。
「いいですね。なかなかよく描けています」
「ろ……ロラン、そんな格好で……早く、服を着て」
座っているダーレンの横で、触れそうな距離で絵を確認していたら、ダーレンは恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「どうしてですか? 同じ男同士じゃないですか。恥ずかしがることなんてありませんよ」
「そう……だけど、ロランの体……僕のと、全然違うから……」
「どう、違いますか? 具体的に言ってください」
恥ずかしそうにしながらも、ダーレンの目は、興味津々といった輝きで、ロランの体を見ていた。
これは予想外にいい反応だと思ったロランは、もっと攻めてみることにした。
「ほら、ここ……。ピンク色だ。とっても、綺麗な色をしている」
ダーレンが恐る恐ると言った様子で指差したのは、ロランの胸の頂だった。
「……触ってみてください」
「ええっ!?」
「いいですか? 絵を描く時に、実際に触れて触感を確かめることはとても重要です。それによってタッチが変わりますから」
「そ、そうなの? じゃ……じゃあ……」
またもやダーレンを丸め込んで、説得すると、ダーレンは指を一本出して、わずかに震わせながら、ロランの胸に触れてきた。
「……柔らかい」
「女性の胸は分かりますよね? あんな風に豊かな膨らみはありませんが、男の体も触れてみると、場所によって、厚みや、硬さ、柔らかさ、そういったものを感じませんか?」
「うん……すごく柔らかいよ」
「んんっ……」
「ごめっ……痛かった?」
「いえ、大丈夫です。もっと、触れて確かめてください」
ダーレンの拙い触り方が、逆に熱を煽っていき、偶然爪が当たった時、ロランは思わず声を漏らしてしまった。
そんなロランを見て、ダーレンは慌てていたが、もっと触ってほしいと言って胸を押し付けた。
始めは遠慮がちに触っていたダーレンだったが、慣れてくると、形を確かめるように乳首に触れてきた。
「やっぱり違う……、すごい柔らかいし、あれ……少し……大きく……」
「っっ……、もう、ここまでにしましょう」
「え、どうして?」
「性的な喜びをご存知ですか? 人には触れられるとその喜びを感じる場所があります。ここはその場所の一つです。ですから、あまり長く触れられると……」
「わ……ご、ごめん」
ロランが恥ずかしそうに口元を手で隠したら、ダーレンは慌てたようにソコからぱっと手を離した。
いい子ですねと言って微笑んだロランは、椅子にかけていたシャツを取ってすぐに手を通した。
最初はこれでいい。
あまり急いで迫ると、怯えてしまう可能性がある。
もっと反応を見ながら徐々に……
「ねぇ、ロラン。触れる喜びって、嬉しい気持ちになるところ? 一つって言ったよね? それは他にもあるの?」
ダーレンの質問に、ロランはボタンを留めていた手を止めた。
これは予想以上に上手く食いついてくれた。
頬を染めたダーレンは、自分でも理解していないようだったが、わずかに下半身を揺らしていた。
心の成長はどうだか知らないが、体の方は年相応に成長しているらしい。
ダーレンの素直な反応に、少し光が見えた気がした。
「ええ、知りたいですか?」
妖しく微笑んだロランは、ダーレンの耳元に口を寄せて、そう囁いた。
もっと顔を赤くしたダーレンは、こくこくと首を揺らして頷いた。
「では、次からの授業では、そちらについても教えていきましょう。ただ、ルーラーさんに頼まれていたことではなく、これは特別なレッスンなので……」
「ルーラーには言わないよ」
口の前に指を立てたロランは、秘密ですよと言った。
ダーレンは嬉しそうに笑っていた。
その笑顔を見て、ロランの胸はチクリと痛んだ。
(続)
ロランは、護衛の騎士達が大慌てで走っているとか、使用人達が髪を振り乱して声を張り上げているところを想像していた。
しかし、迎えに出てきたルーラーに、すんなりお帰りなさいませと声をかけられたので、拍子抜けしてしまった。
それでもすぐに部屋に連れて行かれたダーレンは、きっとルーラーから厳しく注意されるものだと思うが、ロランの方は、お休みなさいと声をかけられてしまったので、大人しく離れの部屋に戻るしかなかった。
もっとどこへ行っていたのかと、質問攻めになると思っていたのに、考えた古い友人と飲んでいたという言い訳の出番はなくなってしまった。
自分の部屋に戻ったロランは、すっかり暗くなってしまったので、そのままベッドに転がって寝ることにした。
ルーラーの落ち着き方を見ると、ダーレンがこっそり邸を抜け出すのは、初めてではないのかもしれない。
ゴロリとベッドの上で寝返りを打ったロランは、相手は子供のような男だが、久々に誰かに抱きしめられた感覚を思い出していた。
慰める立場だったが、ダーレンの大きな背中は、悪くはなかった。
疲れているはずなのに、眠気が襲ってこない。
頭に浮かんでくるのは、ダーレンのことだった。
バロックからの情報によると、ダーレンを産んだ母親は、ダーレンが四歳の時に病気で亡くなった。
すぐに父親は再婚して、後妻であるベロニカがホルヴェイン家にやってきた。
翌年、夫婦の間に弟になるブライアンが誕生する、その四年後には、妹のリアンナが生まれた。
その頃にダーレンは別邸に移されて、それからずっとここで暮らしてきたそうだ。
貴族の令息として、基本的な教育は受けているが、貴族学校には入学していない。
本宅にいるブライアンは、今年貴族学校を卒業して、リアンナは在学中らしい。
聞かされた内容から見えてきたのは、公爵家の長男に生まれながら、成長が遅いために、家族から離れて、閉じ込められるように暮らしてきた、ダーレンの不遇の日々だった。
健康ではあったが、十歳までまともに歩くことができなかったそうだ。
そんな状態で母を亡くして、頼りになるはずの父親は、近くにいない。
ロランは自分のことのように胸が痛んでしまった。
「バカなことを考えるな。同情してどうなる……。俺は自分の仕事をやるだけだ」
不思議とあれだけ生きても死んでもいいと思っていたのに、今は生き延びるために必死だった。
崖の上に立ってから足掻いているなんて 皮肉だなと思ってしまった。
やることは最低だし、一歩間違えれば崖から真っ逆さまだ。
一日も早くと言われていたが、どう考えてもいい方法が思いつかなくて、ロランは途方に暮れていた。
コツコツとロランの足音が響く。
静かな部屋の中で、円を描くようにロランは歩き回っていた。
部屋の中央では、キャンバスに向かいながら、ダーレンが難しい顔をしていた。
ダーレンの頭の上には、ミカエルが乗っていて、なんとも言えない組み合わせに、気を抜くと笑ってしまいそうになる。
ロランは面白く見ていたが、ダーレンの方は真剣な顔で、手が止まってからしばらく時間が経っていた。
ダーレンのお出かけ騒動から一週間。
授業は変わりなく続いていた。
護衛が張り付くとか、ルーラーの監視の目が強くなると思っていたが、むしろその逆だった。
ロランは部屋の入り口に置かれた水差しを見て、どういうことなのかと首を傾げてしまった。
レッスン中でも、定期的にルーラーが水を運んできていたが、ルーラーはあれから、初めに水差しとコップを載せたワゴン運んできて、入り口に置いて行ってしまうのだ。
そのまま自分で注いで飲むという方式で、ダーレンは慣れた様子で勝手に水を飲んでいる。
忙しいのか分からないが、授業が終わってもルーラーの姿を見ることがない。
仕事をやりやすい環境であり、ロランにとってはまさに好都合なのだが、こんなゆるい状態で大丈夫なのかと心配になっていた。
今日の課題は石膏デッサンだった。
ルーラーに初心者でも描きやすそうな、首から上の石膏像を用意してもらい、それを使ってデッサンをしていた。
ロランから見ると、なかなか良く全体を捉えて描けているが、ダーレンのでは止まり、唸ってばかりいた。
「どうしました? 何か問題がありますか?」
ロランが声をかけると、ダーレンは口をへの字にしたまま顔を上げた。
「……体って頭から下もあるでしょう? これじゃおかしいよ」
「全身の像が描きたいのですか? さすがにここに持ち込むには大きいかと……」
ルーラーに頼めば何とかなりそうだが、簡単に運んで来られるものではない。
どこかから借りるにしても、少なくとも二、三日はかかるだろうなと思っていたら、ダーレンはニコッと笑ってロランのことを指差してきた。
「ロランがいるじゃないか」
「え……わ、私ですか?」
腕を組んで考えていたら、まさかのことを言われて、ロランは目を開いて驚いてしまった。
「私をモデルにしたい、ということですか? ダーレン様、石膏デッサンと生身のモデルとでは、学ぶところも違いますし……」
「人を描きたいんだよ。それなら、ロランがいい。モデルをやったことはないの? ロランにやってもらいたい」
「そ……それは……」
ロランの頭にかつての記憶が蘇ってきた。
師であるガッシュへの尊敬が愛に変わった頃、ロランはよくガッシュの頼みでモデルを引き受けた。
ガッシュのためなら、何だってやった。
裸になれと言われたらその場で脱ぎ、机の上に乗ってポーズをとった。
尊敬するガッシュに自分が描かれていると思うと、ロランの嬉しさと興奮は抑えきれなかった。
ガッシュの手が止まったことが合図になって、どちらともなく動き出して、二人だけのアトリエで獣のように交わった。
そのことを思い出して、気まずくなったロランは、ダーレンから視線を逸らした。
「構いませんが……」
「なら決まり。そこに立って、お願いね」
ただの思いつきに付き合うなんて、勘弁してほしいと思ったが、人について興味を持つのは、いいことではないかと思い始めた。
絵に描くために、触れて感じるという手法を使って、ダーレンの性的な成熟度を調べることができる。
ここは攻めるしかないと考えたロランは、着ていたシャツを脱いで上半身裸になり、ダーレンの前に立った。
「え……お洋服、脱ぐの?」
「人の体を描くなら、人体の構造を知らなければいけません。そのためにはヌードデッサンは必要な過程なのですよ」
そうやってもっともらしく言えば、素直なダーレンは、頷いて分かったと言った。
さすがにズボンを脱ぐのは躊躇われたので、まずは上だけ脱ぐにとどめた。
軽く机の上に手を添えて、ポーズをとったロランのことを、ダーレンは真剣に描き始めた。
しばらくそのまま、ロランはモデルとして身動きせずにいる時間が続いた。
「よし、描けたよ。今日はここまでにする」
ダーレンが満足そうに手を止めたので、ロランは出来具合を確認に行った。
ダーレンの後ろから覗き込むと、まだ輪郭がはっきりしていないが、ロランの全身をきちんと捉えた状態で、しっかりと描かれていた。
「いいですね。なかなかよく描けています」
「ろ……ロラン、そんな格好で……早く、服を着て」
座っているダーレンの横で、触れそうな距離で絵を確認していたら、ダーレンは恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「どうしてですか? 同じ男同士じゃないですか。恥ずかしがることなんてありませんよ」
「そう……だけど、ロランの体……僕のと、全然違うから……」
「どう、違いますか? 具体的に言ってください」
恥ずかしそうにしながらも、ダーレンの目は、興味津々といった輝きで、ロランの体を見ていた。
これは予想外にいい反応だと思ったロランは、もっと攻めてみることにした。
「ほら、ここ……。ピンク色だ。とっても、綺麗な色をしている」
ダーレンが恐る恐ると言った様子で指差したのは、ロランの胸の頂だった。
「……触ってみてください」
「ええっ!?」
「いいですか? 絵を描く時に、実際に触れて触感を確かめることはとても重要です。それによってタッチが変わりますから」
「そ、そうなの? じゃ……じゃあ……」
またもやダーレンを丸め込んで、説得すると、ダーレンは指を一本出して、わずかに震わせながら、ロランの胸に触れてきた。
「……柔らかい」
「女性の胸は分かりますよね? あんな風に豊かな膨らみはありませんが、男の体も触れてみると、場所によって、厚みや、硬さ、柔らかさ、そういったものを感じませんか?」
「うん……すごく柔らかいよ」
「んんっ……」
「ごめっ……痛かった?」
「いえ、大丈夫です。もっと、触れて確かめてください」
ダーレンの拙い触り方が、逆に熱を煽っていき、偶然爪が当たった時、ロランは思わず声を漏らしてしまった。
そんなロランを見て、ダーレンは慌てていたが、もっと触ってほしいと言って胸を押し付けた。
始めは遠慮がちに触っていたダーレンだったが、慣れてくると、形を確かめるように乳首に触れてきた。
「やっぱり違う……、すごい柔らかいし、あれ……少し……大きく……」
「っっ……、もう、ここまでにしましょう」
「え、どうして?」
「性的な喜びをご存知ですか? 人には触れられるとその喜びを感じる場所があります。ここはその場所の一つです。ですから、あまり長く触れられると……」
「わ……ご、ごめん」
ロランが恥ずかしそうに口元を手で隠したら、ダーレンは慌てたようにソコからぱっと手を離した。
いい子ですねと言って微笑んだロランは、椅子にかけていたシャツを取ってすぐに手を通した。
最初はこれでいい。
あまり急いで迫ると、怯えてしまう可能性がある。
もっと反応を見ながら徐々に……
「ねぇ、ロラン。触れる喜びって、嬉しい気持ちになるところ? 一つって言ったよね? それは他にもあるの?」
ダーレンの質問に、ロランはボタンを留めていた手を止めた。
これは予想以上に上手く食いついてくれた。
頬を染めたダーレンは、自分でも理解していないようだったが、わずかに下半身を揺らしていた。
心の成長はどうだか知らないが、体の方は年相応に成長しているらしい。
ダーレンの素直な反応に、少し光が見えた気がした。
「ええ、知りたいですか?」
妖しく微笑んだロランは、ダーレンの耳元に口を寄せて、そう囁いた。
もっと顔を赤くしたダーレンは、こくこくと首を揺らして頷いた。
「では、次からの授業では、そちらについても教えていきましょう。ただ、ルーラーさんに頼まれていたことではなく、これは特別なレッスンなので……」
「ルーラーには言わないよ」
口の前に指を立てたロランは、秘密ですよと言った。
ダーレンは嬉しそうに笑っていた。
その笑顔を見て、ロランの胸はチクリと痛んだ。
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