夜明け前に歌う鳥

朝顔

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終章

エピローグ②

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「はぁ…はぁ……はっ……ぁ……」

 広い応接室の真ん中で、カルセインを壁に押し付けて、俺は口淫に耽っていた。
 ばっくりと食らいついて喉の奥まで飲み込んでから、頭を動かしてじゅばじゅばと唇で擦った。ときおりポッと空気が抜ける音がして、それがなんともイヤらしい。
 天を向いて反り返るように立ち上がったカルセインの欲望は、今にも爆ぜてしまいそうなくらい張り詰めていた。
 裏筋をペロペロと舐めて、音を立てて吸い付いた。部屋の中にカルセインの感じている息の音が響き渡っていた。

「だ…だめた……エミリ…オ、出てしまう……」

 そのままでいいのだと、俺はカルセインの方を見て目を合わせて、唇を離さなかった。もっと深く奥まで飲み込んで、口内で舌を使って亀頭を舐めてぐりぐりと押したら、カルセインはたまらないといと声を上げた。
 もっともっと感じている声を出して欲しい。それが俺は嬉しくてたまらない。

「あっ……エミリオ……はぁはぁ……イッ……イくぞ……もう……っっ! くっっっ……!! ぁぁ………」

 口内でカルセインが爆ぜた。
 俺はごくりと喉を鳴らして、熱い放流を飲み込んだ。
 一滴残らず自分の中に入れないと気が済まない。達したばかりだがまだ硬度を失わない欲望に舌を這わせて、残滓を綺麗に舐めとった。

「……ぁ……っっ……、エミリオ……どうしてこんな……」

 ここまでご奉仕してまだ分からないのかと、俺はカルセインの方を向いて大きく口を開けた。
 変な声しか出なかったが、口を尖らせた後、きの口にゆっくり口を動かした。

 すき

 長い言葉は難しいが、これくらいシンプルな言葉なら口を動かせばだいたい伝わるだろう。

 驚いて口を半開きにしていたカルセインだったが、やっと理解してくれたのだろう、顔が歓喜の赤い色に染まり、嬉しくてたまらないという表情になった。

「……リオも……俺を好きになってくれたのか……?」

 もうだいぶ前からそうなのだが、この男は肝心なところがどうも鈍くて見えないらしい。

 そんなところも好きなのはもうしょうがない。

 俺は大きく頷いて、カルセインの首に絡みつくように抱きついた。

「……嬉しい……。やっと……やっと手に入れることが……。俺の………俺の鳥……」

 動物扱いされているような気がするが、体を震わせてぽろぽろと泣いているカルセインを見たら、仕方ないと背中をぽんぽん叩いてやった。

 好きなら例えが鳥でも物でもいいけど、カルセインだってもう俺だけのものだ。
 すっかり俺より泣き虫になったカルセインを慰めながらぎゅっと抱きしめた。






 月明かりが部屋を包んでいた。
 まるで天井から降り注いで、二人を直接照らしてくれているみたいに明るかった。

 カルセインの部屋のベッドの上、場所を移して二人の時間は続いていた。
 仰向けになった俺の後ろを、カルセインは時間をかけて丁寧にほぐしていた。

「………ぁ………ぁ………っっ」

 うねうねと後孔のナカを動き回って、俺のいいところを擦ってくる。
 その度に息を吸い込んで震えた。
 すでに俺の体を知り尽くしているカルセインはじっくりと責めてきた。

「だいぶ柔らかくなってきたな。でもここを擦るときゅっと締まる。中がうねるように動くぞ」

「…んっ……かぁ………ぐっ……」

 相変わらずくぐもった変な声しか出ない。
 こんな状態で愛してくれるなんて思えなくて、俺は無意識に手を口に当てた。

「エミリオ…、だめだ。手を離して……。ちゃんとエミリオが感じている顔が見たい」

「うぅぅ…うう………」

「なんだ…? もしかして声のこと気にしているのか?」

 だってそうだろう。
 好きも愛しているも言えない。
 変な声しか出ない俺に、カルセインが冷めてしまわないか、それが怖くて仕方がない。

 俺が涙目になって頷くと、カルセインは覆い被さるように重なって強く抱きしめてきた。

「気にすることなんて何もない。言葉は全部俺が言うから……、エミリオが一緒にいてくれるだけで、俺は幸せで……それだけでいい」

 あぁ…またバカなことを考えてしまった。
 カルセインは全部受け止めてくれるのに、俺はまた一人で道に迷いそうになっていた。

 カルセインの背に手を回してぎゅっと抱きしめ返すと、それが合図のように両足を持ち上げられて、カルセインは俺の中に入ってきた。
 久しぶりに感じる熱くて硬いもの。
 それが小さな孔をぐっと押し広げてめりめりとナカを広げていく。
 わずかに感じた痛みも、それを凌駕する快感にかき消されていった。

「ぁぁぁっ………んぁぁっ……」

「くっ……エミリオ……、俺がどれだけお前を愛しているか…。例え指一本動かせなくても……俺はお前を愛し続ける……骨の中まで……髪の一本すら……誰にも渡したくない」

 カルセインの大きなモノが、俺の奥深くまで入っていき、全部収まったらまた二人で抱き合って唇を重ねた。

 ぬちゃぬちゃ、びちゃぴちゃ…、上も下もトロけるように濃厚に重なり合う。
 俺が出した舌にカルセインが舌を絡める。そのままズボズボと吸われながら、後ろもガンガンと突かれると気が狂いそうな快感に涙を流して感じた。

「あ……はぁ………ぁ……あんっ…!!」

 後ろを打たれながら、今度は乳首を噛まれた。指で引っ張られてぐりぐりとこねられると、頭の中で痛みと快感がぐちゃぐちゃになっていく。

 気持ちいい、たまらない。
 もっともっと。
 深く激しく…、俺を愛して…。

 びゅうびゅうと息を吸うように俺はそう叫び続けた。

「ここもここも……全部に痕を残して……残らず全部俺のものだと刻みつけるんだ」

 カルセインは指先にまで食らいついて痕を残していく。堰を切ったように爆ぜる独占欲がたまらなく気持ちいい。
 愛しい人からこんなに狂おしいほど求められて嬉しくないはずがない。

 俺の胸に吸い付くカルセインの髪に手を這われて押し付けるようにぐしゃぐしゃに掴んだ。
 俺を求めて。
 もっともっと。
 全部残さず、足の先までもっと。

 繋がったまま、腰を揺らされる度に気持ちよくてたまらない。
 いつの間にか、ずっとイキっぱなしの感覚が続いて、自分の腹の上にたっぷりと白濁をこぼしていた。

「またイったみたいだな、エミリオ。中が締まって食いちぎられそうだった。さっき口でしてくれたからだいぶもったが、俺もそろそろまた達してしまいそうだ」

 なんだか無性に寂しくなって、上に乗っているカルセインの腰に両足を巻きつけた。
 ずっとこうしていたくて、離れたくなかった。

「うう…うぅ……ううーー……」

「ふふっ……エミリオ…、可愛いことをして……。大丈夫だ、達してもまだ終わるつもりはない。俺だってまだまだ足りないからな」

「う……はっ…っっ」

 俺を見下ろすカルセインの視線が焦げそうなほど熱くて、その目は金色に変わり光り輝いていた。

 真っ暗な夜の世界で、俺だけの月に見られているみたいだった。

「ん……っ……ふっ……っ…っ…っううっ」

 間もなくして激しいピストンが始まった。
 ベッドが軋んで音が鳴り、肉がぶつかり合う音が部屋中に響いた。

 顔を振りながら快感に悶える俺を、カルセインは情欲に燃える金の瞳でずっと見続けていた。

 あの長いペニスの先っぽで、壁を擦られるように最奥を突かれたら、突き抜ける快感にたまらずまた達してしまい、ビクビクと揺れて飛び散った白濁は自分の腹どころか、俺の顔まで飛んできてしまった。
 カルセインは長い舌を出して、頬についたそれを見せつけるようにペロリと舐めた。顔が熱くなって、後ろにぎゅっと力が入った。

「出したものまで可愛いなんて。エミリオはとんでもない悪い子だ。今度は俺のものをたっぷり注いであげよう」

 欲しい欲しい。
 一滴残らず俺のナカに……

 激しく打ちつけた後、奥まで突き入れて腰を揺らしながらカルセインは達した。
 中がビクビクと揺れて、腸壁に熱い飛沫を受けたのを感じた。

「はぁはぁ…はぁ……やっぱり……」

 荒い息を吐きながら、カルセインは妙なことを呟いた。
 後ろから止めどなく続く快感に体を震わせながら、何がやっぱりなのだろうと思ってしまった。

「エミリオ…、目が赤くなっている。どうやら…俺の精を受けると、龍の力が出るようだ」

「……!?」

 それは確か興奮すると変わってしまうというやつで、カルセインの瞳が金色になるのと同じだろう。しかし俺の場合は、そのタイミングに変わるなんて恥ずかしすぎて誰にも言えない。
 こんなこと、もしメイズに追及されたら、もう顔を見て話すことができなくなってしまう。

「知っているか? 昔から白龍の一族と黒龍の一族は仲は悪かったが、体の相性は抜群にいいらしい。お互いの力を補い合うのだと。俺とエミリオは好き同士なのだから、これ以上ない最高の相性だと思わないか?」

 本当にそうだ。気持ちが通じ合って、体も心も満たされるなんて最高の相手だと思う。

 力のおかげかすっかり回復した俺は、ニッと笑ってカルセインを仰向けに倒して上に跨った。
 今度は見下ろされる格好になったカルセインは、ニンマリと嬉しそうに笑った。

「ああ…本当に最高に幸せだ」

 言葉に表せなくても同じ気持ちだ。

 輝く月を下に見ながら、俺も微笑んだ。










 ぽたん



 夜遅く、少し雨が降ったらしい。
 公爵邸の窓際に立つ木から、雨粒が落ちて窓枠に当たる音がした。

 まだ夜が抜けきれない、夜明け前。

 少し前まで長々と抱き合っていたが、二人して疲れ切って気を失うように寝てしまった。
 俺はやはりあの回復力なのか、あんなに激しい行為だったのに、少し寝たらもう体が軽くなって腰の痛みもなくなっていた。

 男娼時代のクセで、たまにこうやって明け方起きてしまうことがある。

 乱れたベッド、隣に眠る男は客ではない。
 俺が最初で最後、心から愛する人だ。
 俺は手を伸ばして、カルセインの頬に軽く触れた。
 するりと指をすべらせて撫でたが、カルセインは変わらず気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 幸せだ。

 こんな日が来るなんて、あの頃は想像もできなかった。
 毎日石を投げられていた子供時代。先の人生に夢も希望もなかった。
 それでも生きて来られたのは、いつか、半分に割れた魂が再び丸くなるように、ピッタリと合う相手が君を待っているという言葉だった。
 自分で作り出した空想だったのか、それとも父が会いにきてくれたのか分からない。
 けれどあの言葉を否定しつつも、心の支えのようにして生きてきた。

 そしてその通り、本当にそんな相手と出会って結ばれることができた。


 窓を見ると外が明るくなり始めていた。
 ベッドを降りた俺は、窓に近寄って空を眺めた。
 東の空に、真っ赤に輝く朝焼けが見えた。

 よく歌わされた花鳥の歌を思い出した。

 花鳥の歌はいなくなった恋人を求めて、鳥が囀るようにいつまでも歌い続けるという悲しい恋の歌。
 悲しいけれど、その人を愛することで歌えなかった歌が歌えるようになった。そして人を愛することで、世界はこんなにも美しいのだと知って、いつかこの気持ちが恋人に届いて欲しいという希望を歌う歌でもある。
 最後はいつかまた会えた日には、必ず愛を歌にして伝えようという歌詞で終わる。


 俺は朝焼けを見ながら口を開いた。
 声は出ないけれど、あのメロディーを頭に思い浮かべながら、花鳥の歌を歌った。

 歌い終わる頃には朝焼けは終わり、本格的な朝の光が空を包んでいた。

「エミリオ、あの歌を歌っていたのか?」

 いつの間にか起きていたらしい。
 ばっと振り返ると、カルセインがベッドに腰掛けながら俺を見て微笑んでいた。

「分かるよ。俺には分かる。エミリオの歌が聞こえてきた……。俺を救ってくれた歌だ」

 君の歌には力がある。
 いつか誰かが言ってくれた言葉を思い出した。
 様々な思いが胸に込み上げてきた。

 いつかまた会えた日には愛を…想いを歌にして…君に伝えたい……。

「どうした? 泣きそうな顔をして……」

 伝えたい。

 俺の気持ち。

「エミリオ、愛しているよ」

 カルセインは微笑みながら両手を広げた。

「…お…おれ……も」

 カルセインの紫の瞳が驚きの色で染まって、大きく目が開かれた。
 走り出した俺は、カルセインの胸に向かって飛び込んだ。

「俺も、愛してる」










 □夜明け前に歌う鳥 完□
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