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弐 夢見た朝
弐 夢見た朝【8】
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翌朝。
それは夢見た朝だった。
皆で、楽しく食卓を囲める平和な朝。
うさぎの形ができないと、あやが泣いた。
代わりに佳矢が自分の作った猫をやろうとして、横から智がそれを取り、大騒ぎになった。
由良と御影がすぐ帰ると聞いて、子供たちが皆、泣いた。
それくらい、幸せな朝で――
「帰るのだな」
「ああ」
霞月は少し残念そうにうつむくと、小さな飾り紐を取り出した。
「この前、取ってしまったのだ」
「え? ああ、俺のだな。なくしたと思ったら、おまえが持ってたのか」
霞月はこくりと頷くと、このまま持っていてもいいだろうかと尋ねた。
御影は軽く霞月に口付けると、頷いた。
「な……何だか恋人同士のようだ。あまり、甘くしないでくれ。別れるのがつらくなる」
「……何だよ、違うのか?」
「ち、違うに決まっているだろう!? そなた、私が好きなわけでもあるまいに! 弄ぶのはよせ! これ以上……かき乱さないでくれ……」
御影は静かに霞月を見た後、何も言わず、霞月の首筋に口付けを落とした。
「み……かげ……!? そなたは、私を苦しめて楽しいのか!」
「割とな」
「なんっ……」
怒る霞月に、御影はあっさり冗談だよと笑った。
けれど、霞月はかえってあやしんだ。
思えば昨日とて、苦しいと言ったら、御影は余計に力を入れて抱き締めたし。
その眼差しに気付いた御影が、にやりと笑う。
「おまえが気付いてないから、混乱するんだろ。気付くまで、いたぶるからな」
「なっ……私が何に気付いていないと言うのだ!」
「俺に聞くな」
「いいや、そなたは信用ならぬ。何か勘違いしているのだ。付き合っておられぬ!」
すっかり腹を立てて行こうとした霞月を、背後から御影が捕らえ、しなやかなその指を、霞月の喉に絡めるようにした。
「御影……!? や、やめよ、やめてくれ、頼む……!」
怯える霞月の耳元に、ささやいた。
「次は抱きに来る。覚悟、しとけよ」
息を呑む霞月を放すと、御影はひらりと馬に跨った。
「そなた……冗談だろう!?」
「本気だ」
「私は抱きがいがないと言ったではないか!」
「次、会う時までにしっかり食べろよ! ちゃんとお前も食べないと、また支給止めるからな」
「なっ……めちゃくちゃだ、いやだ、そなたに抱かれるためなどに食べたくないっ!」
つんつんと、怒る霞月の衣を智が引いた。
「霞月~、帰り際にまで痴話げんかするのやめろよ~」
「黙れっ!」
霞月の剣幕にびっくりして、危うく泣きそうになった智に、御影が言った。
「智、こーゆーのは犬も食わないんだ、触らぬ神に祟りなしだぞ」
智はこくこくと頷いて、二度と口出しすまいと心に誓った。
**――*――**
それからの数ヶ月、皆ひどく忙しかった。
足りない食料を補うため、御影は各郷に赴いては節食指導と食料調達の指導を行い、その一方で、霞月の証言の裏を取り、今後の方針について、何度も会合を重ねた。
一日のうち、馬に乗っている時間が最も長いというくらい、御影は動き回った。
そして御影が動けば動くだけ、その指示を受ける紫苑はじめ一族、他の部族の者も忙しくなるのだから、大変だった。
とはいえ、そのかいあって、食料の方はなんとか、災害をないものとすればメドが立つにいたった。
しかし、だからこそ呪羅に一刻も早く儀式を行わせ、その災害を食い止めるべしと叫ぶ者。
災害はあくまで呪羅の呪いであって、自然現象ではないと譲らない者。
今後の方針の方は、一向にまとまらなかった。
それは夢見た朝だった。
皆で、楽しく食卓を囲める平和な朝。
うさぎの形ができないと、あやが泣いた。
代わりに佳矢が自分の作った猫をやろうとして、横から智がそれを取り、大騒ぎになった。
由良と御影がすぐ帰ると聞いて、子供たちが皆、泣いた。
それくらい、幸せな朝で――
「帰るのだな」
「ああ」
霞月は少し残念そうにうつむくと、小さな飾り紐を取り出した。
「この前、取ってしまったのだ」
「え? ああ、俺のだな。なくしたと思ったら、おまえが持ってたのか」
霞月はこくりと頷くと、このまま持っていてもいいだろうかと尋ねた。
御影は軽く霞月に口付けると、頷いた。
「な……何だか恋人同士のようだ。あまり、甘くしないでくれ。別れるのがつらくなる」
「……何だよ、違うのか?」
「ち、違うに決まっているだろう!? そなた、私が好きなわけでもあるまいに! 弄ぶのはよせ! これ以上……かき乱さないでくれ……」
御影は静かに霞月を見た後、何も言わず、霞月の首筋に口付けを落とした。
「み……かげ……!? そなたは、私を苦しめて楽しいのか!」
「割とな」
「なんっ……」
怒る霞月に、御影はあっさり冗談だよと笑った。
けれど、霞月はかえってあやしんだ。
思えば昨日とて、苦しいと言ったら、御影は余計に力を入れて抱き締めたし。
その眼差しに気付いた御影が、にやりと笑う。
「おまえが気付いてないから、混乱するんだろ。気付くまで、いたぶるからな」
「なっ……私が何に気付いていないと言うのだ!」
「俺に聞くな」
「いいや、そなたは信用ならぬ。何か勘違いしているのだ。付き合っておられぬ!」
すっかり腹を立てて行こうとした霞月を、背後から御影が捕らえ、しなやかなその指を、霞月の喉に絡めるようにした。
「御影……!? や、やめよ、やめてくれ、頼む……!」
怯える霞月の耳元に、ささやいた。
「次は抱きに来る。覚悟、しとけよ」
息を呑む霞月を放すと、御影はひらりと馬に跨った。
「そなた……冗談だろう!?」
「本気だ」
「私は抱きがいがないと言ったではないか!」
「次、会う時までにしっかり食べろよ! ちゃんとお前も食べないと、また支給止めるからな」
「なっ……めちゃくちゃだ、いやだ、そなたに抱かれるためなどに食べたくないっ!」
つんつんと、怒る霞月の衣を智が引いた。
「霞月~、帰り際にまで痴話げんかするのやめろよ~」
「黙れっ!」
霞月の剣幕にびっくりして、危うく泣きそうになった智に、御影が言った。
「智、こーゆーのは犬も食わないんだ、触らぬ神に祟りなしだぞ」
智はこくこくと頷いて、二度と口出しすまいと心に誓った。
**――*――**
それからの数ヶ月、皆ひどく忙しかった。
足りない食料を補うため、御影は各郷に赴いては節食指導と食料調達の指導を行い、その一方で、霞月の証言の裏を取り、今後の方針について、何度も会合を重ねた。
一日のうち、馬に乗っている時間が最も長いというくらい、御影は動き回った。
そして御影が動けば動くだけ、その指示を受ける紫苑はじめ一族、他の部族の者も忙しくなるのだから、大変だった。
とはいえ、そのかいあって、食料の方はなんとか、災害をないものとすればメドが立つにいたった。
しかし、だからこそ呪羅に一刻も早く儀式を行わせ、その災害を食い止めるべしと叫ぶ者。
災害はあくまで呪羅の呪いであって、自然現象ではないと譲らない者。
今後の方針の方は、一向にまとまらなかった。
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