賢者様の仲人事情

冴條玲

文字の大きさ
3 / 79
第一章 賢者様とレオン

1-2. 風曜日の王子様は

しおりを挟む
「アディスは……アディはどうした!」

 お見合い当日、早朝。
 アディスの姿が見えず、王が動転してその侍女に問うと、侍女は言いにくそうに言葉を濁した。

「陛下、今日は風曜日でございますから……」

 風曜日。
 この世界は光曜日と闇曜日が休日で、地、水、火、風、を合わせた六曜日からなる。
 ただし、例外的に風曜日を休日とする者たちがいる。
 たとえば、巫女みこだ。
 参拝が主に光曜日に行われるので、光曜日が一番忙しく、代わりに風曜日に休むのだ。

「まさか……アクール神殿に!?」

 侍女がこくこくとうなずく。
 毎週風曜日になると、アディスはいそいそと身支度を整え、朝も早くから出かけて行く。その日に何の予定があろうとも無視するのだから、手に負えない。おまえの休みは光曜日であって、風曜日ではないと、何度、いさめただろう。
 ちなみに、風曜日はアディスが唯一、女装しない日でもある。

「陛下、ですが、夜会までには必ずお戻りになるとのこと。どうぞ、ここは……」

 王は呻きながら頭を抱えた。
 あの息子には、事態の深刻さがわかっているのだろうか。

「どうでもいいが、今日で何度目だ」

 王の投げやりな質問に、侍女が淡々と答えた。

「今年に入って14度目……通算で78度目の求婚プロポーズです」
「100度ふられたら、いい加減、諦めろと言っておけ」

 どんな美女でもよりどりだろうに、あえて、つれない姫巫女に執着する息子が、王にはわからないのだった。一国の王子がいつまでも独り身では困るのだ。いつまでもおかまでも困るのだが……。



 さて。
 王が心配するほど、アディスが事態の深刻さをわかっていないのかというと、そうではなかった。
 むしろ、のん気者の多いシグルド国内において、事態を最も深刻にとらえているかもしれない者だ。
 アディスの考えでは、もしも見初められてしまったら、コトを平和に収めるためには、自害するしかない。それも、事故死か病死に見せかけなければならない。
 この見合いは命懸けなのだ。
 であれば、その前に一目愛する人に会っておきたい。アディスがそう思ったのは、しごく当然のことだっただろう。

 姫巫女イシス。
 その真実を知るのは、今のところ、アディスただ一人。
 冷たく透き通った瞳の奥に、無防備に過ぎる魂を隠した少女。
 もしもアディスが死んでしまったら、誰がイシスを守るのだろう。あの、心開くことを忘れてしまった少女を――

“ アディス アディス ”

 あの夜を覚えている。
 ただ一度だけ、彼女が彼にすがって泣いた夜。
 もう、誰かにどこかにいかれるのはいやだと、泣いた夜。
 イシスの方はおおむね忘れてしまった夜でも、忘れない。
 彼女が二度と泣かずに済むよう立てた誓いを、アディスは忘れない。


  **――*――**


 アクール神殿に到着すると、アディスはひたと、その白亜の神殿を見た。陽光の中に輝く、光の象徴たる神殿。

 ……。

 求婚に応じてくれとは言わないから、せめてキスくらい、させてもらえるといいなあと、アディスは決意を固めながらたそがれるのだった。ここまで覚悟を決めて大業を為そうという時に、なお勇気づけてもらえない、片思いの立場は非常にツライのである……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...