賢者様の仲人事情

冴條玲

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第二章 カムラ帝国の混沌

2-2. 方術師の反逆

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「うかつでしたな、レオン皇太子」

 一方、その騒ぎも届かない、城の敷地の片隅。そこでまた、別の騒ぎが起ころうとしていた。
 クツクツと、暗い笑みを浮かべる方術師と、その取り巻きたち。神の力を借りる神意の代行者のはずが、何となく、悪役っぽい。

「サルガタナス……」

 ふいに、取り囲まれた時には驚いたけれど。
 レオンはふっと、凍るような憎悪をはらむ笑みを刻んだ。

「僕が一人になるのを待っていたのか。確かに、うかつだったな。なら、さっさと一人になるべきだった」 
「心にもないことを――
 六年前のこと、まさかお忘れではあるまい。よろしいか、死者を冒涜ぼうとくする死霊術など、その存在すら邪悪! まして死霊術師ネクロマンサーが皇族だなど、言語道断! 悔い改め、その道を捨てる証にその左目を潰すなら、命だけは助けてやろうよ」

 悔い改め?
 狂気に近い憎悪と怒りを宿した瞳で、レオンは笑いながら方術師を見た。

「死ぬのは貴様だ! 悔い改めようが、許されると思うな……! 冥界の神は、おまえの神のように慈悲深くはない。命以外のものではあがなえぬ! ――デ・デ・死してなおゼルラム現世を彷徨う永のラティマール屍死人と成り果てよ――狂冥宴アルマグダム!」

 凶悪な笑みを浮かべて、凍てつく呪詞と共に、その左目をくれないに染める。
 死霊術を捨てよという要求に、レオンは死霊術で応えたのだ。絶体絶命にも見える状況下、なお、レオンに交渉する気は無かった。
 数人の刺客しかくが悲鳴を上げて暴れ出した。
 生きながらにして体が腐り出し、ゾンビに変じて行く。呪詛を止めたくば、生贄にその仲間の命を差し出せと、繰り返し響く呪いの声。
 高い技術を要する、ほとんど伝説になった死霊術の一つだった。幻覚を見せ、心を狂わせる。
 死霊術には死霊を操る他に、こういった精神に異常をきたさせるものが数多あまたある。嫌われるゆえんだ。

 ……やはり、レオンの方が断然悪役っぽい。

 レオンは同士討ちを始める刺客たちを後目に、懐から取り出した骨片をまいた。
 赤い、不浄なる光に包まれて、骨片が重力を無視して宙に静止する。

「誰の骨だかわかるか、サルガタナス」

 問われたサルガタナスは、しかし、精神集中を乱すことなく呪文を唱え上げ、先ほどのレオンの術を破った。

「おまえに殺された――
 おまえに恨みを持つ者の骨だ。僕を守る者の骨だ。
 ――高骨霊ガルム!!」

 きゅいいぃぃんと音を立て、骨の欠片かけらから、完全体のスケルトンが生まれ出てくる。

ひるむな! レオン皇子を殺せば死霊どもは朽ちる! 皇子は剣を扱えぬ、聖護符の祝詞を唱えて斬りかかれ!」

 聖護符の祝詞、というのは、死霊術への耐性を高める呪文のことだ。
 すぐ、乱戦になった。
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