新戸けいゆ

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白銀にねむる

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 息を吐くたび、わたしという存在が宙に溶けて消えていくようだと思った。そうであればいいのにと思った。
 ベッドの上で横になって、体から力を抜いて、ただ呼吸する。吐いて、吐いて、吐いて、どうしようもなくなって息を吸うたび泣きたくなるような心地がした。
 結局わたしをすべて溶かしてしまうことなどできないのだった。わたしというものはどうしても外から何かを取り入れなければならないらしい。そうしてずっと、質量を保たねばならないらしい。
 天井がやけに遠い。マットレスに沈み込んでいく。それでもやはりわたしはわたしとしてここにあって、どうしようもなく重い肉体に囚われている。
 ここではないどこか。
 瞼を下すと、白銀の国がある。やわらかな新芽は月光に輝いて、紺碧の林檎の表面をなぞる。すべてが曲線でできていた。直線などひとつもなく、その国のすべてがやわらかくなにかを受け止めようとしていた。ひゅうひゅうと鳴る風の音が誰かから誰かへと意味を運ぶ。うつくしく、醜く、力強く、か弱いものたちの国だ。
 銀の枝が伸びてゆく。その先に見る間に蕾がふくらみ、そうして。
 花開くそのときに、誰かが大声で呼ぶ声がして、しかたなしにわたしは体を起こした。そうしないと、不機嫌にドアを開ける音と叩きつけるような怒鳴り声でもっとひどいことになると知っていたからだった。
 また、わたしの世界はひとつ失われてしまった。
 息を吐く。吐いて、吐いて、苦しくなって吸う。
 わたしというものをこの世界からつくりたくなんてないのに、どうしてもそうでなくてはならないらしい。部屋の外に出ると、焼けたパンの匂いが鼻腔に忍び込んで気持ち悪かった。
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