新戸けいゆ

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青い女

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 それは黒の中にあって鮮烈な青だった。
 しずかな風に巻かれて、髪がゆるやかに揺れていた。隙間から覗く青に見惚れていた。ゆっくりと、その青が私の瞳に映り込んだ。
「だれ」
 凪いだ声が波の音に混ざって耳に触れる。思わず一歩踏み出していた。
 彼女は髪を風に揺れるに任せて、私の瞳を凝と見ていた。夜闇に海はさざめいて、私たちは星月夜に照らされていた。
 絶えず話しかける波や砂の鳴き声は遠く離れてゆき、彼女の青以外のすべてがーー私の呼吸さえもーー失われていく。心地のいい離人感。私の一切が指先からこぼれ落ちそうになる。
 その先にあるものに焦がれていた。彼女に溺れ、底から光を見上げたいと願っていた。
 私を引き戻したのは、彼女の手だった。背が粟立つほどに冷たいそれが頬に添えられて、私ははくりと呼吸を取り戻した。
 青は、私をいっぱいに湛えていた。
「あなたなのね」
 静かな声は月光のようにやわらかで、それでいながらあたたかかった。なんだか懐かしくて、涙が出るような心地がした。
「ああ」
 かすれた自分の声は、波に打ち消されてもおかしくなかった。けれども彼女の耳には確かに届いたようだった。
 笑っていた。私との「再会」を、彼女は確かに喜んでいた。
 彼女を置いていって、今の今までついぞ忘れていた私を、彼女はまだ愛しているのだとその時私は知ったのだった。
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