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幼いころの私が、暗い森の中を歩いている。
なんとなく見覚えのあるこの光景。ああこれは、私の過去の記憶だ。
この頃から私は夜が好きで、その事をよしとしない両親への反発から家を抜け出したのだと記憶している。
そしてさらにこの後、何かあったようなそんな気がするのだが。
がさり。
草むらの陰で、何かが揺れて。
今まさにその何かが起こりそうといった場面で、私の意識がゆっくりと離れていく。
「……ん、ぅ」
内容は朧気で曖昧だが、なにやら久しぶりに夢を見ていた気がする。
「ふわ、ぁぁ……」
ぼさぼさの髪をかき上げて、大きく一欠伸。
窓の外から漏れる光はまだ日が混じっており、完全に暗くはなっていない。
(少し早く、起きちゃったかな)
日の光から隠れるように窓際に座るノル様の姿も、カーテンの影に合わせてゆらゆらと揺れている。
(……ん?)
ノル様の、姿?
『すまない、起こしてしまったかな』
私よりも先に、ノル様が起きている。
ここに来てからの日々、そんなことは一度もなかったというのに。
「ちょ、ちょうどいま目が覚めただけ、でしたので」
ほんの少しの抵抗に手ぐしで髪を整えながら、なんとかそう言葉を返す。
別段身なりに気を配っているわけではないが、寝起きの姿を見られるのはそれなりに恥ずかしい。
いや、ノル様が相手だから、だろうか。
(というかそもそも、なぜにノル様が私の部屋に?)
『今日、市場へ行くと話していたから起こしに来たのだが』
またも私の思考は手の平の上。
ここまでくると心を読まれているのではないかと驚かされる。
『あまりにぐっすり寝ているものだから、起こすのが忍びなくなってね』
「す、すぐに支度をいたしますっ」
あまりにいたたまれなくなって、私は急いで部屋を後にした。
つもりだったのだが。
「あっ」
今までずっと引きこもり続けて、なまりになまったこの身体。
突然すばやく動かせば、どうなるかは分かりきっているわけで。
重心を失った体が思い切り床にたたきつけ、
「……」
「……あ、ありがとうございます」
られなかった。
窓際からドアまで、それなりの距離があるはずなのに。
気づけば私はノル様の腕に抱きかかえられていた。
咄嗟の行動だったからか、いつもなら逸らされてしまう瞳が目の前にある。
前に一度見たときから変わらない、怪しい魅力を奥に秘めた瞳。
ノル様の手から離れたあとも、瞳から目が離せない。
『ケガはないか?』
瞳に呆けている私の視界を遮るように、ノル様が言葉をかけてくる。
「大、丈夫……だと思います、です」
『そうか、よかった』
一連のやり取りが終わると、ノル様の視線はまた明後日の方へ行ってしまった。
もう少し見つめていたかったと思う反面、なぜだかほっとしている自分もいて、奇妙な感覚に頭が混乱してしまう。
(そうだ、支度をしないといけないのだった)
なんとか頭に一つの命令を出して、ふらふらしながらも台所へ向かう。
(やはりノル様は、何か不思議な力を持っていらっしゃるに違いない)
こんなにドキドキしたことは、生まれてこれまで一度もなかった。
これを不思議な力と言わずして、なんというのか。
「お待たせしました、ノル様」
気にしたことのない髪を整え、代わり映えのしない服を少しでもよく見せようとしてしまう。
これもきっと、不思議な力のせいなのだ。
なんとなく見覚えのあるこの光景。ああこれは、私の過去の記憶だ。
この頃から私は夜が好きで、その事をよしとしない両親への反発から家を抜け出したのだと記憶している。
そしてさらにこの後、何かあったようなそんな気がするのだが。
がさり。
草むらの陰で、何かが揺れて。
今まさにその何かが起こりそうといった場面で、私の意識がゆっくりと離れていく。
「……ん、ぅ」
内容は朧気で曖昧だが、なにやら久しぶりに夢を見ていた気がする。
「ふわ、ぁぁ……」
ぼさぼさの髪をかき上げて、大きく一欠伸。
窓の外から漏れる光はまだ日が混じっており、完全に暗くはなっていない。
(少し早く、起きちゃったかな)
日の光から隠れるように窓際に座るノル様の姿も、カーテンの影に合わせてゆらゆらと揺れている。
(……ん?)
ノル様の、姿?
『すまない、起こしてしまったかな』
私よりも先に、ノル様が起きている。
ここに来てからの日々、そんなことは一度もなかったというのに。
「ちょ、ちょうどいま目が覚めただけ、でしたので」
ほんの少しの抵抗に手ぐしで髪を整えながら、なんとかそう言葉を返す。
別段身なりに気を配っているわけではないが、寝起きの姿を見られるのはそれなりに恥ずかしい。
いや、ノル様が相手だから、だろうか。
(というかそもそも、なぜにノル様が私の部屋に?)
『今日、市場へ行くと話していたから起こしに来たのだが』
またも私の思考は手の平の上。
ここまでくると心を読まれているのではないかと驚かされる。
『あまりにぐっすり寝ているものだから、起こすのが忍びなくなってね』
「す、すぐに支度をいたしますっ」
あまりにいたたまれなくなって、私は急いで部屋を後にした。
つもりだったのだが。
「あっ」
今までずっと引きこもり続けて、なまりになまったこの身体。
突然すばやく動かせば、どうなるかは分かりきっているわけで。
重心を失った体が思い切り床にたたきつけ、
「……」
「……あ、ありがとうございます」
られなかった。
窓際からドアまで、それなりの距離があるはずなのに。
気づけば私はノル様の腕に抱きかかえられていた。
咄嗟の行動だったからか、いつもなら逸らされてしまう瞳が目の前にある。
前に一度見たときから変わらない、怪しい魅力を奥に秘めた瞳。
ノル様の手から離れたあとも、瞳から目が離せない。
『ケガはないか?』
瞳に呆けている私の視界を遮るように、ノル様が言葉をかけてくる。
「大、丈夫……だと思います、です」
『そうか、よかった』
一連のやり取りが終わると、ノル様の視線はまた明後日の方へ行ってしまった。
もう少し見つめていたかったと思う反面、なぜだかほっとしている自分もいて、奇妙な感覚に頭が混乱してしまう。
(そうだ、支度をしないといけないのだった)
なんとか頭に一つの命令を出して、ふらふらしながらも台所へ向かう。
(やはりノル様は、何か不思議な力を持っていらっしゃるに違いない)
こんなにドキドキしたことは、生まれてこれまで一度もなかった。
これを不思議な力と言わずして、なんというのか。
「お待たせしました、ノル様」
気にしたことのない髪を整え、代わり映えのしない服を少しでもよく見せようとしてしまう。
これもきっと、不思議な力のせいなのだ。
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