機械油と男爵令嬢 ~婚約破棄されて出会った侯爵様は私を必要としてくれるようです~

ハナミツキ

文字の大きさ
3 / 21

しおりを挟む
「お父様。ステラ、ただいま帰りましたわ」

 工房のドアをがらりと開けると、懐かしい機械油の香りがふわりと広がる。
 ここはいつ帰ってきても変わらない。
 それだけで心に言い知れぬ安心感が湧いてくるのを感じた。

「おおステラ。よく帰ったな」

 工房の奥から人影。
 防塵用のゴーグルをつけ、大きめのつなぎを身にまとったとても貴族には見えないこの人物が、私の父ルト=アイアンギアその人である。
 
「ロイドの調整が必要になった……って、わけではなさそうだな」

「ええお父様、それが……」

 とりあえず私は簡単に、この急な帰省の理由を話すことにした。

「なるほど……シュタインとこの息子が、そんなことを」

 私が全てを話終えると、お父様はゴーグルを外して天井を仰いだ。
 お父様とヴィントの父、シュタイン家の当主は旧知の仲らしく。
 互いの子供の性別が違っていたら婚約をさせよう、なんて気軽に口約束をしてしまうくらいには仲が良かったらしい。

「だからって、シュタイン様に物申すようなことはしないでくださいね、お父様」

「……ステラはそれでいいのか」

 どうやら私が止めなければ、何かしようとしていたらしい。
 せっかくの二人の仲に、こんなくだらないことで亀裂が入ってしまうのは、それこそ忍びない。

「自由にはさせてもらっていましたし、それにヴィントの言っていることにも一理ありますわ」

「……ううむ、しかしな」

 私の機械好きは確実に、そして大いにお父様の影響がある。
 だから今の発言は、お父様にとって少し耳の痛いものだったかもしれない。

「あのね、お父様……」

「……ルト男爵は、いるか」

 私がお父様に労いの言葉をかけようとしたのとほぼ同時に、工房のドアが開け放たれた。

(お客様、かしら?)

 体格のいいお父様より少しだけ背丈の大きなその人物。
 ボサボサの髪を無造作に束ねた髪型と不健康そうな表情から、同業者のようにも見えなくはないが。

「ジン侯爵様、今日はどういった御用で?」

「……右腕の調子が芳しくない。また看てもらえるか」

 どうやらお客様だったようだ。

(でも、うちを病院と勘違いしているのかしら)

 腕を看てくれ、なんていうからそんな考えが一瞬頭をよぎったが。

「では早速、見せて頂いてもよろしいですか」

「……ああ、頼む」

「ロイド、助手を」

「かしこまりました」

 コートに隠されていた右腕が差し出されると、合点がいった。

(魔導義手……!)

 従来の義手と違い、魔力を動力源とすることで精密な動作を可能にした義手。
 大きな魔力を必要とする上に調整も難しいせいで、まだ実用性には乏しいといわれていたはずだったが。

「注ぎ込まれる魔力の量に、義手側が対応しきれていなかったようです」

「……そうか、なかなか難しいものだな」

 魔導義手側対応しきれない魔力とは。
 どうやら侯爵様は凄まじい魔力の持ち主らしい。
 
「とりあえず限界まで許容量をあげてみましたが、またすぐに調整が必要になる可能性が高いです」

「……ふむ」

「ご不便お掛けして申し訳ありません」

「……いや、試作品を無理行って使わせてもらっているのだからな。承知の上だ」

 どうやらこの魔導義手、お父様が作った物らしい。
 そうだろうとは思っていたが、さすがお父様だ。
 なんてことを思っていたら、お父様との会話に興じていた侯爵様の視線が不意にこちらを向いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

処理中です...