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「……他の技師は雇わぬと、言っていなかったか?」
まるで夜の海のように、深い深い青色をたたえた瞳。
よく見ると左右で少しだけ、色が違って見える。
「いえいえ、その子は私の一人娘でして」
「ほう……その恰好、キミも技師なのか?」
「へ? あ、はいっ。そうです」
一瞬、自分に問いが向けられているのだと気づくのが遅れて。
焦って返した返答は、声が素っ頓狂なものになってしまった。
「……腕は、確かか」
「それは……」
自分でいうのもなんだが、そんじょそこらの技師程度であれば負けない自信くらいはある。
だけど侯爵様はお父様のお客様。
さすがにこの魔導義手を前にして、腕が確かと答えられるかは怪しく思えてくる。
「はい。どこで出しても恥ずかしくない娘です」
私が答えあぐねていると、横から勝手にお父様が答えてしまった。
しかもかなり親バカ補正入りで。
「……なるほど、ならば丁度よい」
丁度よいとは何のことだろう、と呑気に考えていた私へ侯爵様は表情をなんら変えることなく、
「この娘、私にくれないか」
「えっ」
とんでもない提案を言い放った。
「なるほど、確かにその方が丁度よいかもしれません」
「えっ」
それに対するお父様の返答も、とんでもないもので。
流れについていけていない私だけが、目を丸くしているという状況になっている。
「……呆けているようだが、大丈夫か」
「まぁ一応、こう見えても年頃の女の子ですので」
「……ふむ?」
侯爵様が立ち上がり、こちらへ数歩分歩み寄る。
確かに婚約破棄されたばかりで問題はないだろうが、貴族の婚約というのは毎度こういう唐突なものなのか。
「……不備が起こるたびここへ通うのも大変だからな」
優しく語りかけるような、それでいて独り言のようにも思える侯爵様の言葉。
「私の屋敷に住み込みで働いてほしい、という意味で言ったものだったのだ」
なるほど、それであればお父様の反応にも合点がいった。
しかしなんだろう、この言い方をされてしまうと。
私が告白されたと勘違いした恥ずかしいやつになってしまうのでは。
いや確かに、その通りではあるのだが。
なんでそんな風にとらえてしまったのか、これが分からない。
気にしていないつもりだったが、捨てられてしまったことに無意識的に思うところでもあったのだろうか。
「……まだ何か、引っかかる部分があるか?」
何も答えない私へ、侯爵様が言葉を加える。
「その、私などでは力不足かと思いますが」
「……キミの父親はこの国、いや世界をみても有数の技師だ」
それについては私もそう思う。
「そんなキミの父が認めているのだ。力不足なはずはない」
正直それについてはだいぶ、親バカが出ている気がするのだが。
視線をずらすとうんうんと頷くお父様の姿が映って、考えを改める。
(お父様は工房を離れるわけにはいかないし、そういう意味では丁度いい……のかも?)
そんな理由で自分を納得させてから、
「それでは僭越ながら、引き受けさせていただきます」
深々と頭を下げて返事を返す。
「……よかった、断られなくて」
私の返答を聞いた侯爵様は、小さく安堵の笑みを漏らした。
目付きと風貌のせいで少し怖い雰囲気が出ているが、笑うとだいぶ印象が変わる。
「しかしそうなると、いろいろと準備も必要ですな」
「うむ」
それからはあれよあれよと話が進み、気づけば私は侯爵様と並んで機械自動車に乗っていた。
まるで夜の海のように、深い深い青色をたたえた瞳。
よく見ると左右で少しだけ、色が違って見える。
「いえいえ、その子は私の一人娘でして」
「ほう……その恰好、キミも技師なのか?」
「へ? あ、はいっ。そうです」
一瞬、自分に問いが向けられているのだと気づくのが遅れて。
焦って返した返答は、声が素っ頓狂なものになってしまった。
「……腕は、確かか」
「それは……」
自分でいうのもなんだが、そんじょそこらの技師程度であれば負けない自信くらいはある。
だけど侯爵様はお父様のお客様。
さすがにこの魔導義手を前にして、腕が確かと答えられるかは怪しく思えてくる。
「はい。どこで出しても恥ずかしくない娘です」
私が答えあぐねていると、横から勝手にお父様が答えてしまった。
しかもかなり親バカ補正入りで。
「……なるほど、ならば丁度よい」
丁度よいとは何のことだろう、と呑気に考えていた私へ侯爵様は表情をなんら変えることなく、
「この娘、私にくれないか」
「えっ」
とんでもない提案を言い放った。
「なるほど、確かにその方が丁度よいかもしれません」
「えっ」
それに対するお父様の返答も、とんでもないもので。
流れについていけていない私だけが、目を丸くしているという状況になっている。
「……呆けているようだが、大丈夫か」
「まぁ一応、こう見えても年頃の女の子ですので」
「……ふむ?」
侯爵様が立ち上がり、こちらへ数歩分歩み寄る。
確かに婚約破棄されたばかりで問題はないだろうが、貴族の婚約というのは毎度こういう唐突なものなのか。
「……不備が起こるたびここへ通うのも大変だからな」
優しく語りかけるような、それでいて独り言のようにも思える侯爵様の言葉。
「私の屋敷に住み込みで働いてほしい、という意味で言ったものだったのだ」
なるほど、それであればお父様の反応にも合点がいった。
しかしなんだろう、この言い方をされてしまうと。
私が告白されたと勘違いした恥ずかしいやつになってしまうのでは。
いや確かに、その通りではあるのだが。
なんでそんな風にとらえてしまったのか、これが分からない。
気にしていないつもりだったが、捨てられてしまったことに無意識的に思うところでもあったのだろうか。
「……まだ何か、引っかかる部分があるか?」
何も答えない私へ、侯爵様が言葉を加える。
「その、私などでは力不足かと思いますが」
「……キミの父親はこの国、いや世界をみても有数の技師だ」
それについては私もそう思う。
「そんなキミの父が認めているのだ。力不足なはずはない」
正直それについてはだいぶ、親バカが出ている気がするのだが。
視線をずらすとうんうんと頷くお父様の姿が映って、考えを改める。
(お父様は工房を離れるわけにはいかないし、そういう意味では丁度いい……のかも?)
そんな理由で自分を納得させてから、
「それでは僭越ながら、引き受けさせていただきます」
深々と頭を下げて返事を返す。
「……よかった、断られなくて」
私の返答を聞いた侯爵様は、小さく安堵の笑みを漏らした。
目付きと風貌のせいで少し怖い雰囲気が出ているが、笑うとだいぶ印象が変わる。
「しかしそうなると、いろいろと準備も必要ですな」
「うむ」
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