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第一章 街
三話
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「……お見苦しい所をお見せしてしまって、申し訳ございません」
まだ目尻に赤みを残した少女が、あなたの方へ正座をし直して言った。なぜか座布団から離れて座りなおしており、座布団の上には犬が鎮座している。
「私は先代様と一緒にここで暮らしていた、めいと申します」
深々と頭を下げためいに釣られて、あなたも頭を下げる。
一緒に暮らしていたと言う事は、祖母は一人暮らしをしていたわけではなかったらしい。先程の桶も普段はめいが使っていたものだろうか。祖母が孤独な暮らしをしていなかったと分かり、何故だか少しほっとした。
「先代様にはとても懇意にしていただきました。後継人様にも精一杯尽くさせていただきたいと思っております」
正座の体勢のままあなたを見上げ、やたら畏まった態度のめいに、あなたは頬を掻く。先程の事象を見る限り、めいも異形なのであろうが、あなたから見れば自分より一回り小さな少女でしかない。
祖母と違いまだ若いあなたは身の回りの世話をしてもらう必要はなく、ましてや女の子にそんなことをさせるのは気が引ける。
そんなあなたの感情が表情に出てしまっていたのか、めいは不安げな視線をあなたに向け、
「やはり、私のような若輩者では力不足にございましょうか……?」
と、消え入りそうな声をあげた。
その声と同じようにめいの姿が再び薄れ、このままあなたが肯定してしまえば本当に消えてしまいそうな気がしたので、あなたは慌てて否定する。これからの事を考えると、人手はいくらあっても困らない。それに好意を無下にする必要もないだろう。
「……ありがとうございます」
再び畏まっためいの頭に、ポンと頭を乗せる。不思議そうな顔で見上げるめいに、あなたは最初のお願いをした。そこまで畏まらず、普通の態度で接して欲しい、と。
めいは少し困ったように表情を崩して、
「……これが平素なのです、後継人様」
そう言って笑った。
それによって気が抜けてしまったのか、めいのお腹がぐぅと大きな音を立てる。小さな体に似合わぬ大きな声にあなたが目を丸くしていると、あなたのお腹もぐぅと鳴った。そういえば、昨日から何も食べていなかった。恐らく外にいためいもそうなのだろう。
「昼食のご用意をいたしますね。後継人様、何か好みがございますか?」
めいが頬を朱に染めながら立ち上がり、あなたにそう聞いてきた。出されたものは基本なんでも食べるあなたは特にない、とめいに言葉を返した。
あなたの返事を聞いためいは、とてとてと台所の方へと歩いて行った。世話役を申し出るだけあって、料理は得意なのだろうか?あなたはもちろん今まで料理などしたことがないので、めいの背中を眺めているだけになる。
「……んしょ」
米を炊くための水を汲もうとめいが庭に降りたところで、あなたも立ち上がる。今まで見ていただけだったが、やっと出番がやってきた。身の回りの世話をしてもらう必要はない、と言っておきながらこのまま見ているだけでは情けない気がしたのだ。
「あ、ありがとうございます、後継人様」
後ろから抱えるような形で一緒に桶を運ぶあなた達。むしろ非効率的な気もしたが、気にしてはいけない。そのまま台所へ桶を運ぶと、あなたは定位置へと戻る。先程触れためいの手の異様な冷たさから、やはり人間ではないのだと再認識させられた。
まぁ、だからと言ってどうというわけではないのだが。
「用意が出来ました、後継人様」
台所から聞こえた声に再びあなたは立ち上がり、お盆を運ぶ手伝いをする。大きなお盆をよたよたと運ぶめいの姿は見た目相当の愛らしさがあり、人ならざる者といった印象は全く受けない。異形とやらが全部このようであるとよいのだが。
ご飯に味噌汁、付けあわせに漬物という質素な食卓だが、料理が上手い人が作ると味噌汁でもこんなにおいしく作れるのだなとあなたは感心した。
親戚の家での食事はレトルトばかりだったというのもあって、久しぶりに食べる誰かの手作り料理にあなたの箸はどんどん進んだ。
「ふふ、おかわりはまだありますからね」
めいが小さく笑いながら、あなたに言う。めいの方を見ると、大きめの皿にご飯と味噌汁を入れて混ぜている所だった。随分と奇抜な食べ方をするのだな、とあなたが視線を向けていると、めいは少し慌てたように手を振り、
「これは私が食べる分ではなく、ポチの分なのです」
そう言ってその皿をそのままちゃぶ台の脇へ置いた。あなたがそのまま皿を追って視線を下げると、そこには犬……いや、ポチの姿があった。
「……何を見ておる、見世物ではないぞ」
ご飯と味噌汁を混ぜたものを食べながら、あなたを睨み付ける犬。昨日まで感じた威厳はどこへやら、今あなたの目の前にいるのは完全にポチだ。なんて言った日にはただではすまないような気がするので、あなたはすぐに視線を食事へと戻す。
結局炊いた分の米を半分ほど食べた所であなたが箸を置き、昼食が終了した。
まだ目尻に赤みを残した少女が、あなたの方へ正座をし直して言った。なぜか座布団から離れて座りなおしており、座布団の上には犬が鎮座している。
「私は先代様と一緒にここで暮らしていた、めいと申します」
深々と頭を下げためいに釣られて、あなたも頭を下げる。
一緒に暮らしていたと言う事は、祖母は一人暮らしをしていたわけではなかったらしい。先程の桶も普段はめいが使っていたものだろうか。祖母が孤独な暮らしをしていなかったと分かり、何故だか少しほっとした。
「先代様にはとても懇意にしていただきました。後継人様にも精一杯尽くさせていただきたいと思っております」
正座の体勢のままあなたを見上げ、やたら畏まった態度のめいに、あなたは頬を掻く。先程の事象を見る限り、めいも異形なのであろうが、あなたから見れば自分より一回り小さな少女でしかない。
祖母と違いまだ若いあなたは身の回りの世話をしてもらう必要はなく、ましてや女の子にそんなことをさせるのは気が引ける。
そんなあなたの感情が表情に出てしまっていたのか、めいは不安げな視線をあなたに向け、
「やはり、私のような若輩者では力不足にございましょうか……?」
と、消え入りそうな声をあげた。
その声と同じようにめいの姿が再び薄れ、このままあなたが肯定してしまえば本当に消えてしまいそうな気がしたので、あなたは慌てて否定する。これからの事を考えると、人手はいくらあっても困らない。それに好意を無下にする必要もないだろう。
「……ありがとうございます」
再び畏まっためいの頭に、ポンと頭を乗せる。不思議そうな顔で見上げるめいに、あなたは最初のお願いをした。そこまで畏まらず、普通の態度で接して欲しい、と。
めいは少し困ったように表情を崩して、
「……これが平素なのです、後継人様」
そう言って笑った。
それによって気が抜けてしまったのか、めいのお腹がぐぅと大きな音を立てる。小さな体に似合わぬ大きな声にあなたが目を丸くしていると、あなたのお腹もぐぅと鳴った。そういえば、昨日から何も食べていなかった。恐らく外にいためいもそうなのだろう。
「昼食のご用意をいたしますね。後継人様、何か好みがございますか?」
めいが頬を朱に染めながら立ち上がり、あなたにそう聞いてきた。出されたものは基本なんでも食べるあなたは特にない、とめいに言葉を返した。
あなたの返事を聞いためいは、とてとてと台所の方へと歩いて行った。世話役を申し出るだけあって、料理は得意なのだろうか?あなたはもちろん今まで料理などしたことがないので、めいの背中を眺めているだけになる。
「……んしょ」
米を炊くための水を汲もうとめいが庭に降りたところで、あなたも立ち上がる。今まで見ていただけだったが、やっと出番がやってきた。身の回りの世話をしてもらう必要はない、と言っておきながらこのまま見ているだけでは情けない気がしたのだ。
「あ、ありがとうございます、後継人様」
後ろから抱えるような形で一緒に桶を運ぶあなた達。むしろ非効率的な気もしたが、気にしてはいけない。そのまま台所へ桶を運ぶと、あなたは定位置へと戻る。先程触れためいの手の異様な冷たさから、やはり人間ではないのだと再認識させられた。
まぁ、だからと言ってどうというわけではないのだが。
「用意が出来ました、後継人様」
台所から聞こえた声に再びあなたは立ち上がり、お盆を運ぶ手伝いをする。大きなお盆をよたよたと運ぶめいの姿は見た目相当の愛らしさがあり、人ならざる者といった印象は全く受けない。異形とやらが全部このようであるとよいのだが。
ご飯に味噌汁、付けあわせに漬物という質素な食卓だが、料理が上手い人が作ると味噌汁でもこんなにおいしく作れるのだなとあなたは感心した。
親戚の家での食事はレトルトばかりだったというのもあって、久しぶりに食べる誰かの手作り料理にあなたの箸はどんどん進んだ。
「ふふ、おかわりはまだありますからね」
めいが小さく笑いながら、あなたに言う。めいの方を見ると、大きめの皿にご飯と味噌汁を入れて混ぜている所だった。随分と奇抜な食べ方をするのだな、とあなたが視線を向けていると、めいは少し慌てたように手を振り、
「これは私が食べる分ではなく、ポチの分なのです」
そう言ってその皿をそのままちゃぶ台の脇へ置いた。あなたがそのまま皿を追って視線を下げると、そこには犬……いや、ポチの姿があった。
「……何を見ておる、見世物ではないぞ」
ご飯と味噌汁を混ぜたものを食べながら、あなたを睨み付ける犬。昨日まで感じた威厳はどこへやら、今あなたの目の前にいるのは完全にポチだ。なんて言った日にはただではすまないような気がするので、あなたはすぐに視線を食事へと戻す。
結局炊いた分の米を半分ほど食べた所であなたが箸を置き、昼食が終了した。
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