祖母のいた場所、あなたの住む街 〜黒髪少女と異形の住む街〜

ハナミツキ

文字の大きさ
8 / 31
第一章 街

八話

しおりを挟む
 夕食を終えたのち、後片付けを終えたあなたは湯船に浸かっていた。少し警戒しながら入口の方を注視していたあなただったが、今回はめいが乱入してくることは無かった。
 前回あんな風になった上に先程の事もあったので、流石に一緒に入るのを止めたのだろうか。何事も無く入浴を終えたあなたは、適当に髪を乾かすと風呂場を後にした。
 風呂場に現れなかっためいの事を考えながら廊下を歩いていると、ふと昨日風呂場で見ためいの姿と、先程見た白布を思い出してしまった。
 変に意識をしてしまうと、めいの顔をまともに見れる気がしない、と思ったあなたは自分の頭の中にほんの少し浮かんでしまった邪念をぶんぶんと振ることで追い出した。

「――」

 ふと何かの視線を感じたあなたは、ちょうどあの夢でボールを蹴りこんだあたりの茂みの方を見る。確かに視線を感じたはずなのだが、そこには誰の姿も無く。
 見えない何かでもいるのではないか、と目を凝らしたあなたの視界の端で短い黒髪が揺れる。あなたに気付かず、めいはそのままとてとてと浴室の方へと歩いて行ってしまった。恐らく、まだ湯が温かいうちに入浴するつもりなのだろう。再び浮かびそうになった邪念を頭を小突く事で振り払い、あなたは再び茂みを見た。
 しかし、確かに感じた誰かの視線は既に消え去り、なんの変哲もない茂みがあるだけだった。変な事を考えていたせいで、誰かに見られでもしているのではないかと神経過敏になり過ぎていたのかもしれない。これ以上おかしな事を考えてしまう前に早く寝てしまった方がいいだろう。あなたは自分で布団を用意すると、そのまま横になった。


 その日の夢はいつもと違い、子供の頃のあなたの姿が無かった。それどころか夢の中だと言うのに誰もおらず、あなたは駄菓子屋の中でポツンと一人座っていた。
 誰かいないか探して回ろうかと思ったのだが、あなたの足はその場で釘付けにされているかのように微動だにしない。

「――」

 ふと視線を感じたあなたは、体を動かさなくても見ることの出来る玄関の方へ視界を動かした。

「――――」

 物言わぬ影はゆっくり、ゆっくりとあなたの方へと近づいてきた。以前見た時は子供のあなたより小さいほどであったはずだが、今はめいの背丈を少し越すほどの大きさになっている。
 影が一歩、一歩と近づくたびにあなたの中で何か蠢いてるような不快感が込み上げ始めた。何とかその不快感から逃れようと体に力を込めるが、あなたの意思に反して体はピクリとも動かない。そんな間にも影は店内を真っ直ぐ、あなたの方へと進んでくる。
 半分ほど進んだところで、影の動きがピタリと止まった。止まった、と言うよりは止められた、と言った方が正しそうな不自然な止まり方だ。

「――」

 あなたの背中の方で、誰かが何かを言った気がした。いや、誰かではない。
あなたへ向けられたその声を、あなたは確かに知っている。体は依然として言う事を聞く気配が無く、振り返りたいという思いだけがあなたの頭をぐるぐると空回りする。
 誰かの手が、後ろからあなたの頬に触れた。しわしわで、温かくて、優しい手。もう、夢の中でしか会えない手。
 あなたは自分を縛る見えない鎖を引きちぎるように、がむしゃらに腕を伸ばした。

「――様――後――様――――後継人様!」

  今度は確かな人の声が聞こえた。あなたの手を優しく握る手は、小さくて、つるつるで、冷たくて。束縛から解放された安堵感が一気にあなたの体を襲い、体が汗だらけのせいかさらに冷たく感じるめいの手をあなたはぎゅっと固く握った。
 驚いて離されてしまうかと思ったが、逆にめいはあなたの手にもう片方の手も添えて、優しく包み込んでくれた。
 どのぐらいそうしていたのか、めいの手にあなたの体温が移り始めた辺りでめいがそっと手を離した。あなたとしてはもう少しそうしていたかったが、頬が朱に染まりきっためいにそれを言うのは酷と言うものだろう。
 あなたは軽い笑みを浮かべながら感謝を述べると、布団から出て立ち上がった。
 めいが台所へ行くのを見送ってから、あなたは汗にまみれた肌着を着替え始めた。二日続けて現れた影は、一体何者なのだろうか。ただの偶然であれば楽な話なのであろうが、とてもそうとは思えないあなたは首を捻る。
 正直な所、小さい頃の記憶の大半が祖母の物であるため、祖母の隣に常にいたポチの事以外はほとんど記憶にないのが本音である。事実、この家にいたであろうめいの事もすっかり記憶から抜け落ちてしまっていたので、あんな影の事は忘れているのが当たり前と言えるだろう。
 しかし、毎晩のように現れて、現れるだけならまだしも害をなされてはたまったものではない。着替え終えたあなたは祖母の座布団の上に座ると、うーんと唸りをあげた。
 ポチならば何か知っているのかもしれないと思っていたが、また朝からどこかへ行ってしまったのか姿が見当たらない。とはいえ探し回ろうにも見当が付く筈も無く、とりあえず今は影の件を置いて、めいが奏でる軽快なまな板の音に耳を傾けることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...