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第一章 街
十三話
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散らばった商品の整理を粗方済ませたあなたは、いつもの場所に座ると疲れた足をぐーっと伸ばした。めいは何か冷たい物を、と台所へいってしまったので、今店先にいるのはあなたと先程の男、そして床でぺたんとしているポチの二人と一匹だ。
文句も言わず無言で店の整理を手伝ってくれていた男だが、その目は依然として細められており、あなたへの敵対心のようなものが透けて出ている。
そんな男にどう声をかけてよいか分からず、あなたは先程二人を止める時に使ったハリセンを手で二、三回ぱしぱしと叩いて視線を泳がせた。
何の意味も無い、間を持たせるためだけの行動だったが、男はそんなあなたが手にしているハリセンをじっと見つめると、
「効いたぞ、小僧。憎らしいことに威力までそっくりだ」
そう呟くと、ハリセンから目を離してどこか遠くを見つめた。きっとこの男も、祖母の事を思い出しているのだろう。
あなたも男の見ている方へと目を向けた。
「にしし、今日も私の勝ちだな、狐」
綺麗な黒髪をたなびかせ、少女が目の前で尻餅を付く男に笑う。所々に土を付けられた男はバンバンと地面を叩くと、指を一本立てて、
「何の……もう一度、もう一度だ!」
と目の前の少女に向けて声を荒げた。
「何度やっても同じだと思うけど……そうだ」
少女も同じように指を一本立てると、少し古い佇まいの店を指し、
「私が勝つたびに、ここの菓子を一束買って行け。その代わり、私が負けた時は……」
見たことも聞いたことも無い、若い頃の祖母の姿が見えたような気がして、あなたは目をゴシゴシと擦る。
もう一度目を見開いた時には、すでにそこはただの床でしかなく、ポチが面倒そうに欠伸をするのが見えただけだった。
「小僧、そこの棚にある菓子を一束持ってこい」
あなたが床を見つめていると、狐が商品棚の一つを指差してそう言った。床から目を上げてそちらを見ると、大小様々な色形をしたガムが並んでいる。
袋を探してあなたがきょろきょろと店内を見回していると、焦れたのか狐は棚の方へと向かい、そのままガッとガムを掴み上げて懐へ投げ込むと、あなたの方へ何かを投げて寄越した。
きらりと金色に光るそれは、時代劇などでしか見たことの無いような代物で、価値は分からないがとても菓子数個に釣り合うものでは無い事だけはあなたにも分かる。
あなたが何か言葉を返すよりも早く、狐はくるりと身を翻してあなたに背を向けた。その背中がもうこれ以上語ることは無い、とあなたに言っているような気がして、出そうとした言葉を飲み込まされる。
そのまま狐は玄関の方へと歩いて行ったが、ふと思い出したように途中で立ち止るとあなたの方を振り返り、
「……ではまたな、小僧」
そう言って小さく笑みを浮かべた。その直後、店内を一陣の風が吹き抜けたかと思うと、まるで元から誰もいなかったかのようにしんと静まり返る。
「あら? お客様は帰られたのですか」
ぽかんとしていたあなたの耳に、盆を運んできためいの声が聞こえた。盆の上には三つの麦茶が乗せられている。
氷が浮かべられた麦茶を見て、先程のやりとりでやけに緊張していたあなたの喉がゴクリと鳴った。
「茶菓子もありますからね、後継人様」
一人分の麦茶を一気に飲み干したあなたに、めいが微笑みながらそう言った。見ればめいも麦茶を手に、茶菓子の煎餅を齧っている。
あなたも習って煎餅を一枚取ると、ぱきりと一齧り。香ばしい醤油の風味を堪能しながら、あなたはめいと風鈴の音を楽しんだ。
「もうこの世におらぬ者との約束を守り続けるとは、律儀な男よ」
「ふん、貴様がそれを言うか駄犬」
「それもそうか、カッカッカ」
「……お互い酔狂なものだな」
「なぁに、この街には酔狂者以外おらぬわ」
「違いないな、はっはっは」
文句も言わず無言で店の整理を手伝ってくれていた男だが、その目は依然として細められており、あなたへの敵対心のようなものが透けて出ている。
そんな男にどう声をかけてよいか分からず、あなたは先程二人を止める時に使ったハリセンを手で二、三回ぱしぱしと叩いて視線を泳がせた。
何の意味も無い、間を持たせるためだけの行動だったが、男はそんなあなたが手にしているハリセンをじっと見つめると、
「効いたぞ、小僧。憎らしいことに威力までそっくりだ」
そう呟くと、ハリセンから目を離してどこか遠くを見つめた。きっとこの男も、祖母の事を思い出しているのだろう。
あなたも男の見ている方へと目を向けた。
「にしし、今日も私の勝ちだな、狐」
綺麗な黒髪をたなびかせ、少女が目の前で尻餅を付く男に笑う。所々に土を付けられた男はバンバンと地面を叩くと、指を一本立てて、
「何の……もう一度、もう一度だ!」
と目の前の少女に向けて声を荒げた。
「何度やっても同じだと思うけど……そうだ」
少女も同じように指を一本立てると、少し古い佇まいの店を指し、
「私が勝つたびに、ここの菓子を一束買って行け。その代わり、私が負けた時は……」
見たことも聞いたことも無い、若い頃の祖母の姿が見えたような気がして、あなたは目をゴシゴシと擦る。
もう一度目を見開いた時には、すでにそこはただの床でしかなく、ポチが面倒そうに欠伸をするのが見えただけだった。
「小僧、そこの棚にある菓子を一束持ってこい」
あなたが床を見つめていると、狐が商品棚の一つを指差してそう言った。床から目を上げてそちらを見ると、大小様々な色形をしたガムが並んでいる。
袋を探してあなたがきょろきょろと店内を見回していると、焦れたのか狐は棚の方へと向かい、そのままガッとガムを掴み上げて懐へ投げ込むと、あなたの方へ何かを投げて寄越した。
きらりと金色に光るそれは、時代劇などでしか見たことの無いような代物で、価値は分からないがとても菓子数個に釣り合うものでは無い事だけはあなたにも分かる。
あなたが何か言葉を返すよりも早く、狐はくるりと身を翻してあなたに背を向けた。その背中がもうこれ以上語ることは無い、とあなたに言っているような気がして、出そうとした言葉を飲み込まされる。
そのまま狐は玄関の方へと歩いて行ったが、ふと思い出したように途中で立ち止るとあなたの方を振り返り、
「……ではまたな、小僧」
そう言って小さく笑みを浮かべた。その直後、店内を一陣の風が吹き抜けたかと思うと、まるで元から誰もいなかったかのようにしんと静まり返る。
「あら? お客様は帰られたのですか」
ぽかんとしていたあなたの耳に、盆を運んできためいの声が聞こえた。盆の上には三つの麦茶が乗せられている。
氷が浮かべられた麦茶を見て、先程のやりとりでやけに緊張していたあなたの喉がゴクリと鳴った。
「茶菓子もありますからね、後継人様」
一人分の麦茶を一気に飲み干したあなたに、めいが微笑みながらそう言った。見ればめいも麦茶を手に、茶菓子の煎餅を齧っている。
あなたも習って煎餅を一枚取ると、ぱきりと一齧り。香ばしい醤油の風味を堪能しながら、あなたはめいと風鈴の音を楽しんだ。
「もうこの世におらぬ者との約束を守り続けるとは、律儀な男よ」
「ふん、貴様がそれを言うか駄犬」
「それもそうか、カッカッカ」
「……お互い酔狂なものだな」
「なぁに、この街には酔狂者以外おらぬわ」
「違いないな、はっはっは」
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