15 / 31
第二章 異形
十五話
しおりを挟む
少し遅めの昼食に見知った犬の姿は無く、ひょろながの店での事もあってあなたは少し気に掛けていた。
どうやらめいも同じらしく、家事の最中にもしきりに縁側の方へ視線を送っては姿が無い事を確認して小さく息を吐いている。
成り行きで一緒にいたが、あなたはポチの事を何も知らない。こんな時にどうかとも思ったが、こんな時だからこそ聞きそびれては二度と聞く事も無さそうだったのであなたはめいに尋ねてみる。
庭先でポンプを動かしていためいは、あなたの声に少し照れたように笑うと、
「私がここへ来た時から一緒でしたので……姿が見えないと変に落ち着かなくって」
そう呟いてから、ポンプを握る手を片方離して頬に当てると、
「以前から度々いなくなることはあったのですが、ここまで頻繁ではなかったので少し心配なのです」
そう続けた。
この様子だと、めいもポチの行方を知らなそうだ。家から自由に出歩くことが出来ない事を考えると当然とも言えるが。
その後もめいはしばらく姿の見えぬ犬の事について憂いていたが、ばしゃばしゃと水が溢れる音で我に帰ると、すぐにポンプを動かす手を止めて桶から離れた。
そんな一連の流れを見て笑っていたあなたは、ふとどこからか視線を感じめいを視界から外した。
最初はあの茂みの方かと思ったがどうも違うらしく、あなたは辺りを見回して気配を探る。そんな様子のあなたを見つめるめいの表情は怪訝な物で、どうやらめいには感じないらしい。
先程の事に気を取られてめいは気付いていないのかもしれないし、あなたの気のせいなだけかもしれないが、用心に越したことはない、とあなたはスリッパをはいて縁側へ降りた。
あなたの横を桶を抱えためいが通り過ぎ、入れ替わるようにあなたが井戸の方へと歩を進めると、ガサリと玄関側の茂みが音を立てた。
どうやら気のせいではなかったらしい、あなたは咄嗟に身構えると、ゆっくりと茂みとの距離を縮めていく。
あと数歩で茂みの中へ手を伸ばせそうな位置まで近づいた所で、再び茂みが大きく揺れ、何かが勢いよく飛び出してきた。
明らかにあなたを狙って飛び出してきた何かへ向かって、あなたも負けじと渾身の手刀を繰り出す。
「むぎゃっ」
ゴツン、と鈍い音がしたかと思うと、ゆっくりとあなたの手に地味だが重い痛みが広がっていく。そんな痛みを誤魔化すようにぶんぶんと手を振りながら、あなたは飛び出してきた何かを確認するために視線を下げた。
俯せで大の字になりピクリとも動かないそいつは、背丈だけで言えばめいとあなたを足して二で割ったほどしかなく、一見ただの子供のようにも見えるが、白装束のような服の隙間から見える青い肌と伏せられた頭からちらりと覗く小さな角から、人間の子供ではない事だけは窺い知れた。
そこまで力を込めたつもりは無かったのだが、どうやらあなたの手刀によって完全に意識を失っているらしく、角の先を指で突いてみても全く反応が無い。
一瞬、ひょろなががやったようにぶん投げてしまおうか、という考えがあなたの頭をよぎったが、持ち上げた時の重量であえなく断念した。
そもそも、普通に人を抱えて投げるなどせいぜい玄関先へ転がすぐらいが限度と言うものだろう。鍛えればいつかあんな風に出来るのだろうか、などとアホらしいことを考えながらあなたはその子供を背負って家の中へと戻ると、めいの名を呼んだ。
思いがけぬ事とはいえ気絶させたのはあなたなので、このまま放置するのも何となく目覚めが悪い気がしたし、何より何でもいいから話を聞かせて欲しかったのだ。
どうやらめいも同じらしく、家事の最中にもしきりに縁側の方へ視線を送っては姿が無い事を確認して小さく息を吐いている。
成り行きで一緒にいたが、あなたはポチの事を何も知らない。こんな時にどうかとも思ったが、こんな時だからこそ聞きそびれては二度と聞く事も無さそうだったのであなたはめいに尋ねてみる。
庭先でポンプを動かしていためいは、あなたの声に少し照れたように笑うと、
「私がここへ来た時から一緒でしたので……姿が見えないと変に落ち着かなくって」
そう呟いてから、ポンプを握る手を片方離して頬に当てると、
「以前から度々いなくなることはあったのですが、ここまで頻繁ではなかったので少し心配なのです」
そう続けた。
この様子だと、めいもポチの行方を知らなそうだ。家から自由に出歩くことが出来ない事を考えると当然とも言えるが。
その後もめいはしばらく姿の見えぬ犬の事について憂いていたが、ばしゃばしゃと水が溢れる音で我に帰ると、すぐにポンプを動かす手を止めて桶から離れた。
そんな一連の流れを見て笑っていたあなたは、ふとどこからか視線を感じめいを視界から外した。
最初はあの茂みの方かと思ったがどうも違うらしく、あなたは辺りを見回して気配を探る。そんな様子のあなたを見つめるめいの表情は怪訝な物で、どうやらめいには感じないらしい。
先程の事に気を取られてめいは気付いていないのかもしれないし、あなたの気のせいなだけかもしれないが、用心に越したことはない、とあなたはスリッパをはいて縁側へ降りた。
あなたの横を桶を抱えためいが通り過ぎ、入れ替わるようにあなたが井戸の方へと歩を進めると、ガサリと玄関側の茂みが音を立てた。
どうやら気のせいではなかったらしい、あなたは咄嗟に身構えると、ゆっくりと茂みとの距離を縮めていく。
あと数歩で茂みの中へ手を伸ばせそうな位置まで近づいた所で、再び茂みが大きく揺れ、何かが勢いよく飛び出してきた。
明らかにあなたを狙って飛び出してきた何かへ向かって、あなたも負けじと渾身の手刀を繰り出す。
「むぎゃっ」
ゴツン、と鈍い音がしたかと思うと、ゆっくりとあなたの手に地味だが重い痛みが広がっていく。そんな痛みを誤魔化すようにぶんぶんと手を振りながら、あなたは飛び出してきた何かを確認するために視線を下げた。
俯せで大の字になりピクリとも動かないそいつは、背丈だけで言えばめいとあなたを足して二で割ったほどしかなく、一見ただの子供のようにも見えるが、白装束のような服の隙間から見える青い肌と伏せられた頭からちらりと覗く小さな角から、人間の子供ではない事だけは窺い知れた。
そこまで力を込めたつもりは無かったのだが、どうやらあなたの手刀によって完全に意識を失っているらしく、角の先を指で突いてみても全く反応が無い。
一瞬、ひょろなががやったようにぶん投げてしまおうか、という考えがあなたの頭をよぎったが、持ち上げた時の重量であえなく断念した。
そもそも、普通に人を抱えて投げるなどせいぜい玄関先へ転がすぐらいが限度と言うものだろう。鍛えればいつかあんな風に出来るのだろうか、などとアホらしいことを考えながらあなたはその子供を背負って家の中へと戻ると、めいの名を呼んだ。
思いがけぬ事とはいえ気絶させたのはあなたなので、このまま放置するのも何となく目覚めが悪い気がしたし、何より何でもいいから話を聞かせて欲しかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる