祖母のいた場所、あなたの住む街 〜黒髪少女と異形の住む街〜

ハナミツキ

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第二章 異形

十六話

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「多く出し過ぎてしまった水が無駄にならなくてよかったです」
 絞った手拭いを鬼の子の額に乗せると、めいはそう言って小さく笑った。
 いつもはあなたの寝ている布団に寝かされている鬼の子の様子をしばらくをしばらく見ていたが、依然として目覚める様子は無く、気付けば日が傾き始めている。
 夕食の用意をする、と告げて部屋を後にしためいに代わり、今度はあなたが手拭いを絞ると、額に乗せなおした。
 ここまで目覚めないと、だんだんと心配になってくる。まさかこのままずっと目覚めないと言う事は流石に無いとは思うが、一応呼吸を確かめるためにあなたは鬼の子の口元へ耳を近づけた。
 確かな呼吸を確認し安心したあなたの耳を、
「うわぁっ」
 と驚きの籠った大声が貫く。
 きーんと右から左へと走った耳鳴りに、ふらふらと頭を振るあなたの隣で鬼の子ががばっと起き上がると、そのまま部屋の隅へ凄い勢いで後ずさり、
「ボ、ボクは食べてもおいしくないよ。ま、まだ小さいし、肉もそんなに……」
 震える声であなたへそう言うと、身をきゅっと縮こまらせた。
 小さい子がここまで怯えるなんて、鬼達の間で祖母は一体どういう風な位置付けなのだろうか。知りたいような、知りたくないような、そんな複雑な気持ちに 溜息を吐きながら、あなたは両手を上げて敵意が無い事をアピールする。
そんなあなたの一挙一動に反応してビクビクと震える姿はまるで小動物のようであり、あなたの中で鬼と言うか、異形全体へのイメージがどんどん変わっていくのを感じた。
 とはいえ、このままでは会話もままならないので、とりあえず警戒を解くためにあなたは慣れない笑みを浮かべてみせた。
「……」
 やはり慣れない事をするものではないらしい。
 鬼の子はさらに警戒を強めたのか、先程よりも縮こまってこちらを見返している。もう一歩歩み寄ろうものなら、それこそ泣き出してしまいそうなほどだ。
そんな鬼の子の姿にあなたが困り果てて頭を掻いていると、背中の方からことんと戸の開く音がして、
「お食事の用意が出来ました……って、後継人様?」
 めいの困惑した声と、旨そうな焼き魚の匂いが部屋に入ってきた。それに続くように、ぐーっと間の抜けた大きな音が部屋の隅で鳴る。
 これはいい助け舟だ、とあなたは鬼の子を夕食に誘ってみる。
 鬼の子はあなたの提案にしばらくあなたとめいの方をじろじろと見つめ返すだけだったが、やはり空腹には勝てなかったのかもう一度こちらの方をちらりと見ると、あなたとめいの間をぴゅーっと抜けて今の方へと走って行ってしまった。
 勝手に夕食の人数を増やしてしまってすまない、とあなたがめいに声を掛けると、
「大丈夫です。元から三人分用意しておりますから」
 と返して、料理を運ぶためかそのままとてとてと台所の方へと向かって歩き出した。
 めいを手伝うためにその背中を追いながら、あなたはなぜ元から三人分用意していたのかを考えてみる。
 一向に姿を見せぬ犬の分か、はたまたこうなることを予想してのことか。
至極どうでもよいことのはずだが、あなたは何故だか変に気になってしまう。
 四の五の考えるより聞いた方が早い、とあなたが口を開きかけた所で、そんなことよりお腹が空いたよ、と言わんばかりにあなたの腹が大きな音を立てた。
くすくすとめいに笑われ、気恥ずかしくなってしまったあなたは、数秒前に考えていたことなどどうでもよくなってしまい、誤魔化すように足早になるとめいを抜いて台所へと向かった。


 よほど空腹だったのか、鬼の子は目の前に出された料理をがつがつと平らげると、めいの分まで半分ほど腹の中に入れたところで腹一杯になったのか、ころりとその場に寝転んで腹を数度擦った。
 あなたはもう一度手刀の一つでもおまけで喰らわせてやろうかと構えるが、おかずを取られた当人が、
「これだけ食べっぷりが良いと、作った甲斐がありますね。後継人様もご遠慮なさらないでくださいね?」
 と言った様子だったので、とりあえず不問とすることにした。
 腹が満たされた事で大分気が緩んでいるのか、手刀を構えたあなたが隣にいても逃げるそぶりを見せないようなので、とりあえず手始めにあなたは鬼の子に名前を聞いてみた。
 問われた鬼の子は伸ばしていた足を少し上げ、その足を降ろす反動で上体だけ起こすと、
「ナナ。みんなはそう呼んでる」
 そう短く答えて、再びばたんと横になった。
 何やら色々と含みのある言い方だったが、その色々に足を突っ込んでも面倒事が増えるだけな気がするので、続けてここへ来た理由を聞いてみることにした。
「……」
 ナナは今度の質問には答えず、そのまま天井を見つめて黙っている。
 待てども返事を返す気はないようなので、あなたは質問を諦めてナナと同じようにごろりと寝転んだ。
先程の怯え方が嘘のようにくつろいでいるナナ。
恐らく原因は、
「どうぞ、麦茶です」
「やった、丁度喉乾いてたとこ!」
「ふふ、それはよかった」
 と言った様子で甘やかしているめいによるところが大きいだろう。
 別にその事は悪い事ではないし、誰にどう接しようとめいの自由だ。
 だが、なぜだか言い表せないイライラというか、なんというか、よく分からない感情が隅にあるのを感じたあなたは、もやもやしながら二人の様子を見つめていた。
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