16 / 31
第二章 異形
十六話
しおりを挟む
「多く出し過ぎてしまった水が無駄にならなくてよかったです」
絞った手拭いを鬼の子の額に乗せると、めいはそう言って小さく笑った。
いつもはあなたの寝ている布団に寝かされている鬼の子の様子をしばらくをしばらく見ていたが、依然として目覚める様子は無く、気付けば日が傾き始めている。
夕食の用意をする、と告げて部屋を後にしためいに代わり、今度はあなたが手拭いを絞ると、額に乗せなおした。
ここまで目覚めないと、だんだんと心配になってくる。まさかこのままずっと目覚めないと言う事は流石に無いとは思うが、一応呼吸を確かめるためにあなたは鬼の子の口元へ耳を近づけた。
確かな呼吸を確認し安心したあなたの耳を、
「うわぁっ」
と驚きの籠った大声が貫く。
きーんと右から左へと走った耳鳴りに、ふらふらと頭を振るあなたの隣で鬼の子ががばっと起き上がると、そのまま部屋の隅へ凄い勢いで後ずさり、
「ボ、ボクは食べてもおいしくないよ。ま、まだ小さいし、肉もそんなに……」
震える声であなたへそう言うと、身をきゅっと縮こまらせた。
小さい子がここまで怯えるなんて、鬼達の間で祖母は一体どういう風な位置付けなのだろうか。知りたいような、知りたくないような、そんな複雑な気持ちに 溜息を吐きながら、あなたは両手を上げて敵意が無い事をアピールする。
そんなあなたの一挙一動に反応してビクビクと震える姿はまるで小動物のようであり、あなたの中で鬼と言うか、異形全体へのイメージがどんどん変わっていくのを感じた。
とはいえ、このままでは会話もままならないので、とりあえず警戒を解くためにあなたは慣れない笑みを浮かべてみせた。
「……」
やはり慣れない事をするものではないらしい。
鬼の子はさらに警戒を強めたのか、先程よりも縮こまってこちらを見返している。もう一歩歩み寄ろうものなら、それこそ泣き出してしまいそうなほどだ。
そんな鬼の子の姿にあなたが困り果てて頭を掻いていると、背中の方からことんと戸の開く音がして、
「お食事の用意が出来ました……って、後継人様?」
めいの困惑した声と、旨そうな焼き魚の匂いが部屋に入ってきた。それに続くように、ぐーっと間の抜けた大きな音が部屋の隅で鳴る。
これはいい助け舟だ、とあなたは鬼の子を夕食に誘ってみる。
鬼の子はあなたの提案にしばらくあなたとめいの方をじろじろと見つめ返すだけだったが、やはり空腹には勝てなかったのかもう一度こちらの方をちらりと見ると、あなたとめいの間をぴゅーっと抜けて今の方へと走って行ってしまった。
勝手に夕食の人数を増やしてしまってすまない、とあなたがめいに声を掛けると、
「大丈夫です。元から三人分用意しておりますから」
と返して、料理を運ぶためかそのままとてとてと台所の方へと向かって歩き出した。
めいを手伝うためにその背中を追いながら、あなたはなぜ元から三人分用意していたのかを考えてみる。
一向に姿を見せぬ犬の分か、はたまたこうなることを予想してのことか。
至極どうでもよいことのはずだが、あなたは何故だか変に気になってしまう。
四の五の考えるより聞いた方が早い、とあなたが口を開きかけた所で、そんなことよりお腹が空いたよ、と言わんばかりにあなたの腹が大きな音を立てた。
くすくすとめいに笑われ、気恥ずかしくなってしまったあなたは、数秒前に考えていたことなどどうでもよくなってしまい、誤魔化すように足早になるとめいを抜いて台所へと向かった。
よほど空腹だったのか、鬼の子は目の前に出された料理をがつがつと平らげると、めいの分まで半分ほど腹の中に入れたところで腹一杯になったのか、ころりとその場に寝転んで腹を数度擦った。
あなたはもう一度手刀の一つでもおまけで喰らわせてやろうかと構えるが、おかずを取られた当人が、
「これだけ食べっぷりが良いと、作った甲斐がありますね。後継人様もご遠慮なさらないでくださいね?」
と言った様子だったので、とりあえず不問とすることにした。
腹が満たされた事で大分気が緩んでいるのか、手刀を構えたあなたが隣にいても逃げるそぶりを見せないようなので、とりあえず手始めにあなたは鬼の子に名前を聞いてみた。
問われた鬼の子は伸ばしていた足を少し上げ、その足を降ろす反動で上体だけ起こすと、
「ナナ。みんなはそう呼んでる」
そう短く答えて、再びばたんと横になった。
何やら色々と含みのある言い方だったが、その色々に足を突っ込んでも面倒事が増えるだけな気がするので、続けてここへ来た理由を聞いてみることにした。
「……」
ナナは今度の質問には答えず、そのまま天井を見つめて黙っている。
待てども返事を返す気はないようなので、あなたは質問を諦めてナナと同じようにごろりと寝転んだ。
先程の怯え方が嘘のようにくつろいでいるナナ。
恐らく原因は、
「どうぞ、麦茶です」
「やった、丁度喉乾いてたとこ!」
「ふふ、それはよかった」
と言った様子で甘やかしているめいによるところが大きいだろう。
別にその事は悪い事ではないし、誰にどう接しようとめいの自由だ。
だが、なぜだか言い表せないイライラというか、なんというか、よく分からない感情が隅にあるのを感じたあなたは、もやもやしながら二人の様子を見つめていた。
絞った手拭いを鬼の子の額に乗せると、めいはそう言って小さく笑った。
いつもはあなたの寝ている布団に寝かされている鬼の子の様子をしばらくをしばらく見ていたが、依然として目覚める様子は無く、気付けば日が傾き始めている。
夕食の用意をする、と告げて部屋を後にしためいに代わり、今度はあなたが手拭いを絞ると、額に乗せなおした。
ここまで目覚めないと、だんだんと心配になってくる。まさかこのままずっと目覚めないと言う事は流石に無いとは思うが、一応呼吸を確かめるためにあなたは鬼の子の口元へ耳を近づけた。
確かな呼吸を確認し安心したあなたの耳を、
「うわぁっ」
と驚きの籠った大声が貫く。
きーんと右から左へと走った耳鳴りに、ふらふらと頭を振るあなたの隣で鬼の子ががばっと起き上がると、そのまま部屋の隅へ凄い勢いで後ずさり、
「ボ、ボクは食べてもおいしくないよ。ま、まだ小さいし、肉もそんなに……」
震える声であなたへそう言うと、身をきゅっと縮こまらせた。
小さい子がここまで怯えるなんて、鬼達の間で祖母は一体どういう風な位置付けなのだろうか。知りたいような、知りたくないような、そんな複雑な気持ちに 溜息を吐きながら、あなたは両手を上げて敵意が無い事をアピールする。
そんなあなたの一挙一動に反応してビクビクと震える姿はまるで小動物のようであり、あなたの中で鬼と言うか、異形全体へのイメージがどんどん変わっていくのを感じた。
とはいえ、このままでは会話もままならないので、とりあえず警戒を解くためにあなたは慣れない笑みを浮かべてみせた。
「……」
やはり慣れない事をするものではないらしい。
鬼の子はさらに警戒を強めたのか、先程よりも縮こまってこちらを見返している。もう一歩歩み寄ろうものなら、それこそ泣き出してしまいそうなほどだ。
そんな鬼の子の姿にあなたが困り果てて頭を掻いていると、背中の方からことんと戸の開く音がして、
「お食事の用意が出来ました……って、後継人様?」
めいの困惑した声と、旨そうな焼き魚の匂いが部屋に入ってきた。それに続くように、ぐーっと間の抜けた大きな音が部屋の隅で鳴る。
これはいい助け舟だ、とあなたは鬼の子を夕食に誘ってみる。
鬼の子はあなたの提案にしばらくあなたとめいの方をじろじろと見つめ返すだけだったが、やはり空腹には勝てなかったのかもう一度こちらの方をちらりと見ると、あなたとめいの間をぴゅーっと抜けて今の方へと走って行ってしまった。
勝手に夕食の人数を増やしてしまってすまない、とあなたがめいに声を掛けると、
「大丈夫です。元から三人分用意しておりますから」
と返して、料理を運ぶためかそのままとてとてと台所の方へと向かって歩き出した。
めいを手伝うためにその背中を追いながら、あなたはなぜ元から三人分用意していたのかを考えてみる。
一向に姿を見せぬ犬の分か、はたまたこうなることを予想してのことか。
至極どうでもよいことのはずだが、あなたは何故だか変に気になってしまう。
四の五の考えるより聞いた方が早い、とあなたが口を開きかけた所で、そんなことよりお腹が空いたよ、と言わんばかりにあなたの腹が大きな音を立てた。
くすくすとめいに笑われ、気恥ずかしくなってしまったあなたは、数秒前に考えていたことなどどうでもよくなってしまい、誤魔化すように足早になるとめいを抜いて台所へと向かった。
よほど空腹だったのか、鬼の子は目の前に出された料理をがつがつと平らげると、めいの分まで半分ほど腹の中に入れたところで腹一杯になったのか、ころりとその場に寝転んで腹を数度擦った。
あなたはもう一度手刀の一つでもおまけで喰らわせてやろうかと構えるが、おかずを取られた当人が、
「これだけ食べっぷりが良いと、作った甲斐がありますね。後継人様もご遠慮なさらないでくださいね?」
と言った様子だったので、とりあえず不問とすることにした。
腹が満たされた事で大分気が緩んでいるのか、手刀を構えたあなたが隣にいても逃げるそぶりを見せないようなので、とりあえず手始めにあなたは鬼の子に名前を聞いてみた。
問われた鬼の子は伸ばしていた足を少し上げ、その足を降ろす反動で上体だけ起こすと、
「ナナ。みんなはそう呼んでる」
そう短く答えて、再びばたんと横になった。
何やら色々と含みのある言い方だったが、その色々に足を突っ込んでも面倒事が増えるだけな気がするので、続けてここへ来た理由を聞いてみることにした。
「……」
ナナは今度の質問には答えず、そのまま天井を見つめて黙っている。
待てども返事を返す気はないようなので、あなたは質問を諦めてナナと同じようにごろりと寝転んだ。
先程の怯え方が嘘のようにくつろいでいるナナ。
恐らく原因は、
「どうぞ、麦茶です」
「やった、丁度喉乾いてたとこ!」
「ふふ、それはよかった」
と言った様子で甘やかしているめいによるところが大きいだろう。
別にその事は悪い事ではないし、誰にどう接しようとめいの自由だ。
だが、なぜだか言い表せないイライラというか、なんというか、よく分からない感情が隅にあるのを感じたあなたは、もやもやしながら二人の様子を見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる