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第三章 人
二十八話
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腹の調子を悪くしたあなたがトイレに籠っている間に、ちゃぶ台の上から散らかった台所まであらかためいが片付けてしまったらしく、手伝おうと思っていたのに、とあなたは手持無沙汰に縁側へ座った。
大の字になってぐったりしているポチの頭を撫でながら、あなたはめいが昔語りで話していたことを思い出す。
食事を取らなくても死ぬことはない、というのはきっとめい特有の事ではなく異形全体がそうなのだろう。
本意であるかどうかは別として、あなたに付き合ってくれた二人に改めて礼を言おうと振り返った所で、
「後継人様、どうぞ」
隣から声が聞こえたかと思うと、ことんと何かが縁側に触れる音がした。
ポチの頭に乗せた手は離さないまま隣を見ると、正座をしながらあなたの方を見て微笑みを向けるめいの姿。
音の正体はめいが運んできた盆だったらしい。あなたとめいの間に二つの湯のみと茶菓子の羊羹を寄せた盆が置かれてある。
あなたはもう片方の手を湯のみへ伸ばすと、ぐっと一飲みしてから改めてめいへの感謝を口にする。
見よう見真似で上手くいくと思っていた自分を殴ってもよい、と付け加えたあなたに、めいは傾けていた湯のみから口を離し、
「最初は上手くいかなくて当たり前です。気に病まないでください」
そう言葉を返すと再び湯のみを傾けた。
また子供扱いに戻ってしまっただろうか、とあなたが羊羹に刺さった爪楊枝を摘み上げた所で、
「今度一緒に料理をしてみましょうか」
めいが湯のみをぎゅっと握りしめながら、あなたに提案する。
本来ならばあなたから言うべきだったはずの言葉を聞いて、子供扱いされても仕方ないな、と思いながら羊羹の無くなった爪楊枝を盆に置き、深々と頭を下げると改めて自分からお願いした。
そんな仰々しいあなたの態度に、めいは困ったように湯のみで口元を隠しながら、
「ひ、人に教えるなど初めての事ですので、あまり期待しすぎないで頂けると……」
そうどもりながら自信なさ気に言うめい。
その姿がなんだか可愛らしくて、あなたはわざと頭を下げたままの姿勢で上目にそんなめいの様子を眺めていた。
あなたが羊羹に刺さっていた爪楊枝で歯を弄りながら、洗濯物を干しているめいの背を眺めていたあなたの耳に誰かの声が入ってきたのは、あの惨劇で痛んだ腹がやっと治まってきたぐらいの事。
あなたやめいの返事を待たずに居間へ上り込んできたのは、額に少し汗を浮かべたひょろながだった。。
何事かと様子を窺うあなたを尻目にひょろながは、めいが飲みかけで置いた湯のみの中身を一気にあおると、そのままあたなが最後に食べようと残していた一つだけ味の違う羊羹をひょいっと摘み上げて口に運んだ。
あまりにも咄嗟の事で反応出来なかったあなたが状況を飲み込めたと同時に、ひょろながが羊羹をごくりと飲み込み、
「聞け、後継人」
と言って、耳の後ろに手を当てて聞き耳を立てるような仕草をした。
反論しようとしたあなたはひょろながの言葉に面喰らいながらも、促されるままにひょろながと同じように耳を澄ませた。
どしん、どしんと遠くから地鳴りのような物が聞こえてくる。
それは聞き馴染みのあるものではなかったが、聞き覚えはあるもので、
「仕事だ。狐が抑えているが、急いだ方がいいだろう」
その言葉を聞いてあなたはバッと立ち上がり、玄関へと走り出す。方向からして、恐らく昨日通った道の通りに進めば平気だろう。
「後継人様!」
玄関で靴を履き終えたあなたの背に、めいの声が響く。
胸の前で手を組んで、何か言いたげなめいだったが、たくさんある言葉からどれを選べばよいか分からないらしく、なかなか二の句を継げずにいる。
そんなめいにあなたはにこりと笑みを向けると、いってきます、とただ一言だけ言うと、その言葉にめいはぎゅっと唇を噛んでから、すぐにあなたと同じように微笑んで、
「いってらっしゃいませ、後継人様」
そう言って手を振った。
大の字になってぐったりしているポチの頭を撫でながら、あなたはめいが昔語りで話していたことを思い出す。
食事を取らなくても死ぬことはない、というのはきっとめい特有の事ではなく異形全体がそうなのだろう。
本意であるかどうかは別として、あなたに付き合ってくれた二人に改めて礼を言おうと振り返った所で、
「後継人様、どうぞ」
隣から声が聞こえたかと思うと、ことんと何かが縁側に触れる音がした。
ポチの頭に乗せた手は離さないまま隣を見ると、正座をしながらあなたの方を見て微笑みを向けるめいの姿。
音の正体はめいが運んできた盆だったらしい。あなたとめいの間に二つの湯のみと茶菓子の羊羹を寄せた盆が置かれてある。
あなたはもう片方の手を湯のみへ伸ばすと、ぐっと一飲みしてから改めてめいへの感謝を口にする。
見よう見真似で上手くいくと思っていた自分を殴ってもよい、と付け加えたあなたに、めいは傾けていた湯のみから口を離し、
「最初は上手くいかなくて当たり前です。気に病まないでください」
そう言葉を返すと再び湯のみを傾けた。
また子供扱いに戻ってしまっただろうか、とあなたが羊羹に刺さった爪楊枝を摘み上げた所で、
「今度一緒に料理をしてみましょうか」
めいが湯のみをぎゅっと握りしめながら、あなたに提案する。
本来ならばあなたから言うべきだったはずの言葉を聞いて、子供扱いされても仕方ないな、と思いながら羊羹の無くなった爪楊枝を盆に置き、深々と頭を下げると改めて自分からお願いした。
そんな仰々しいあなたの態度に、めいは困ったように湯のみで口元を隠しながら、
「ひ、人に教えるなど初めての事ですので、あまり期待しすぎないで頂けると……」
そうどもりながら自信なさ気に言うめい。
その姿がなんだか可愛らしくて、あなたはわざと頭を下げたままの姿勢で上目にそんなめいの様子を眺めていた。
あなたが羊羹に刺さっていた爪楊枝で歯を弄りながら、洗濯物を干しているめいの背を眺めていたあなたの耳に誰かの声が入ってきたのは、あの惨劇で痛んだ腹がやっと治まってきたぐらいの事。
あなたやめいの返事を待たずに居間へ上り込んできたのは、額に少し汗を浮かべたひょろながだった。。
何事かと様子を窺うあなたを尻目にひょろながは、めいが飲みかけで置いた湯のみの中身を一気にあおると、そのままあたなが最後に食べようと残していた一つだけ味の違う羊羹をひょいっと摘み上げて口に運んだ。
あまりにも咄嗟の事で反応出来なかったあなたが状況を飲み込めたと同時に、ひょろながが羊羹をごくりと飲み込み、
「聞け、後継人」
と言って、耳の後ろに手を当てて聞き耳を立てるような仕草をした。
反論しようとしたあなたはひょろながの言葉に面喰らいながらも、促されるままにひょろながと同じように耳を澄ませた。
どしん、どしんと遠くから地鳴りのような物が聞こえてくる。
それは聞き馴染みのあるものではなかったが、聞き覚えはあるもので、
「仕事だ。狐が抑えているが、急いだ方がいいだろう」
その言葉を聞いてあなたはバッと立ち上がり、玄関へと走り出す。方向からして、恐らく昨日通った道の通りに進めば平気だろう。
「後継人様!」
玄関で靴を履き終えたあなたの背に、めいの声が響く。
胸の前で手を組んで、何か言いたげなめいだったが、たくさんある言葉からどれを選べばよいか分からないらしく、なかなか二の句を継げずにいる。
そんなめいにあなたはにこりと笑みを向けると、いってきます、とただ一言だけ言うと、その言葉にめいはぎゅっと唇を噛んでから、すぐにあなたと同じように微笑んで、
「いってらっしゃいませ、後継人様」
そう言って手を振った。
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