祖母のいた場所、あなたの住む街 〜黒髪少女と異形の住む街〜

ハナミツキ

文字の大きさ
28 / 31
第三章 人

二十八話

しおりを挟む
 腹の調子を悪くしたあなたがトイレに籠っている間に、ちゃぶ台の上から散らかった台所まであらかためいが片付けてしまったらしく、手伝おうと思っていたのに、とあなたは手持無沙汰に縁側へ座った。
 大の字になってぐったりしているポチの頭を撫でながら、あなたはめいが昔語りで話していたことを思い出す。
 食事を取らなくても死ぬことはない、というのはきっとめい特有の事ではなく異形全体がそうなのだろう。
 本意であるかどうかは別として、あなたに付き合ってくれた二人に改めて礼を言おうと振り返った所で、

「後継人様、どうぞ」

 隣から声が聞こえたかと思うと、ことんと何かが縁側に触れる音がした。
 ポチの頭に乗せた手は離さないまま隣を見ると、正座をしながらあなたの方を見て微笑みを向けるめいの姿。
 音の正体はめいが運んできた盆だったらしい。あなたとめいの間に二つの湯のみと茶菓子の羊羹を寄せた盆が置かれてある。
 あなたはもう片方の手を湯のみへ伸ばすと、ぐっと一飲みしてから改めてめいへの感謝を口にする。
 見よう見真似で上手くいくと思っていた自分を殴ってもよい、と付け加えたあなたに、めいは傾けていた湯のみから口を離し、

「最初は上手くいかなくて当たり前です。気に病まないでください」

 そう言葉を返すと再び湯のみを傾けた。
 また子供扱いに戻ってしまっただろうか、とあなたが羊羹に刺さった爪楊枝を摘み上げた所で、
「今度一緒に料理をしてみましょうか」
 めいが湯のみをぎゅっと握りしめながら、あなたに提案する。
 本来ならばあなたから言うべきだったはずの言葉を聞いて、子供扱いされても仕方ないな、と思いながら羊羹の無くなった爪楊枝を盆に置き、深々と頭を下げると改めて自分からお願いした。
 そんな仰々しいあなたの態度に、めいは困ったように湯のみで口元を隠しながら、

「ひ、人に教えるなど初めての事ですので、あまり期待しすぎないで頂けると……」

 そうどもりながら自信なさ気に言うめい。
 その姿がなんだか可愛らしくて、あなたはわざと頭を下げたままの姿勢で上目にそんなめいの様子を眺めていた。
 あなたが羊羹に刺さっていた爪楊枝で歯を弄りながら、洗濯物を干しているめいの背を眺めていたあなたの耳に誰かの声が入ってきたのは、あの惨劇で痛んだ腹がやっと治まってきたぐらいの事。
 あなたやめいの返事を待たずに居間へ上り込んできたのは、額に少し汗を浮かべたひょろながだった。。
 何事かと様子を窺うあなたを尻目にひょろながは、めいが飲みかけで置いた湯のみの中身を一気にあおると、そのままあたなが最後に食べようと残していた一つだけ味の違う羊羹をひょいっと摘み上げて口に運んだ。
 あまりにも咄嗟の事で反応出来なかったあなたが状況を飲み込めたと同時に、ひょろながが羊羹をごくりと飲み込み、

「聞け、後継人」

 と言って、耳の後ろに手を当てて聞き耳を立てるような仕草をした。
 反論しようとしたあなたはひょろながの言葉に面喰らいながらも、促されるままにひょろながと同じように耳を澄ませた。
 どしん、どしんと遠くから地鳴りのような物が聞こえてくる。
 それは聞き馴染みのあるものではなかったが、聞き覚えはあるもので、

「仕事だ。狐が抑えているが、急いだ方がいいだろう」

 その言葉を聞いてあなたはバッと立ち上がり、玄関へと走り出す。方向からして、恐らく昨日通った道の通りに進めば平気だろう。

「後継人様!」

 玄関で靴を履き終えたあなたの背に、めいの声が響く。
 胸の前で手を組んで、何か言いたげなめいだったが、たくさんある言葉からどれを選べばよいか分からないらしく、なかなか二の句を継げずにいる。
 そんなめいにあなたはにこりと笑みを向けると、いってきます、とただ一言だけ言うと、その言葉にめいはぎゅっと唇を噛んでから、すぐにあなたと同じように微笑んで、

「いってらっしゃいませ、後継人様」

 そう言って手を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...