31 / 31
第三章 人
最終話
しおりを挟む
その言葉に周りの鬼達とナナがどよめくが、大青鬼の「狼狽えるな!」という一喝で辺りは再び静寂に包まれる。
鬼達の視線を一挙に受けながら、あなたは腕組みをすると空を見上げて目を瞑った。
正直、あなた自身には鬼に因縁など感じていないので、別にこのまま無罪放免、としたって構わないのだが、勝負と決めて負けた以上しっかりケジメを付けなければメンツが立たないのだろう。
こんな時祖母なら、と考えかけたあなたはあの時の祖母の顔を思い出してにっと笑うと、一つの提案をする。
あなたの提案を聞いた大青鬼はまるで豆でも食らったような顔でしばらく固まると、
「本当にそれでいいのか?」
と聞き返してきた。
むしろあなたとしては、勝手に決めてよかったのかという気持ちの方が大きかったので、そっくりそのまま言葉を返す。
あなたの返答を聞いた大青鬼はゆっくりと顔を上げると、地に付けていた手の片方をあなたの方へ伸ばし、
「これからはよろしく頼むぞ、後継人」
五本指を広げてあなたの目の前で止めた。
もちろん普通の握手など成立するわけもないので、あなたは手をぐっと伸ばすと大青鬼の指先に軽く触れた。
「本当に面白い奴だ。ナナが惚れるのも合点がいった」
最後に大青鬼が何か言って、ナナがやたら騒いでいたような気がするが、あなたはその言葉を全て聞き終える前に地に伏していた。
「面白い小僧だな。お前達が入れ込むのも分かるというものだ」
「入れ込んでなどおらぬわ、デクの棒」
「そうだ、顔以外は何一つ似ておらぬからな」
「そこがまた面白いのであろう?」
「……ふん」
「ほざけ」
「まぁ、今までの事は忘れてこれからは一つ頼む」
「あやつがそう言ったならば仕方あるまい。その場にいれば物言いしてやったものを」
「私は認めんぞ、ウドの大木」
「がっはっは、いつでも来い」
めいから聞いた話だと、あなたは三日三晩眠り続けていたらしい。
その間にたくさんの異形が見舞いに来て、あなたに、後継人にぜひ顔見せをと騒いで大変だったらしい。
もちろん、寝ていたあなたにはさっぱりだが。
ズキズキと痛む体をなんとか起こして伸びをすると、あなたの腹がぐーっと大きな音を立てる。
「すぐに食事を用意致しますね」
と言い残してめいが立ち去った後、間髪入れずに襖がパーンと開け放たれたかと思うと、朝日を背に着物を着た少女が部屋へと入ってきた。
見たことのある白髪と青肌を持った少女。しかしあなたの記憶にある姿とはいろいろと合致しない少女。
妹か、姉か、と問いかけたあなたへ返答代わりに返ってきたのは、思い切り助走を付けた飛び蹴りだった。
「せっかく心配してきたのに……ばーか!」
逆さまの状態のまま壁に背が付くまで蹴飛ばされたあなたに向かって着物の少女、いや、ナナその人がべーっと舌を出して声を飛ばす。
そしてあなたが体勢を戻して何か言いかえそうとしたところで、ぴゅーっと廊下を走っていってしまった。
あなたは届く筈も無いのに反射的に伸ばしてしまった手でそのまま頭をわしわしと掻くと、大きく欠伸をしながらもう片方の手で伸びをした。
久しぶりに夢を見なかった朝。少し寂しくもあり、清々しくもある。
体の節々をこきこきと鳴らしながら廊下に出たあなたはまぶしい光に目を細めながら、漂ってくるいい香りだけを頼りに歩を進めた。
途中で「ぐおっ」と小さく声が聞こえた気がしたが、気にしないでおく。
「あ、やっと来た!」
「ご飯はどのぐらいお注ぎしましょうか?」
背中から不意打ちを食らわせてきた犬畜生に手刀を叩き込みながら、あなたはめいへ山盛りのジェスチャーを返す。
それを見てめいはふふ、と笑いながらそそくさと台所へ向かった。
お互いに空腹で決め手を欠く取っ組み合いを続けていたあなたとポチの耳に、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
音の正体は居間に繋がる縁側で立ち止まると、ぜぇぜぇと息を吐きながら、
「後継人様、大変です! 親分と狐の大将がまた取っ組み合いを……」
とそこまで言うと今度はごほごほと咳き込む。
あなたはその言葉を聞いてはぁ、と小さく息を吐いてからポチをぺっと庭へ放り投げた。
ころころと転がりながら風を巻き上げ、庭先に着地した時にはあの時の姿になったポチを見上げてから、あなたは振り返ってめいの名を呼んだ。
呼ばれためいが居間へ出てくるより先に、あなたは助走を付けて縁側から飛ぶとポチの首裏へしがみ付く。
「帰りが遅くなったらボクが全部食べちゃうからねー」
にしし、と笑うナナ。
「ワシの朝食を邪魔しおって。さっさと片付けるぞ、小僧」
めいが来るのを待たず、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
だんだんと空へ登って行くポチの背中で、あなたは何とか後ろを振り向くと、
「後継人様、いってらっしゃいませーっ」
見えなくなりそうなあなたへ必死に手を振るめいへ、あなたは手を振り返した。
今はまだ、後継人だとしても。
それでもいつかは、祖母のように。
祖母のいた街で、これからもずっと。
鬼達の視線を一挙に受けながら、あなたは腕組みをすると空を見上げて目を瞑った。
正直、あなた自身には鬼に因縁など感じていないので、別にこのまま無罪放免、としたって構わないのだが、勝負と決めて負けた以上しっかりケジメを付けなければメンツが立たないのだろう。
こんな時祖母なら、と考えかけたあなたはあの時の祖母の顔を思い出してにっと笑うと、一つの提案をする。
あなたの提案を聞いた大青鬼はまるで豆でも食らったような顔でしばらく固まると、
「本当にそれでいいのか?」
と聞き返してきた。
むしろあなたとしては、勝手に決めてよかったのかという気持ちの方が大きかったので、そっくりそのまま言葉を返す。
あなたの返答を聞いた大青鬼はゆっくりと顔を上げると、地に付けていた手の片方をあなたの方へ伸ばし、
「これからはよろしく頼むぞ、後継人」
五本指を広げてあなたの目の前で止めた。
もちろん普通の握手など成立するわけもないので、あなたは手をぐっと伸ばすと大青鬼の指先に軽く触れた。
「本当に面白い奴だ。ナナが惚れるのも合点がいった」
最後に大青鬼が何か言って、ナナがやたら騒いでいたような気がするが、あなたはその言葉を全て聞き終える前に地に伏していた。
「面白い小僧だな。お前達が入れ込むのも分かるというものだ」
「入れ込んでなどおらぬわ、デクの棒」
「そうだ、顔以外は何一つ似ておらぬからな」
「そこがまた面白いのであろう?」
「……ふん」
「ほざけ」
「まぁ、今までの事は忘れてこれからは一つ頼む」
「あやつがそう言ったならば仕方あるまい。その場にいれば物言いしてやったものを」
「私は認めんぞ、ウドの大木」
「がっはっは、いつでも来い」
めいから聞いた話だと、あなたは三日三晩眠り続けていたらしい。
その間にたくさんの異形が見舞いに来て、あなたに、後継人にぜひ顔見せをと騒いで大変だったらしい。
もちろん、寝ていたあなたにはさっぱりだが。
ズキズキと痛む体をなんとか起こして伸びをすると、あなたの腹がぐーっと大きな音を立てる。
「すぐに食事を用意致しますね」
と言い残してめいが立ち去った後、間髪入れずに襖がパーンと開け放たれたかと思うと、朝日を背に着物を着た少女が部屋へと入ってきた。
見たことのある白髪と青肌を持った少女。しかしあなたの記憶にある姿とはいろいろと合致しない少女。
妹か、姉か、と問いかけたあなたへ返答代わりに返ってきたのは、思い切り助走を付けた飛び蹴りだった。
「せっかく心配してきたのに……ばーか!」
逆さまの状態のまま壁に背が付くまで蹴飛ばされたあなたに向かって着物の少女、いや、ナナその人がべーっと舌を出して声を飛ばす。
そしてあなたが体勢を戻して何か言いかえそうとしたところで、ぴゅーっと廊下を走っていってしまった。
あなたは届く筈も無いのに反射的に伸ばしてしまった手でそのまま頭をわしわしと掻くと、大きく欠伸をしながらもう片方の手で伸びをした。
久しぶりに夢を見なかった朝。少し寂しくもあり、清々しくもある。
体の節々をこきこきと鳴らしながら廊下に出たあなたはまぶしい光に目を細めながら、漂ってくるいい香りだけを頼りに歩を進めた。
途中で「ぐおっ」と小さく声が聞こえた気がしたが、気にしないでおく。
「あ、やっと来た!」
「ご飯はどのぐらいお注ぎしましょうか?」
背中から不意打ちを食らわせてきた犬畜生に手刀を叩き込みながら、あなたはめいへ山盛りのジェスチャーを返す。
それを見てめいはふふ、と笑いながらそそくさと台所へ向かった。
お互いに空腹で決め手を欠く取っ組み合いを続けていたあなたとポチの耳に、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
音の正体は居間に繋がる縁側で立ち止まると、ぜぇぜぇと息を吐きながら、
「後継人様、大変です! 親分と狐の大将がまた取っ組み合いを……」
とそこまで言うと今度はごほごほと咳き込む。
あなたはその言葉を聞いてはぁ、と小さく息を吐いてからポチをぺっと庭へ放り投げた。
ころころと転がりながら風を巻き上げ、庭先に着地した時にはあの時の姿になったポチを見上げてから、あなたは振り返ってめいの名を呼んだ。
呼ばれためいが居間へ出てくるより先に、あなたは助走を付けて縁側から飛ぶとポチの首裏へしがみ付く。
「帰りが遅くなったらボクが全部食べちゃうからねー」
にしし、と笑うナナ。
「ワシの朝食を邪魔しおって。さっさと片付けるぞ、小僧」
めいが来るのを待たず、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
だんだんと空へ登って行くポチの背中で、あなたは何とか後ろを振り向くと、
「後継人様、いってらっしゃいませーっ」
見えなくなりそうなあなたへ必死に手を振るめいへ、あなたは手を振り返した。
今はまだ、後継人だとしても。
それでもいつかは、祖母のように。
祖母のいた街で、これからもずっと。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる