童話のような魔法は無いけれど

ハナミツキ

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 逃げだすばかりだった、と聞いて。
 昨日のユウリ様の姿を私は思い出した。
 あそこまで必死に逃げ出す姿を見れば、色々と考えてしまうのは無理もないと言える。

「だから……どういう経緯で知り合ったとか、あなたが何者なのか、とかそういうのは些細な問題だったりするわけ」

「……分かりました」

「あの子の事、好き?」

「へっ?」

 あまりに唐突な言葉に目をぱちくりとさせる私の方を見つめ、小さく微笑みながら女王様は返事を待っていた。

「……まだ少し、分かりませんが、ただ」

「ただ?」

「……私を救い出してくれた、方なので」

「へぇ、あの子がねぇ……」

「……だから、少なくとも嫌いになる理由は、ないです」

 そこまで言ってから、私は深く息を吸う。
 こんなに人と話すのは久々で、思ったように言葉が出ない。
 そんな私を静かに見つめていた女王様が、私の頭をぽんと撫でる。

「嫌いじゃないなら、このままあの子の申し出を受けてくれると私も嬉しいかな」

「……はい」

「あ、もちろん最優先なのはあなたの意思だからね」

 私の返事に女王様が言葉をつづけたタイミングで、廊下からどたどたと足音が聞こえてきた。

「なんだ、何事だ?」

 それに反応して私と女王様が扉の方へと目を向けると、

「母上、頭の方をしっかり冷やしてまいりました!」

 髪からぽたぽたと水を滴らせたユウリ様が、勢いよく扉を開け放っているのが見えた。

「……はぁ」

 再び目を丸くする私の横で、女王様が先程よりも深く息を吐く。

「普段はあんな子じゃないんだけどね。あなたの事になると見境がなくなるみたいね」

「……そう、なんですね」

「それで、話の方がどうなりましたか母上!」

 見境がなくなっているらしいユウリ様が、女王様へ詰め寄らんばかりに問いかける。

「あぁ、それだが……」

 そこで言葉を返そうとする女王様より先に私は立ち上がり、ぺこりと二人に頭を下げた。

「……こんな私でよければ、よろしくお願いいたします」

「だそうだ」

「おお……っ!」

「どうどうどう」

 私の返答を聞いて今にも飛び掛からんばかりのユウリ様を、改めて女王様が制する。

「お前は王子なんだから、プロポーズに返事をもらってそれで終わりじゃないのは分かっているだろう?」

 ぺんっと額を叩かれて、ユウリ様が二、三歩後ろへ後ずさる。

「本人不在とはいえ、直近で花嫁探しのパーティーをやってるんだ。昨日の今日でとなると色々と説明も必要だろう」

 ちくりと刺すように細くなった女王様の視線を避けるように、ユウリ様が身をねじりながらこちらを見た。

「とりあえず、お前は諸々の準備をしてきなさい。詳しく言わなくても分かるだろう?」

「む、むむ……」

「後回しにすればその子にも迷惑がかかる。それでもいいなら好きにすればいいが」

「……分かりました」

 まだ少し渋々、といった様子ではあるがユウリ様は頷くと、

「リリ、全てが終わったらまたゆっくりと話をしよう」

 そう言って私の肩を優しく掴んだ。

「……はい、お待ちしております」

 その言葉にたどたどしく答え、ぎこちなく笑みを返してみると、

「よし、すぐに終わらせて戻ってくる!」

 俄然やる気を出されたようで、入ってきたときと同じようなせわしなさで部屋を出て行った。
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