後輩「先輩、タバコやめてください」先輩「えー」

ハナミツキ

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先輩「後輩って、好き嫌いあったっけ?」

後輩「いえ、これと言って特には……」

先輩「なら適当でいいかー」

後輩(先輩が、台所に立って料理してる)

先輩「わちちっ」

後輩(ほんとなんでもそつなくこなしちゃうな、先輩は)

先輩「そら、先輩特製チャーハンだ」

後輩「……もぐ」

後輩「……」

先輩「どうだ?」

後輩「美味しい、です」

先輩「おお!そうか。実は他人に食わせるのは初めてでちと不安だったんだ」

後輩「……こんなに上手ならウチでも作ってくださいよ」

先輩「もぐもぐ」

後輩「聞こえないふりはやめましょうよ」


先輩「後輩の家で後輩が作るからいいんだよ」

後輩「なんですか、それ」

先輩「そういうものなの」

後輩「食事中にタバコはダメです!美味しく無くなっちゃいます」

先輩「急に堅い事言うなよー」

後輩「がるる」

先輩「ははは」


後輩「ご馳走様でした、先輩」

先輩「おう、洗い物は任せた」

後輩「分かりました」

先輩「うむ、よろしく頼む」

先輩「……ふー」

後輩(台所も独特な匂いがするなぁ……)

先輩「そういやな、後輩」

後輩「なんですか?先輩」

先輩「嘘付いてたの、お前だけじゃないんだ」

後輩「え?」

先輩「本当は覚えてるんだ、タバコ吸い始めた理由」

後輩「……聞いていいんですか?この流れ」

先輩「おう、聞かせるために振った」


先輩「つい最近、つってももう何年か経ったけど」

先輩「母親が急に再婚してさ。家に帰って来たらいきなりお父さんですよろしく、だって」

後輩(母親呼び……)

先輩「女手一つで育ててもらって、大変だったのも理解出来たけどさ」

先輩「もうちょっと相談とか、そういうのあってもいいじゃん……みたいな」

先輩「今思うと実にくだらないけど、当時の自分からしたらかなり強い反抗の意思表示だったんだろうなぁ」

後輩(……先輩のそんな姿、イメージ出来ない)

先輩「……ふー」

先輩「悪い、一方的に聞かされても気分のいい話じゃなかったな」

後輩「いえ……そんな事」

後輩(煙草を吸う時の先輩の横顔に、なんだか合点がいった気がする)

後輩「先輩の事知れるのは、些細な事でも嬉しいです」

先輩「……真顔で恥ずかしい事、さらっと言うよなお前」

後輩「?」


後輩「洗い物終わりました」

先輩「おう、さんきゅーな」

後輩「んぅー……少し横になってもいいですか?」

先輩「おう、構わんぞ」

先輩「……だが、ベッドなんて小洒落たものうちにはないから」

後輩「……?」

先輩「ほれほれ」

後輩「どうしたんですか、膝をとんとんして」

先輩「……」

後輩「……」

後輩「……では、失礼します」


後輩(思ってたより、硬い……)

先輩「素直でよろしい」

後輩(……でも、落ち着く)

先輩「……ふー」

後輩「先輩、人が下にいるのに吸わないでください」

先輩「えー、口が寂しいよ」

後輩「……なら」

先輩「お?」

後輩「……ん」

先輩「……」


先輩「……首の角度が大分キツかった」

後輩「すいません」

先輩「だから今度は、楽な姿勢で頼むわ」

後輩「……はい」


先輩「……ふー」

先輩「先にシャワー、使っていいよ」

後輩「……はい」

後輩(……こうして一緒にいればいるほど、もう一つの感情が胸に広がって)

後輩(先輩はどう、思っているんだろう?)

後輩「ふぅ」


先輩「……すぅー」

先輩「……ぷはーっ」


後輩「先、いただきました」

先輩「ん、了解」

先輩「そういや着替えとかないよね、どうしよっか」

後輩「別に着てきたやつでも大丈夫ですよ」

先輩「……あの汗でぐっしょりのやつ、着るの?」

後輩「あー……それは、確かに」

先輩「そこの棚と、あとあっちの棚にも入ってるから。気に行ったやつ適当に着ていいよ」

後輩「ありがとうございます」

先輩「どういたしまして、ってのも変かね?そいじゃ、そういう事で」


後輩(ありがとうございます、とは言ったものの)

後輩(許可が出たとはいえ、本人不在の中でタンスを開けるのってどうなんだろう)

後輩「……さむ」

後輩(とりあえず何か、適当に……)

後輩(無地のTシャツ、無地の短パン、無地のetc……)

後輩(そういえば先輩が柄物着てる所見たことないな)

後輩「……んしょ」

後輩(結構背があると思ってたけど、着てみると案外そうでもない)

後輩(……先輩の、ニオイ)

後輩「くん、くん……」


先輩「……」

後輩「……」

後輩「あ、えと……その、これは」

先輩「……なんと言うか」

先輩「似たようなもん着てるはずなのに、やたら官能的だな」

後輩「へ?」

先輩「平たく言えばエロい。主にここが」

後輩「あっ、先輩……ちょっと……」

先輩「汗ばんでぴったりしてるせいかな?」

後輩「お風呂入った後ですよ……もう!」



先輩「ぷはー……」

後輩「……」

先輩「何も思いっきりブツことはないだろ」

後輩「思いっきりブタれるようなこと、するからです」

先輩「さっきはあんなに……」

後輩「……」

先輩「分かった、その無言で握った拳を解いてくれ」

後輩「……もう寝ます。明日朝からなので」

先輩「ん、そうだったのか。悪かった、こんな時間まで」

後輩「……いえ。全然悪くは、なかったです」

先輩「……」

先輩(……落としているやら、落とされているやら)

後輩「……?」


後輩「すー……すー……」

先輩「……ふー」

先輩(いつまでこうしていられるのだろうか?先輩はどう思っているのだろうか?)

先輩(いつもタバコを吸う時、後輩の目がそう訴えかけてくる)

先輩(素直で、純粋で……一緒にいてやりたくなる、目)

先輩(私なんかと一緒にいてもいいことないって、分かってんのかなこいつは)

後輩「せんぱぁい……むにゃ」

先輩「……はぁ」

先輩「くだらない事考えてないで、寝るとすっかね」


後輩「……ん」

後輩(朝、なのかな……薄暗くてよく分かんないや)

後輩「スマホスマホ……」

先輩「ひゃんっ……」

後輩(……何か、むにゅっと?)

先輩「ぐがー……ぐがー……」

後輩「!?」

後輩(な、なんで先輩が隣に……ってそうか、ここは先輩の家だった)

後輩「……」

後輩「いやいや、そうじゃないでしょ」


先輩「朝から大胆だねぇ」

後輩「……」

後輩「起きてたんですか?」

先輩「いや、今起きた」

後輩「そうですか……じゃなくて」

後輩「なんで隣にいるんですか?」

先輩「だって、布団これしかないのに勝手に寝ちゃうから」

後輩「む……」

先輩「まぁ、おかげで色々とよかったけどさ」

後輩「……詳しく聞かせてください」

先輩「詳しく話していいの?」

後輩「……」

後輩「……やっぱ、いいです」

先輩「そっか、残念」


先輩「あ、そういや」

後輩「まだ何かあるんですか?」

先輩「ガッコ、行かなくていいのか」

後輩「え……」

後輩「……!」

後輩「ここからなら、急げばまだ……っ」

先輩「いってらっしゃーい」

後輩「……い、いってきますっ」


先輩「ふぃー……」

先輩「……二度寝すっかなぁ」


「後輩ちゃん、今日はなんかいつもと違うね」

後輩「へ?」

「何と言うか、こう……セクシーだよ!」

後輩「??」


後輩(……)

後輩(男女問わず、なんだか視線を感じるような気が……)

後輩(自意識過剰みたいで気持ち悪いなぁ、早く帰りたい)

「そこのキミ」

後輩「はい?」

「可愛いね、何年生?」

後輩(……誰?)

後輩「二年、ですけど……」

「一個下か……同学年じゃないのが惜しいな」

後輩(一個上……先輩とおんなじか)

「もう少し顔をよく、見せてくれないかな?」

後輩「え、え、あの、ちょっと……」

後輩(近い近い……)

「いっ!?いててててっ」

後輩「あ……」

先輩「たまにはサボってる講義に出てみるもんだ」

「何すんだ……って、お前は!」

先輩「あぁん?お前、どっかで……って、行っちまった」

後輩(先輩の服、今私が着てるのとお揃い……と言っても無地だけど)

先輩「お前、午後は暇?」

後輩「え、あ……はい」

先輩「うし、いい返事だ」


後輩(何気に先輩と喫茶店来るなんて、初めてかも)

「喫煙席と禁煙席ございますが」

後輩「えーと……」

先輩「……」

後輩「……喫煙席で」

先輩「お、てんきゅー」

「……?ではこちらへ」

先輩「流石に喫煙席に通されたら吸えないからな」

後輩「なら、自分で喫煙席を指定すればよかったじゃないですか」

先輩「それじゃ意味ない。お前が言うから意味があるのさ」

後輩「……むぅ」


後輩(なんだか、言いくるめられてばかりな気がする)

先輩「おい、どうした?」

後輩(助けてもらった手前、あまりうるさくは言えないけれど)

先輩「もしもーし?」

後輩(少し無視してやろう……)

先輩「……おいってば」

後輩「……」

後輩(いい気味……と素直に思えない自分がなんとも)

先輩「……好きなもん、奢ってやるから」

後輩「……!」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……パフェ付きでも、ですか?」

先輩「……よし。この際パフェも付けよう」

後輩(よし、パフェが付いた……よし?)


先輩「パフェ、美味いか?」

後輩「ふぁい、おいしいです」

後輩「先輩は何も頼まないんですか?」

先輩「んー……これ吸ってるとあんま腹減らないんだ」

後輩「……絶対体に悪いです」

先輩「おうおう、可愛い後輩がそこまで言うならいただこうかね」

後輩「あっ」

先輩「んー、あみゃい」

後輩(これって……今さら恥ずかしがることでもない、か)

先輩「はい、あーん」

後輩「……」

後輩(今さら恥ずかしがることでも……うん、ない。はず)


先輩「あーん」

後輩「……あむ」

先輩「どう?」

後輩「……タバコの味が、少々」

先輩「隠し味だよ、悪くないだろ?」

後輩「……先輩」

先輩「ん?」

後輩「どうしたんですか?今日は」

先輩「……何が?」

後輩「普段滅多に出てこないじゃないですか」

先輩「その鋭さ、前面に押し出せればモテるぞ」

後輩「別にモテたいと思いません」


先輩「お前は魅力的だ」

後輩「……いきなり何言ってるんですか」

先輩「目元を隠すために眼鏡を続けさせてるし、髪型も大人しめにさせてる」

後輩「え……」

先輩「もちろん好みによる部分が無かったとは言わないけど」

後輩「……」

先輩「お前は無防備すぎる」

後輩「……すいません」

先輩「まぁだからこそ私みたいな悪いやつに引っかかってくれたんだろうが」

後輩「……先輩は別に悪いやつでは」

先輩「そういうとこな、心配なのは」

後輩「……むぅ」

先輩「もう一口貰っていい?」

後輩「あ、はい」

後輩(……周囲の視線を、ひしひしと感じる)


後輩(あんまり意識したこと無かったけど)

後輩(私達がしてる事って……もしかしなくても結構恥ずかしいことだったり?)

先輩「……ふぃー」

後輩「先輩」

先輩「んあ?」

後輩「火、付け忘れてます」

先輩「おっと、これはうっかり」

後輩(あ、先輩も赤い)

後輩「……ふふっ」

先輩「んだよ」

後輩「あ、いえ」


後輩(クールで、かっこいい、タバコの似合う先輩)

後輩(なんて先輩の姿を、勝手に定着させてしまっていたけれど)

先輩「ふー……」

後輩(こういう先輩も、いいなぁ)

先輩「もう一口、ぷりーず」

後輩「先輩も頼んだらいいんじゃないですか?」

先輩「……」

先輩「いや、いいや」

後輩(先輩が可愛いすぎてなんとやら)


後輩「先程のお言葉を返すようですが」

先輩「ん」

後輩「先輩も十分魅力的だと思いますよ」

後輩(それこそ、私が釣り合ってるか分からないぐらいに)

先輩「お前のとは方向性が違うんだよ」

先輩「なんて言うのかな……惹きつける魅力と、相手に寄り添う魅力、みたいな」

後輩「惹きつけてる自覚あったんですね」

先輩「まぁ……一応、大なり小なりな」

後輩(そういうのハッキリ言える所が、惹きつける魅力の一部なのかな)


先輩「たださ、何でもかんでも惹きつけていい事ばっかってわけでもなくてな」

先輩「ウマが合わなきゃどうしようもないわけだ」

後輩「……」

先輩「お前と出会うまでは、とっかえひっかえしてた時期もあったぐらいだし」

後輩「悪い人ですね」

先輩「おう、極悪人よ」

後輩(そういえば、先輩と知り合いたての頃はよく友達が心配してたっけ)

後輩(悪名高い先輩だったのか)

先輩「ふー……」


先輩「さーて、パフェ一杯で長居するのもなんだしそろそろ帰るか」

後輩「あ、はい」

先輩「先行ってていいよ、会計済ませてくるから」

後輩「私も半分……むぎゅ」

先輩「こういうのは払わせないと失礼、と今度から思うように」

後輩「ふ、ふぁい」

後輩(先輩の指、ほのかなタバコの香り)

後輩(このぐらいなら、嫌いじゃないかも……)


先輩「さて、そいじゃこの辺でお開きにするか」

後輩「え……」

先輩「え?」

後輩「あ、いえ……その」

後輩(学校終わった後も先輩といるのが当たり前みたいな気になってた)

先輩「寂しいか?このこの」

後輩「……」

後輩「はい、寂しいです……」

先輩「お、おおぅ……そんな目、するなっての。ただのバイトなのに行きづらくなるだろ」

後輩「先輩、バイトしてたんですか?」

先輩「そりゃまぁ、学費のために」

先輩「っと、あんまり長話もしてられないな」

後輩「あっ」

先輩「そいじゃ、また明日!」

後輩「先輩……」


後輩(……部屋が広く感じる)

後輩「はぁ……」

後輩「こういう時先輩なら、こう……」

後輩「ふーっ」

後輩「……」

後輩「……何してんだか、私」


「先輩くん、これ3番カウンターにお願い」

先輩「はい、今行きます」

先輩(なんだ?無性に肺に煙を入れたい気分に……)

先輩(後輩の言うように、一度やめてみるのも視野に入れた方がいいのかもしれない)

「先輩くーん」

先輩「はーい」


先輩「ふー……」

「お疲れ様、先輩くん」

先輩「あ、マスター。もう店じまいですか?」

「あぁ、先輩くんが物欲しそうにしてたから。ちょっと早めにね」

先輩「いやぁ、面目ない」

「隣、いいかな?」

先輩「どぞどぞ」

「ふー」

先輩「ふー……」

「今日は少し、話があってね」

先輩「なんスか、急に改まって」

「……」

先輩「……」


後輩(……なんだか眠れないな)

後輩「冷蔵庫になんか飲み物あったっけ……」


ピンポーン


後輩「……?」

後輩(こんな時間に、来客……)

後輩「……一応、箒を持っていこう」


後輩「ど、どちら様……」

後輩(って、酒臭っ)

先輩「……」

後輩「な、なにやってるんですか先輩」

先輩「……いれて」

後輩「む、むしろ早く上がってください」


先輩「……ふー」

後輩(こんなにお酒が入ってる先輩、初めて見た……)

後輩「先輩、お水です」

先輩「ん、あんがと」

後輩(何があったんですか、と聞いていいのだろうか)

先輩「ねぇ、後輩」

後輩「あ、はい……っ」

先輩「……」

後輩(タバコの味とお酒の味が混ざって……クラクラする)


後輩「せんぱ……んっ」

先輩「……」

後輩「……せん、ぱい?」

先輩「……すまん」

後輩「……いえ」

先輩「むぎゅ……」

後輩「大丈夫、ですから」

先輩「ん……」

後輩(無駄に大きい胸が役に立ってよかった)


後輩「落ち着きましたか?」

先輩「おう、だいぶな」

後輩「……」

先輩「……ふー」

後輩「あ、あのっ」

先輩「バイトしてた、店がさ」

後輩「あ、はい」

先輩「わりぃ、なんか話があったか?」

後輩「いえ、大丈夫です」

先輩「ん、そっか」


先輩「バイトしてた店、喫茶店なんだけどさ」

先輩「店じまいするらしいって、今日伝えられてさ」

後輩「そこのマスターと飲み明かして、今に至ると?」

先輩「そゆこと……ま、大半は私が飲んでたが」

後輩(……先輩がお酒飲んでるところなんて、見た事なかったな)


先輩「好きだったんだ」

後輩「えっ」

先輩「好き、だったんだよ……」

後輩「せん、ぱい……?」

先輩「……」

後輩「……寝てる」


先輩『好き、だったんだよ……』

後輩(……)

後輩(あんな表情、先輩でもするんだ)

先輩「ぐー」

後輩「先輩……」

後輩(先輩にとって、私ってなんですか?)

後輩「……ん」

先輩「むー」

後輩「……ぷは」

後輩「……はぁ」


後輩(喫茶店、かぁ)

後輩(思えば先輩の事、知ってるようで知らないんだなぁ)

後輩(エプロンとか、着てたのかな……)

後輩(エプロン姿の先輩……)

先輩「んー……」

後輩「……」

後輩(ベッド、占領されてる)

後輩(……いいや、床で寝よう)


後輩『わ、私初めてで』

先輩『だろうな』

後輩『あっ……』

先輩『大丈夫、力抜け』

後輩『は、恥ずかしいです……』

先輩『そりゃお前だけじゃねーさ』

後輩『―――っ』


後輩「……はっ」

後輩(なんで今さら、昔の夢を……)

後輩「あれ、何の匂い……」

先輩「おう、やっと起きたか」

後輩「どうしたんですか、台所なんかに立って」

先輩「おいおい、お前が言ったんだろ?」

後輩「……?」


後輩『……先輩、こんなに上手ならウチでも作ってくださいよ』


後輩「あぁ、そういえば」

後輩(先輩、覚えてたんだ)


先輩「適当に冷蔵庫の中漁っちゃったけど、よかった?」

後輩「あ、はい……でも、なんも入ってなかったような」

先輩「おう、見事に飲み物と調味料だらけだった」

後輩「いくらぐらいでした?半分払いますよ」

先輩「酔っ払いを匿ってくれた迷惑料代わりだ、取っときな」

後輩「迷惑だなんて、そんな」

先輩「いただきまーす」

後輩「い、いただきます」


先輩「もぐもぐ」

後輩(いつも通りの先輩)

先輩「……味付け、微妙だった?」

後輩「へ?」

先輩「スプーン、止まってるから」

後輩「い、いえっ。美味しいです!」

先輩「そっか」

後輩(いつも通りの、先輩)

後輩(まるで昨日の事なんて、なかったみたいに)

後輩(……でも、なかったことになんて)

先輩「……本当に大丈夫か?」

後輩「……」


後輩「大丈夫なんかじゃ、ないですぅ……」

先輩「えっ」


後輩「先輩、好きな人がいるって……」

後輩「私だけじゃダメですか?不満があったら教えてください」

先輩「お、おい」

後輩「二番目でも、いいです。だから……」

先輩「おいってば」

後輩「……?」

先輩「なーに言ってんだ?お前」

後輩「覚えて、ないんですか?」

先輩「何を」

後輩「……」


後輩「好き、だったんだよって」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「ぷっ」

後輩「……?」

先輩「あはははっ、なんだそういうことか」

後輩「わ、笑いごとじゃないですっ」

先輩「こっちにとっては笑いごとだっての」

先輩「好きだってのはな……そのお店の事だよ」

後輩「えっ……」


先輩「バイト先に決めたのも、店の雰囲気が好きだったから」

先輩「はい、それだけ」

後輩「マスターさんと飲み明かしてたって……」

先輩「マスターは今年で還暦だぞ?おまけに既婚者でもある」

後輩「……」

先輩「『大丈夫なんかじゃ、ないですぅ』」

後輩「ま、真似るのはやめてくださいっ」

先輩「……悪いな、不安にさせて」

後輩「いえ、こっちこそ早とちりを……」

先輩「……ふー」

後輩「……」


後輩(きっと私が先輩にタバコをやめてほしいのは)

後輩(先輩の体を心配してる、とかじゃなくて)

後輩(魅力的な横顔を他の誰かに見られたくないと言う、独善的な身勝手なわけで)

先輩「ふぃー……って」

後輩(本当に先輩がタバコをやめてしまったら、私はどうするのだろうか)

先輩「……後輩?」

先輩「……んっ」

後輩「……」


先輩「そっちからは、初めてじゃないか?」

後輩「……そうでしたっけ」

後輩(口内で燻ぶるほのかなタバコの香り)

後輩(本当は、嫌いじゃない)

先輩「だが、吸ってるときにいきなりは危ないぞ」

後輩「先輩だって、いつもいきなりじゃないですか」

先輩「それはそれだ、にしし」

後輩(嫌いじゃない、けど)

後輩「……えいっ」

先輩「あーっ!美味しい所がまだ残ってたのに!」

後輩「タバコなんかより、私の方が……」

先輩「美味しいってか?」

後輩「……あぅ」


先輩「そこまで言うなら、味あわせて頂こうかな」

後輩「お、お手柔らかに……」

先輩「そいつは出来ない相談だな」

後輩(先輩の色々な感情を、煙に巻いてしまう存在)

後輩(私はタバコに、嫉妬していたのかもしれない)

後輩「先輩」

先輩「んー?」

後輩「何かあったら、私をぎゅーってしてください」

後輩「タバコなんかより、ずっといいと思いますよ」

先輩「んー……」


先輩「考えとくわ」

後輩「そ、そこは即決してくださいよっ」

先輩「えー」
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