四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第一章 騎士

第三話 再会

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「まさか、こうしてまた会えるなんて思ってなかった」

「……ど、どういうことかしら、ちょっと頭から追いつかないのだけれど、え、ええ……?」

「もう一回、まとめて言うよ。俺の前世は『足利 大和』。二歳差の姉を持ち、その姉の名前は『尊』。宮城県気仙沼市に生まれ、平穏な人生を過ごしてこそいたものの、十六歳で大地震に巻き込まれて死亡。……好きなものはゲームと剣術、それといろんな国の文化。嫌いなものは地震。……ね?ガラテヤ様が言ってる弟って、俺のことじゃない?」

「大和くん……!?そんな、大和くんまで転生、して……!?」

「そう、みたいなんだ。また会えて嬉しいよ、姉ちゃん」

「大和くんっ!私の方こそ!私の方こそ、また会えるなんて、思って……!」

 ガラテヤ様改め、小さな身体の姉ちゃんが抱きついてくる。

 白いドレスに身を包んだ姉ちゃんは前世の頃よりも小さくて、柔らかくて、あのヒーローみたいなイメージとはかけ離れた、とても弱々しく感じるものであった。

 おそらく、姉ちゃんの方が俺よりも後から転生したが故に、年下になっているのだろう。

 ……となると、俺が姉ちゃんを庇ったのは、所詮は無数に降り続ける矢の一本から守ったようなものに過ぎず、申し訳程度の延命にしかならなかったと言うことだろうか。

 それに、「弟と同じような理由で命を落とした」とも言っていた。

 だとしたら、俺の死はほぼ無駄と、そういうことだったのだろう。

「……なぁ、姉ちゃん。姉ちゃんが今、こうして会えてるってことは」

「ええ。私も、あの後すぐ他の瓦礫に巻き込まれて死んじゃった」

「やっぱりか」

 しかし、こうして姉ちゃんに会えたのだ。

 姉ちゃんがあの日死ぬべきだったとはとても言えないし言いたくもない。
 当然ながら、あの世界でも幸せになって、長生きもして欲しかったが……結果として、俺があの時死んだのは、こうしてまた姉ちゃんに会うためだったのかもしれない、と考えれば、無駄死にした気は少しばかり薄れるというものである。

「大和くん。……じゃなくて、ジィン様。ちょうどいいタイミングなんだし、本題……いいかしら?」

 姉ちゃんは俺から離れ、襟を正して「ガラテヤ様」としての表情に戻る。

「……はい。なんなりと、ガラテヤ様」

 俺は跪く。

「……高潔なるベルメリアの民、『ジィン・セラム』。……この剣に誓いなさい。私の騎士となることを。騎士として、ベルメリアを名乗る私の守護に、命を懸けて徹することを。満たしなさい、覚えなさい、感じなさい、そして誇りなさい。私の騎士となり、天に剣を掲げるときが、貴方にとって名誉となるように」

 ガラテヤ様が右手を差し出す。

「……はい。謹んでその願い、お受け致します。……我が君」

 俺はその甲に口づけをし、続けてガラテヤ様の右手の平と俺の左手の平を合わせた。

 前世で俺を何度も助けてくれていた姉ちゃん。
 そして、命を捨てても守り切ることができなかった姉ちゃん。

 そんな姉ちゃんを、今度こそ守ってみせる。

 俺はこの口づけに、生涯、ガラテヤ様の騎士であり続けることを誓う。

「……ふふっ。返事が聞けて嬉しかったわ。まあ、今ここまでしっかりやる必要は無かったのだけど……後でまた、任命式の時に同じようなことをやるかもしれないし、練習には良かったんじゃあないかしら?」

「それもそうですね」

 正式ではない場所で一般人が子爵令嬢の手の甲に口づけをするのはいかがなものかと思うが……誰も見ていない上、そういう儀式の練習なので不問ということで。

「……ところで、ヤマ……じゃなくて、ジィン様?」

「何ですか?」

「どうやら私、扉を開けっ放しにしていたようですの。それで……ね?」

「はい?……あ」

 俺は扉の向こう側を見る。

 すると、そこには壁に身体の半分を隠しながら、こちらを覗き見る長女のリズ様、次女のカトリーナ様、そして、俺と同い年らしい長男のバルバロ様。

「やれやれ。すっかりガラテヤに気に入られてしまったみたいだね、ジィン君」

「あら~!微笑ましいですこと~!」

「ぐぅ……俺のガラテヤを……!でも……いい友達ができたみたいで、良かったなぁ……ッ!」

 バルバロ様、十二歳にして男泣き。

「バルバロ兄様。私は貴方のものではありませんわ」

「だってよ、バルバロ」

「残念でしたわねぇ」

「そんなぁ」

 からの轟沈。

「それじゃ、ごゆっくり~」

「これから、楽しくなりそうだね」

 崩れ落ちたバルバロ様を引きずっていくリズ様とカトリーナ様。

「……行ってしまわれましたわ」

「いいお兄様とお姉様ですね」

「ええ、とても。……ヤキモチ焼いてるの?」

 図星。

 前世で小学校に入りたてだった頃、やんちゃなクラスメイト数名に虐められていたことを見抜かれた時を思い出す。

 相も変わらず、勘が鋭い。

「いや、そういうことじゃなくて」

「お姉ちゃんの目は誤魔化せないよ?」

「すみませんでした、ぶっちゃけ姉ちゃんを盗られた気になってます」

「正直でよろしい」

 異世界転生したら、憧れの姉に別の兄弟ができていた。

 寝取られモノも真っ青である。

 もう一度、今度はこちらを包み込むように抱きしめるガラテヤ様。

「何か、ホント……ゴメン。今は俺の方が年上なのに、大人気ないよね」

「もう、今更何言ってるの。大和くんは私の弟でしょ?『ジィン様』じゃなくて『大和くん』として振る舞うなら、貴方は『大和くん』でいいの。私と二人きりの時は、だけどね?」

「……ありがとう、姉ちゃん」

 俺も「姉ちゃん」を抱きしめ返し、それから体感で数十分だけ前世の話をした後、「ガラテヤ様」に戻って部屋を後にする彼女を見送った。

 そしてその晩。

「……早いな、ジィン君。大方、君が私の部屋を訪れた理由は分かっているよ」

「流石に頭が切れますね、ロジーナ様」

 俺はロジーナ様の部屋を訪れ、早速ガラテヤ様の騎士となりたいと伝えに向かった。

「褒めて貰っても何も出せんが……悪い気はせんな。それはそうとして……わざわざ私の部屋まで来るということは……決まったんだろう?これから、どうするか」

「ええ。……何となくお察しではあったと思いますが」

「そりゃあ、な。子供達から、何やらガラテヤと仲睦まじくしていたとの話も聞いたしな」

 さっきのこと話したんだ、リズ様達……。

「スミマセンでした」

 ジャパニーズ土下座、発動。

 俺は素早く、その場に伏せた。

 ガラテヤ様とは普通に接していたが、そういえば俺達は一般人、なんなら村八分に遭っていた被差別者と子爵令嬢の関係である。

「いやいや、いいんだ。同世代なんだ、気も合うだろう。ガラテヤに新しい友達が出来たみたいで、私も嬉しいよ」

 ベルメリア家がフランクな家柄でなければ拷問からの投獄……なんて事も、有り得ない話ではないだろう。

 俺も元の世界で身分がモノを言う時代に生きたことがある身ではあったが、四度目の生で平和ボケしていたことに加えて、元姉との再会に舞い上がってしまっていたようである。

「ロジーナ様の寛容さが痛み入ります」

「……それで……アレだろう、君?そういう流れでここに来たって事は……欲しいものは……ガラテヤの騎士になる資格ってことでいいのか?」

「はい。……俺、ブライヤ村の『ジィン・セラム』は……恩賞として、『ガラテヤ・モネ・ベルメリア』様の騎士、その身分を所望します」

 これで、正式にガラテヤ様、もとい姉ちゃんの側にいることができる身分を得ることができる。

 そう思っていた。

 そう思っていた、のだが。

「分かった。騎士の資格が認められ次第、こちらで任命の準備をするよう手配しておこう」

「……うん?『騎士の資格が認められ次第』……?」

「ああ。君は確かに、その年齢にしては天才的に強い。しかし、騎士としては不十分だ。だから……今は弱くても、将来的に成長する見込みがあるか。君はあと四年で十六歳、成人を迎えるな?だからそれまでに、ガラテヤを守る騎士たる力を手にすることができそうかを確かめる必要がある」

「えーっと、つまり……?」

「十日後の昼間、太陽が丁度真上に昇った頃。我が夫である『ランドルフ』と、一戦交えてもらう。勿論、勝てとは言わない。彼は私の夫でありながら、十六歳の成人より私を守ってきた騎士にして、ベルメリア領の騎士団長だ。言っちゃあ悪いが、お前どころか、世の人間がそうそう勝てて良い存在ではない」

「は、はぁ……」

「だが、お前が見込みのある人間であり、それでいて、最低限、騎士としてガラテヤを守ることができるに足るであろう戦闘力を持つ人材であると思わせてくれるような実力を見せれば、勝利などもぎ取らなくとも、彼は認めてくれるだろう。ベルメリア領の騎士団長であるランドルフに認められる程度であれば、私も安心して騎士に任命できるというものだ。……という訳で……頑張れ!」

「ええええええええええ!!!?」

 どうやら、ホブゴブリンどころではない程に大きな壁が、俺の前には立ちはだかっているようなのであった。
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