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第三章 変わったこと

第二十二話 迷子を追って 前編

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 ムーア先生との模擬戦、そしてガラテヤ様とのディナーから一週間後の週末。

 俺とガラテヤ様は全ての講義を受け終えた後、冒険者ギルドへと向かい、初めての依頼探しに行ってみることにした。

 ウェンディル学園のみならず、貴族の領地にもいくつか置かれている冒険者養成学校。

 どれも校風が違うとはいえ、そのキャンパス内には必ずギルドの支部が置かれており、学内でも駆け出し冒険者として正式に依頼を受けることができるという、学園へ通う新米冒険者に優しい仕様になっているのは、受験に備えて勉強や鍛錬をしている頃から知っていた。

 そして今日、ガラテヤ様とスケジュールを合わせて向かった学内の冒険者ギルド支部で、初めて冒険者として受ける依頼は……。

「これなんてどうかしら?『迷子犬、捜してます』。依頼者は『ラナ・トルクス』。王都東部、繁華街の少女らしいわ。報酬は仲介料分のマイナスも込みで『金貨一枚と大銀貨五枚一五〇〇〇ネリウス』」。

 つまりは一五〇〇〇円ポッキリである。
 少女がよくもまあ一五〇〇〇ネリウスも用意できたものだが、繁華街で暮らしている子供ともなれば、親がそのくらいの小遣いを与えていてもおかしくはないだろう。

 学生が繁華街の人から出された依頼を受けるなんて…‥と、前世の感覚では思ってしまいがちだが……この世界はそこまで治安がよろしくない。
 突出して治安の良い場所は住宅街、反対に治安の悪い場所はスラム街という区別があるくらいのもので、それ以外は繁華街だろうがその他の商店街だろうが、良くも悪くも大差が無いのである。

 つまりこの世界では、繁華街と他の地域との差別化があまりされていないが故に、学生が繁華街を歩いたところで、そこまで悪いイメージがつかない訳であり……。
 故に俺達はこうして、繁華街からの依頼もすんなり受けることができるのだろう。

「犬捜しですか。まあ俺達、新米ですし……いいんじゃないですか?まずは戦闘があんまり絡まなそうな、こういうやつから慣らして行くのがセオリーって聞きますし」

「そうよね。じゃあ、受託しに行ってくるから、ジィンはここで待っていて」

「はーい」

 それから、掲示板にぶら下げられていた依頼に割り振られていた十六桁の番号を書き写した紙を持って、受付嬢の元へ向かったガラテヤ様。
 そして数分後。
 依頼受託証明書を持って、ガラテヤ様は俺の元へ戻ってきた。

「お待たせ、受付は終わったわ。捜索対象の犬は、王都東部の繁華街で目撃情報があるらしいのだけど……詳しい場所はハッキリしないから、東部の繁華街を中心に、それ以外の地域も少し捜してみる、というふうに書かれているわね」

「……うん?言い回しおかしくないですか?」

 捜すのは俺達なのに、「それ以外の地域も少し捜してみる」……という風に書かれているのは、少し文章がおかしいような。

「それなのだけれど……飼い主も同行するみたいだから、その人がギルドに来るまで少し待っていて欲しい、とのことよ」

「へー、同行者いるんですね」

「そうね。私達二人だけで当てのない捜索をするより、その方が効率的だと飼い主さんが思ったんでしょう」

「かわいいペットのことですもんね」

 飼い主も必死なのだろう。

 この依頼はギルド内においても学生向けのライトな依頼として扱われているものらしく、俺達が依頼を受託してから間もなく、紙は「受託済依頼」の掲示板へと下げ直されていた。

 俺達が失敗した場合、また「受託者募集依頼」へと移されるのだろうが……いわゆる 「キャンセル待ち」の依頼も確認できるようになっているのは、良いシステムであると感じる。

 さて、そうこうしている内に、飼い主らしき少女が到着。

「貴方がラナちゃん?」

「……うん。二人が、おいらのわんこを一緒に探してくれる人?」

「ええ。私はベルメリア子爵家三女のガラテヤよ。そしてこちらは……」

「騎士のジィンだよ、よろしく」

「う、うん……お願い……おいらのわんこを見つけて……ずっと一緒に過ごしてきた、友達なの……」

 この、ガラテヤ様よりも二つか三つくらい年下であろう少女が、犬の飼い主らしい。

「任せて頂戴。このガラテヤとジィンが、必ずや貴方の犬を探し出してみせるわ」

 今にも泣き出しそうなラナちゃんを前に、ガラテヤ様は胸を叩く。

「いいんですか、ガラテヤ様?俺達、まだ駆け出しも駆け出しですよ?」

「いいの。私、この子の犬、見つけるまで帰らないつもりだから」

「……わかりました。お付き合いしますよ、ガラテヤ様」

「ありがとう、お姉さん、お兄さん。じゃあ、まず……最後においらのわんこ……『カケ』が見つかった場所に案内する」

 ラナちゃんに誘導されるがまま、王都東部の繁華街まで、数十分かけて移動。

 そういえば、もはや見慣れた街並みだが、繁華街の近くはあまり来たことが無かった。

 まだ王都に新しい場所があったのかと、新鮮な心持ちである。

 ゴミや砕けたレンガの欠片が散らばる、繁華街とスラム街の丁度、中間辺り。
 昼だからまだ良いものの、この辺りに夜まで居続けるのは安全とはいえないだろう。

 ガラテヤ様は犬を見つけるまで帰らないと言っているが……何とか、それまでに見つけた方が良さそうだ。

 とは言っても、同行者以外に犬捜しのヒントになりそうなものは見つからない。

 外を歩き回ること二時間弱。

「み、見つかりませんね……」

「ええ、そうね……でも、まだまだこれからよ……」

 いよいよ疲れてきた頃、ラナちゃんは付近の塀を指差す。

 そして、

「いた!カケ!待ってー!」

 つい数秒前までそこにいたであろう、しかし路地裏へと逃げていく犬を追って、走って行ってしまった。

「あっ、待って!」

「ガラテヤ様、追いかけましょう!」

「言われなくても!」

 俺とガラテヤ様も、ラナちゃんを追って路地裏へ。

 しかし、ラナちゃんは相当足が早いのだろう。
 角を曲がっても、ラナちゃんは先へ行ってしまったのか…‥姿が見当たらなかった。

「ラナちゃん、どこへ行ったの!?」

 ガラテヤ様が大声で呼びかけるが、ラナちゃんの声は返ってこない。

 代わりに体格の良い男が三人、塀の上に立って俺達を包囲していた。

「これは……罠ですかね?」

 おそらく、俺達はラナちゃんに誘い込まれた。

 彼女はこの男達の手先であり、犬は……実際に見ていないため分からないが、デタラメか、或いは飼い慣らされた猟犬の類だろうか。

「……嘘ついてごめんね、お姉さん、お兄さん。でも……おいら達みたいな、皆に認められてない人達が生きるには、こうしなきゃいけないから。やっちゃおう、みんな」

 男達は塀から飛び降りる。
 そしてラナちゃんは二本のナイフを構えて壁を蹴り、瞬時に距離を詰めてきた。
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