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第三章 変わったこと
第二十五話 猟兵を探して
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翌日、夕暮れ時。
俺、ガラテヤ様、マーズさんは昼間のうちにギルドへ申請を出して馬車を借り、アリーヴァーヴァ平原東部へと向かう。
日が沈む頃に調査対象の地域へ着くように動いたのは、皆が寝静まる夜は警備が手薄であろうという単純な理由である。
実際に俺達がやるべきことは猟兵達の闇討ちでは無く、「彼らの拠点を調査する」という依頼なだけあって、本当に調査するだけなのだ。
故に拠点の場所さえ知ることができれば良い訳であり、猟兵達との交戦は必要では無く、となれば、調査をする時間は環境が隠密性を高めてくれる夜に限る、ということになるのだ。
「……さ、この辺り一帯の広い地域を探せとのことだったけれど……マーズ。見当はついているのかしら?」
「ああ。候補に挙げられる場所は三つだ。一つ目は『ジャルナ空洞』、二つ目は『ファヴァーダ林道』、三つ目は『カルテューナ錬金術研究所跡』。これらは全て、人が隠れ住むことができるであろう場所だ。……というより、このだだっ広い平原で、ある程度まとまった人が隠れられそうな場所があるとすれば、この三つくらいだからな」
「へぇ……。よくわからないけど、その三ヶ所を探せばいいってことか」
「そういうことだ。さあ、どこから行こうか?」
「マーズが言った順番でいいんじゃないかしら?」
「分かった。じゃあ、ジャルナ空洞から行こうか」
「「はーい」」
「……何だ、その妙な反応は」
「遠足みたいだなーと思って」
「懐かしいわね。ジィン?」
「ええ、とても」
「エン……ソク?」
「マーズも、ちょいちょいこの辺に来て狩りしてたみたいな話してたでしょ?そういうのだよ」
「へー……『エンソク』、か。悪くない響きだな」
「ええ、いいものよ。勿論、今回もね」
馬車から降りた俺達は、さらに東へ望む崖へと歩き始める。
マーズさんが先導し、俺達がその後を追うように先へ。
例の空洞は崖の下にあるのだろう。
少しずつ崖へ近づくにつれて、岩肌に一点の闇が見えてくる。
「あそこが入り口?」
「ああ。あそこは、父上が狩った獣を解体すのに使っていた洞窟だ。……懐かしいな」
「どういう造りだったかは、覚えてる?」
「勿論。といっても、ほぼ奥まで一本道の洞窟だから、造りも何も無いのだがな」
「へぇ。……でも、そんなところに猟兵が拠点を作るかしら?」
「あくまで可能性の話だ。候補には挙がるくらい奥行きはあるからな」
気づけば、洞窟はすぐ目の前。
俺達は横に並び、それぞれ持参した武器を構えてゆっくりと進む。
今回は取り回しと身軽さを重視し、交戦しなかった際のことも考えて、私服にファルシオン一本で来た。
盾や弓、鎧などには、自室のウォークインクローゼットを温めてもらっている。
マーズさんもハーフプレートメイルは着ずに、大剣だけを持って来ていた。
ガラテヤ様に至っては私服に拳二つ、つまりはただの町娘スタイルである。
「やぁッ!」
横に並びつつ、やはり少し前を行くマーズさんは、ところどころ俺達に気づいて暴れ出すコウモリのような魔物……おそらく『ヴァン・バット』だろう。
「大丈夫、マーズ?」
「正直、怖い」
「そうよね」
「だが、大丈夫だ。対魔物の訓練なら、無様を晒したあの日からも続けているからな。あと……コイツは普通のコウモリっぽいのと、そこまで大きく無かったのと……まあ、そういう理由でな。ゴブリンとかケウキとか、そういうのなんかよりは、幾分かマシだからな」
マーズさんは剣に付着した血を払い、剣を構え直してさらに先へ。
しかし、すぐに最奥まで着いてしまったようで。
「ここで終わりみたいだな」
「とりあえず、ここは候補地から外れたわね」
「ジャルナ空洞は除外……っと。よし、あと二ヶ所か」
「そうだな。さあ、頑張ろう。二人とも」
どうやら俺達は、「ただコウモリみたいな魔物を殺しただけの人達」でしかなかったようである。
「そうね。まだまだ先は長そうだけれど」
「ガラテヤ様、マーズさん。次……どっち行きます?」
「次は……カルテューナ錬金術研究所にしよう」
「「ふぁーい」」
「さっきから緩くないか!?ジィンはともかく、ガラテヤまで!ベルメリア領ってそういう感じなのか!?」
「いいえ?全く?」
「俺達くらいですよね?」
「そうね」
「……二人とも、兄妹みたいだな。こんなに息ピッタリな主人と騎士のコンビは、そういない」
やはりマーズさん、鋭い。
「さ、次行きましょ」
「そ、そうですね」
「何だ、二人とも待て、私を置いていくな、ちょっと!?」
俺とガラテヤ様は、そんな鋭いマーズさんを置いて外へ。
後を追うマーズさんは、俺達が「調子に乗り過ぎた、話を逸らそう」と思って走り出したとはつゆ知らず。
大剣を納め、俺達の後を走って追うのであった。
俺、ガラテヤ様、マーズさんは昼間のうちにギルドへ申請を出して馬車を借り、アリーヴァーヴァ平原東部へと向かう。
日が沈む頃に調査対象の地域へ着くように動いたのは、皆が寝静まる夜は警備が手薄であろうという単純な理由である。
実際に俺達がやるべきことは猟兵達の闇討ちでは無く、「彼らの拠点を調査する」という依頼なだけあって、本当に調査するだけなのだ。
故に拠点の場所さえ知ることができれば良い訳であり、猟兵達との交戦は必要では無く、となれば、調査をする時間は環境が隠密性を高めてくれる夜に限る、ということになるのだ。
「……さ、この辺り一帯の広い地域を探せとのことだったけれど……マーズ。見当はついているのかしら?」
「ああ。候補に挙げられる場所は三つだ。一つ目は『ジャルナ空洞』、二つ目は『ファヴァーダ林道』、三つ目は『カルテューナ錬金術研究所跡』。これらは全て、人が隠れ住むことができるであろう場所だ。……というより、このだだっ広い平原で、ある程度まとまった人が隠れられそうな場所があるとすれば、この三つくらいだからな」
「へぇ……。よくわからないけど、その三ヶ所を探せばいいってことか」
「そういうことだ。さあ、どこから行こうか?」
「マーズが言った順番でいいんじゃないかしら?」
「分かった。じゃあ、ジャルナ空洞から行こうか」
「「はーい」」
「……何だ、その妙な反応は」
「遠足みたいだなーと思って」
「懐かしいわね。ジィン?」
「ええ、とても」
「エン……ソク?」
「マーズも、ちょいちょいこの辺に来て狩りしてたみたいな話してたでしょ?そういうのだよ」
「へー……『エンソク』、か。悪くない響きだな」
「ええ、いいものよ。勿論、今回もね」
馬車から降りた俺達は、さらに東へ望む崖へと歩き始める。
マーズさんが先導し、俺達がその後を追うように先へ。
例の空洞は崖の下にあるのだろう。
少しずつ崖へ近づくにつれて、岩肌に一点の闇が見えてくる。
「あそこが入り口?」
「ああ。あそこは、父上が狩った獣を解体すのに使っていた洞窟だ。……懐かしいな」
「どういう造りだったかは、覚えてる?」
「勿論。といっても、ほぼ奥まで一本道の洞窟だから、造りも何も無いのだがな」
「へぇ。……でも、そんなところに猟兵が拠点を作るかしら?」
「あくまで可能性の話だ。候補には挙がるくらい奥行きはあるからな」
気づけば、洞窟はすぐ目の前。
俺達は横に並び、それぞれ持参した武器を構えてゆっくりと進む。
今回は取り回しと身軽さを重視し、交戦しなかった際のことも考えて、私服にファルシオン一本で来た。
盾や弓、鎧などには、自室のウォークインクローゼットを温めてもらっている。
マーズさんもハーフプレートメイルは着ずに、大剣だけを持って来ていた。
ガラテヤ様に至っては私服に拳二つ、つまりはただの町娘スタイルである。
「やぁッ!」
横に並びつつ、やはり少し前を行くマーズさんは、ところどころ俺達に気づいて暴れ出すコウモリのような魔物……おそらく『ヴァン・バット』だろう。
「大丈夫、マーズ?」
「正直、怖い」
「そうよね」
「だが、大丈夫だ。対魔物の訓練なら、無様を晒したあの日からも続けているからな。あと……コイツは普通のコウモリっぽいのと、そこまで大きく無かったのと……まあ、そういう理由でな。ゴブリンとかケウキとか、そういうのなんかよりは、幾分かマシだからな」
マーズさんは剣に付着した血を払い、剣を構え直してさらに先へ。
しかし、すぐに最奥まで着いてしまったようで。
「ここで終わりみたいだな」
「とりあえず、ここは候補地から外れたわね」
「ジャルナ空洞は除外……っと。よし、あと二ヶ所か」
「そうだな。さあ、頑張ろう。二人とも」
どうやら俺達は、「ただコウモリみたいな魔物を殺しただけの人達」でしかなかったようである。
「そうね。まだまだ先は長そうだけれど」
「ガラテヤ様、マーズさん。次……どっち行きます?」
「次は……カルテューナ錬金術研究所にしよう」
「「ふぁーい」」
「さっきから緩くないか!?ジィンはともかく、ガラテヤまで!ベルメリア領ってそういう感じなのか!?」
「いいえ?全く?」
「俺達くらいですよね?」
「そうね」
「……二人とも、兄妹みたいだな。こんなに息ピッタリな主人と騎士のコンビは、そういない」
やはりマーズさん、鋭い。
「さ、次行きましょ」
「そ、そうですね」
「何だ、二人とも待て、私を置いていくな、ちょっと!?」
俺とガラテヤ様は、そんな鋭いマーズさんを置いて外へ。
後を追うマーズさんは、俺達が「調子に乗り過ぎた、話を逸らそう」と思って走り出したとはつゆ知らず。
大剣を納め、俺達の後を走って追うのであった。
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