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第一章・婚約破棄
藤堂清雅、キレる
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食堂から聞こえるレギーナの声で、私の足は止まりました。恐れていた事がとうとう起きてしまったのです。美しいレギーナをその目で見て、藤堂様はどう思われたのでしょうか。私が妹にとって良かれと思って取った行動は、藤堂様にとっては迷惑だったかもしれない。もう生娘ではないけれど、子供が出来ていなければ連れて行きたかったのはレギーナの方かもしれないわ。
私はいけないと思いつつ、廊下で食堂内の会話に耳をそばだてます。
「レギーナ殿は和の国に興味があるのですか?」
「ええ、勿論ですわ。和の国の男性は皆このように凛々しい方ばかりなのかしら? 清雅様はとっても素敵だし、そちらの無骨そうな方は無愛想だけれど、私は武人が大好きでしてよ。私を守ってくれるナイトになってくれそうですもの。あちらの方は涼やかな目元が冷たそうに見えますけど、きっと好いた方には別の顔を見せるのでしょうね。笑えば素敵だと思うわ。嫌だ、私ばかりが喋っているではないですか、清雅様はどのような女性がお好みですの?」
レギーナ! あなたは初対面の方に何て事を聞いているの! お客様相手に学園のノリで気軽に聞いて良い事ではありませんよ! 学園でも淑女としての教育は受けているはずなのに、あの子ったら、何も身についていないじゃないの。恥ずかしいわ……きっと学園でもあの調子なのね。男の子達にはあれで受け入れられているから、あの子もそれで良いと勘違いしている。ハァ……一から礼儀作法を仕込み直さなくちゃいけないみたいね。
『殿、この女、本当にユリ殿の妹なのですか? とても同じ家の娘とは思えぬ。どこも似て居らぬではないか。それになんだ、この馴れ馴れしい態度は、もしや殿を名前で呼んでおるのですか? 礼儀を知らぬ無礼な女だ。少しは姉を見習えと言ってやりたい』
『木島、拙者も同感だ。先ほどから耳障りな猫なで声が鼻につく。腹に子が居るくせに、殿に懸想しているのか? 貴様などに用は無いからどこかへ行けと言って下さい』
丹羽様と木島様の声が聞こえます。和の国の言葉はまだよく分からないけれど、私をユリと呼ぶのは木島様。彼らの話していた中に出て来たトノとは藤堂様の事。私と藤堂様の事を話しているのかしら? 何だか二人共レギーナの言葉はわからないはずなのにすごく怒っているみたい。
『ふっ、私もそう思うが、ユーリア殿の妹は私の義理の妹になるのだ。国に帰ればもう滅多に会うこともない相手。そう邪険にするな。先ほどから他愛も無いことばかり話している。精神がまだ子供なのだ、適当にあわせておけばよい』
あ、今私の名前が出たわ。多分、「ユーリアの妹」と言ったのね。三人でレギーナの事を話しているのだわ。何て言っているのかしら?
「もう、男性だけで私に内緒のお話ですの? 今、ユーリアと聞こえたけれど私と姉を比べているのかしら? 姉が可哀想だから、止めてくださる? 何を考えているのか、あなたに気に入られたいとでも思ったのかしらね、多少身奇麗にしたからといって男性の好きなタイプでは無いというのに。清雅様には申し訳無い事をしてしまったわ。私が和の国に行くはずでしたのに、姉を見てがっかりなさったのではなくて? もう少し早く迎えに来てくだされば問題無くあなたの元へ行けたのに、来るのが遅いですわ」
私、眩暈がして来ました。レギーナは学園に入って以前より馬鹿になってしまったようです。入学前は私が色々教えて、それはきちんと礼儀をわきまえた子だったというのに……人が育つ為の環境とは恐ろしく重要な物なのですね、私の言葉を聞かなくなったこの4年で男の子達はあの子を相当甘やかして来たのだわ。
『殿、この女は何と言っておるのですか? 意味は分からぬが、ユリ殿を貶める事を言っておるのでは?』
『はっはっはっ、凄いな木島、その通りだ。姉より自分の方が美しいと豪語している。ククク、面白い娘だ』
『拙者はこの天狗のような鼻の女、少しも美しいと思わんが。ユ、ユリ殿は身形を気にする前から可憐な乙女であった』
あ! 丹羽様までユリと仰ったわ。何? 今度は私の話? ああ、もう。食堂に入るタイミングを逃してしまったわ。あの子がおかしな事を言う前に行けば良かった。
そんな事を考えて二の足を踏んでいると、藤堂様が食堂から出てきて声をかけられてしまいました。
「ユーリア殿、そんな所に立っていないで入って来てはどうか。皆と話をしませんか。……ずっと聞いていたのであろう? 確かにあの会話では入りにくいであろうな。しかし、面白い娘ですな、あなたの妹とは思えぬとあの二人が驚いていますぞ」
藤堂様は途中から体を寄せ、声をひそめて話します。私も聞こえにくくて無意識に耳を寄せてしまいました。彼の体温を感じて、友人に言われた一言が頭を過ぎります。
まるで恋する乙女のようですわよ
ボッと顔が熱くなりました。しかし、最後の一言が私を冷静にしてくれました。「あなたの妹とは思えない」やはり私とあの子を比べていたのですね。
「あらお姉ちゃん、来たの。せっかく楽しくお話していたのに、しらけちゃうじゃない。何しに来たの?」
「喉が渇いたので、お茶をもらいに来たのよ。レギーナ、あまり藤堂様達を困らせては駄目よ。この方達はあなたのお友達ではないのだから、礼儀をわきまえなさい」
「もう、うるさい! これだからしらけるって言ってるのよ。一つしか違わないのに偉そうに命令しないで!」
命令したつもりは無いのだけれど、ちょっと注意すればこの反応なのです。
わたしはメイドにミルクティーを頼み、藤堂様に促されるまま皆様の輪に入りました。
「あ、皆様お茶のおかわりはいかが?」
皆のカップは空になっていました。レギーナはおかわりを勧めなかったのね。私は木島様と丹羽様に身振りでおかわりを勧めました。二人は頷いたのでメイドにおかわりを頼みます。
「藤堂様は?」
「では、あなたと同じ物を飲んでみたい」
「ミルク入りの甘いお紅茶ですけれど……」
男性が好むか心配でしたが、藤堂様にミルクティーを、レギーナにはホットミルクを用意してもらい、外に出ませんかと提案して夕方のテラスに出てちょっとしたお茶会を開きました。
日中はまだ暑さの残る外の空気は、日が傾いて過ごし易い気温になっていました。
「涼しいですね。和の国は今どの様な気候なのですか?」
「ここよりもう少し気温と湿度が高いですかな。この国は涼しくてカラッとした空気が気持ち良い」
「来月に入ったらもっと空気が乾燥しますのよ。冬は肌がピリピリしますの。湿度が高ければそんなことは無いのでしょうね」
『殿、通訳をお願いします』
『我々を忘れないで頂きたい。ユリ殿は何と言っておるのですか』
丹羽様と木島様が、通訳をと言っているのがわかりました。これは何度も聞きましたから。
『外は涼しいな、今の和の国はどんな気候かと。それにこの国は乾燥しやすいらしい』
『おお、確かに今は涼しいですな。それにこの国はカラッとして気持ちが良い』
『それは私が言った』
特に意識したわけでは無いのですが、徐々に4人での会話が盛り上がっていき、レギーナがふて腐れてしまいました。
「何ですの? 仲間はずれにするなんて酷いですわ。お姉ちゃんが来たせいよ。さっきまで楽しかったのに、お姉ちゃんは邪魔だから何処かに行ってちょうだい。清雅様だって私とお話したいと思っているわ、そうでしょう?」
藤堂様は今までの和やかな空気から一変して、少々殺気を感じるほど雰囲気が変わってしまいました。それを察知した木島様、丹羽様ともに笑顔が消え、お茶会の場に相応しくない殺伐とした空気が流れました。
「あの、どうされたのです? 妹が無礼な事ばかり言ってしまい申し訳ありません」
「あなたはこんな事を目下の者に言われて、腹が立たないのか?」
「え、っと? いつもの事なので」
「そんな事だから、このうつけ者は増長するのだ。姉としてもっと妹を厳しく躾けせよ! 姉を姉とも思わぬこの阿呆めが、客人の前であなたをさらに貶めるなど、到底許せぬ! 言わせてもらうが、レギーナ。お前など美しいとは欠片も思わぬわ! 美醜の好みは国によって違うのだ、お前など我が国では鬼か天狗かもののけだ。美しいとはユーリア殿の事を言うのだ。外見だけではない、心根のやさしさがにじみ出て、内面から輝きを発しておるだろう。初めてお会いした時には後光が差して見えたくらいだ!」
藤堂様の言葉に全身が赤くなるのではと思うくらい赤面した私は、レギーナが人生初、自慢の美貌を全否定されショックのあまり藤堂様に暴言を吐いて走り去っていた事に気付きませんでした。
私はいけないと思いつつ、廊下で食堂内の会話に耳をそばだてます。
「レギーナ殿は和の国に興味があるのですか?」
「ええ、勿論ですわ。和の国の男性は皆このように凛々しい方ばかりなのかしら? 清雅様はとっても素敵だし、そちらの無骨そうな方は無愛想だけれど、私は武人が大好きでしてよ。私を守ってくれるナイトになってくれそうですもの。あちらの方は涼やかな目元が冷たそうに見えますけど、きっと好いた方には別の顔を見せるのでしょうね。笑えば素敵だと思うわ。嫌だ、私ばかりが喋っているではないですか、清雅様はどのような女性がお好みですの?」
レギーナ! あなたは初対面の方に何て事を聞いているの! お客様相手に学園のノリで気軽に聞いて良い事ではありませんよ! 学園でも淑女としての教育は受けているはずなのに、あの子ったら、何も身についていないじゃないの。恥ずかしいわ……きっと学園でもあの調子なのね。男の子達にはあれで受け入れられているから、あの子もそれで良いと勘違いしている。ハァ……一から礼儀作法を仕込み直さなくちゃいけないみたいね。
『殿、この女、本当にユリ殿の妹なのですか? とても同じ家の娘とは思えぬ。どこも似て居らぬではないか。それになんだ、この馴れ馴れしい態度は、もしや殿を名前で呼んでおるのですか? 礼儀を知らぬ無礼な女だ。少しは姉を見習えと言ってやりたい』
『木島、拙者も同感だ。先ほどから耳障りな猫なで声が鼻につく。腹に子が居るくせに、殿に懸想しているのか? 貴様などに用は無いからどこかへ行けと言って下さい』
丹羽様と木島様の声が聞こえます。和の国の言葉はまだよく分からないけれど、私をユリと呼ぶのは木島様。彼らの話していた中に出て来たトノとは藤堂様の事。私と藤堂様の事を話しているのかしら? 何だか二人共レギーナの言葉はわからないはずなのにすごく怒っているみたい。
『ふっ、私もそう思うが、ユーリア殿の妹は私の義理の妹になるのだ。国に帰ればもう滅多に会うこともない相手。そう邪険にするな。先ほどから他愛も無いことばかり話している。精神がまだ子供なのだ、適当にあわせておけばよい』
あ、今私の名前が出たわ。多分、「ユーリアの妹」と言ったのね。三人でレギーナの事を話しているのだわ。何て言っているのかしら?
「もう、男性だけで私に内緒のお話ですの? 今、ユーリアと聞こえたけれど私と姉を比べているのかしら? 姉が可哀想だから、止めてくださる? 何を考えているのか、あなたに気に入られたいとでも思ったのかしらね、多少身奇麗にしたからといって男性の好きなタイプでは無いというのに。清雅様には申し訳無い事をしてしまったわ。私が和の国に行くはずでしたのに、姉を見てがっかりなさったのではなくて? もう少し早く迎えに来てくだされば問題無くあなたの元へ行けたのに、来るのが遅いですわ」
私、眩暈がして来ました。レギーナは学園に入って以前より馬鹿になってしまったようです。入学前は私が色々教えて、それはきちんと礼儀をわきまえた子だったというのに……人が育つ為の環境とは恐ろしく重要な物なのですね、私の言葉を聞かなくなったこの4年で男の子達はあの子を相当甘やかして来たのだわ。
『殿、この女は何と言っておるのですか? 意味は分からぬが、ユリ殿を貶める事を言っておるのでは?』
『はっはっはっ、凄いな木島、その通りだ。姉より自分の方が美しいと豪語している。ククク、面白い娘だ』
『拙者はこの天狗のような鼻の女、少しも美しいと思わんが。ユ、ユリ殿は身形を気にする前から可憐な乙女であった』
あ! 丹羽様までユリと仰ったわ。何? 今度は私の話? ああ、もう。食堂に入るタイミングを逃してしまったわ。あの子がおかしな事を言う前に行けば良かった。
そんな事を考えて二の足を踏んでいると、藤堂様が食堂から出てきて声をかけられてしまいました。
「ユーリア殿、そんな所に立っていないで入って来てはどうか。皆と話をしませんか。……ずっと聞いていたのであろう? 確かにあの会話では入りにくいであろうな。しかし、面白い娘ですな、あなたの妹とは思えぬとあの二人が驚いていますぞ」
藤堂様は途中から体を寄せ、声をひそめて話します。私も聞こえにくくて無意識に耳を寄せてしまいました。彼の体温を感じて、友人に言われた一言が頭を過ぎります。
まるで恋する乙女のようですわよ
ボッと顔が熱くなりました。しかし、最後の一言が私を冷静にしてくれました。「あなたの妹とは思えない」やはり私とあの子を比べていたのですね。
「あらお姉ちゃん、来たの。せっかく楽しくお話していたのに、しらけちゃうじゃない。何しに来たの?」
「喉が渇いたので、お茶をもらいに来たのよ。レギーナ、あまり藤堂様達を困らせては駄目よ。この方達はあなたのお友達ではないのだから、礼儀をわきまえなさい」
「もう、うるさい! これだからしらけるって言ってるのよ。一つしか違わないのに偉そうに命令しないで!」
命令したつもりは無いのだけれど、ちょっと注意すればこの反応なのです。
わたしはメイドにミルクティーを頼み、藤堂様に促されるまま皆様の輪に入りました。
「あ、皆様お茶のおかわりはいかが?」
皆のカップは空になっていました。レギーナはおかわりを勧めなかったのね。私は木島様と丹羽様に身振りでおかわりを勧めました。二人は頷いたのでメイドにおかわりを頼みます。
「藤堂様は?」
「では、あなたと同じ物を飲んでみたい」
「ミルク入りの甘いお紅茶ですけれど……」
男性が好むか心配でしたが、藤堂様にミルクティーを、レギーナにはホットミルクを用意してもらい、外に出ませんかと提案して夕方のテラスに出てちょっとしたお茶会を開きました。
日中はまだ暑さの残る外の空気は、日が傾いて過ごし易い気温になっていました。
「涼しいですね。和の国は今どの様な気候なのですか?」
「ここよりもう少し気温と湿度が高いですかな。この国は涼しくてカラッとした空気が気持ち良い」
「来月に入ったらもっと空気が乾燥しますのよ。冬は肌がピリピリしますの。湿度が高ければそんなことは無いのでしょうね」
『殿、通訳をお願いします』
『我々を忘れないで頂きたい。ユリ殿は何と言っておるのですか』
丹羽様と木島様が、通訳をと言っているのがわかりました。これは何度も聞きましたから。
『外は涼しいな、今の和の国はどんな気候かと。それにこの国は乾燥しやすいらしい』
『おお、確かに今は涼しいですな。それにこの国はカラッとして気持ちが良い』
『それは私が言った』
特に意識したわけでは無いのですが、徐々に4人での会話が盛り上がっていき、レギーナがふて腐れてしまいました。
「何ですの? 仲間はずれにするなんて酷いですわ。お姉ちゃんが来たせいよ。さっきまで楽しかったのに、お姉ちゃんは邪魔だから何処かに行ってちょうだい。清雅様だって私とお話したいと思っているわ、そうでしょう?」
藤堂様は今までの和やかな空気から一変して、少々殺気を感じるほど雰囲気が変わってしまいました。それを察知した木島様、丹羽様ともに笑顔が消え、お茶会の場に相応しくない殺伐とした空気が流れました。
「あの、どうされたのです? 妹が無礼な事ばかり言ってしまい申し訳ありません」
「あなたはこんな事を目下の者に言われて、腹が立たないのか?」
「え、っと? いつもの事なので」
「そんな事だから、このうつけ者は増長するのだ。姉としてもっと妹を厳しく躾けせよ! 姉を姉とも思わぬこの阿呆めが、客人の前であなたをさらに貶めるなど、到底許せぬ! 言わせてもらうが、レギーナ。お前など美しいとは欠片も思わぬわ! 美醜の好みは国によって違うのだ、お前など我が国では鬼か天狗かもののけだ。美しいとはユーリア殿の事を言うのだ。外見だけではない、心根のやさしさがにじみ出て、内面から輝きを発しておるだろう。初めてお会いした時には後光が差して見えたくらいだ!」
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