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第一章・婚約破棄
父から下された罰
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妹レギーナが藤堂様に激怒され逆切れして捨て台詞を吐いた件は、たまたま食堂の裏で休憩していた執事のベンによって夕食後、お父様の耳に入る事となりました。レギーナはあれから部屋で大暴れし手が付けられない状態で、壁紙は破れ、カーテンやシーツなどはハサミで切り裂かれボロボロ、お気に入りの置物を投げつけて鏡や窓ガラスが割れるなど、彼女の部屋は惨憺たる有様でした。
ナタリーが別の部屋を用意してその晩は寝かせましたが、翌朝、いつも通り起こしに行ったナタリーは彼女の異変に気付きました。
「おはようございます、ユーリアお嬢様、起きて下さい」
「なぁに? まだちょっと早いじゃない……」
「レギーナお嬢様の事でお話しがあります」
私はガバッと飛び起きてナタリーを見ました。
「どうかしたの? まさか、流産?」
「いえ、朝起こしに行きましたらシーツが経血で汚れておりまして妊娠していない事がわかりました。ただいつもより出血が多く、腹痛が酷いようです。今は痛み止めを飲んで寝ています。その事を旦那様にもすぐに報告致しましたら、レギーナお嬢様をこの家から出すと仰って……」
お父様がそんな事を言うとは信じられず、私は急いで身支度して食堂にいる父の元へ向いました。父はいつも通り、新聞を読んでコーヒーを飲んでいます。とても娘を家から追い出すと言った後だとは思えない落ち着き振りです。
「お父様!」
「ああ、今朝は早いな。おはようユーリア。今日は登校日だったかな?」
「本当ですか?! レギーナをこの家から出すつもりなのですか?」
お父様は新聞をテーブルに置き、視線を私に向けました。
「ナタリーに聞いたのか。そうだ、あの子はこの家に居てはどんどん駄目になってしまう。私も目が行き届いていなかったが、お前と同等に扱ったつもりがこんな事になってしまった」
「お父様は私よりもレギーナに甘かったと自覚していないのですか? 何でも買い与えて我が儘放題だったのに」
「何の話だ。私は何も買い与えてなどいないぞ。よくねだりに書斎まで来ていたが、あの子の欲しがる物はうちの財力では買えない物ばかりだ。うちは男爵家だぞ? 小さな領地を細々と開拓して生活しているのに、ルビーのネックレスやら大粒のダイヤのイヤリングやら、どこのお姫様かと思う様な物ばかりを欲しがって。身の程を知らずあの子は何度言い聞かせても理解できないようだった」
私はお父様が買い与えているとばかり思っていたけれど、宝石やドレスの値段を知らない私にはうちで買える物かどうかの判断はできませんでした。では、あの子が身に付けていた豪華なドレスや宝石は一体誰が買ったのでしょう。年頃になってからは部屋に入らせてくれなくなって、何をどれだけ持っているのか知らないけれど。
「もしかして、取り巻きの誰かに買わせていたのかしら?」
「実はレギーナの素行をベンに調べさせていたのだが、あの子は、男に貢がせて贅沢を覚えてしまったのだ。やはり、レギーナを修道院に入れる。妊娠が嘘だったのは幸いだった。子供を産ませてから修道院に入れるつもりだったが、早いほうが良い。男達と切り離して更生させる。これは決定だ。体調が良くなり次第、一番厳しいと言われるサン・ルカニ修道院に連れて行くぞ」
昨日お客様に失礼な態度を取り、癇癪を起こして部屋で暴れたのです。極めつけはやはり、私の婚約者を寝取った件が最大の失態です。私が許せば何とかなるレベルは父の中でとうに越えていたようです。
お父様はレギーナがアキムとの関係を告白したあの日、これまでの素行をベンに調べる様指示していました。
それで分かった事。
王子や高位貴族の令息達を財布代わりに、休日は街で買い物三昧、家に有る物は極一部で、タウンハウスを借りさせてそこに品物をどっさり詰め込んでいたのです。見返りは自分自身。乱れきった妹の実態を知り、私は言葉が出ませんでした。
ベンの調べで分かった相手には品物を返却したいと申し出ましたが、誰も受け取ってはくれませんでした。相手も年若い少女への行為を良くない事だとわかっていたようです。レギーナは発狂寸前でしたが、頂いた品物は全て売却し、全額教会へと寄付しました。
五日後、修道院に向うレギーナを見送りました。
「お姉ちゃんがお父様に告げ口したの?」
「私は、学園に入ってからのあなたをよく知らないわ。口煩いと言われても、もっと厳しく接していれば何かが違ったのかしら。修道院で心を入れ替えなさい。男性に依存した生活はすっぱり忘れるのよ。こんな事しか言えないけれど、体に気をつけて、元気でね」
「お姉ちゃんごめんね……」
レギーナが呟いた言葉は馬車が走り出すと同時に発せられ、私の耳には届きませんでした。
ナタリーが別の部屋を用意してその晩は寝かせましたが、翌朝、いつも通り起こしに行ったナタリーは彼女の異変に気付きました。
「おはようございます、ユーリアお嬢様、起きて下さい」
「なぁに? まだちょっと早いじゃない……」
「レギーナお嬢様の事でお話しがあります」
私はガバッと飛び起きてナタリーを見ました。
「どうかしたの? まさか、流産?」
「いえ、朝起こしに行きましたらシーツが経血で汚れておりまして妊娠していない事がわかりました。ただいつもより出血が多く、腹痛が酷いようです。今は痛み止めを飲んで寝ています。その事を旦那様にもすぐに報告致しましたら、レギーナお嬢様をこの家から出すと仰って……」
お父様がそんな事を言うとは信じられず、私は急いで身支度して食堂にいる父の元へ向いました。父はいつも通り、新聞を読んでコーヒーを飲んでいます。とても娘を家から追い出すと言った後だとは思えない落ち着き振りです。
「お父様!」
「ああ、今朝は早いな。おはようユーリア。今日は登校日だったかな?」
「本当ですか?! レギーナをこの家から出すつもりなのですか?」
お父様は新聞をテーブルに置き、視線を私に向けました。
「ナタリーに聞いたのか。そうだ、あの子はこの家に居てはどんどん駄目になってしまう。私も目が行き届いていなかったが、お前と同等に扱ったつもりがこんな事になってしまった」
「お父様は私よりもレギーナに甘かったと自覚していないのですか? 何でも買い与えて我が儘放題だったのに」
「何の話だ。私は何も買い与えてなどいないぞ。よくねだりに書斎まで来ていたが、あの子の欲しがる物はうちの財力では買えない物ばかりだ。うちは男爵家だぞ? 小さな領地を細々と開拓して生活しているのに、ルビーのネックレスやら大粒のダイヤのイヤリングやら、どこのお姫様かと思う様な物ばかりを欲しがって。身の程を知らずあの子は何度言い聞かせても理解できないようだった」
私はお父様が買い与えているとばかり思っていたけれど、宝石やドレスの値段を知らない私にはうちで買える物かどうかの判断はできませんでした。では、あの子が身に付けていた豪華なドレスや宝石は一体誰が買ったのでしょう。年頃になってからは部屋に入らせてくれなくなって、何をどれだけ持っているのか知らないけれど。
「もしかして、取り巻きの誰かに買わせていたのかしら?」
「実はレギーナの素行をベンに調べさせていたのだが、あの子は、男に貢がせて贅沢を覚えてしまったのだ。やはり、レギーナを修道院に入れる。妊娠が嘘だったのは幸いだった。子供を産ませてから修道院に入れるつもりだったが、早いほうが良い。男達と切り離して更生させる。これは決定だ。体調が良くなり次第、一番厳しいと言われるサン・ルカニ修道院に連れて行くぞ」
昨日お客様に失礼な態度を取り、癇癪を起こして部屋で暴れたのです。極めつけはやはり、私の婚約者を寝取った件が最大の失態です。私が許せば何とかなるレベルは父の中でとうに越えていたようです。
お父様はレギーナがアキムとの関係を告白したあの日、これまでの素行をベンに調べる様指示していました。
それで分かった事。
王子や高位貴族の令息達を財布代わりに、休日は街で買い物三昧、家に有る物は極一部で、タウンハウスを借りさせてそこに品物をどっさり詰め込んでいたのです。見返りは自分自身。乱れきった妹の実態を知り、私は言葉が出ませんでした。
ベンの調べで分かった相手には品物を返却したいと申し出ましたが、誰も受け取ってはくれませんでした。相手も年若い少女への行為を良くない事だとわかっていたようです。レギーナは発狂寸前でしたが、頂いた品物は全て売却し、全額教会へと寄付しました。
五日後、修道院に向うレギーナを見送りました。
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「私は、学園に入ってからのあなたをよく知らないわ。口煩いと言われても、もっと厳しく接していれば何かが違ったのかしら。修道院で心を入れ替えなさい。男性に依存した生活はすっぱり忘れるのよ。こんな事しか言えないけれど、体に気をつけて、元気でね」
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レギーナが呟いた言葉は馬車が走り出すと同時に発せられ、私の耳には届きませんでした。
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