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第1章
アリアの手紙
しおりを挟むクロエはもう一度蓋を開けて中に入っていた手紙を取り出し、すぐに閉めた。封筒には「親愛なるクロエへ」と書かれてある。
『 クロエへ
この荷物の中身に驚いたでしょう。
魔法省があなたの研究室を封鎖するというから、ファイルと一緒に私物を送るわね。ダミヤンに居場所を追跡されない様に一度私の実家を経由してあなたに届けさせたの。
何故こんな回りくどい事してるのか、分からないわよね。
ダミヤンがあなたの事、探しているのよ。私達に居場所を聞いてきたの。まだ何かする気かもしれないから気を付けてね。
あの後、ダミヤンがあなたに盗作されたと騒いだ魔道具を申請したけど、これでは魔道具として機能しないと突き返されたわ。魔法陣が足りない事に気づいて一度取り下げたけど、無いのは前に私が借りた魔法陣よ。ダミヤンはクロエが抜き取って持ち出したって騒いでいたわ。
どうやったのかは分からないけど、クロエが訴えられる前日に申請した「登録した魔力で開ける錠」のファイルを書き写して自分の書いた物と摩り替えていたみたい。クロエを研究所から追い出して、自分は申請前の魔道具のデータを頂こうとしたってところでしょうね。
資料室にあるクロエの魔法陣集から、必要な物を探し出せるのか見物だわ。
魔法省には完璧に揃ったクロエの申請書類が有るのに、騙された監察はこれからどうするつもりなのかしらね?
追伸 送った物を見てダイエットに励みなさいね。私からのプレゼントも入っているから。
あなたの親友 アリアより』
わざわざ書き写すなんて、随分面倒な事したのね。しかも中身が理解出来てないからボロが出たわけね。
これは割りと単純な構造なんだけど。
目の前の箱に付いた錠を見る。これを作ったのはレオが子供の頃、宝箱の鍵を無くして泣く泣く箱を壊して中身を取り出したと話していたからだ。小さな鍵は無くしやすい。魔力で開ける事が出来たら鍵を無くす心配は無くなると考え作った物だ。
「それにしても、これを見てダイエットしろだなんて……」
もう一度蓋を開ける。
梱包財に包まれた美しいクロエ人形が横たわっている。隙間にアリアのダイエット器具が入っていた。恐らく研究ファイルは底に敷き詰められているのだろう。箱の深さを考えると本当に全て詰め込んだようだ。
「これを誰かに見られたら大変な事になりそう。どう見ても死体を隠している様にしか見えないわ……」
クロエは台車を駆使して部屋の奥へ箱を移動させた。一応、ダイエット器具は出して机に置いた。これを使う日は来るのだろうか。
その日の夕食時、クロエの荷物の話になった。
「クロエ、あの荷はなんだ? グレンが随分苦労して部屋に入れていたようだが」
「あれは私が研究室に置いてきた私物です。友人が纏めて送ってくれました」
「そうか、研究室を封鎖されてしまったのだな」
イザーク様に中身を見せろと言われるかとドキドキしていた。さすがに私物だと言えばそんな事は無いのだけれど。
「試作品は送られて来なかったのか? 君の研究には興味がある。是非見せて欲しいのだが」
「ひぇっ?」
動揺のあまり声が裏返ってしまった。
「えーっと、人体再生に関する物は全て使ったのでお見せする事は出来ません。すみません」
「そうか、残念だな」
だって、試作品はすべて一体に集約されてクロエ人形になったんだもの。見せられる訳が無いんですよ。
「ところで、今日の昼食のパスタは美味かった。また作ってくれないか」
今日の昼食メニューはランスのリクエストでミートソースのパスタだった。やはりイザーク様の好物のようだ。ついにんまり笑ってしまった。
「もちろん言って下されば、いつでもお作りしますよ。以前好き嫌いは無いと仰いましたが、ミートソースがお好きなんですね」
「……トマトを使った料理は割りと好きな物が多い」
あらら、イザーク様が可愛いです。ちょっと耳が赤いですよ。困ったように目を逸らして、自分の好物を言うのがそんなに恥ずかしいのでしょうか。
「わかりました。トマトを使った料理ですね。幾つかレパートリーがありますから、明日早速作りますね」
クロエはイザークの好物を知って、頭の中で献立を考えながら無意識にイザークを見て微笑んでいた。
「何をニヤニヤしている」
「えぁっ? 私ニヤニヤなんてしてませんよ、失礼な」
クロエはそう言ってぱくっと一口で、大き目に千切ったパンを口に入れた。まるでリスの様に頬が膨らんでいる。
「フッ」
イザークが突然笑い出した。
「何ですか? 何か面白い事でもありました? あ、思い出し笑いは駄目ですよ。それやる人はスケベだって父さんが言ってました」
「思い出したのではない、お前が面白かっただけだ。俺はスケベではない」
この短期間ですっかり打ち解けて、お互い遠慮の無い物言いをするようになっていた。イザークの事は初め取っ付き難そうな人だと思ったが、意外にフレンドリーな面もある。自分の認めた相手にはとても優しい人だと分かった。
アリアの手紙には不穏な事も書いて有ったが、何事も無くさらに一年が過ぎ、クロエは16歳になっていた。
いつもの様に工房の手伝いをしていると、カラン、とドアの開く音がした。お客様だと思い元気に挨拶する。
「いらっしゃいませ!」
外が明るすぎて逆光となり男性と思われるシルエットしか見えない。
コツ……コツ……と靴音を鳴らし、カウンターに近づいて来た。
するとクロエの表情がみるみる変わった。
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