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第四章 廃工場のお姫様
1-24 「くそっどうしてこんなっ。逃げるぞ!」
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「この子うっさいっすねー、どうせ殺すんでしょ? だったらさっさっと殺しちゃいましょうよ?」
「っ」
連れ去られて初めて自分がどうなるかを耳にし、イヴェットは息を飲んだ。一気に心臓がうるさくなる。
「駄目だ、人を殺すのは夜が一番って大昔から決まってるだろ。あの人を待っておく必要もあるし。それに俺らが殺したらもしもの時、未成年だろうと出られなくなる可能性があるだろ!」
「ちぇっ……。分かりましたよ~」
自分を殺そうと提案した男が諌められたのでほんの少しだけ安心したが、完全に心臓が静まることは無かった。
一体今は何時だろう。空腹ではあるが我慢出来ない程ではないので、まだ昼過ぎか。祈りが届くことはないのだろうか。目隠しをされた状況では滲んだ涙がすぐに布に吸い込まれてしまい、自分が今本当に泣いているのかも分からない。
男が声を上げたのはその時だった。
「おい……なんか焦げ臭くねぇか?」
「は? んなわけねぇだろ。今ここには俺らしか居ねぇし、こんな所誰も来ねぇよ」
その言葉に自分もすんと臭いを嗅いでみた。言われてみればそんな臭いがする。ゾッとした。
「! 本当だ、おいお前ら起きろ! 廊下が燃えてんぞ! 火事だ!」
「おい誰か消火器見つけて来い!」
「老朽化で取り壊す建物の消火器がまともに機能すると思ってんのかよ!」
周囲に居る男達の声が多くなり、騒がしさが一気に増した。何かが燃える臭いが先程よりも鼻につき始める。
「んーっ! んんんーっ」
恐怖が目の前に迫って来た。同時に、バン! と腹奥にまで響く銃声も響いた。予想もしていなかった音に頭の中がパニックになる。自分でもそうなのだから、動ける人の混乱は更に凄い。
「は!? サツが来てんのか!?」
「くそっどうしてこんなっ。逃げるぞ!」
自分はどうなるのだろうか。不安になってんーんーと声を上げるが誰も聞いてくれない。じとり、と温度が上がっていく。火葬場で生きたまま燃やされる人の都市伝説をこんな時に思い出してしまい、恐怖が一気に膨れ上がる。
「んんんーっ!」
必死に声を上げて訴える。自分も連れてって貰えるのだろうか。怖かった。
「くそ、この商品どうすんだよ! 連れてくのか!?」
「馬鹿! こんなん連れてたら逃げ遅れるぞっ! あの人には頭を下げるしかねーよっ! こっちは火が弱いからさっさと逃げるぞ!」
「っ!?」
暗くて窮屈な樽の中、目隠しに覆われた目を一杯に見開く。どうも自分は、火に囲まれている中置いてかれるようだ。
「んんんーっ! んんーっ!!」
足音が遠ざかる中、今まで以上に必死に声を出し、動ける範囲で樽にぶつかり音を出した。自分を助けてくれるのは今や先程拳銃を放った人物しか居ない。が、その人が樽の中の自分に気が付いてくれるかどうかは賭けだった。
首筋を汗が何度も伝った時扉を開ける大きな音が聞こえ、遠くからばたばたと慌ただしい靴音が近付いてくる。
「んーっ!」
この人に賭けるしかない、と祈って声を上げる。と、程無くして樽の蓋が開けられた。
「大丈夫かっ⁉」
聞き覚えのある声に痛む首を上向かせる。同時に目隠しが外され、驚いた。炎の上がっている室内を背に立っていたのは、炎よりも深みのある赤い髪をした少年、ノアだった。
頬を汗が伝っているノアがどうしてここに居るのか分からなかったが、祈りが届いたことがただただ嬉しい。
「立ち上がれるか? 煙を吸わない為だ、悪いが猿轡はまだしとけ! っと」
転んだ子供を立たせる親のように自分の両脇に手を差し入れ、よっとと樽から立ち上がらせてくれた。こうなったら節々が痛くとも自分で動けるので、表情が明るくなる。
「とにかく逃げるぞ!」
「ん!」
イヴェットは大きく頷き、ノアに手を引かれるまま部屋の外に飛び出す。廊下にも大分火が回っていて一瞬怯んでしまった。
不安を誤魔化すように繋いだノアの手を強く握りしめると、それに気が付いたノアはこちらを向き、自分を安心させるように小さく笑みを浮かべた。
***
まずはイヴェットの居場所にある程度の目星をつける。
その後非常口は開けておく程度にリチェと言うらしい警官のマッチで火事を起こし、パニックに陥った所を預かった拳銃で威嚇射撃し、一層パニックを誘う。
そんな状況でイヴェットを連れて逃げる人は居ない。置いていかれたイヴェットを、火の中助ければいい。念のため警官二人は非常口で身を隠し、イヴェットが連れ去られていたら馬車の車輪を撃つなりして、隙を見てイヴェットを助ける。
それがノアが提案した案だった。
これに関して警察二人は見ないフリをし、犯人グループが逃亡の際火を点けたことにすると言う。最初それを聞きユスティン・スティグセンは表情を険しくしたが、イヴェットの命には代えられないと結局何も言わなかった。
その作戦だと現場に居なくていい人間が出てくるので、だったらと自分が消防馬車を呼ぶことにした。必然的にノアがイヴェットを助けることになるのは嫌だったが、工場に疎い自分が火の中正しい道を戻れる自信がなかったので、そこは我慢した。
「……イヴェットさん無事でしょうかね」
公衆電話から消防署に通報した帰り、ぼそりと呟いた。イヴェットの姿を見るまで安心出来ない。早足で煙の上がっている廃工場に向かっていた。
廃工場は思っていたより燃えていなかった。全てが炎に包まれているわけでもないし、隣の工場に引火する様子もない。
廃工場の前は、既に人だかりが生まれていて騒々しかった。警官も駆けつけ慌ただしい。
視線を出入口に向け目を見開いた。栗色の髪の毛をした少女が、地面の上にへたり込んでいたのだ。
「イヴェットさん!!」
「……叔父、さん。叔父さん!」
人だかりを押し退けるように進み、自分を見上げている少女に飛び付いた。
「アンリから聞いて捜しに来ました! 良かったです……本当に良かったです。怪我は大丈夫ですか?」
「っ」
連れ去られて初めて自分がどうなるかを耳にし、イヴェットは息を飲んだ。一気に心臓がうるさくなる。
「駄目だ、人を殺すのは夜が一番って大昔から決まってるだろ。あの人を待っておく必要もあるし。それに俺らが殺したらもしもの時、未成年だろうと出られなくなる可能性があるだろ!」
「ちぇっ……。分かりましたよ~」
自分を殺そうと提案した男が諌められたのでほんの少しだけ安心したが、完全に心臓が静まることは無かった。
一体今は何時だろう。空腹ではあるが我慢出来ない程ではないので、まだ昼過ぎか。祈りが届くことはないのだろうか。目隠しをされた状況では滲んだ涙がすぐに布に吸い込まれてしまい、自分が今本当に泣いているのかも分からない。
男が声を上げたのはその時だった。
「おい……なんか焦げ臭くねぇか?」
「は? んなわけねぇだろ。今ここには俺らしか居ねぇし、こんな所誰も来ねぇよ」
その言葉に自分もすんと臭いを嗅いでみた。言われてみればそんな臭いがする。ゾッとした。
「! 本当だ、おいお前ら起きろ! 廊下が燃えてんぞ! 火事だ!」
「おい誰か消火器見つけて来い!」
「老朽化で取り壊す建物の消火器がまともに機能すると思ってんのかよ!」
周囲に居る男達の声が多くなり、騒がしさが一気に増した。何かが燃える臭いが先程よりも鼻につき始める。
「んーっ! んんんーっ」
恐怖が目の前に迫って来た。同時に、バン! と腹奥にまで響く銃声も響いた。予想もしていなかった音に頭の中がパニックになる。自分でもそうなのだから、動ける人の混乱は更に凄い。
「は!? サツが来てんのか!?」
「くそっどうしてこんなっ。逃げるぞ!」
自分はどうなるのだろうか。不安になってんーんーと声を上げるが誰も聞いてくれない。じとり、と温度が上がっていく。火葬場で生きたまま燃やされる人の都市伝説をこんな時に思い出してしまい、恐怖が一気に膨れ上がる。
「んんんーっ!」
必死に声を上げて訴える。自分も連れてって貰えるのだろうか。怖かった。
「くそ、この商品どうすんだよ! 連れてくのか!?」
「馬鹿! こんなん連れてたら逃げ遅れるぞっ! あの人には頭を下げるしかねーよっ! こっちは火が弱いからさっさと逃げるぞ!」
「っ!?」
暗くて窮屈な樽の中、目隠しに覆われた目を一杯に見開く。どうも自分は、火に囲まれている中置いてかれるようだ。
「んんんーっ! んんーっ!!」
足音が遠ざかる中、今まで以上に必死に声を出し、動ける範囲で樽にぶつかり音を出した。自分を助けてくれるのは今や先程拳銃を放った人物しか居ない。が、その人が樽の中の自分に気が付いてくれるかどうかは賭けだった。
首筋を汗が何度も伝った時扉を開ける大きな音が聞こえ、遠くからばたばたと慌ただしい靴音が近付いてくる。
「んーっ!」
この人に賭けるしかない、と祈って声を上げる。と、程無くして樽の蓋が開けられた。
「大丈夫かっ⁉」
聞き覚えのある声に痛む首を上向かせる。同時に目隠しが外され、驚いた。炎の上がっている室内を背に立っていたのは、炎よりも深みのある赤い髪をした少年、ノアだった。
頬を汗が伝っているノアがどうしてここに居るのか分からなかったが、祈りが届いたことがただただ嬉しい。
「立ち上がれるか? 煙を吸わない為だ、悪いが猿轡はまだしとけ! っと」
転んだ子供を立たせる親のように自分の両脇に手を差し入れ、よっとと樽から立ち上がらせてくれた。こうなったら節々が痛くとも自分で動けるので、表情が明るくなる。
「とにかく逃げるぞ!」
「ん!」
イヴェットは大きく頷き、ノアに手を引かれるまま部屋の外に飛び出す。廊下にも大分火が回っていて一瞬怯んでしまった。
不安を誤魔化すように繋いだノアの手を強く握りしめると、それに気が付いたノアはこちらを向き、自分を安心させるように小さく笑みを浮かべた。
***
まずはイヴェットの居場所にある程度の目星をつける。
その後非常口は開けておく程度にリチェと言うらしい警官のマッチで火事を起こし、パニックに陥った所を預かった拳銃で威嚇射撃し、一層パニックを誘う。
そんな状況でイヴェットを連れて逃げる人は居ない。置いていかれたイヴェットを、火の中助ければいい。念のため警官二人は非常口で身を隠し、イヴェットが連れ去られていたら馬車の車輪を撃つなりして、隙を見てイヴェットを助ける。
それがノアが提案した案だった。
これに関して警察二人は見ないフリをし、犯人グループが逃亡の際火を点けたことにすると言う。最初それを聞きユスティン・スティグセンは表情を険しくしたが、イヴェットの命には代えられないと結局何も言わなかった。
その作戦だと現場に居なくていい人間が出てくるので、だったらと自分が消防馬車を呼ぶことにした。必然的にノアがイヴェットを助けることになるのは嫌だったが、工場に疎い自分が火の中正しい道を戻れる自信がなかったので、そこは我慢した。
「……イヴェットさん無事でしょうかね」
公衆電話から消防署に通報した帰り、ぼそりと呟いた。イヴェットの姿を見るまで安心出来ない。早足で煙の上がっている廃工場に向かっていた。
廃工場は思っていたより燃えていなかった。全てが炎に包まれているわけでもないし、隣の工場に引火する様子もない。
廃工場の前は、既に人だかりが生まれていて騒々しかった。警官も駆けつけ慌ただしい。
視線を出入口に向け目を見開いた。栗色の髪の毛をした少女が、地面の上にへたり込んでいたのだ。
「イヴェットさん!!」
「……叔父、さん。叔父さん!」
人だかりを押し退けるように進み、自分を見上げている少女に飛び付いた。
「アンリから聞いて捜しに来ました! 良かったです……本当に良かったです。怪我は大丈夫ですか?」
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