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第四章 廃工場のお姫様
1-25 「申し訳ありませんが私は医者ではありませんのでね!」
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「叔父さん……心配かけてごめんなさい。大丈夫、どこも怪我してないよ。ノアさんが一緒に居てくれたし」
その言葉に後頭部を殴られたような衝撃を受け、そろりと顔を離す。口元をひくつかせながら、そういえば、と隣に立っている赤毛の少年を見上げる。
「……ノアさん、イヴェットさんを助けてくれて有り難うございました。貴方は大丈夫ですか? 大丈夫じゃなくても何もしませんけど」
「いやしろよ! お前の大事な姪を助けたんだからそこはしろよ!」
「申し訳ありませんが私は医者ではありませんのでね!」
「も~二人ともいきなり喧嘩しないでよ……叔父さん、どうしてあたしの居場所分かったの?」
答えにくいことを聞かれ返事に詰まる。正直に話していいのか悩む物があった。
「アンリがお前の懐中時計に発信器を仕込んだんだよ。それで見付けることが出来た」
自分の葛藤を余所に、ノアがさらりと答えていた。ストレートに言うノアを睨み付ける。今は人だかりすら自分達を見ていないので、こういうことも抵抗なく出来た。
「えええっ!? アンリさんってば、もー……でも感謝しないとね。アンリさんはどこ? 見当たらないけど」
「アンリは違う場所を探していますが、この煙を見たら駆けつけて来るのではないでしょうか? そうじゃなくても遅くには家に帰って来て会えますよ」
「家……そっか、あたし家に帰れるんだね……あーベッドにダイブしたいよー……」
目に涙を浮かべてイヴェットは胸を撫で下ろす。スカートのポケットから懐中時計を取り出し、初めて見る物体に触るかのようにびくびくとストップウォッチ機能を使っては調子を確かめていた。
「今日はもう家に帰って休みましょう、イヴェットさんも疲れたでしょう。警察はイヴェットさんから話を聞きたいと思いますが、それは明日にして頂きますか。えーっと、リチェさん!」
イヴェットを立ち上がらせ周囲を見渡し、眼鏡をかけた警察官の名前を呼ぶ。少し離れた所で小太りの上司と話し合っていたリチェがどうした? とこちらを向いた。
「イヴェットさんもう帰って家で休んでも良いでしょうか? 申し訳ありませんが、疲れているので事情聴取は明日にして頂けないでしょうか?」
「あー申し訳なくなんて思わずに帰れ帰れ。ざっとは聞いたんだし、疲れた女の子に無理をさせちゃいけないしな、明日でいいよ。俺らが教会まで行くわ。じゃ、あそこに停まっている警察の馬車で帰って良いぞ。課長、悪いんですけどちょっと御者に話に行って貰っていいすか?」
頼まれた男性は頷いた後、自分とイヴェットに声をかけ、一緒に御者の方へ歩いていく。
「ノアさん、本当に有り難うね……!」
途中イヴェットが振り返ってノアに礼を言い、馬車に乗った。同時に自分が呼んだ消防署がやってきて、手馴れた様子で消火の準備を始めていく。
「叔父さんも有り難う……なんか一気にお腹空いたぁ」
「私もです。後で何か買って来ますので頂きましょう」
イヴェットに返事をし視線を窓の外に向ける。きっと内心物凄く心配しているだろう幼馴染とすれ違っては可哀想なので通りを注視しておく。工業区を歩いている人達は、アンリと同じく作業服を着ている人達が多く、特定の人を探すのは難しく思えた。
「あ。運転手さん少し停めてください!」
と思っていただけに、足早に歩く焦げ茶色の髪をした青年を見付けた時は驚いた。幼馴染は半分教会の人間のような物なので、姿勢が人よりも良いのが助かった。
「アンリ!」
一時停止した馬車の扉を開け幼馴染の名前を呼ぶ。少し後ろを歩いていたアンリは自分の姿を認め目を見張り慌てて馬車に近寄ってくる。
「ユスティン! あの火事は……や、お前がここで馬車に乗ってるってことは、イヴェットちゃんは無事なのか?」
「ええ、今箱の中に乗っていますよ。警察が馬車を出してくれましたので、今から教会に戻るところです。貴方とすれ違うかと思っていたのですが、ここで会えて良かったです。貴方も乗って行きますよね?」
「もちろん!!」
イヴェットが無事だと聞いたアンリは表情をパッと明るくさせて頷き、意気揚々と馬車に乗ってくる。それを見た後再び馬車を動かして貰うよう声を掛けた。
「イヴェットちゃん! 無事だったんだね、良かった……」
「アンリさん! 探しに来てくれて有り難うね……嬉しかった。あっ、その顔どうしたの?」
「これねぇ、パニックになったどこかの叔父さんに殴られたの。痛かったよ?」
幼馴染が皮肉たっぷりに話している中、アンリがイヴェットの前に立っているので着席した。
「それより、警察の事情聴取は終わった?」
「ううん、まだ……もう疲れちゃって。明日にして貰った。……あっ! アンリさん!」
馬車が再び動き出すと、イヴェットの表情が一転して頬を膨らませた物に変わる。イヴェットは眉を吊り上げたまま、制服のポケットから懐中時計を取り出してアンリの前に突き出す。
「今回は助かったし感謝してるけど、あたし発信機とかやだー! もー、外してっ!」
手を加えたことがバレている懐中時計を前に、アンリの表情が妹に叱られている兄のようにむすくれた物に変わる。
「……はい。ごめんなさい、帰ったら外すよ……」
らしくもなく素直に謝る様が面白くて、ユスティンは笑いを堪えられずに居た。けらけらと笑う自分を恨めしそうにアンリが睨み付ける様子が面白かったのかイヴェットも笑い、馬車の中は夕食時のように和やかな空気に包まれた。
この時間がまた戻って良かった。明日、あの赤毛の少年に改めて礼に行こう。
姪の笑い声を耳にしユスティンは目を細め、神に感謝を捧げた。
***
「っと、もうお前も帰っていいぞ。有り難うな、助かった」
「ん。そっちも有り難う、お疲れさん!」
火の中イヴェットを助けた時のことや擦り合わせをリチェと話し、ノア・クリストフもその言葉に甘えてポピーに帰ることにした。イヴェットも見つかったし、廃工場も鎮火しつつある。工業区に居る理由はもうない。
その言葉に後頭部を殴られたような衝撃を受け、そろりと顔を離す。口元をひくつかせながら、そういえば、と隣に立っている赤毛の少年を見上げる。
「……ノアさん、イヴェットさんを助けてくれて有り難うございました。貴方は大丈夫ですか? 大丈夫じゃなくても何もしませんけど」
「いやしろよ! お前の大事な姪を助けたんだからそこはしろよ!」
「申し訳ありませんが私は医者ではありませんのでね!」
「も~二人ともいきなり喧嘩しないでよ……叔父さん、どうしてあたしの居場所分かったの?」
答えにくいことを聞かれ返事に詰まる。正直に話していいのか悩む物があった。
「アンリがお前の懐中時計に発信器を仕込んだんだよ。それで見付けることが出来た」
自分の葛藤を余所に、ノアがさらりと答えていた。ストレートに言うノアを睨み付ける。今は人だかりすら自分達を見ていないので、こういうことも抵抗なく出来た。
「えええっ!? アンリさんってば、もー……でも感謝しないとね。アンリさんはどこ? 見当たらないけど」
「アンリは違う場所を探していますが、この煙を見たら駆けつけて来るのではないでしょうか? そうじゃなくても遅くには家に帰って来て会えますよ」
「家……そっか、あたし家に帰れるんだね……あーベッドにダイブしたいよー……」
目に涙を浮かべてイヴェットは胸を撫で下ろす。スカートのポケットから懐中時計を取り出し、初めて見る物体に触るかのようにびくびくとストップウォッチ機能を使っては調子を確かめていた。
「今日はもう家に帰って休みましょう、イヴェットさんも疲れたでしょう。警察はイヴェットさんから話を聞きたいと思いますが、それは明日にして頂きますか。えーっと、リチェさん!」
イヴェットを立ち上がらせ周囲を見渡し、眼鏡をかけた警察官の名前を呼ぶ。少し離れた所で小太りの上司と話し合っていたリチェがどうした? とこちらを向いた。
「イヴェットさんもう帰って家で休んでも良いでしょうか? 申し訳ありませんが、疲れているので事情聴取は明日にして頂けないでしょうか?」
「あー申し訳なくなんて思わずに帰れ帰れ。ざっとは聞いたんだし、疲れた女の子に無理をさせちゃいけないしな、明日でいいよ。俺らが教会まで行くわ。じゃ、あそこに停まっている警察の馬車で帰って良いぞ。課長、悪いんですけどちょっと御者に話に行って貰っていいすか?」
頼まれた男性は頷いた後、自分とイヴェットに声をかけ、一緒に御者の方へ歩いていく。
「ノアさん、本当に有り難うね……!」
途中イヴェットが振り返ってノアに礼を言い、馬車に乗った。同時に自分が呼んだ消防署がやってきて、手馴れた様子で消火の準備を始めていく。
「叔父さんも有り難う……なんか一気にお腹空いたぁ」
「私もです。後で何か買って来ますので頂きましょう」
イヴェットに返事をし視線を窓の外に向ける。きっと内心物凄く心配しているだろう幼馴染とすれ違っては可哀想なので通りを注視しておく。工業区を歩いている人達は、アンリと同じく作業服を着ている人達が多く、特定の人を探すのは難しく思えた。
「あ。運転手さん少し停めてください!」
と思っていただけに、足早に歩く焦げ茶色の髪をした青年を見付けた時は驚いた。幼馴染は半分教会の人間のような物なので、姿勢が人よりも良いのが助かった。
「アンリ!」
一時停止した馬車の扉を開け幼馴染の名前を呼ぶ。少し後ろを歩いていたアンリは自分の姿を認め目を見張り慌てて馬車に近寄ってくる。
「ユスティン! あの火事は……や、お前がここで馬車に乗ってるってことは、イヴェットちゃんは無事なのか?」
「ええ、今箱の中に乗っていますよ。警察が馬車を出してくれましたので、今から教会に戻るところです。貴方とすれ違うかと思っていたのですが、ここで会えて良かったです。貴方も乗って行きますよね?」
「もちろん!!」
イヴェットが無事だと聞いたアンリは表情をパッと明るくさせて頷き、意気揚々と馬車に乗ってくる。それを見た後再び馬車を動かして貰うよう声を掛けた。
「イヴェットちゃん! 無事だったんだね、良かった……」
「アンリさん! 探しに来てくれて有り難うね……嬉しかった。あっ、その顔どうしたの?」
「これねぇ、パニックになったどこかの叔父さんに殴られたの。痛かったよ?」
幼馴染が皮肉たっぷりに話している中、アンリがイヴェットの前に立っているので着席した。
「それより、警察の事情聴取は終わった?」
「ううん、まだ……もう疲れちゃって。明日にして貰った。……あっ! アンリさん!」
馬車が再び動き出すと、イヴェットの表情が一転して頬を膨らませた物に変わる。イヴェットは眉を吊り上げたまま、制服のポケットから懐中時計を取り出してアンリの前に突き出す。
「今回は助かったし感謝してるけど、あたし発信機とかやだー! もー、外してっ!」
手を加えたことがバレている懐中時計を前に、アンリの表情が妹に叱られている兄のようにむすくれた物に変わる。
「……はい。ごめんなさい、帰ったら外すよ……」
らしくもなく素直に謝る様が面白くて、ユスティンは笑いを堪えられずに居た。けらけらと笑う自分を恨めしそうにアンリが睨み付ける様子が面白かったのかイヴェットも笑い、馬車の中は夕食時のように和やかな空気に包まれた。
この時間がまた戻って良かった。明日、あの赤毛の少年に改めて礼に行こう。
姪の笑い声を耳にしユスティンは目を細め、神に感謝を捧げた。
***
「っと、もうお前も帰っていいぞ。有り難うな、助かった」
「ん。そっちも有り難う、お疲れさん!」
火の中イヴェットを助けた時のことや擦り合わせをリチェと話し、ノア・クリストフもその言葉に甘えてポピーに帰ることにした。イヴェットも見つかったし、廃工場も鎮火しつつある。工業区に居る理由はもうない。
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