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第二話 死の恐怖
12 「誰にも見付からずに、ってことなら私の出番だな」
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「ごめん、驚いたんだ。いたんだね」
不服そうに眉を顰めるリリヤに謝罪をし、今しがた部屋に運ばれてきた食事を用意した皮袋に入れる。
「お前が話している間外を見てきたんだが、不味いことになってるぞ」
リリヤは眉を顰めたままこちらに近寄ってくる。
「アニーから聞いたよ。クオナが僕を狙ってるんだろ」
少女を見ずに告げ、粉っぽい干した果実を袋に入れる。
「なんだ知っているのか。じゃあ今は逃げる準備か」
「うん。……アニーの話じゃ使用人達も危ないみたいだから、誰にも見付からず逃げないとな」
自分に言い聞かせるようにボヤき、机の引き出しに常備してある短剣を取り出した。
あまり触れたことのない短剣や袋に詰めた食料を腰や懐にしまっていると、尻尾があれば振っていそうなくらいの笑顔を顔一杯に浮かべたリリヤが自分の顔を覗いてくる。
「な、なに」
突然視界に満面の笑みが広がり、顎を引いて肩を強張らせる。
「誰にも見付からずに、ってことなら私の出番だな」
そう言って密偵の少女は笑みを深める。
この幽霊の言いたいことはすぐに分かった。
「……ユユラングには酷い仕打ちだと思うんだけど、君は協力的なんだな」
「うん。ユユラングで私が見えるのはもうお前だけだし……」
声を弾ませていた少女は、そこで一度言葉を区切る。
そして再び息を吸い頬を緩ませる。
「逃げたいなら逃げればいい」
「そう……?」
先程も言っていたその理由に微かな引っ掛かりを覚えたが、状況が状況なので胸を撫で下ろす。
多分目が合っていないから感じたのだろう。
「ふん」
これで話は終わりだとばかりにリリヤは鼻を鳴らし、壁の向こうに姿を消していく。人間の形をした者が障害物をすり抜けていく様は、何度見ても慣れない。
まじまじとその様子を見てから、なにか忘れ物がないかと考える。
非常用の金品も食料も持った。替えの服は嵩張るため用意できないのが後ろ髪を引かれたが、仕方ない。町で新調した方が早いだろう。
必要最低限の支度を済ませ扉の近くに寄ると、扉のすぐ上の壁からリリヤの上半身が生えていた。
「うへ……」
異様な光景に思わず声を漏らし、口元を手で咄嗟に覆う。
リリヤにまたなにか言われるかと思ったがそんなことはなかった。
それどころかリリヤはこっちを見ていなかった。
自信満々に人の名前を間違えたのかのような表情を浮かべている。
「……なぁ」
「なに?」
「どこに向かうんだ?」
リリヤは気まずそうな表情のまま、声を潜めて尋ねてくる。
先導する気で飛び出したはいいものの、目的地が分からず案内することが難しかったのだろう。
リリヤも焦っているのだと分かり、ほんの少し肩の力が抜けた。
「てっきり分かっているかと思ったよ。地下牢に抜け穴があるのは知ってる?」
「あぁ! 当たり前だ、私が何年ここの幽霊をやっていると思っている。ちょっと遠いな……少し待ってろよ」
目的地を聞くなり、リリヤは百発百中で知られる女狩人みたく笑みを深める。
よく変わる表情だと内心感心していると、幽霊の少女は身を翻して再び壁の向こうに消えていく。気付けば口から溜め息が漏れていた。
でもそれは圧迫感から逃れるためについた物ではない。
自分だけが焦っているわけじゃないと分かった安心感と、時々抜けるリリヤを思っての物だった。
リリヤのおかげで張り詰めていた心が少し弛んだ気がする。
「おい! ひとまず階段を降りていけ。階段には人がいなかった」
突然声をかけられびくりと肩が跳ねた。反射的に壁を見上げる。
不服そうに眉を顰めるリリヤに謝罪をし、今しがた部屋に運ばれてきた食事を用意した皮袋に入れる。
「お前が話している間外を見てきたんだが、不味いことになってるぞ」
リリヤは眉を顰めたままこちらに近寄ってくる。
「アニーから聞いたよ。クオナが僕を狙ってるんだろ」
少女を見ずに告げ、粉っぽい干した果実を袋に入れる。
「なんだ知っているのか。じゃあ今は逃げる準備か」
「うん。……アニーの話じゃ使用人達も危ないみたいだから、誰にも見付からず逃げないとな」
自分に言い聞かせるようにボヤき、机の引き出しに常備してある短剣を取り出した。
あまり触れたことのない短剣や袋に詰めた食料を腰や懐にしまっていると、尻尾があれば振っていそうなくらいの笑顔を顔一杯に浮かべたリリヤが自分の顔を覗いてくる。
「な、なに」
突然視界に満面の笑みが広がり、顎を引いて肩を強張らせる。
「誰にも見付からずに、ってことなら私の出番だな」
そう言って密偵の少女は笑みを深める。
この幽霊の言いたいことはすぐに分かった。
「……ユユラングには酷い仕打ちだと思うんだけど、君は協力的なんだな」
「うん。ユユラングで私が見えるのはもうお前だけだし……」
声を弾ませていた少女は、そこで一度言葉を区切る。
そして再び息を吸い頬を緩ませる。
「逃げたいなら逃げればいい」
「そう……?」
先程も言っていたその理由に微かな引っ掛かりを覚えたが、状況が状況なので胸を撫で下ろす。
多分目が合っていないから感じたのだろう。
「ふん」
これで話は終わりだとばかりにリリヤは鼻を鳴らし、壁の向こうに姿を消していく。人間の形をした者が障害物をすり抜けていく様は、何度見ても慣れない。
まじまじとその様子を見てから、なにか忘れ物がないかと考える。
非常用の金品も食料も持った。替えの服は嵩張るため用意できないのが後ろ髪を引かれたが、仕方ない。町で新調した方が早いだろう。
必要最低限の支度を済ませ扉の近くに寄ると、扉のすぐ上の壁からリリヤの上半身が生えていた。
「うへ……」
異様な光景に思わず声を漏らし、口元を手で咄嗟に覆う。
リリヤにまたなにか言われるかと思ったがそんなことはなかった。
それどころかリリヤはこっちを見ていなかった。
自信満々に人の名前を間違えたのかのような表情を浮かべている。
「……なぁ」
「なに?」
「どこに向かうんだ?」
リリヤは気まずそうな表情のまま、声を潜めて尋ねてくる。
先導する気で飛び出したはいいものの、目的地が分からず案内することが難しかったのだろう。
リリヤも焦っているのだと分かり、ほんの少し肩の力が抜けた。
「てっきり分かっているかと思ったよ。地下牢に抜け穴があるのは知ってる?」
「あぁ! 当たり前だ、私が何年ここの幽霊をやっていると思っている。ちょっと遠いな……少し待ってろよ」
目的地を聞くなり、リリヤは百発百中で知られる女狩人みたく笑みを深める。
よく変わる表情だと内心感心していると、幽霊の少女は身を翻して再び壁の向こうに消えていく。気付けば口から溜め息が漏れていた。
でもそれは圧迫感から逃れるためについた物ではない。
自分だけが焦っているわけじゃないと分かった安心感と、時々抜けるリリヤを思っての物だった。
リリヤのおかげで張り詰めていた心が少し弛んだ気がする。
「おい! ひとまず階段を降りていけ。階段には人がいなかった」
突然声をかけられびくりと肩が跳ねた。反射的に壁を見上げる。
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