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38 正解を質問しないと出られない部屋
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「◯◯しないと出られない部屋ごっこ、やらない?」
そう話すのは同じ女子高に通う美少女、小沢《おざわ》みどりだ。
「あ、やりてぇ! あれ萌えるよな、行為に至るまでの葛藤や、CPの絆にさ~!!」
ボーイッシュなオレとガーリーなみどりは正反対だけど、何時も一緒にいる。
今は夏休み中だから塾だバイトだ趣味だでお互い忙しく、今日は久しぶりにお茶してた。
オタクなオレ達は1―Bとクラスが一緒で仲良しで──と言うか実は付き合っている。
あれは去年の秋。
ここの女子高の文化祭に訪れたオレは、同じように文化祭に来てたみどりと偶然目が合い一目惚れをした。オレは女が好きなんだ。
その時みどりが「ここの女子高が第1志望」って話してて、オレの進路も決まった。無事入学出来て、相変わらず可愛いみどりと同じクラスで。運命を感じたね。
みどりは「男が嫌い」とか「ストーカー被害を受けてる」と、悩んでいた。
んで、みどりの相談に乗っている内に段々と……みどりレズビアンだったんだよ、そうなっちゃうさ。ご主人様と犬みたいだけど、おかげでオレは毎日幸せ。
「ってかそれ、それって……すっするって事?」
「ばーか、そんな事する訳ないじゃん。正解を質問しないと出られない部屋とかにします~!」
そうだ、みどりはこういう所潔癖なんだ。ガチめに引かれて「悪ぃ」と謝る。
「もーっ……今度それで遊ぼうね。シフト決まったら連絡するから。じゃあバイト行って来るよ」
「行ってらっしゃい」
席を立ったみどりを見送る。
久しぶりに話せて幸せ。
夏休みに入ってまたストーカー被害がぶり返したらしくて、心配で会いたかったんだよな。オレは上機嫌で支払いを済ませ外に出て行く。
1週間後。
みどりから『この前話した正解を質問しないと出られない部屋ごっこ、旧校舎でやらない? 旧校舎のトイレ、立て付けが悪くて出られない部屋ごっこ向きみたい』とLINEが来た。
「おお~本格的!」
お互いの家の中間地点に学校があるので、現地集合になった。
『閉じ込められてる方が質問する形でどう? みどりは猫派? 合ってるよ出してあげる~みたいな。だから質問考えておいて』
オレがみどりに聞きたい事。
──小沢みどりはオレの事を愛してる?
何回だって聞きたい事なんて1つしかないよ。
「今日もあっちーな……」
そしてみどりが指定した日時になり、猛暑の中オレは旧校舎に侵入した。
空き教室には机と椅子。今や旧校舎はすっかり物置きだ。
「おっ、みどり~」
男子トイレの前に、携帯扇風機を持ったワンピース姿のみどりが居た。オレはウキウキで歩み寄る。
「遅い! もーじゃあさっさと始めようか」
ぷりぷりしてるみどりも可愛い。
そんな事を思いながら、オレはみどりをトイレの中に入れる。
「ふふっ。あんたはピンクが好き。合ってる?」
「覚えてくれてるんだな……! 嬉しい。勿論合ってる!」
みどりがオレの好きな事を覚えてくれてる。それだけで嬉しい。
「じゃあ次~」
みどりと場所を入れ替え、オレはむわっとしたトイレの中に入る。
ガチャリと扉が閉まる音がした。
「じゃあ質問。おっ小沢みどりはオレの事を愛してる?」
ずっと考えていた事を少々上擦りながら尋ねる。
「正解」って、少しはにかみながら言ってくれると、思っていた。
……思っていた。
「みどり……? 何してるんだ?」
でもそれには数十秒返事がなくて。
代わりに聞こえるのはガガガガ……って何かを引きずる音。
え?
「みどり? おいってば! みどり!?」
「気安く名前呼ばないでよ、好き? そんなわけあるか」
ようやく反応してくれたけど、その声はどこまでも冷え切っていて。
みどりのこんな冷たい声、初めて聞いた。
ってか──。
「……え?」
好きじゃない?
状況が飲み込めず聞き返す。
今もガガガガ……って何かを引きずる音が聞こえる。
「だって、あんた──実は男でしょ?」
氷のように冷たくて、軽蔑したみどりの声は続く。
男。
「っ」
オレはそれに何も言い返せなかった。……言い返せるわけがなかった。
だって、事実だったから。
「私に付き纏ってたストーカーも素のあんただったんでしょ? この前顔見えて凄いビックリしたんだから! 入学前は普通のストーカー、入学後は相談させる為、夏休み中は暇だから、って感じ? 良くも人を騙したな! 大体良く女子高に潜入出来たよね、漫画かよ」
気持ち悪い、と吐き捨てられる。
「み、みど……っ」
「だから名前呼ばないでっ!!」
引き攣った絶叫が扉越しに聞こえてくる。
「あんたみたいに見境ないストーカー、放っておいたらきっと何時か私殺される! だからその前に、未成年の内に殺しておかないと……熱中症になって死んだら良いわ。これは正当防衛なのよっ!」
そう叫ぶみどりの声に、段々と現状を理解し始めた。
みどりはオレを──ストーカーをここで殺す気なんだ。だから出られない部屋ごっこなんて提案した。
何かを引きずるような音は、廊下から机を引き摺ってきた音。トイレの前に置いて出られにくくする為の。
現地集合だったのは下手に防犯カメラに映りこまない為。まあ犯行が露見しようと、みどりが言うように未成年だけど。
「待ったみどりっ! 聞いてくれよっ! 確かにオレは──」
「だからさぁ!! 男が私の名前を呼ぶな! あんたの事一瞬でも好きって思って、気持ち悪いんだよぉ!! もうやだっ!!」
泣き出したみどりは最後にそう叫び、トイレから出て行ってしまった。
「みどり! みどり! みどりっ!」
静かになったトイレにはただ自分の声が響くだけ。スマホもペットボトルもトイレの外だから、何も出来ない。
漫画みたいに簡単に女子高に潜入出来るんだなー、とか思ったけどそれも全てはあの時目が合ったみどりに会う為。
こんな健気な愛がストーカーなわけあるか!
「性別を超えた愛だろ、オレとみどりは……っ」
当たって欲しい呟きなのに目の前の扉は一向に開かなくて、蒸し暑さにオレは頭がクラクラしてきた。
そう話すのは同じ女子高に通う美少女、小沢《おざわ》みどりだ。
「あ、やりてぇ! あれ萌えるよな、行為に至るまでの葛藤や、CPの絆にさ~!!」
ボーイッシュなオレとガーリーなみどりは正反対だけど、何時も一緒にいる。
今は夏休み中だから塾だバイトだ趣味だでお互い忙しく、今日は久しぶりにお茶してた。
オタクなオレ達は1―Bとクラスが一緒で仲良しで──と言うか実は付き合っている。
あれは去年の秋。
ここの女子高の文化祭に訪れたオレは、同じように文化祭に来てたみどりと偶然目が合い一目惚れをした。オレは女が好きなんだ。
その時みどりが「ここの女子高が第1志望」って話してて、オレの進路も決まった。無事入学出来て、相変わらず可愛いみどりと同じクラスで。運命を感じたね。
みどりは「男が嫌い」とか「ストーカー被害を受けてる」と、悩んでいた。
んで、みどりの相談に乗っている内に段々と……みどりレズビアンだったんだよ、そうなっちゃうさ。ご主人様と犬みたいだけど、おかげでオレは毎日幸せ。
「ってかそれ、それって……すっするって事?」
「ばーか、そんな事する訳ないじゃん。正解を質問しないと出られない部屋とかにします~!」
そうだ、みどりはこういう所潔癖なんだ。ガチめに引かれて「悪ぃ」と謝る。
「もーっ……今度それで遊ぼうね。シフト決まったら連絡するから。じゃあバイト行って来るよ」
「行ってらっしゃい」
席を立ったみどりを見送る。
久しぶりに話せて幸せ。
夏休みに入ってまたストーカー被害がぶり返したらしくて、心配で会いたかったんだよな。オレは上機嫌で支払いを済ませ外に出て行く。
1週間後。
みどりから『この前話した正解を質問しないと出られない部屋ごっこ、旧校舎でやらない? 旧校舎のトイレ、立て付けが悪くて出られない部屋ごっこ向きみたい』とLINEが来た。
「おお~本格的!」
お互いの家の中間地点に学校があるので、現地集合になった。
『閉じ込められてる方が質問する形でどう? みどりは猫派? 合ってるよ出してあげる~みたいな。だから質問考えておいて』
オレがみどりに聞きたい事。
──小沢みどりはオレの事を愛してる?
何回だって聞きたい事なんて1つしかないよ。
「今日もあっちーな……」
そしてみどりが指定した日時になり、猛暑の中オレは旧校舎に侵入した。
空き教室には机と椅子。今や旧校舎はすっかり物置きだ。
「おっ、みどり~」
男子トイレの前に、携帯扇風機を持ったワンピース姿のみどりが居た。オレはウキウキで歩み寄る。
「遅い! もーじゃあさっさと始めようか」
ぷりぷりしてるみどりも可愛い。
そんな事を思いながら、オレはみどりをトイレの中に入れる。
「ふふっ。あんたはピンクが好き。合ってる?」
「覚えてくれてるんだな……! 嬉しい。勿論合ってる!」
みどりがオレの好きな事を覚えてくれてる。それだけで嬉しい。
「じゃあ次~」
みどりと場所を入れ替え、オレはむわっとしたトイレの中に入る。
ガチャリと扉が閉まる音がした。
「じゃあ質問。おっ小沢みどりはオレの事を愛してる?」
ずっと考えていた事を少々上擦りながら尋ねる。
「正解」って、少しはにかみながら言ってくれると、思っていた。
……思っていた。
「みどり……? 何してるんだ?」
でもそれには数十秒返事がなくて。
代わりに聞こえるのはガガガガ……って何かを引きずる音。
え?
「みどり? おいってば! みどり!?」
「気安く名前呼ばないでよ、好き? そんなわけあるか」
ようやく反応してくれたけど、その声はどこまでも冷え切っていて。
みどりのこんな冷たい声、初めて聞いた。
ってか──。
「……え?」
好きじゃない?
状況が飲み込めず聞き返す。
今もガガガガ……って何かを引きずる音が聞こえる。
「だって、あんた──実は男でしょ?」
氷のように冷たくて、軽蔑したみどりの声は続く。
男。
「っ」
オレはそれに何も言い返せなかった。……言い返せるわけがなかった。
だって、事実だったから。
「私に付き纏ってたストーカーも素のあんただったんでしょ? この前顔見えて凄いビックリしたんだから! 入学前は普通のストーカー、入学後は相談させる為、夏休み中は暇だから、って感じ? 良くも人を騙したな! 大体良く女子高に潜入出来たよね、漫画かよ」
気持ち悪い、と吐き捨てられる。
「み、みど……っ」
「だから名前呼ばないでっ!!」
引き攣った絶叫が扉越しに聞こえてくる。
「あんたみたいに見境ないストーカー、放っておいたらきっと何時か私殺される! だからその前に、未成年の内に殺しておかないと……熱中症になって死んだら良いわ。これは正当防衛なのよっ!」
そう叫ぶみどりの声に、段々と現状を理解し始めた。
みどりはオレを──ストーカーをここで殺す気なんだ。だから出られない部屋ごっこなんて提案した。
何かを引きずるような音は、廊下から机を引き摺ってきた音。トイレの前に置いて出られにくくする為の。
現地集合だったのは下手に防犯カメラに映りこまない為。まあ犯行が露見しようと、みどりが言うように未成年だけど。
「待ったみどりっ! 聞いてくれよっ! 確かにオレは──」
「だからさぁ!! 男が私の名前を呼ぶな! あんたの事一瞬でも好きって思って、気持ち悪いんだよぉ!! もうやだっ!!」
泣き出したみどりは最後にそう叫び、トイレから出て行ってしまった。
「みどり! みどり! みどりっ!」
静かになったトイレにはただ自分の声が響くだけ。スマホもペットボトルもトイレの外だから、何も出来ない。
漫画みたいに簡単に女子高に潜入出来るんだなー、とか思ったけどそれも全てはあの時目が合ったみどりに会う為。
こんな健気な愛がストーカーなわけあるか!
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