33 / 65
Ⅲ Løy―嘘―
32 「リーナ、今頃安心してるだろうなあ……」
しおりを挟む
「ううん、ちょっと疲れたし馬車の振動が心地良くてうとうとしてるだけ。貴方こそ具合悪そうよ?」
「俺は……大丈夫です。ちょっと酔いそうなだけですから」
「それを具合が悪いって言うの。無理せず寝たら?」
そう笑いアストリッドは顎を引き僅かに俯いた。茶色い上着を羽織っているその肩に、赤い髪の毛が1本落ちている。
そう言えば馬車に乗るなんて、あの13の夏ぶりだ。久しぶりで酔いもするわけだ。あの時はサーミ人が所有していた馬車だった。
レオンの件で罪悪感があり、どうにも精霊魔法でトロムソに聞き耳を立てる気分になれなかった。
その分アストリッドを守る事に注力したい。
それには1つ、気になる事があった。人の少ない乗合馬車、やるなら今が良いだろう。
「……あ、肩に髪の毛が。後すみません、俺お言葉に甘えて大人しく寝ます。何かあったら叩き起こして下さい」
「あ、うん? 有り難うね。お休み」
それだけ言って肩から髪の毛を取った後、フードを目深に被って咳払いをし人体魔法を発動させる。この程度の使用ならカウトケイノに着く頃には起きるだろう。
昨日起きがけに見た、愛しい少女の背中の火傷。
あれがどうも気になっていたのだ。
人体魔法を使えば髪の毛からその人の体の状態を探る事が出来る。朝食べた食事は勿論、病歴、誰が親かですらも。
首の力を抜いて寝る体勢に入る。頭に流れ込んできた情報を覚えながら、完全に眠る前にふと気付いた。
――あれ、今朝ラズベリー食べてる? 盗み食いかな、可愛い……。
そのせいか、唇の端を微かに持ち上げて眠ってしまった。
***
カウトケイノに到着したのは明け方、まだ町が眠っている頃。
一言も話す事の無かった同乗者達は伸びをしながら思い思いの方角へ散っていく。扉が開いただけで感じる程、一気に冷気が滑り込んできて眠気が吹き飛んだ。
「寒っ! カウトケイノってこんなに寒いんですか? 寒い……寒い……」
「ここらへんは湖が多いし何より高原だからな、北欧の中でも一等寒ぃんだ。朝もまだだし。嬢ちゃん、あんたの連れをさっさと起こしてくれよ」
はーい、とアストリッド・グローヴェンは震える声で御者に返事をし、この極寒の中大人しく眠っている青年を、腕で自分を抱きながら見下ろす。
ウィルはあれからずっと良く眠っていた。自分もうたた寝はしていたが、昨日の今日でちょっと寝すぎではないかと思う。彼の背が高いのはノルウェー人だからではない、絶対に良く寝るからだ。
「ウィル起きて! もうカウトケイノだよ! 起きなさい!」
声をかけながら揺さぶる事数秒。少しして長い睫毛に覆われた碧眼がゆっくりと開かれた。
「んー……?」
「お早う。早く降りて、もう残ってるのは貴方だけよ」
まだ夢の中にでも居るかのように朦朧としていた青年は、暫く焦点を合わせる事しか出来ずに居た。が、この寒さの中それも長く続かず、すぐにガバリと顔を上げて周囲を確認するように顔を左右に動かす。
「あ……お早う、御座います」
「お早う、良く寝てたわね。ほら、早く降りて」
先に降りてから降車を促すと、遅れて外に出た青年が杖を両手に持ちながら伸びをしていた。振り返って「有り難うございました」と御者に告げると、赤い髪も一緒に揺れた。
「酔いは大丈夫?」
「はい……お蔭様で。まだ暗いですね」
「そうね、まだ朝にもなってないそうよ。どこもやっていないでしょうし、酒場は女を入れてくれるかも怪しい。こんな時間にカリンさんの元を訪ねる訳にもいかない。少し休めそうなところで休まない? で、ソニアさんから貰ったケーキを頂きましょう」
ウィルが頷くのを見て休めそうなところを探す。
少し歩いたところで切り株を4つ見つけた。正面に湖、その奥に山、と見晴らしも良いので元々休憩場所なのだろう。
荷から木製のコップとタルヴィクで購入したランタン、ソニアから貰ったラズベリー入りのライ麦ケーキを取り出す。ランタンの灯りの中、ケーキを見たウィルが「あっ!」と大きな声を上げる。
「なによ?」
不自然な反応が気になり、笑っている青年を見上げる。
「いえ。ラズベリー、ここに入っていたんですね」
「それがどうかしたの?」
「いーえ、何でもありません」
周囲に人は居ないと言うのに、こっそりとコップに白湯を作っていたウィルが合点がいったように笑った。何に目を細めているのか分からなかったが、教えてくれる気は無さそうだ。
「ふーん?」
自分も聞くのを諦め、白湯を口にしてホッと一息つく。ケーキは甘さと酸味があって、長旅の疲れを労ってくれた。
暗い水面と、辛うじて輪郭だけは見える山。ノルウェーの景色はどこでも同じで、17の自分ですら郷愁を感じる。
ここがカウトケイノかと一息つくと、自然とある顔が浮かんだ。
「……私ね、カウトケイノの名前を聞くとリーナを思い出すの。ねえウィル。カウトケイノの反乱って知ってる?」
だからか、気が付けば口を動かしていた。
「はい。2年前の11月、カウトケイノで起きたサーミ人による暴動ですよね。ノルウェー政府のサーミ人への不当な扱いに怒った彼らは、放火と殺人を犯した後別のサーミ人に鎮圧された。首謀者は斬首刑となり、その首は今クリスチャニアの大学にあります」
白湯を飲んでいた青年は少しだけ怪訝そうな顔をした後、流石サーミ人と親しいだけあって教科書のような説明をしてくれた。
「これによりサーミ人はますます弾圧されました。カウトケイノはサーミ人が特に多い町でしたから、殊更厳しかったようです。……どうしてリーナの名前が?」
「リーナの夫はね。カウトケイノの反乱に参加して、お腹の子の顔を見る前に騒動中に殺されたのよ。あの事件、死者は少なかったのに」
ぽつ、と理由を説明するとウィルの頬が強張るのが分かった。暫くの沈黙の後、事情を咀嚼したのかカップの中に青年が視線を落とす。
「…………やり切れない話ですね」
うん、と頷く。自分もそう思う。だからかリーナとの会話でカウトケイノの名前が挙がった事は一度も無い。
「リーナ、今頃安心してるだろうなあ……」
息子の熱が下がった事にさぞ胸を撫で下ろしている事だろう。
「俺は……大丈夫です。ちょっと酔いそうなだけですから」
「それを具合が悪いって言うの。無理せず寝たら?」
そう笑いアストリッドは顎を引き僅かに俯いた。茶色い上着を羽織っているその肩に、赤い髪の毛が1本落ちている。
そう言えば馬車に乗るなんて、あの13の夏ぶりだ。久しぶりで酔いもするわけだ。あの時はサーミ人が所有していた馬車だった。
レオンの件で罪悪感があり、どうにも精霊魔法でトロムソに聞き耳を立てる気分になれなかった。
その分アストリッドを守る事に注力したい。
それには1つ、気になる事があった。人の少ない乗合馬車、やるなら今が良いだろう。
「……あ、肩に髪の毛が。後すみません、俺お言葉に甘えて大人しく寝ます。何かあったら叩き起こして下さい」
「あ、うん? 有り難うね。お休み」
それだけ言って肩から髪の毛を取った後、フードを目深に被って咳払いをし人体魔法を発動させる。この程度の使用ならカウトケイノに着く頃には起きるだろう。
昨日起きがけに見た、愛しい少女の背中の火傷。
あれがどうも気になっていたのだ。
人体魔法を使えば髪の毛からその人の体の状態を探る事が出来る。朝食べた食事は勿論、病歴、誰が親かですらも。
首の力を抜いて寝る体勢に入る。頭に流れ込んできた情報を覚えながら、完全に眠る前にふと気付いた。
――あれ、今朝ラズベリー食べてる? 盗み食いかな、可愛い……。
そのせいか、唇の端を微かに持ち上げて眠ってしまった。
***
カウトケイノに到着したのは明け方、まだ町が眠っている頃。
一言も話す事の無かった同乗者達は伸びをしながら思い思いの方角へ散っていく。扉が開いただけで感じる程、一気に冷気が滑り込んできて眠気が吹き飛んだ。
「寒っ! カウトケイノってこんなに寒いんですか? 寒い……寒い……」
「ここらへんは湖が多いし何より高原だからな、北欧の中でも一等寒ぃんだ。朝もまだだし。嬢ちゃん、あんたの連れをさっさと起こしてくれよ」
はーい、とアストリッド・グローヴェンは震える声で御者に返事をし、この極寒の中大人しく眠っている青年を、腕で自分を抱きながら見下ろす。
ウィルはあれからずっと良く眠っていた。自分もうたた寝はしていたが、昨日の今日でちょっと寝すぎではないかと思う。彼の背が高いのはノルウェー人だからではない、絶対に良く寝るからだ。
「ウィル起きて! もうカウトケイノだよ! 起きなさい!」
声をかけながら揺さぶる事数秒。少しして長い睫毛に覆われた碧眼がゆっくりと開かれた。
「んー……?」
「お早う。早く降りて、もう残ってるのは貴方だけよ」
まだ夢の中にでも居るかのように朦朧としていた青年は、暫く焦点を合わせる事しか出来ずに居た。が、この寒さの中それも長く続かず、すぐにガバリと顔を上げて周囲を確認するように顔を左右に動かす。
「あ……お早う、御座います」
「お早う、良く寝てたわね。ほら、早く降りて」
先に降りてから降車を促すと、遅れて外に出た青年が杖を両手に持ちながら伸びをしていた。振り返って「有り難うございました」と御者に告げると、赤い髪も一緒に揺れた。
「酔いは大丈夫?」
「はい……お蔭様で。まだ暗いですね」
「そうね、まだ朝にもなってないそうよ。どこもやっていないでしょうし、酒場は女を入れてくれるかも怪しい。こんな時間にカリンさんの元を訪ねる訳にもいかない。少し休めそうなところで休まない? で、ソニアさんから貰ったケーキを頂きましょう」
ウィルが頷くのを見て休めそうなところを探す。
少し歩いたところで切り株を4つ見つけた。正面に湖、その奥に山、と見晴らしも良いので元々休憩場所なのだろう。
荷から木製のコップとタルヴィクで購入したランタン、ソニアから貰ったラズベリー入りのライ麦ケーキを取り出す。ランタンの灯りの中、ケーキを見たウィルが「あっ!」と大きな声を上げる。
「なによ?」
不自然な反応が気になり、笑っている青年を見上げる。
「いえ。ラズベリー、ここに入っていたんですね」
「それがどうかしたの?」
「いーえ、何でもありません」
周囲に人は居ないと言うのに、こっそりとコップに白湯を作っていたウィルが合点がいったように笑った。何に目を細めているのか分からなかったが、教えてくれる気は無さそうだ。
「ふーん?」
自分も聞くのを諦め、白湯を口にしてホッと一息つく。ケーキは甘さと酸味があって、長旅の疲れを労ってくれた。
暗い水面と、辛うじて輪郭だけは見える山。ノルウェーの景色はどこでも同じで、17の自分ですら郷愁を感じる。
ここがカウトケイノかと一息つくと、自然とある顔が浮かんだ。
「……私ね、カウトケイノの名前を聞くとリーナを思い出すの。ねえウィル。カウトケイノの反乱って知ってる?」
だからか、気が付けば口を動かしていた。
「はい。2年前の11月、カウトケイノで起きたサーミ人による暴動ですよね。ノルウェー政府のサーミ人への不当な扱いに怒った彼らは、放火と殺人を犯した後別のサーミ人に鎮圧された。首謀者は斬首刑となり、その首は今クリスチャニアの大学にあります」
白湯を飲んでいた青年は少しだけ怪訝そうな顔をした後、流石サーミ人と親しいだけあって教科書のような説明をしてくれた。
「これによりサーミ人はますます弾圧されました。カウトケイノはサーミ人が特に多い町でしたから、殊更厳しかったようです。……どうしてリーナの名前が?」
「リーナの夫はね。カウトケイノの反乱に参加して、お腹の子の顔を見る前に騒動中に殺されたのよ。あの事件、死者は少なかったのに」
ぽつ、と理由を説明するとウィルの頬が強張るのが分かった。暫くの沈黙の後、事情を咀嚼したのかカップの中に青年が視線を落とす。
「…………やり切れない話ですね」
うん、と頷く。自分もそう思う。だからかリーナとの会話でカウトケイノの名前が挙がった事は一度も無い。
「リーナ、今頃安心してるだろうなあ……」
息子の熱が下がった事にさぞ胸を撫で下ろしている事だろう。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる