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本編
何て言うんでしたっけ?
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ゴホッ!
唯桜がむせた。
口から鮮血が噴き出す。
「この俺が一般人に血を……」
地面に飛び散った自分の血を見て、唯桜は衝撃を受けていた。
屈辱である。
有名モンスターならば話は別だが、こんな名も知れぬ男に自分の血を見る事になるとは。
起き上がろうとするが、剣が根元まで刺さって起き上がれない。
ネルソンがゆっくりと近付いてくるのが見える。
「ふっ。言っただろう、俺には何人も勝つ事は出来ん。まあ、わざわざ俺が出向くだけの相手では有ったがな。それでもだ」
ネルソンはしゃがみこむと、唯桜に顔を近付けてそう言った。
「……てめえ、名前と顔だけは覚えておいてやる。だが、ここで殺しておかねえなら後悔する事になるぜ。俺は狼だ。執念深いからよ」
唯桜が下から見上げる様にネルソンを睨み付けた。
だが、今の状況では負け犬の遠吠えでしか無い。
それは唯桜にも十分に解っていた。
なればこそ、これは最大の屈辱だった。
「ふふふ、恐い男だ。確かにこれならば上も手を焼く筈だ。俺が呼び戻された理由も頷ける」
ネルソンは余裕を見せて立ち上がった。
「だが、とどめは刺さないぜ。これは俺の勝ちだ。お前は今後、俺に会ったら下を向いて俺に道を譲るんだ。堪らないねえ」
ネルソンは嬉しそうに言う。
「ケッ! 誰がてめえなんぞに道を譲るか。今度下を向くのはてめえだよ。必ず泣かせてやるからな。絶対だ」
言えば言うほど負け犬の遠吠えだった。
だが、言わずには居られなかった。
「はははは。何度やっても俺の勝ちだ。月桂樹の守護精霊の加護が有る限り俺は絶対に負けん。いつでも受けて立ってやる、そして必ずお前の心を折ってやる。今から楽しみだ。お前が負けを認めて道の端っこを歩く姿が早く見たいものだ」
ネルソンはそう言って笑うと部下を引き連れて引き上げて行く。
いつの間にか唯桜を貫いていた守護精霊の姿も無くなっていた。
「……クソッタレ!」
唯桜が脇腹を押さえて立ち上がる。
振り返るとマキがこっちを心配そうに見ていた。
周囲の野次馬も同じ視線を唯桜に向けている。
「……チッ! 何て目で見てやがる。同情してんじゃねえよ」
マキが唯桜に駆け寄る。
「アナタ……」
「……悪いな。この先の店に迎えが来る。お前はそれで邸に帰れ」
マキが首を横に振る。
「嫌! 帰らない! 一緒にいる!」
マキが唯桜に抱き付く。
「危ねえから言ってんだ。帰れ」
唯桜が強い口調で言った。
しかしマキは一段と激しく首を横に振った。
「帰れって言ってんだ! 邪魔なんだよ!」
唯桜が怒鳴った。
マキは雷に撃たれた様に唯桜の顔を見た。
「……どうしてそんな事言うの? もう待ち続けるのは嫌だよ、一緒に居たいの。もう独りぼっちで来る日も来る日も待ち続けるのは嫌だよう」
マキはポロポロと涙をこぼして唯桜に抱き付いた。
「死んでも着いて行く! もし駄目だと言うのなら殺して!」
唯桜は驚いた。
一体何だと言うのか。
何日も待ち続ける? 一体いつの事を言っているのか。
何の話をしているのか。
ひょっとしてマキの記憶に関係があるのか?
唯桜は考えた。
「……解った。ならお前も来い。危ねえから俺から離れるんじゃねえぞ」
唯桜はそう言うとネルソンが去って行った道を歩きだした。
マキが、はいっと返事をして唯桜の腕にくっついて歩く。
野次馬達は黙ってその光景を見送った。
「負けちゃったねえ。僕もショックなんだけど……」
影から一部始終を見ていたゲニウスが美紅に言った。
「驚きました。……けど、たまには良い薬です。ああっ、こう言うの何て言うんでしたっけ?」
美紅の言葉にゲニウスは首を捻った。
「……? そんな言葉あったっけ?」
美紅が嬉しそうに指を鳴らした。
「ああ、思い出しましたわ。ザマミロです!」
美紅はキャッキャと笑う。
どうも本気で言っている様だ。
この二人は仲が良いのか悪いのか、流石にゲニウスにも解らない。
「ま、まあそれはともかく……このまま着けるのは難しくなってきたね」
ゲニウスが話を変えた。
「モニターするだけなら衛星を使えば私を通してご覧になれます。画面が必要ですから邸に戻らなければなりませんが」
ゲニウスは迷った。
生で見たい気持ちは強い。
好奇心の強さを押さえられない。
「うーん」
唸るゲニウスはようやく決断した。
「やっぱりこのまま着けよう。また負けちゃうとは思いたくないけど、万が一に備えて美紅も居てくれた方が良い」
美紅は頷いた。
「かしこまりました。ではその様に」
そう言って美紅は唯桜と十分に距離も保ちつつ、尾行を再開した。
見失う心配は無い。
美紅の感覚器から逃れられる者は例えヤゴスの他の改造魔人でも不可能だ。
バレる事無く十分な距離を持って追跡出来る。
「今度負けたら唯桜にお仕置きを考えなきゃね」
ゲニウスが呟く。
「僕の創った改造魔人は最強なんだ。同じ相手に二度も負けてはならない」
美紅が頷いてゲニウスを見る。
幼いゲニウスの表情の中に、総統としての片鱗が見えた気がした。
唯桜がむせた。
口から鮮血が噴き出す。
「この俺が一般人に血を……」
地面に飛び散った自分の血を見て、唯桜は衝撃を受けていた。
屈辱である。
有名モンスターならば話は別だが、こんな名も知れぬ男に自分の血を見る事になるとは。
起き上がろうとするが、剣が根元まで刺さって起き上がれない。
ネルソンがゆっくりと近付いてくるのが見える。
「ふっ。言っただろう、俺には何人も勝つ事は出来ん。まあ、わざわざ俺が出向くだけの相手では有ったがな。それでもだ」
ネルソンはしゃがみこむと、唯桜に顔を近付けてそう言った。
「……てめえ、名前と顔だけは覚えておいてやる。だが、ここで殺しておかねえなら後悔する事になるぜ。俺は狼だ。執念深いからよ」
唯桜が下から見上げる様にネルソンを睨み付けた。
だが、今の状況では負け犬の遠吠えでしか無い。
それは唯桜にも十分に解っていた。
なればこそ、これは最大の屈辱だった。
「ふふふ、恐い男だ。確かにこれならば上も手を焼く筈だ。俺が呼び戻された理由も頷ける」
ネルソンは余裕を見せて立ち上がった。
「だが、とどめは刺さないぜ。これは俺の勝ちだ。お前は今後、俺に会ったら下を向いて俺に道を譲るんだ。堪らないねえ」
ネルソンは嬉しそうに言う。
「ケッ! 誰がてめえなんぞに道を譲るか。今度下を向くのはてめえだよ。必ず泣かせてやるからな。絶対だ」
言えば言うほど負け犬の遠吠えだった。
だが、言わずには居られなかった。
「はははは。何度やっても俺の勝ちだ。月桂樹の守護精霊の加護が有る限り俺は絶対に負けん。いつでも受けて立ってやる、そして必ずお前の心を折ってやる。今から楽しみだ。お前が負けを認めて道の端っこを歩く姿が早く見たいものだ」
ネルソンはそう言って笑うと部下を引き連れて引き上げて行く。
いつの間にか唯桜を貫いていた守護精霊の姿も無くなっていた。
「……クソッタレ!」
唯桜が脇腹を押さえて立ち上がる。
振り返るとマキがこっちを心配そうに見ていた。
周囲の野次馬も同じ視線を唯桜に向けている。
「……チッ! 何て目で見てやがる。同情してんじゃねえよ」
マキが唯桜に駆け寄る。
「アナタ……」
「……悪いな。この先の店に迎えが来る。お前はそれで邸に帰れ」
マキが首を横に振る。
「嫌! 帰らない! 一緒にいる!」
マキが唯桜に抱き付く。
「危ねえから言ってんだ。帰れ」
唯桜が強い口調で言った。
しかしマキは一段と激しく首を横に振った。
「帰れって言ってんだ! 邪魔なんだよ!」
唯桜が怒鳴った。
マキは雷に撃たれた様に唯桜の顔を見た。
「……どうしてそんな事言うの? もう待ち続けるのは嫌だよ、一緒に居たいの。もう独りぼっちで来る日も来る日も待ち続けるのは嫌だよう」
マキはポロポロと涙をこぼして唯桜に抱き付いた。
「死んでも着いて行く! もし駄目だと言うのなら殺して!」
唯桜は驚いた。
一体何だと言うのか。
何日も待ち続ける? 一体いつの事を言っているのか。
何の話をしているのか。
ひょっとしてマキの記憶に関係があるのか?
唯桜は考えた。
「……解った。ならお前も来い。危ねえから俺から離れるんじゃねえぞ」
唯桜はそう言うとネルソンが去って行った道を歩きだした。
マキが、はいっと返事をして唯桜の腕にくっついて歩く。
野次馬達は黙ってその光景を見送った。
「負けちゃったねえ。僕もショックなんだけど……」
影から一部始終を見ていたゲニウスが美紅に言った。
「驚きました。……けど、たまには良い薬です。ああっ、こう言うの何て言うんでしたっけ?」
美紅の言葉にゲニウスは首を捻った。
「……? そんな言葉あったっけ?」
美紅が嬉しそうに指を鳴らした。
「ああ、思い出しましたわ。ザマミロです!」
美紅はキャッキャと笑う。
どうも本気で言っている様だ。
この二人は仲が良いのか悪いのか、流石にゲニウスにも解らない。
「ま、まあそれはともかく……このまま着けるのは難しくなってきたね」
ゲニウスが話を変えた。
「モニターするだけなら衛星を使えば私を通してご覧になれます。画面が必要ですから邸に戻らなければなりませんが」
ゲニウスは迷った。
生で見たい気持ちは強い。
好奇心の強さを押さえられない。
「うーん」
唸るゲニウスはようやく決断した。
「やっぱりこのまま着けよう。また負けちゃうとは思いたくないけど、万が一に備えて美紅も居てくれた方が良い」
美紅は頷いた。
「かしこまりました。ではその様に」
そう言って美紅は唯桜と十分に距離も保ちつつ、尾行を再開した。
見失う心配は無い。
美紅の感覚器から逃れられる者は例えヤゴスの他の改造魔人でも不可能だ。
バレる事無く十分な距離を持って追跡出来る。
「今度負けたら唯桜にお仕置きを考えなきゃね」
ゲニウスが呟く。
「僕の創った改造魔人は最強なんだ。同じ相手に二度も負けてはならない」
美紅が頷いてゲニウスを見る。
幼いゲニウスの表情の中に、総統としての片鱗が見えた気がした。
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