ドグラマ3

小松菜

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本編

アジトにて

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「あ、ネルソンさん。お帰りなさい」

アジトに戻ったネルソンに若衆が声をかけた。

「ああ。ドン・ロッゴは?」

ネルソンはボルサリーノハットを少し上げると若衆を見た。

「午前中は北の爺様達と会談されてましたが、丁度さっき終わったばかりみたいですよ」

となると、応接室か。
ネルソンは手を挙げて礼をする。
そのまま応接室へと向かった。

コンコン

応接室のドアをノックする。
中からドン・ロッゴの声がした。

「入れ」

ネルソンはドアを開けて中へと足を踏み入れた。

「ただ今戻りました」
「遅かったな。何か変わった事は?」

ドン・ロッゴがネルソンを見て尋ねた。
ネルソンが目をやると、ドンの向かいにはアオイが座っている。

コイツも来てたのか……。

「ウチの若いのが早速、大神唯桜と揉めましてね」

アオイを一瞥するも、それには構わずネルソンが報告を始めた。

「大神唯桜か。で、どうなった?」

ドン・ロッゴが鋭い視線をネルソンへ向ける。

「自分が無事にここに居る事が何よりの報告かと思いますが」

ドン・ロッゴが目を細めた。

「……そうか。やったか」
「まだ、殺してはいませんがね」

ドン・ロッゴがため息を吐く。

「また、お前の悪い癖か」

ネルソンは軽く笑った。

「あれほどの男、簡単に殺してしまうには惜しいでしょう。心をへし折って俺の下へ着けてみせますよ。その方が組織にとっても利益になる筈です」
「……出来るのか?」

ドン・ロッゴが念を押す。

「出来ますよ。見てて下さい、町も邸も全て取り戻します」

ネルソンが自信たっぷりに答えた。
ドン・ロッゴが満足そうに頷く。

「うむ、必ずそうしろ。訳の解らん新興勢力に島を荒らされては黙ってはおれん。対外的にも面子が立たんからな」

そこで初めてアオイが口を開いた。

「あまり時間がありません。例の時までに力を結集しておかなければ……」
「解っている。その為にお前達を呼び戻したのだ」

ドン・ロッゴがアオイの言葉を遮った。

「ドン。ひょっとして俺達以外も呼んだんですか?」

ネルソンが気になっていた事をドン・ロッゴに尋ねた。

「全員では無い。お前達の他に後一人、コンタだ……」

心を読む様に、ドン・ロッゴがネルソンの顔を覗きこむ。

「止して下さいよ。別にただ聞いただけです」

ネルソンは苦笑いしながらボルサリーノハットを被り直す仕草を見せた。
うつ向いて顔を隠す様に両手で帽子を直す。

実際、顔を隠していた。
ドン・ロッゴのあの目が苦手だ。
何も無くても、あの目で見られると何故か焦ってしまう。
それに、腹の中を探られるのも嫌だった。

「……ふっ。まあ良い。コンタはもう少し到着に掛かる。お前達を呼び寄せた事で他は手薄になるが仕方が無い。この町には何故か厄介な事が集中しているからな」

アオイがドン・ロッゴに言う。

「それが魔人会ですね」

ドン・ロッゴは頷いてソファーにもたれ掛かった。

「大神唯桜だけでは無い。牛嶋五郎次、蛇穴美紅、バイヤン会の元五枚看板、ジンとチャコ、ビビアンの三名……」

ネルソンは口笛を吹いた。

「ヒュー。オールスターキャストだ。戦力の一極集中も良い所だな」

ドン・ロッゴがネルソンを見た。

「それだけでは無い」
「……まだ他に何か?」

ネルソンはこれ以上、何があるのか気になった。

「……勇者ロットだ」

流石のネルソンも噴き出した。

「あはははははっ! こいつは傑作だ。奴ら戦争でも始める気なのか?」

オールスター過ぎて笑うしか無い。
あのドンが自分達を三人も呼び戻した本当の理由がようやく解った。
そこいらの手練れでは何も出来まい。

「なるほど、解りましたよ。こっちも本気でやらなきゃヤバイって事ですね」

ドン・ロッゴは頷いた。

「お前達が負けるとは思わん。だからこそ呼んだのだ。だが、敵の顔ぶれを見れば舐めて掛かる事も出来ん。いいか、本気でやれ」

ドンの視線が鋭くネルソンに向けられた。

「では、私はコンタが来るまで少し休ませてもらいます」

アオイは立ち上がるとドン・ロッゴに頭を下げた。
そしてネルソンの横を通り過ぎる。
通り過ぎる瞬間、アオイがネルソンを横目で見た。
それをネルソンは無視する。

バタン、と音がしてアオイは部屋から出て行った。

「ライバルか。熱いな」

ドン・ロッゴが笑った。

「違いますよ。俺が良い男だからです」

ドン・ロッゴは更に笑った。

「相変わらずの自信家だな」
「仕方がありませよ。実力が自信を付けさせるんです」

ネルソンもドン・ロッゴに頭を下げる。

「とにかく大神唯桜はまだ途中ですから、そっちは自分に任せて下さい。他はアオイとコンタの状況を見て決めます」

そう言ってネルソンも退室した。
ドン・ロッゴは二人が出て行ったドアをしばらく眺めていた。

「私の出番までは回さないでくれよ。面倒だからな……」

ドン・ロッゴは誰にとも無く、そう呟いた。
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