ドグラマ3

小松菜

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本編

甘い物は別腹

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「そろそろ時間ですかね?」

ロットは何気無く、入り口から外の様子を見る。

「そうですね。そろそろですね」

ショーコがアップルパイを頬張りながら答えた。
既に四皿目である。
お小遣いならたっぷりある。
胃袋的にも、あと四、五皿はいけるだろう。
邸に戻らずに近くの町で時間を潰す。
別にサボっている訳では無い。
今日は運転手として、スケジュールは一日埋まっているのである。

「折角ですからね。たまには美味しいものも食べておかなくちゃ」

ショーコは何らかの鬱憤を晴らす様に、アップルパイをやっつけた。
ロットは苦笑いでそれを見ていた。

「移動時間も考えたら、それを食べ終えたらここを出た方が良いでしょう」

ショーコはお茶を流し込むと、はーいと返事をした。

「ご馳走さま」

もぐもぐしながらも、ショーコは両手を合わせて食事を終えた。
お皿をカウンターに返す。

「おばちゃん! とっても美味しかった」

ショーコがそう言うと、店のおばちゃんが笑顔でお礼を言う。

「ありがとうございました。お嬢ちゃん沢山食べたけど、お腹大丈夫かい?」

ショーコがお腹をポンポンと叩く。

「別腹だから大丈夫です。ここのアップルパイ美味しすぎて、ついつい食べ過ぎちゃう」

そう言ってショーコとおばちゃんは笑った。

四皿はついついじゃ無いでしょ、とロットは思ったが女子には禁句かと思い黙っていた。

「さて、行きましょうかロットさん」

ショーコが店先に出て来た。
ロットはショーコと一緒に歩き出す。
馬車に戻って町まで唯桜達を迎えに行かなくてはならない。

「アイツらは……」

不意にショーコが何かを見付けた。
ショーコの視線の先をロットが追う。
馬に乗った男達が数人、大通りを横切って行く。ガラの悪そうな連中だ。

「彼らがどうかしましたか?」

ロットがショーコに尋ねた。

「アイツら、私達を拐った連中だわ……」

ショーコの表情が険しくなる。
ロットは再び男達を見た。
確かに悪党面だ。だが、本当に人拐いなのか。

「間違いないんですか?」
「間違える筈無いわ。私達はほとんどが拐われて売り飛ばされて奴隷にされたのよ。魔人会だって最初は奴隷を奪いに来ただけよ」

そう言えば、以前も確かそんな話を聞いた気がする。
ヤーゴさんの提案で奴隷から従業員へと扱いが変わったのだと。

「今は普通に働くよりも厚遇だし、みんなで楽しく働けるから、魔人会を恨んだりしてないけど。アイツらは許せない……」

ショーコの目に怒りと哀しみが浮かんでいるのがロットにも解る。

「ですが、今はどうにも出来ませんよ。私達はただのお使いです」

ロットがショーコをなだめる。
そんな事はショーコにも十分解っていた。
しかし、あの拐われた日の事を思い出すと、どうにも胸が張り裂けそうになる。

呼吸が荒くなる。
どうにも息苦しい。
しゃがみこむショーコを、ロットが支えた。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい」

ロットは心配そうにショーコの肩を捕まえる。

馬に乗った男達の一人が、何気無くこっちを見た。
自分達を睨み付ける女が居るのが目に留まった。

「おい……あの女。こっちを睨んでやがるぜ」
「あ? どうせ、お前が騙して酷い目に合わせた女なんじゃないのか?」
「ぎゃはははははは!」

男達が口々に軽口を叩いて大笑いした。

「ちぇっ……てめえらだって同じ様なモンだろうが。俺じゃなくて、てめえらの中の誰かかも知れねえじゃねえか」

男が面白くなさそうに言った。
そう言われて男達が全員ショーコを振り返る。

「ほお。中々上玉じゃねえの」
「何か見た事ある様な顔だな」
「何百人も相手してたらそんな顔も中には居るだろうよ」
「違いねえ」

男達が話ながらこっちへ近付いて来る。
ショーコは青ざめた。
恐怖の記憶が甦る。

「やだ……恐い……」

ショーコが小声で呟いて、ロットの腕にしがみついた。
ロットが男達を見る。
大した事は無い。ただのゴロツキだ。

ロットはショーコを後ろに庇うと、男達の正面に立った。

「何か、御用ですか?」

先頭の男がロットを退かそうと肩に手を掛ける。

「男に御用はねえ。後ろの姉ちゃんに御用だ」

ロットは肩に掛けられた男の手を払い除ける。

「済みませんが私達は、さるお屋敷の使いでしてね。揉め事は勘弁して頂きたいんですが」

ロットが穏やかな口調でそう言った。
しかし、手を払い除けられた男はそう穏やかではいられなかった。

「てめえ、死にてえのか。こう言う状況では大人しく隅に引っ込んでるもんだぜ」

男が凄む。
だがロットはそんな事など、どこ吹く風である。

「そんな事だから、アナタ方はいつまで経っても雑魚なんですよ。少しは雑魚っぽい言動や行いを改めようとは思わないのですか?」

ロットはため息を吐きながらそう言った。
男達の顔がみるみる紅潮してくるのがハッキリと解る。

「てめえ……ッ!」

男が拳を振り上げる。
それをそのまま大きく後ろへ更に振り上げた。

ズダーン!

男はそのまま後ろへ倒れた。
男達は驚いて倒れた男を覗きこむ。

「おい、どうした! おい! おい!」

だが、倒れた男は完全に白目をむいている。
男達は動揺した。
そしてロットを見る。

「ゴロツキにはゴロツキの仕事があるのでしょうが、残念ながら相手は選んでから仕事はなされた方が良いのでは?」

ロットはそう言って男達を静かに見渡した。
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